ラベル アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第一部(2000年7月から12月まで) の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第一部(2000年7月から12月まで) の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2025年5月1日木曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第12編

 この問題を追い続けて半年ほどが経ちます。きっかけは、6月27日の午後、大分合同新聞別府支社からの電話でした(このときに私が話した内容の一部は、同紙2000年7月2日付朝刊に掲載されています。第1編を参照して下さい)。それ以降、とくに11月と12月は、この問題の動きを追い続けてきました。理由としては、何よりも私自身の職業と関係します。条例制定権の限界は当然のこととして、まちづくりの進め方、市町村財政の再建の仕方、公営競技のあり方、住民意思の反映の仕方、そして、市町村同士の関係のあり方を、この問題は改めて我々に投げかけてきました。私がサテライト日田問題を、今回を含めて12回も取り上げてきたのは、こうした諸問題の複合体(complex)として、地方自治(および地方政治)の在るべき姿を考察する適切な題材であるからに他なりません。そして、個人的な告白を述べるならば、情報公開とともに、サテライト日田建設問題を通じて、私は自らの行政法学者のしての姿勢・立場を再確認していました。

 地方分権を推進する中で、ともすれば国と地方公共団体との関係、あるいは都道府県と市町村との関係ばかりに注目が集められています。しかし、実際には、地方分権を推進することにより、都道府県間または市町村間の利害などの衝突が、将来において頻発することになるかもしれないのです。これは、或る程度は仕方のないことでもありますが、放置するならば、かえって地方分権推進の障害にもなります。東京大学の中里実教授は、最近、地方公共団体が法定外普通税または法定外目的税として独自の財源を追求する動きに対して「地方団体間の課税権の(場合によっては、かなり醜いかたちの)衝突が現実の問題になりつつあるのではないか」と指摘されております(「地方税条例の効力の地域的限界」地方税2000年11月号5頁)。私は、こうした危険が地方税だけの問題ではないということを、ますます実感するようになりました。地方自治法で、こうした問題を予想した規定があるのでしょうか。ないとすれば、早急な手当が必要ですし、あるとしても、現在の規定では不十分であるかもしれません。

 さて、ここでサテライト日田問題の動きに触れておくこととしましょう。

 既に、別府市議会観光経済委員会がサテライト日田問題について「継続審査」とすることを可決したことを記しておりますが、12月18日、別府市議会本会議においても、この問題は「継続審査」とすることが、賛成多数で可決されました。このため、12月4日から工事開始となったサテライト日田は、建物が完成してもしばらくの間は場外車券売場として機能しないこととなります(朝日新聞の12月19日付大分asahi.com/ニュースに掲載された 溝江建設のコメントも参照)。一方、日田市側は、大石昭忠市長、室原基樹市議会議長、武内好高日田商工会議所会頭が揃って記者会見をし、別府市側の判断を歓迎する趣旨を語られております。

 そして、12月22日、大塚茂樹助役をはじめとする別府市の代表4氏が、日田市役所を訪れ、日田市側と会談をしました。しかし、市報べっぷ11月に掲載された記事をめぐり、日田市の首藤洋介助役は訂正を求めましたが別府市側が回答を留保したため、日田市側が退席して決裂しました。大分asahi.com/ニュース12月23日付の記事によれば、別府市側の訪問に対して、目的が告げられた段階で日田市側が制止し、話し合いは10分で終わったとのことです。また、別府市側は意見交換の場を1月か2月に設けたいとしていますが、日田市側は市報べっぷ11月号掲載の記事について別府市側の明快な回答を求めており、交渉は進展しないものと思われます。

 今回の問題を振り返ってみると、6月の条例制定などについては日田市側にも問題があると思われるのですが、11月以降の別府市側の対応には、適切でないと評価されても仕方がないような点が多かった、と言いうるでしょう。その原因は、結局のところ別府市側の拙速さにあるのですが、これでは日田市側の反発という火に油を注ぐだけであったと思われます。

 例えば、別府市側は、日田市側の反対活動などに対し、別府市にではなく、通産省や溝江建設に対して反対をすべきである旨を何度も述べております。日田市民の方々の肩を持つ訳ではありませんが、筋違いな発言であるとしか言いようがありません。たしかに、設置許可を申請したのは 溝江建設であり、設置許可を出したのは通産省です。日田市側は、通産省に対しても反対活動をすべきであったでしょう。しかし、別府市は、この設置許可の実質的な当事者です(まさか、このことを忘れていた訳なのでしょうか?)。 溝江建設が施設を建てたとしても、溝江建設自身が勝手に車券を売ることは許されていないのです。

 また、以前書き忘れていたことなのですが、別府市観光経済委員会の席上、別府市の大塚助役は、個人的な意見と断りつつも、日田市と別府市が折半して 溝江建設に補償金を出すことを、日田市側に電話で提案した旨を明らかにされました。これも日田市側の怒りを買い、拒否されたのも当然です。法的にみても、日田市側に損害賠償責任を認めることはできないでしょう(日田市が当初は設置を歓迎していたなどの事情があれば、話は別です)。設置許可という場面だけで見るならば、 溝江建設と通産省が当事者、別府市は実質的当事者、日田市および日田市民は第三者なのです。

 さらに、別府市側が公営カジノ設置に積極的な姿勢を見せたことも、時期的に見ればまずいことであったと評価できます。おりしもサテライト日田問題の最中、空洞化する一方の別府市中心街の再活性化、長期低落傾向の観光を再び上昇気流に乗せるためのものであるとは言え、日田市側の反発は勿論、別府市民の間からもサテライト日田設置反対の声を高める結果になったことは否めません(ちなみに、公営カジノ設置については、宮崎県も積極的な姿勢を見せております。これは、おそらく、シーガイアの問題とも関連すると思われます)。

 今回を以って、「サテライト日田(別府競輪場の場外車券問題)建設問題」は、ひとまず終了とさせていただきます。そして、さらにこの問題の展開が見られる場合には、第二部として扱います。また、この問題については、2000年12月21日、TBS系で放送される番組の取材を受けましたので、御覧いただければ幸いです(放送は、2001年1月7日、13時からです)。


(初出:2000年12月24日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第11編

 前回記したように、別府市議会観光経済委員会は、サテライト日田問題について「継続審査」とすることを可決しました。議会の多数派を占める自民党会派の動きにもよりますが、おそらく、最終日(18日)の本会議においても、この判断は覆ることがないものと思われます。そのためでしょうか、この数日間、日田市のホームページなどを見ても、この問題に関する意見は少なくなりました。

 今回は、古川氏から御教示をいただいた「長沼答申」、「吉国答申」、「場外車券売場の施設の規模、構造及び設備並びにこれらの配置の基準を定めた件に関する告示」および「場外車券売場の設置に関する指導要領について」に関する検討を行います。

 まず、確認の意味を込めて記しておきます。自転車競技法には、場外車券売場を設置する者は設置場所となる市町村やその住民の意見を聞かなければならない、と規定しておりません。それに対して、古川氏は、上記答申や指導要領に場外車券売場はみだりに増やさないこと、および地域社会の同意を得ることと書かれていることをあげ、今回のサテライト日田設置許可が上記に示された基準に違反すると主張されました。

 しかし、まずこの件についてですが、私が反論として日田市の掲示板に記したことを引用しておきます。

 「通産省の告示については、問題が残るのですが、審議会の答申には、法的な拘束力がありません。同じことは、指導要領にもあてはまります。/従って、内部の基準にはなりえますが、外部に対して許可などをする場合、参考資料並みの扱いにしかなりません。裁判でも、解釈の一資料としての意味を持ちますが、必ずしもそれらに沿った解釈が要請される訳ではありません。/但し、他の件についてはこれらの基準に適合しているのに、この件だけは、という場合は、問題となります。」(2000年12月10日14時28分)

 そもそも、答申というものは、行政庁の諮問に対する専門的判断でありますが、行政法学上、答申は尊重されなければならないとしても、行政庁を法的に拘束するものではありません。情報公開制度を例に取れば、都道府県および市町村で情報公開条例を施行しているところには「情報公開審査会」(または類似の名称)があります。情報公開条例の実施機関(例、県知事、市長)が非公開決定を下し、これに対する不服申立てがなされた場合、実施機関は、裁決または決定を下す前に「情報公開審査会」に諮問するように規定されています。そして「情報公開審査会」の答申が出されます。しかし、実施機関が裁決または決定をする際に、この答申は尊重されなければならないとしても、必ずしもその内容通りに裁決または決定をしなければならない訳ではありません。以前、某市情報公開室長から伺った話ですが、「情報公開審査会」の答申は全面公開であったにもかかわらず、一部非公開の決定を下した例が存在するのです。なお、情報公開法第18条および第21条も参照して下さい。

 ここで「長沼答申」を見ましょう。たしかに、5.として「馬券、車券等の場外売場については現在のものを増加しないことを原則とし、設備及び販売方法の改善(例えば売場数を増加し、これをすべて屋内にすること等)に努力する」ことがあげられております。この答申は自転車競技法など関連法律の改正などに係るものであり、それに従って法律などが改正され、運用なども改められることが望ましいのです。しかし、私自身もよくわからないのですが、全てこの答申の通りに法律が改正された訳ではないかもしれません。しかも、12.として「法律の規定が細部にわたり過ぎると認められる点が少なくないので、出来るかぎり政令に委任する等法律の簡素化をはかる」ことがあげられております。これは、本来であれば法律に規定すべき設置基準が政令、省令などに規定されうることを意味します。政令や省令であれば、これらは法規命令ですから、法的拘束力を持ちえます。しかし、訓令・通達などの行政規則に委ねられた場合、行政内部であれば法的拘束力を持ちえますが、外部に対しては持ちえないとするのが、最高裁判所の判例でもあり、行政法学の通説です。従って、「長沼答申」は、第一義的には法律改正のための参考意見であって、場外車券売場設置許可のための基準となりがたいものであり、あるいは内部基準となりうるものであっても、それ以上のものではありません。仮に「長沼答申」に従わないで許可がなされたとしても、直ちにそれを違法として裁判所において争うことはできない、と解釈すべきでしょう。

 同様のことは、基本的に「吉国答申」にも妥当します。この答申自体、「ここで述べた意見については、その実施を図るため、さらに関連する問題を含めて検討する必要のあるものがあり、それらについては、政府において積極的に検討を深めることを期待する」とかかれておりますから、これが内部基準として完全なものであるか否かについては即断しがたいと思われます。

 「吉国答申」Ⅲ1.は「競技場所在地の近隣市町村については、競技の円滑な実施と運営の責任体制の確保に留意しつつ、財政事情等を考慮して、一部事務組合への参加の拡大等により、公営競技による収益が地域社会の実情に適合して配分されるよう努めること」をあげております。また、Ⅳ1.は「場外売り場の設置については、ノミ行為の防止にも効果があると思われるので、弾力的に検討してよいが、地域社会との調整を十分に行うこと」、Ⅴ2.は「地域社会との融和を図るとともに周辺の交通公害の解消を図るため、競技場又は場外売り場周辺の環境整備に努めること」をあげております。

 ここで直接関係するのはⅣ1.およびⅤ2.です。Ⅳ1.の趣旨が自転車競技法第4条の規定に、少なくとも明文の規定として生かされていないことは明らかです。しかも「弾力的に検討してよい」と書かれており、解釈および運用の方法によっては「地域社会との調整を十分に行うこと」という要件と矛盾します。また、Ⅴ2.は努力義務であり、しかも、この努力義務を監督官庁に課すものであるのか設置許可申請者に課すものであるのかが判然としません。仮に監督官庁に課すものであるとするならば、行政指導の基準とはなりうるでしょう。しかし、行政手続法の規定が存在する現在において、行政指導はあくまでも相手方、すなわち設置許可申請者の任意の協力によって実現されるべきものですから、行政指導に従わないことを理由とした不許可または許可の留保は、許されるものではありません。また、この努力義務が設置許可申請者に課されるものであるとするならば、設置許可申請者は誠実に努力する義務を負いますが、その結果として「地域社会との調整を十分に行うこと」ができなかったとしても、義務に反する訳ではないのですから、監督官庁も、そのことを理由にして不許可処分をなすことは許されないものと考えられます(但し、この点に裁量の余地も考えられます)。

 「場外車券売場の施設の規模、構造及び設備並びにこれらの配置の基準を定めた件に関する告示」は、場外車券売場の設置基準を定めております。告示の性格については争いがあり、例えば文部省による学習指導要領については、法的拘束力を認めるのが判例の傾向と考えてよいでしょう。それでは通産省のこの告示はどうでしょうか。少なくとも、設置許可申請者に対して許可要件を示す基準としての意味は或るものと思われます。しかし、この告示には、設置場所となる市町村の同意について規定されておりません。

 最後に「場外車券売場の設置に関する指導要領について」を取り上げます。ここにも、2.において「設置するに当たっては、当該場外車券売場の設置場所の属する地域社会との調和を図るため、当該施設が可能な限り地域住民の利便に役立つものとなるよう指導すること」となっており、4.において「設置するに当たっては、当該場外車券売場の設置場所を管轄する警察署、消防署等とあらかじめ密接な連絡を行うとともに、地域社会との調整を十分行うよう指導すること」となっております。

 これは、実際に場外車券売場の設置を許可する際の基準として機能しているものと思われます。従って、他の設置許可に対してはこの基準の通りに処理されているのに本件のみについては処理されていないというような場合には、平等原則違反として問題となりえます。しかし、これは指導要領であって、内部基準に留まり、外部に対する拘束力を持ちえません(持ちうるとしたら逆に問題となります)。また、指導要領ですから、これに基づいた指導に設置許可申請者が従わないとしても、行政手続法の規定に従えば、あくまでも任意的協力が前提となることは、前述の通りです。

 以上が、「長沼答申」、「吉国答申」、「場外車券売場の施設の規模、構造及び設備並びにこれらの配置の基準を定めた件に関する告示」および「場外車券売場の設置に関する指導要領について」に関する私見です。このことから、特別の事情がない限り、法的な見地からすれば、サテライト日田設置許可は、法的にみても違法でないこととなります。

 さらに、古川氏は、日田市ホームページの掲示板で「政府が定めている指針からみても、サテライト日田の設置許可は不当である」と記されております。これに対し、私は「たしかに、正当であるか否かは重要な問題なのです。しかし、行政事件訴訟法にも出ていますように、正当でないから違法であるとは即断できないのです。それが裁量というものなのです」と記しました。古川氏は「ただちに違法ではいえないからといっても、正当とはいえません」と記されました。

 私は、あくまでも行政法学者として意見を述べております。正当か不当であるかが直ちに適法か違法かの問題につながる訳でないことは、行政法の専門家であればお分かりのことであると思います。私以外の行政法学者にも、御意見を伺いたいところです。

 なお、掲示板にも記しましたが、サテライト日田問題は、いよいよ、東京放送(TBS)により、全国的に取り上げられることとなりました。詳細は後日に記しますが、現在のところ、私も取材を受けることになっております。


(初出:2000年12月)

2025年4月30日水曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第10編

 これまで9回にわたり、この問題を取り上げて参りました。別府市は、あくまでもサテライト日田建設を進めるという立場を崩さず、一方、日田市は断固反対の姿勢を堅持してきました。

 しかし、ここに来て、別府市側に新たな展開がありました。以下、主に毎日新聞平成12年12月13日付朝刊大分版21面によりつつ、同日付の大分合同新聞朝刊なども参考にしながら、記していきます(なお、以下の引用は毎日新聞の記事によりますが、適宜修正しております)。

 別府市議会観光経済委員会は、12日、サテライト日田建設関連の予算について継続審議とする動議を、賛成多数(賛成8、反対1)で可決しました。その理由として、「日田市民の理解を得るよう努力すると約束しながら、9月以降一度も(日田市へ)出向いていない。議会でも十分な質疑がなされておらず、(採決は)時期尚早」であること(これは、動議を提出した自民党議員によるもの)、「法的に問題なくとも日田市の理解は得られていない」こと、「別府市民に対しても説明不足」であることなどがあげられています。

 この動きに対し、日田市長の大石昭忠氏は、「別府市議会の良識ある判断を高く評価したい。18日の最終本会議の結果を見極めた上で、円満解決に向けて、改めて市議会を含めて両市の話し合いを持ちたい。 溝江建設にも問題が決着するまでの工事の中断を申し入れる」と語りました。また、通商産業省へも抗議するとのことです。折りしも、12日の日田市議会で、日田市長は「日田のまちづくりの基本理念に合わない上、別府市の財源確保のために犠牲になる計画は認められない」として、別府市議会の最終本会議の動向次第では法的手段をも辞さないと表明、市議会も、発券計画の中止まで反対運動の手を緩めないとして「徹底抗戦の構え」をとることを確認しておりました。

 一方、溝江建設は、別府市議会の動向を見据えながら最終的な判断を下すが、現在のところ、あくまでも建設を進めるという旨を示しています。

 別府市議会で最終的な建設中止が議決された訳ではありませんので、問題が長期化するということも考えられるのですが、少なくとも、サテライト日田の営業開始が遅れることには間違いなく、別府市側は再検討を求められることになります。何故なら、別府市と日本自転車普及協会は、発券機器などのリース契約を結んでいるのですが、これにより支出される最高限度額3億2100万円(特別予算)は、地方自治法第214条および第215条による債務負担行為として、予算に定められなければならないからです。従って、議会の議決を経なければ支出が認められないこととなります。

 今回の事態は、やはり、12月9日の反対デモに象徴される日田市側の長期間にわたる抵抗(別府市側にとっては、予想以上のものであったものと思われます)が大きいものと思われます。しかし、それのみならず、別府市民にも、やはり市側にとっては予想以上に反対意見が少なくなかったことも、原因の一つであろうと考えられます。さらに、別府市議会で議論される前に、設置業者の 溝江建設が起工式をして着工したことも、議会軽視として別府市議会議員の態度を硬化させる結果を招きました。

 実際、両市の態度は、ホームページにも現われています。別府市のホームページではこの問題が一切取り上げられていません。これに対し、日田市のホームページでは、最近になって、日田市議会での反対決議が同議会のページに掲載されており、さらに、おそらく市町村のホームページに設置されている例としては数が少ない掲示板(大分県内では、他に中津市しかありません)に、日田市民はもとより日田市出身者などから多くの反対意見が載せられているところです。

 実を言うと、私は、この事態を全く予想していなかった訳ではありません。お断りしておきますが、「日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例」について、条例制定権との関連において問題が残るという私の行政法学的見解は、現在も変わりません。しかし、このことは、例えば住民投票条例などについても妥当しうるのです(少なくとも、そういう部分があることを否定できません)。地方行政あるいは地方政治としての現実をみるならば、今回の場合のように、他の市町村に場外券売場を設ける場合、地元住民の同意を十分に考慮に入れていない現行法に問題がある、ということも言えるのではないでしょうか。日田市はISO14001を取得しているのですが、それとの関連もあり、まちづくりについて明確な方針を打ち立てています。市町村によってまちづくりの方向が異なることは当然です。以前、私は、朝日新聞1999年6月12日付朝刊大分版13版27面(住民参加の行政推進を)において、「国の権限が地方に下りてくると、住民と都道府県や市町村のかかわりが強まる。今後は、住民がもっと関心を持って行政を監視し、自治体も住民参加を進めることが必要だ。地方分権は、それがあって初めて完成すると言える」と述べました。市町村間の関係においては、このことが一層妥当するのではないでしょうか。

 古川氏から御教示をいただいた「長沼答申」、「吉国答申」、「場外車券売場の施設の規模、構造及び設備並びにこれらの配置の基準を定めた件に関する告示」および「場外車券売場の設置に関する指導要領について」に関する検討は、第11編において行います。


(初出:2000年12月14日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第9編

 このところ、日田市のホームページに設けられている掲示板を訪れ、意見を書いたりしています(本来ならば別府市のホームページにも意見を書いたりすべきなのでしょうが、大分県内の市町村が運営するホームページでは、日田市と中津市にしか掲示板がありません)。12月9日に抗議運動が行われ、翌日の掲示板はサテライト日田問題であふれました。しかも、東京都新宿区の古川昭夫氏から、非常に貴重な情報・資料を得ることができました。そこで、今回は、その資料をここに示したいと思います。以下に示すものも、氏のホームページからのものです。御厚意に感謝申し上げます。


 一.「長沼答申」

 内閣総理大臣に対する答申(公営競技調査会)

 昭和35年12月、第37国会において総理府設置法の一部を改正して、内閣総理大臣の諮問機関として公営競技調査会を設置し、競馬、競輪、小型自動車競走及びモーターボート競走に関する現行制度を根本的に再検討することとした。

 この公営競技調査会は昭和36年3月、20名の委員が任命され、以後、公営競技の存廃等をめぐって10回にわたって審議を行なうと共に、3回の現地調査を行ない、昭和36年 7月、その結論を内閣総理大臣に対して答申した。その内容は次の通りである。

 公営競技に関する現行制度と今後の基本的方策についての答申の件

 昭和36年7月25日

 公営競技調査会会長  長沼 弘毅

 本調査会は、昭和36年3月15日第1回会合を開き、内閣総理大臣より左記の諮問を受け、その後10回におよぶ会合と 3回にわたる現地調査を実施し、かつ、公営競技の施行者、実施者及び警察、消防関係者等の参考人の意見をも聴取して、調査審議を行なった結果、記諮問に対して次の通り答申する。

 記

 競馬、競輪、小型自動車競走及びモーターボート競走に関する現行制度とこれら公営技全般に対する今後の基本的方策について貴会の意見を求める。

 答申

 公営競技はその運営の実情において、社会的に好ましくない現象を惹起することが少くないため、多くの批判を受けているが、反面関連産業の助成、社会福祉事業、スポーツの振興、地方団体の財政維持等に役立ち、また大衆娯楽として果している役割も無視することはできない。

 また、これらの競技が公開の場で行なわれていることはより多くの弊害を防止する上において、なにがしかの効果をあげていることは否みがたい。

 従って公営競技に関する今後の措置に関しては、代りの財源、関係者の失業対策、その他の方策等を供与せずに公営競技を全廃することは、その影饗するところ甚大であるのみならず非公開の賭博への道を開くことになる懸念も大きいので、本調査会としては、現行公営競技の存続を認め、少なくとも現状以上にこれを奨励しないことを基本的態度とし、その弊害を出来うる限り除去する方策を考慮した。これがため、おおむね下記の線にその必要な改正を加えることが望ましい。

 記

 1. 施行者については、都道府県単位または競技場単位に作られた一部事務組合を結成することが望ましい。 なお、この際施行者としての責任体制を確立すべきである。

 また、競技場を所有していない施行者については、その資格は限時的なものとし、主務大臣が関係各省と協議して交替させる制度を採用する。

 2.実施者については、中央における指導が直に地方における実施に具現されるよう、その組織及び運営について可及的速かに抜本的改革を加える。

 3.入場料については、競技場の改善と秩序の維持に役立つよう若干の値上げを行なう。ただし、地方の実情に応じ地域格差を設けることは差支えない。

 4.投票方法については、各種公営競技間の統一をはかりつつ的中率を多くすることにより、射倖心の過熱をさけるとともに、競技場における紛争を防止する見地から、次のことを検討する。

 (イ)重勝式は廃止する。

 (ロ)単勝、複勝式を中心として連勝式はこれを制限すること。

 (ハ)連勝複式を採用すること。

 (ニ)以上に関連して、枠のくくり方についても所要の改正を加える。また、特に紛争の起こる危険性のある枠のくくり方は、これを改善もしくは廃止する。

 5.馬券、車券等の場外売場については現在のものを増加しないことを原則とし、設備及び販売方法の改善(例えば売場数を増加し、これをすべて屋内にすること等)に努力する。

 6. 公営競技による収益の使途については、公営競技発足当時との状況の変化に鑑み、次の点を考慮する。

 (イ)売上金の一部を、関連産業等の振興に充当することとするが、その他に福祉事業、医療事業、スポーツ、文教関係等にもなるべく多く充当することとし、この趣旨を法律に明記すること。

 (ロ)一部の地方団体において、その財政が公営競技に強く依頼しているのは好ましくないことであるので、国及び地方団体は協力して出来るだけ早く、かかる事態をなくすよう努力すること。

 7.公営競技場数、開催回数、開催時間及びレース数等については、現規定よりも増加しない。なお、開催日は原則として土曜、日曜及び国の定める休日とする。

 8.競技場の環境を整備し、騒乱等の発生を防止するため、競技場内の設備を改善し、場内管理権を強化する。例えば常傭警備員を増加し、ノミ屋、予想屋等に対する取締を厳重ならしめること。

 9.不正レースの発生を防止し、競技内容の向上をはかるため迸手等関係者の養成、訓練、管理、欠格者の排除等その他必要な制度の改正を行なう。

 10.公営競技関係者の雇傭・労働その他の関係を近代化する。

 11.公営競技について過度の宣伝行為を行なわないよう自粛する。

 12.法律の規定が細部にわたり過ぎると認められる点が少なくないので、出来るかぎり政令に委任する等法律の簡素化をはかる。

 13.現行公営競技の根拠法が異なっているため、各種公営競技間に均衡を失している点が少なくないので、所管各省においてこれを是正するよう努力する。

 附記 中央競馬会については、その経理を円滑にするため、徹底的に検討する。


 公営競技調査会委員

  氏 名        役 職 名 

 浅野 均一    日本陸上競技連盟副会長

 井上 登     日本プロ野球コミッショナ一 

 岩佐 凱実    富士銀行副頭取

 植村 甲午郎   経団連副会長

 小汀 利得    政治経済評論家・日本経済新聞社顧問

 葛西 嘉資    日本赤十字社副社長

 唐島 基智三   政治経済評論家・唐島事務所

 柴沼 直     東京家政学院理事長

 曾野 綾子    作 家

 高見 順     作家・日本文芸家協会理事

 団藤 重光    東大教授

 長沼 弘毅    国際ラジオセンター会長

 野田 豊     野田経済研究所長

 林  髞     慶大教授

 久富 達夫    国立競技場会長

 福田 千里    大和証券社長

 藤林 敬三    慶大教授

 宮城 音弥    東京工大教授

 三好 重夫    公営企業金融公庫総裁

 村岡 花子    評論家


 公営競技調査会幹事

 内閣総理大臣官房審議室長  飯田 良一

 警察庁保安局長       木村 行蔵

 大蔵省主計局長       石原 周夫

 文部省体育局長       杉江 清

 農林省畜産局長       安田 善一郎

 通商産業省重工業局長    佐橋 滋

 運輸省船舶局長       水品 政雄

 自治省財政局長       奥野 誠亮

 内閣審議官         西 謙 一 


 二.「吉国答申」

 総理府総務長官

 三原朝雄殿

 公営競技の適正な運営について

 昭和54年6月21日

 公営競技問題懇談会

 座長 吉国一郎

 本懇談会は、総理府総務長官の依頼を受け、昭和52年11月11日に第1回会合を開いて以来16回の会合を持ち、公営競技をめぐる諸問題について検討した。この間、 3回にわたって現地調査を行うとともに、公営競技の関係官庁、施行者、実施者、振興団体からの参考意見の聴取を行った。

 懇談会では、収益の配分に関する問題、施行権及び収益の均てん化の問題、ノミ行為等の弊害の除去の問題及び業務の管理運営体制の問題に主眼を置いて検討を重ね、ここに主要な意見を下記のとおりまとめた。

 ここで述べた意見については、その実施を図るため、さらに関連する問題を含めて検討する必要のあるものがあり、それらについては、政府において積極的に検討を深めることを期待する。

 記

 公営競技については、昭和36年に、公営競技調査会が「公営競技に関する現行制度と今後の基本的方策」の答申を行い、以後それに沿って運営が行われてきた。

 現在、公営競技は、同調査会が調査審議した当時に比べ、ファンの数が大幅に増加し、売上規模、収益金額も飛躍的な巨額となり、その経済的、社会的影響力は遥かに大きくなっている。

 しかしながら、公営競技は、賭け事としての面を有するため、特に法律で認められたものであることにかんがみ、上記のような実態を考慮しつつ、一層、公正な運営を確保し、かつ、収益の適正・効率的な使用を図るとともに、弊害の除去と大衆娯楽の場としての明るい環境の整備に努力することが肝要である。

 Ⅰ 交付金の適正・効率的な使用について

 公営競技については、おおむね売上金額の75%が的中者に払い戻され、残りの25%が施行者の収入となる。このうち開催経費等を除いたものが広い意味での公営競技による収益と考えられ、その額は、昭和52年度において約5,700億円に達している。このうち各競技の振興団体への交付金は、約1,000億円であるが、その一層、適正・効率的な使用を図るため、次のような措置を考慮すべきである。

 1.関連産業の振興に充てられるいわゆる1号交付金については、新しい目で見直し、従来の関連産業のほか、新しい時代の要請に即した事業に配分することについても検討すること。

 2.スポ一ツの振興、社会福祉の増進、医療、公衆衛生の向上、文教事業の振興など公益の増進に充てられるいわゆる2号交付金については、現在は極めて広汎多岐な事業に配分されているが、より重点的な配分をすることとし、必要に応じルールあるいは基準の確率を検針すること。

 また、その配分に当たっては、対象事業の所管官庁の意見が十分に反映されるように適切な措置を講ずること。

 3.交付金の比率を定めた各競技実施法の別表については、その制定以来改訂されたことがないので、各競技の売上金額の増加状況等を考慮して改訂を図ること。なお、その際、施行者収益の改善に資する方向で交付金の比率を調整することについても検討すること。

 一部の施行者については、開催経費が年々上昇する中で収益状況が悪化しているところもみられるが、交付金が売上金額に対する比率により算出されることとなっていることもその一因であるとの指摘があり、施行者収益の悪化を防ぐ見地からは交付金の比率を収益に対する割合として定めることも一法であるとの意見もあった。

 Ⅱ 交付金の配分の公正確保について 交付金の配分は、各競技の振興団体によって行われているが、その配分については、常に公正の確保に努める必要があり、このため、次のような措置を考慮すべきである。

 1.交付金の配分に当たっては、主務大臣が任命した書を構成員とする第三者機関の意見を徴すること。

 2.交付金の配分が決定したときは、遅滞なく、対象団体、交付金の額等を公表すること。

 3.交付金の対象事業についての監査は、所管官庁が自ら行う等客観的かつ公正に実施されるべきであり、そのための体制の整備を行うこと。

 4.交付金の収納、配分を行う振興団体については、十分な監督体制を確立するため、会長、副会長および監事を主務大臣の任命制とすることなどを検討すること。

 5.振興団体の役員が交付金の配分を受ける団体の役員となることは避けること。

 Ⅲ 施行権または収益の均てん化について 公営競技が大衆娯楽としての発展をしてきた過程において、施行者が行ってきた努力は評価すべきであるが、競技場の設置には地理的、社会的な制約もあり、公営競技の施行権及びその収益については、均てん化を進める方向でできるだけ配慮する必要がある。このため、次のような措置を考慮すべきである。

 1.競技場所在地の近隣市町村については、競技の円滑な実施と運営の責任体制の確保に留意しつつ、財政事情等を考慮して、一部事務組合への参加の拡大等により、公営競技による収益が地域社会の実情に適合して配分されるよう努めること。 

 2.公営競技による収益の全国的均てん化についても、収益状況等を考慮しつつ、さらに進めるよう検討すること。特に、地方財政収入と交付金との分配比率の調整を図る場合には、一層、均てん化に留意すること。 

 全国的な均てん化の方法については、公営企業金融公庫への納付金を拡大することが現実的であるとの意見もあったが、同公庫の性質上、均てん化の方法としては問題があるとの意見もあった。また、収益の一部を地方交付税特別会計に繰り入れるとか、施行地方公共団体の基準財政収入に算入すべきであるとかの意見もあったが、これに対しては、公営競技による収益を地方公共団体の基準的な収入とみなすことに疑問を呈する意見もあった。

 公営競技の収益についてどのような方法でさらに全国的な均てん化を進めるかは、地方財政制度のあり方にもかかわる問題であり、関係官庁においてさらに検討すべきである。

 3.公営競技により、その基準財政需要に比し多額の収益を得ているような場合には、近隣市町村間での均てん化のほか、交付金、納付金の高率徴収等の措置についても検討すること。

 Ⅳ 場外売り場、競技場、開催回数等について 場外売り場、競技場、開催回数等については、公営競技調査会の答申に基づき、原則として増加しないこととなっている。しかしながら、現状では、各競技間の均衡を欠いたり地域的分布に偏りのある点もみられ、また、公営競技が大衆娯楽としての色彩を濃くしていることを考えると、今後は、抑制基調は維持しつつも、多少弾力的に検討することとしてよいものと考えられる。したがって、これらの問題については、次のような方向で検討すべきである。

 1.場外売り場の設置については、ノミ行為の防止にも効果があると思われるので、弾力的に検討してよいが、地域社会との調整を十分に行うこと。

 2.競技場について新設の要望のある場合には、地域社会との調整、各競技間の均衡、地域的分布状況、収益状況、施行権の均てん化等の葵因を総合的に考慮して検討すること。

 3.開催回数、開催日数については、各競技間の均衡、収益状況その他の要因を総合的に考慮して慎重に検討すべきであり、みだりに拡大しないようにすること。 

 4.協賛レースの開催については、濫に流れないように留意し、各競技を通じ、その対象を国民的行事に限る等基準を明確にした運用を行うこと。

 Ⅴ 弊害の除去について

 公営競技にまつわる弊害や悪影響を少なくするため、次のような措置を考慮すべきである。

 1.競技場等については、競技の実態に応じた改善がなされていないところも身受けられるので、公営競技が一層明るいふんい気の中で娯楽として楽しめるよう、施設の改善、整備に努めること。

 2.地域社会との融和を図るとともに周辺の交通公害の解消を図るため、競技場又は場外売り場周辺の環境整備に努めること。

 3.ノミ行為等の犯罪防止のため、施行者はその現状を十分認識し、協力してその根絶に一層の努力を傾けること。このため、

 (1)警察との緊密な連絡を保つとともに施行者自信もさらに警備体制を強化すること。

 (2)場外売り場を含めた販売窓口の整備改善、機械化の推進、電話投票方式の拡充等によりファンへのサービスの向上に努めること。

 (3)ノミ行為が違法であることの広報に努めること。

 Ⅵ その他

 1.各競技固有の問題については、それぞれの所管官庁において、さらに検討すること。

 2.最近における売上げの伸びの鈍化と開催経費の増加の傾向にかんがみ、施行者は経営の改善、合理化の問題に一層努力すること。

 3.公営競技の運営について、できるだけ統一性を確保するため、関係省庁間の連絡体制を強化すること。 


 三.場外車券売場の施設の規模、構造及び設備並びにこれらの配置の基準を定めた件に関する告示(平成6年3月7日通商産業省告示第109号)

 自転車競技法施行規則(昭和23年商工省令第28号)第4条の3第1項第4号の規定に基づき、場外車券売場の施設の規模、構造及び設備並びにこれらの配置の基準を次のように定めたので告示する。ただし、平成6年3月7日以前の許可に係る専用場外車券売場に係る第1の1(3)及び2(1)については、全面的に改築する場合を除き、平成9年3月7日から適用する。

 第1 専用場外車券売場の基準

 1 車券の発売等の用に供する施設等

 (1)車券の発売等の用に供する施設は、購入しやすい構造であって、現金及び重要書類を適切に管理できるものであること。

 (2)車券の発売等の用に供する窓口は、それぞれ収容人員数に応じた適当な数であり、かつ、各窓口の間隔は0.9メートル以上であること。この場合において、車券を販売する窓口の数は、常時在場人員数が100人を超える場合には、14以下であってはならない。

 (3)車券の発売等の用に供する窓口の前面には、原則として6メートル以上の空間を確保すること。

 (4)車券の発売等の用に供する各施設に現金及び重要書類を保管するための設備を設けてあること。

 2 入場者の用に供する施設等

 (1)入場者の用に供する建物は、冷暖房設備を備えたものとすること。

 (2)定員の10%以上の椅子席を設けること。

 (3)入場者の見やすい場所に確定出場選手、車券の発売金額、勝者及び払戻金額を明示するための掲示設備が設けてあること。

 (4)入場者の用に供するため、適当な数及び広さを有する次の施設を利用しやすい場所に設けてあること。

 イ インフォメーションコーナー

 ロ お客様相談所

 ハ 荷物預かり所

 ニ 喫茶・休憩コーナー

 ホ 飲食店(飲食店は、快適かつ衛生的な設備を有し、かつ、食品取扱設備、洗浄設備、給水及び残物等処理設備を備えていること。)

 ヘ 売店

 ト トイレ(それぞれ男子用及び女子用の区別があり、水洗式のものであること。)

 チ 駐車場(駐車場は立地条件に応じ場外車券売場周辺の道路交通等に支障を及ぼすことのないよう入場者の自動車等を収容するのに十分な広さであること。自ら設置することが困難である場合には、車券発売中については他の駐車場所有者等との契約により十分な広さの駐車場を確保すること。)

 第2 前売専用場外車券売場の基準

 1 車券の発売等の用に供する施設等は、第1の1の(1)、(2)の前段及び(4)を準用する。

 2 入場者の用に供する施設等については、第1の2の(4)のトを準用するほか、入場者の見やすい場所に確定出場選手、勝者及び払戻金額を明示する点の掲示設備を設けてあること。

 3 その他管理運営に必要な施設等については、第1の3の(1)を準用する。 

  四.場外車券売場の設置に関する指導要領について(平成7年4月3日7機局第164号。通商産業省機械情報産業局長名。各通商産業局長宛)

 上記の件については、平成7年3月10日付けで別紙のとおり自転車競技法施行規則の一部を改正する省令(平成7年通商産業省令第14号)が公布され、平成7年4月1日から施行されたところであるが、自転車競技法施行規則(以下「規則」という。)第4条の2第1項及び第4条の3第1項の運用等については、下記によることとしたので、適切な指導監督及び周知徹底をお願いします。

 なお、昭和59年9月6日付け59機局第662号「場外車券場の整備改善に関する指導要領について」及び昭和59年9月6日付け59機局第663号「前売専用場外車券売場の設置に関する指導要領について」の通達はこれを廃止します。

 記

 1.自転車競技法第4条第2項に基づく場外車券売場の設置の認可に関する施設の位置、構造及び設備の基準については、同法施行規則第4条の3第1項並びに場外車券売場の施設の規模、構造及び設備並びにこれらの配置の基準を定めた件に関する告示(平成6年3月7日通商産業省告示第109号)に規定されているが、当該基準は最低基準を示したものであるから必ず当該基準に適合するよう指導すること。従って、許可基準に規定されていない事項についても改善を要すべき箇所があれば、併せて指導して整備改善させること。

 2.設置するに当たっては、当該場外車券売場の設置場所の属する地域社会との調和を図るため、当該施設が可能な限り地域住民の利便に役立つものとなるよう指導すること。

 3.施設の整備改善に関する事項について、必要ある場合は日本自転車振興会に意見を求めること。

 4.設置するに当たっては、当該場外車券売場の設置場所を管轄する警察署、消防署等とあらかじめ密接な連絡を行うとともに、地域社会との調整を十分行うよう指導すること。


 古川氏は、今回のサテライト日田が上記に示された基準に違反すると主張されております。これに対しては、私も意見を述べているのですが、それについては、機会を改めることといたします。


(初出:2000年12月)

2025年4月29日火曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第8編

 サテライト日田の問題に関心を持ち始めてから、既に5か月ほどが経過しました。そして、今、この問題に関して別府市議会が一つの決断を下す時です。或る意味において、2000年12月、一つの、そしておそらく最大の山場を迎えております。別府市議会においても、全議員が設置に賛成している訳ではないからです。

 12月5日(火曜日)の午前中、私は大分市明野にある新日鐵研修施設攻玉寮で仕事をしました。大分県市町村職員研修で行政法の講義を行い、昼食をとり、大学へ向かいました。朝日新聞社の別府通信局から、11月26日付朝刊(私のコメントが載っています。第4編を御覧下さい)および11月30日付朝刊が送られてきました。その中に同封されていた手紙に、12月9日、日田市側が別府の中心街である北浜周辺で抗議運動をするという情報が記されていました。このことは、既に大分合同新聞2000年12月2日付朝刊朝F版27面を読んで知っていました。私は、この抗議活動を見に行くことを決め、9日の午前中に自宅から大分駅まで自転車を走らせ、大分駅からは電車に乗って別府駅へ向かいました。

 サテライト日田問題についての別府市民の考え方が、これまであまりよく見えず、反対運動にどのような目を向けるのか、注意していました。閑散とした、と表現してよい中心街を歩き、時間を待ちました。13時ころ、別府市民の中から何人かの反対運動をする人々が、別府駅周辺に集まってきました。そのうちの一人の老紳士と話をしたのですが、昔ならいざ知らず、別府競輪も赤字転落は間違いない、サテライト宇佐だって成功しているのかどうかわからない、別府市はギャンブルで街を活性化することばかり考えている、これで風紀が(ますます)悪くなる、湯布院町などと違って文化的な活動については全く遅れている、と話してくれました。元々、別府市の中心街、とくに裏通りには、成人映画館やヌードシアターなど、大分市の繁華街にもないものを含めて性風俗関係の店が多いのです。しかし、観光の面では長期低落傾向を示しているだけあって、昼の中心街は寂れています。別府駅前には、何年か前まで近鉄百貨店がありましたが、その建物が壊されていました。別府大学駅の付近、六勝園から上人ヶ浜のほうに別府市美術館があるのですが、海辺にあるため、美術品の展示や保管に問題があるとか。

 別府市民の反対活動は「サテライト日田を強行する市長に腹が立つ会」という名称がつけられており、そのビラには、「『どうして、いやがっているのに強行するのか』、『市長は人の意見を聞かないごうまんな姿勢が目立つ』、『別府市民としてはずかしい』、『日田の人に申し訳ない』等々別府市内でも市長に対する批判が広がっています。ギャンブルに頼るのではなく、温泉・豊かな自然・歴史や文化を大切にした街づくりを、という声は日田も別府も共通の願いのはずです」と書かれていました。実際、そのようなことが書かれたプラカードも多数見られました。その数は、最終的に50名ほどだったでしょうか。もう少し多かったでしょうか。

 このころから、朝日新聞、西日本新聞などの新聞社、NHK大分、大分放送(OBS)、テレビ大分(TOS)および大分朝日放送(OAB)などの記者、カメラマンも集まり始め、皮肉なことに、こうした運動によって、かつては大分交通別大線も足を伸ばしていた別府駅前通りはにわかに活気づいたのでした。

 14時ころ、集団は国道10号線北浜交差点そばにあるトキハ別府店・別府コスモピアの前に移動しました。日田市からは約250名が反対運動に参加するとのことでした。バス5台に分乗して別府に到着するのが14時だという情報も入っていたのですが、実際の到着は14時半ころでした。日田市長の大石氏、日田商工会議所会頭の武内氏、そして日田市議会議長および議員全員、さらに市民も集まっており、頭にハチマキを占め、日田市長など数名はタスキをまわし、北浜の歩道に集結しました。

 日田市側から配られたビラによると、「サテライト日田」設置反対連絡会には、日田商工会議所の他、日田市自治会連合会、日田市連合育友会、日田市女性団体連絡協議会、サテライト日田設置反対女性ネットワーク、日田市連合青年団、日田市ライオンズクラブ、日田すいめいライオンズクラブ、日田ロータリークラブ、日田中央ロータリークラブ、国際ソロプチミスト日田、日田まちづくり研究所、大分ひた農業協同組合、日田市森林組合、(社)日田青年会議所、日田商工会議所婦人会および日田商工会議所青年部が名を連ねています。そして、「別府競輪場外車券売り場『サテライト日田』絶対いらない!!」というタイトルの下、次のように書かれていました。

 「別府市民の皆さん、『サテライト日田』問題をご存知ですか?/『サテライト日田』とは、別府市が日田市にムリヤリ設置しようとしている別府競輪の場外車券売り場のことです。/私たち日田市民は、平成8年から別府市に対し、『サテライト日田』の設置断念を訴えてきました。今年8月には、50,570人の反対署名を別府市に提出しましたが、井上別府市長は、私たち日田市民の意向を全く無視し、強引に設置しようとしています。/このような行為は、私たち日田市民を軽視したものであり、日田市の進めようとしている『まちづくり』の大きな障害となるものです。/良識ある別府市民の皆さん、是非私たちの気持ちをご理解していただき、設置反対にご協力とご支援をよろしくお願いいたします。」(ほぼ原文のまま。なお、/は原文における改行箇所)

 14時40分、いよいよデモ行進が始まりました。別府駅経由で大分駅へ向かう大分交通バスがはさまれ、妙な光景でした。日田市側のデモ行進の後ろに、別府市民も加わっています。14時49分、別府駅東口の交差点で折り返し、北浜へ戻り、14時57分、コスモピア付近から歩道に入り、15時、コスモピアでデモ行進を終え、日田市長、市議会議長、商工会議所の会頭があいさつをして、15時3分に終わりました。勿論、この間、シュプレッヒコールは鳴り止みません。

 日田市の人口を考えると、50,570人の反対署名は、ほぼ日田市民全員に近い数の署名を集めたということになります。

 ただ、何度か記しているのですが、既に設置許可が通商産業省から下されていること、日田市の条例には自転車競技法との整合性という問題があること、起工式も済まされていること、別府市が設置を取り止めるとすると賠償問題につながること、などからすれば、法律的には設置の方向が示されており、これを変えるのは難しいでしょう。勿論、全てが法律によって解決される訳ではないのですから、土壇場のどんでん返しもありうる話です。

 別府市議会は、2000年12月18日に閉会します。サテライト日田設置のための特別補正予算案が可決されるか否決されるか、大きな分岐点になります。そして第1幕は終わります。しかし、第2幕は、さらに波乱に満ちたものになるかもしれません。そのように考えながら、私は日豊本線の各駅停車に乗り、大分駅に向かったのでした。


(初出:2000年12月10日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第7編

 このところ、日田市のホームページを見ることが多くなりました。少なくとも大分県内にある市町村の公式ホームページで「掲示板」を持つところは、日田市および中津市以外になく、日田市の「掲示板」に、サテライト日田問題に関する投稿が多くなってきたからです。

 その「掲示板」を見て、日田市民および日田市出身者の方々が抱く、サテライト日田建設に対する強烈な反対の意思を、改めて思い知らされました。また、そこから教わることも多く、一種の傍観者としての立場にある私は、限界を強く感じています。

 例えば、前回、南友田の町内に「サテライト日田建設反対!」といった類の看板が一枚も見かけられないことに違和感を覚えたという趣旨を記したのですが、後に或る方が、このホームページに記せないような事情があるということを教えて下さいました。また、平成8年にも市民による大規模な反対運動があり、それで沈静化したと思ったのに今ごろになって、と書かれた方もおられ、その怒りが切々と伝わってきました。

 私がサテライト日田の建設予定地を訪れた日の翌日、すなわち12月4日、施設設置申請者のM建設会長氏ら10名が出席して起工式が行われました。大分 asahi.com/ニュースによれば、M建設会長氏は「通産省など関係官庁には10月末から11月初めにかけて着工する旨を説明した。完成の目途は、別府市議会の議決後、別府市と協議をした後でないと分からない」と語ったそうです。さらに、今後、建物部分について整備を行った上で、来年の1月末から2月初めの間に一部が完成すること、さらにサテライト日田の設置による街の活性化を願って努力したい、遊びをコンセプトにして大人の健全な遊び場を提供するのがまちづくりの一環ではないかという旨などを語ったそうです。

 同日、別府市は、第5編でも記したサテライト日田関連の特別補正予算案を市議会に提出しました。約3億2000万円の支出になります。

 12月6日、別府市議会(議案質疑)でサテライト日田問題が取り上げられました。新聞報道によると、市議会の関心は思った以上に強く、11人の発言者のうち10人がこの問題に関する質問をしたとのことでした。別府市の態度は、これまでの経緯からしても明らかなもので、サテライト日田設置計画は法律に従って進んでいる、「日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例」にはとらわれない、というものでした。そして、9月以降、どのようにして日田市および同市民の理解を得ようとしたのかについて、市当局は、連絡をとったが会うことを拒否されたという旨を述べています。県の仲裁について質問した議員の質問に対しては今後の検討に委ねたいと答えるに留まり、赤字になる可能性についてはそうならないと、さらに訴訟になった場合には必要に応じて対応したい、と答えました。

 翌7日、別府市議会(一般質疑)が行われました。以下、朝日新聞2000年12月8日付朝刊10版31面および大分合同新聞同日付朝刊朝F版23面の報道によりつつ、市長の井上信幸氏による発言の内容などを紹介しておきます。

 「これまで担当助役や部長が(日田市などと)誠意ある交渉をしてきたと信じている。今後も(日田市や日田市民の)理解を得るよう努力していく」(大分合同新聞より)

 「日田の皆さんの了解を得るべく、今後も誠意ある行動させていただきたい」(朝日新聞より)

 「別府競輪50年という歴史への使命感もある」(朝日新聞より)

 「当初は周囲が賛成してたので設置業者は通産大臣に申請した。経過をくみ取ってもらいたい」(朝日新聞より。なお、これに対して、日田市のホームページにある掲示板には、猛烈な反発が寄せられています)

 「まさか許可は出ないだろうと判断していたら6月に出た。日田の皆さんは、設置業者、あるいは通産省に問題提起してもらえればよかったが、なぜか別府に向いている」(朝日新聞より)

 「無駄な争いは嫌いなので、日田市のおっしゃることを黙って聞かせていただいた」(朝日新聞より)

 「競輪事業を赤字に転落させず、安定化させるという使命がある。当初、溝江建設が予定地周辺の賛成を得て設置申請をした。議員の皆さんに協力をお願いします」(大分合同新聞より。日田市のホームページにある掲示板には、猛烈な反発が寄せられています 。)

 別府市議会議員からは、「これだけ反対がある中、車券販売ができるのか」、「溝江建設が議決を前に着工したのは議会軽視」などの質問・意見が出されました(大分合同新聞による)。一方、これは両新聞の記事に出ておらず、結局わからなかったのですが、日田市民の方によれば、日田市民が金を出してM建設に工事を止めてもらえばよいという意見も出たとのことです。本当にこんな発言が出たとしたら、不見識にも程があると言いたくなるほどのものです(実際、これは日田市民の怒りを買っています)。

 また、主題から外れますが、この日の市議会では、別府市長自身が社長を務められる第3セクターの扇山ゴルフ場での使途不明金問題も扱われており、或る意味において、別府市側にとっては苦しい市議会であったと言いうるでしょう。

 なお、12月9日、日田市側は、別府市中心部でデモ行進をすることを決定しています。日田市のホームページにある掲示板には、東北某県の方が手弁当で参加するという旨の書き込みをされておりました(注:後にわかったのですが、この方は、掲示板の操作を誤ったとのことで、実際は日田市民でした)。


(初出:2000年12月9日)

2025年4月28日月曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第6編

 これまで、サテライト日田問題を取り上げていながら、実際に現地を訪れる機会を見つけられず、忸怩たる思いをしていました。12月3日(日)、ようやく行くことができましたので、今回は、紀行文風に書いていきたいと思います。

 その前に、大分合同新聞2000年12月2日付朝刊朝F版27面に掲載された記事の内容を紹介しておきます。サテライト日田設置反対連絡会の武内好高氏は、12月1日の正午から、日田市役所での記者会見の席上、別府市が車券を発売しないように望む旨を示しました。同記事によれば、12月4日に、建設予定地で起工式が行われます(やはり12月1日に、建設会社の相談役が発表しました)。そして、12月9日、別府市でサテライト日田反対デモが行われる予定だとのことです。

 さて、12月3日の件に入りましょう。私は大分市に住んでいますが、大分市から日田市までは90km以上あり、久大本線では日田まで直通する特急列車が4往復、普通列車では3往復しかありません。そのため、愛車の黒いウイングロードXに乗り、大分自動車道大分光吉インターチェンジから日田インターチェンジまで1時間20分ほどをかけて運転しました。日田市は大分県の西部、久留米市や福岡市のほうが近いこともあるせいか、大分県という色彩が薄いように感じられます。

 日田インターチェンジを降りて国道212号線を日田市街方向に走り、国道386号線に入って、朝倉・甘木・福岡方向に走ると、すぐに南友田となります。インターチェンジからちょうど3㎞、道路の右側、パチンコ屋やゲームセンターなどが集まる一角があります。その一角の奥のほうに、問題の建設地があります。実測したところ、日田駅からでもちょうど3㎞でした。

 しかし、このあたりを走っていて最初に不思議に思われたのは、これだけ新聞などでも騒がれている割に、南友田の町内に「サテライト日田建設反対!」といった類の看板が一枚も見かけられないということです。何かの規制でもあるのか、別のところにあるのか、理由はわかりません。それにしても、あまりに目立たないため、私は、そのまま夜明温泉付近まで車を走らせてしまい、行き過ぎたことに気づいて、昼食をとってから引き返し、南友田のパチンコ屋やゲームセンターなどが集まる一角に戻ったのでした。

 この一角はアーバン・ピラミッドと総称されており、入口には駐車場とローソン、その隣にピエトロ大分日田店があります。パチンコ屋は駐車場のすぐ奥、国道から見ると正面にあります。何故か、駐車場の国道側に噴水があり、パチンコ屋の西側にもスフィンクスなどをかたどった何体かの像の口から水が出る仕掛けがある池がありました。パチンコ屋の東側にはゲームセンター、北側には健康温泉ランドがあります。

 パチンコ屋西側で道路の反対側にうどん屋があります。その隣に、鉄の柵で囲まれた敷地がありました。しかし、何の建設予定地かが書かれていません。実はこれが、サテライト日田の建設予定地なのです。看板も何も立っていないのは、近隣住民への配慮なのでしょうか。

 アーバン・ピラミッドのすぐ隣(東側)には大型の自動車用品販売店、反対側(南側)には、UNIQLO、新鮮市場グループ日田店、100満ボルト(家電販売店)などの大型店舗が並んでいます。少し奥には住宅が並んでいます。この国道を通る自動車も多く、買い物客らしき人たちの車が駐車場などにあふれています。典型的な郊外というところで、私の自宅付近とよく似ています(国道10号線沿いにあり、すぐそばに大型のスーパーマーケットや家電販売店、ファミリーレストラン、自動車用品販売店が並んでいます。また、自動車販売店が多く、本田自動車以外の主な日本車ならば、自宅近くで買うことができます)。

 もしかしたら、と思い、私は、アーバン・ピラミッドから日田駅前まで車を走らせました。中心街の一つ、三本松商店街を走ります。福岡のデパート、岩田屋の支店もあるのですが、人通りが少なく、閉まっている店も少なからず見受けられます。案の定、という思いでした。日田市の中心街は駅の南側、反対の北側は淡窓や豆田という、日田の古い街並みをよく保存するところで、多少は観光客などが歩いているようですが、商店街としてみるならば閑散としたところです。

 淡窓、豆田を抜け、日田市役所のあたりを走りました。市役所にも「サテライト日田建設反対!」といった看板や垂れ幕はないようでしたが、これは私の見落としかもしれません。車を降りた訳ではないのです。

 もう一度、駅の南側に出て、元町、日田温泉街などを走ってみましたが、やはり、閑散としているという印象をぬぐうことはできません。日田駅のそばに車を停め、商店街を歩き、何軒かの店にも入りましたが、客があまりいないようです。そして、この中心街にも「サテライト日田建設反対!」の看板などはありません。

 今回は、それほど長く日田市街を探索した訳ではありませんが、中心街空洞化問題は、日田市でも例外ではないようです。

 そして、車を運転している最中に、また、もしかしたら、と思ったのでした。サテライト日田建設反対運動は、単に風紀その他の問題ではない。日田市のまちづくり、武内氏の言葉を借りるのであれば「緑豊かなアメニティ都市づくり」に障害となるというのは、理由としてはわからなくもないが、南友田を歩いてみると少し食い違いがあるような気がする。これは、中心街空洞化の問題とも関連しているし、おそらく、そのことが反対運動の大きな要因になっているはずである、と。

 何故なら、サテライト日田を南友田という郊外に作れば、車券を買おうとする人々が運転する自家用車の交通量が増える。ただ車券を買うばかりでなく、パチンコ屋なども潤うし(競馬や競輪をやる人は、パチンコをやりながらレースの状況を見聞きする、ということが多い)、コンビニやレストランも潤う(昼食時など)。一家で行くなどとなれば、近所のスーパーマーケットなどの収入も増える。駐車場があるのも大きな魅力である。場合によっては、これに目をつけてさらに大型店舗が進出する可能性もある。これに対し、日田市の中心部はますます寂れる。道は狭いし、駐車スペースもあまりない。あっても有料である。駅があるといっても、列車の本数が少ないから使いにくい。こうなると、ただでさえ中心街再活性化に苦労しているのに、サテライト日田が南友田にできれば、中心街再活性化は一層困難になる。

 現地を車で走り、歩いてみて、このように思ったのですが、どこまで当たっているかは、全くわかりません。


(初出:2000年12月4日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第5編

 この問題も、ますます混迷の度を深めていくようです。今のままでは収拾がつかないような状態です。11月26日、第3編および第4編を掲載しましたが、また新たな動きがありました。今回は、朝日新聞社が運営しているasahi.comの大分版に掲載された2000年11月28日付および11月30日付の記事、そして大分合同新聞2000年11月30日付朝刊朝F版23面の記事を参照しつつ、たどってみます。

 11月27日、日田市の中央公民館で、サテライト日田設置反対の連絡会(17の団体が加入しているようです)が、設置反対市民総決起集会を開催しました。参加した日田市民は約400人でした。同代表の武内好高氏(日田商工会議所会頭)らは、「絶対反対!サテライト日田」と書かれたタスキやハチマキを身につけて臨んだとのことです。

 席上、武内氏は、「日田市は緑豊かなアメニティ都市づくりを目指して取り組んでいる。車券売り場が設置されると、根底から覆される。日田市民一丸となって、設置反対に猛進しよう」とあいさつし、市民の代表二氏もサテライト日田設置撤回まで戦う旨の決意を述べました。

 そして、「車券売り場施設は、日田のまちづくりの大きな障害で、容認できない」という要旨の反対決議文が、17団体の代表によって読みあげられ、採択された後、気勢をあげた、とのことです。

 29日には、サテライト日田設置反対の連絡会のメンバーが、やはりタスキとハチマキを身につけて別府市役所を訪れ、別府市議会に設置反対を申し入れました。同日、別府市は、サテライト日田設置の関連予算案(競輪事業特別会計補正予算案で、関係する機器のリース契約を内容とするようです)を市議会に提案することを表明し、市議会に議案を提示しており、その直後に設置反対が申し入れられたのです。応対には、別府市議会議長の三ケ尻正友氏らがあたりました。

 別府市議会は、12月4日から始まります。別府市は、日田市が今年6月に制定・公布・施行した「日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例」の「法的性格を専門家と話し合い、同意をとる必要はないと考える」として、あくまでも予定通り補正予算案を提出し、サテライト日田を設置して車券を販売する構えです。

 また、第2編でもとりあげた市報べっぷ11月号の記事について、別府市助役の大塚茂樹氏は、記事を訂正するつもりがないことを表明し、経緯を説明するための回答もしないと述べています。また、業者による説明会、約400軒にのぼる戸別訪問でも6割から7割の賛成・同意を得ているとしております。

 これに対し、11月29日、日田市長の大石昭忠氏は、市報べっぷ12月号に訂正記事が掲載されなければ、日田市が別府市を名誉毀損などの理由により提訴すると表明しました(あくまでも記事の訂正を求めるようで、損害賠償請求はしないとのことです)。

 日田市側によれば、11月7日、日田市長名で、別府市長宛てに内容証明郵便を送り、10日以内の回答を求めましたが、何の反応もなかったとのことです。

さらに、日田市は、仮にサテライト日田の設置を阻止できなければ、サテライト日田の車券売上に対して課税することも検討しております。大分合同新聞の記事からは必ずしも明らかでないのですが、横浜市が場外馬券売場への課税に際して採用する法定外普通税を導入するものと思われます。

 しかし、別府市議会の中には、サテライト日田の設置の話は日田から「出たはずだ」といった声もあります。そうなると、市報べっぷの記事が正しいのか、日田市の主張が正しいのか、という問題は、まだ解決されていないことになります。

 別府市民がサテライト日田問題をどのように捉えているのかは不明ですが、武内氏は「別府市民の声とは同一価値ではないが、日田市民の声をご理解の上、ご決定をお願いしたい」と前置きをしてから反対決議文を読みあげたといいます。

 別府市議会では、特別予算案の審議に慎重を期すという姿勢が示され、武内氏らによる申し入れに応じる方針が示されたと言います。しかし、反対連絡会の決議文には「別府市の市政を疑うものであり」という文言が含まれており、これを問題視する声もあるようです。

 なお、これも上記asahi.comの大分版(11月30日)によるものですが、別府市は、補正予算について、日本自転車普及協会とリース契約を結ぶため、限度額を3億2100万円と利子負担分とする債務負担行為の設定を求め、返済を今年度から8年間とする、同額の助成が見込まれるため、市の持ち出しはない、と説明しております。

 12月4日からの別府市議会において、サテライト日田問題がどのように扱われるか、注目されます。しかし、予定通り設置されるとしても、あるいは設置が撤回されるとしても、今回の問題は日田市と別府市の双方に、大きな禍根を残すことになりそうです。


(初出:2000年12月1日)

2025年4月27日日曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第4編

 最初に:以下の内容は、2000年11月26日掲載時・同年12月11日修正時のままです。


 これまで、3回にわたり、本ホームページでは、サテライト日田建設問題を取り上げ、考察を加えて参りました。年末を控え、新たな動きがあるようなので、朝日新聞2000年11月26日付朝刊13版34面の記事を参照しつつ、たどってみたいと思います。

 同記事によれば、サテライト日田が営業を開始すると、車券売上分の4%は、設置を申し出た建設会社に家賃として支払われます。また、1%は「環境整備費」として日田市に交付されます。

 しかし、日田市では、まず市民団体がサテライト日田建設に反対し、1996年には日田市議会も反対決議をしたのですが、1997年7月に建設会社が設置許可申請をしており、今年の6月に許可が出されました。

 これに対し、別府市は、既に2000年2月、通商産業大臣に確約書を提出しており、あくまでも設置を実行する構えです。

 同記事にも別府市幹部の言葉として掲載されているのですが、もし、別府市が設置計画を白紙に戻した場合、設置許可を申請した建設会社から、信義誠実の原則(民法第1条第2項を参照)に違反するとして、国家賠償法または民法に基づく損害賠償請求を請求される可能性もあります。

 このような損害賠償請求は、熊本地裁玉名支部昭和44年4月30日判決(判例時報574号60頁)、最高裁第三小法廷昭和56年1月27日判決(最高裁判所民事判例集35巻1号35頁)などにおいて認容されております。その理由として、市町村の行政計画を変更すること自体は適法であるが、この変更行為はその計画に従っていた業者などの信頼を破壊することにもなる、ということがあげられます。

 そうなると、別府市としては、サテライト日田建設計画を着実に進めざるをえなくなります。事実、別府市は、12月の市議会にサテライト日田設置に関連する補正予算案を提出する構えを見せております。一方、日田市は、11月25日、市議会議員の一部が別府市議会に反対を申し入れ、27日には、設置反対に向けた市民参加の総決起集会を開催することを計画していると伝えられております。

 ここで、同記事に載った私のコメントを、紹介しておきます。

 「自転車競技法では地元市長の同意は要件としていない。また、地方自治法は『条例制定は法令に反しない限り』としており、条例は制定権の範囲を超えていると思う。ただ、住民意思をくみ取る日田市の姿勢は評価でき、この問題は地方公共団体の権能をうたう憲法にもかかわる。今後も成り行きを注目したい」

 さらに、日田市は、同記事ではあまり明らかにされておりませんが「法廷闘争も辞さない構え」をとっております。日田市側が提訴するとすれば、別府市報11月号の記事に虚偽があるなどの理由により、記事の訂正を求め、別府市を被告とする裁判を提起することなどが考えられます。

 また、地方自治法第251条の2に基づき、日田市、別府市のいずれかが、大分県知事に自治紛争処理委員による調停を申し出ることが考えられます。しかし、自治紛争処理委員の調停による解決の見込みがない場合には、同第5項に基づいて、調停を打ち切ることになります。

 訴訟などについては、機会を改めて検討することとしまして、今は、経緯を見守るしかないと思われます。

 なお、第3編においても述べましたが、サテライト日田問題について、皆様からの御意見や御質問などを承りたいと思います。電子メールか郵便でお願いします。電話およびファックスでの申し出はお断りいたしますので、御了承下さい。

 電子メールの場合:(省略)

 郵便の場合:(省略)

 なお、皆様からの御意見、御質問などにつきましては、このホームページで公表させていただくことも考えておりますので、非公表を希望される方は、その旨をお知らせ下さい。本名、メールアドレスなどの公表を望まれない方についても同様です(住所、年齢、職業などについては非公表とします)。

 また、本ホームページにおきましては、現在のところ、掲示板などを設置する予定はございません(平成12年12月10日深夜より、掲示板を設けました)。


(初出:2000年11月26日。12月11日に修正)

2025年4月26日土曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第3編

 最初に:以下の内容は、2000年11月26日掲載時のままです。そのため、サイトのアドレスは古いものです。御注意ください。


 これまで、本ホームページでは、サテライト日田建設問題を取り上げ、考察を加えて参りました。条例制定権の問題、まちづくりの問題は勿論、市町村間関係の問題なども含まれることになり、さらには政治問題も入り込みます。そのため、難しさを増しているのですが、私は、基本的に、あくまでも地方自治法制度の問題として扱う姿勢を保ちたいと思います。従って、このホームページにおける私の意見は、あくまでも行政法学的見地からのものであって、サテライト日田建設の是非自体に関わるものではないということを、ここで明確に記しておきます。

 (なお、これまでの経緯については、「サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第1編」、および「サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第2編」を参照して下さい)。

 また、日田市のホームページに、11月2日より「市議会だより」第42号の概要(6月14日・15日の両日に行われた平成12年第2回定例会のダイジェスト版)が掲載されています(http://www.coara.or.jp/~hitacity/gikai/tayori_42.htm)。それによれば、議員の桜木博氏は、サテライト日田に関し、設置許可が出されたが今後の対応をどうするかという趣旨の質問をしており、日田市長は、6月12日に別府市へ反対要望書を提出したこと、反対連絡会5万人署名をはじめ、市議会、行政、市民が一体となって反対していくと答えております。

 私は、これまで、サテライト日田問題について意見を述べて参りましたが、皆様からの御意見や御質問などを承りたいと思います。電子メールか郵便でお願いします(仕事の都合などもございますので、電話およびファックスでの申し出はお断りいたします)。

 電子メールの場合:(省略)

 郵便の場合:(省略)

 なお、皆様からの御意見、御質問などにつきましては、このホームページで公表させていただくことも考えておりますので、非公表を希望される方は、その旨をお知らせ下さい。本名、メールアドレスなどの公表を望まれない方についても同様です(住所、年齢、職業などについては非公表とします)。


(初出:2000年11月26日)

2025年4月25日金曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第2編

 本ホームページに「サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第1編」という記事を掲載しております。この記事につきまして、その後の経過を知りたいという御意見をいただきました。

 大分合同新聞2000年7月2日付朝刊朝F版の記事を参考にしつつ記してから、3ヶ月ほどが経過していますが、問題は解決しておりません。むしろ、激化の様相を見せております。 そこで、続編として、この問題を再び取り上げます。

 別府市が発行している「市報べっぷ」11月号は、特集として別府競輪に関する記事を掲載しています。このうちの一部の記事に対し、10月31日、日田市長が「事実と異なる」として異議を申し立てました(大分合同新聞2000年11月1日付朝刊朝F版25面)。

 同記事の何が問題だったのでしょうか。同記事6頁には、「サテライトのメリットの一つとして、地域経済の振興に役立つことがあげられます。そこでは、車券売場の窓口係員をはじめ多くの雇用が生じます」、「サテライトの設置で、競輪のギャンブル的イメージからか、周辺に与える影響を心配する向きもありますが、現在では宇佐のサテライトをはじめ他のどこのサテライトでも、心配されているような現象は起こっていません」という文言があります。新聞記事によれば、日田市長が異議を唱えたのは、(少なくとも直接的に)この部分に対してではなかったようです。

 続いて、「法的にも問題はないサテライト日田」(ここには、設置までの経緯が記されております)、「別府市の考え方」および「市民にとって欠かせない別府競輪」という小見出しの下、「サテライト日田」の建設を進めるという大前提を維持する考え方を述べた上で、「競輪収入は別府市の財政運営にとって欠かせない財源になっています」と結んでいます。

 日田市長が異議を唱えたのは、「別府市の考え方」に掲げられた第二の項目に対してでした。別府市は、この問題について三項目を掲げております。それは、次の通りです。

 「①競輪は国の許可を得て行う公営競技である。戦後の復旧から現在まで地方財政の健全化に寄与している事業であり、法律に基づいて実施できる競輪事業を、地方公共団体の条例で何らかの規制をすることについては、慎重に検討する必要がある。

 ②場外車券売場の通産大臣の設置許可まで、『サテライト日田』の場合3年を要した。反対するのであれば、日田市としては、本来、設置許可が出る前に、許可権者である通産大臣に対して明確な反対の意思表示をすべきだったのではないか。

 ③自転車競技法では、当然のことではあるが、場外車券売場は『だれにでも、どこにでも』許可されるものではなく、地域性、商圏性、将来性などの設置基準を厳格に審査したうえで、通産大臣が設置者に許可したものであり、したがって別府市が車券の発売を撤回することはできない。」

 また、市報7頁には「設置者から申し出があった直後の平成8年9月から今年の7月まで実務担当者が日田市を7回、日田商工会議所を1回訪れ」たこと、「設置者も日田市とひんぱんに接触を重ね、地域住民に説明会を開」いたことなども記されております。

 これに対する日田市の反論は「一九九七(平成九)年一月-通産大臣に市長名で反対要望書を提出、同八月-九州通産局に市長が設置反対を陳情、同九月-通産省車両課に市長が設置反対を陳情、同十月-九州通産局に教育委員会が反対要望書を提出するなど、明確に反対の意思表示をしてきた」というものです。日田市長は「記事に明らかに事実と異なった部分がある。近日中に、別府市長にあてた内容証明郵便で異議を申し立て、訂正を求める」と発言しています(以上、大分合同新聞前掲記事)。

 結果的に、大分合同新聞の記事見出しにある通り、別府市報の記事は「サテライト日田」問題の「火に油を注ぐ」ことになりました。

 しかし、別府市の主張と日田市の主張とは、あまりに食い違いが大きく、どちらが真実を語っているのか、図りかねるところがあります。

 仮に別府市の主張が正しいとするならば、日田市の主張は虚偽となります。法的にはともあれ、市長の政治的責任が問われかねないこととなるでしょう。

 問題は、日田市の主張が正しい場合です。別府市のほうに問題が帰せられることにもなるのでしょうが、実は、そう単純な話でもありません。

 再び、自転車競技法を参照してみましょう。前にも記しましたように、場外車券売場に直接関わる第4条に登場する者は、場外車券売り場の設置者と通商産業大臣であり、場外車券売り場の設置を予定された市町村の長や住民は登場しません。競走場の設置又は移転に関する第3条を参照しても、通商産業大臣が設置許可をする前に「関係都道府県知事の意見を聞かなければならない」(第2項)、都道府県知事が意見を述べる前に「公聴会を開いて、利害関係人の意見を聴かなければならない」(第3項)と規定されておりますが、「関係都道府県知事」であれ「利害関係人」であれ、同意を必要としておりません。

 それでは、日田市長名による反対要望書の提出などは、法的にいかなる意味を持つことになるのでしょうか。第4条の各項を参照しても、設置場所となる市町村の長の同意は規定されておりません。また、市長、市議会、地域住民の反対意見が「利害関係人の意見」として扱われることも予定されておりません。従って、自転車競技法によれば、日田市が主張している一連の反対の意思表示は、法的な効果を伴うものではなく、事実行為にすぎないことになります。

 あるいは、通産省の行政指導により、場外車券売場設置者が設置場所となる市町村の長の同意を得ることを求められるということも考えられます。しかし、行政指導は、たとえ法的な根拠があったとしても事実行為であり、法的な効果を伴いません。そればかりでなく、行政手続法第32条以下の規定によれば、行政指導に従うか否かは設置者に委ねられることになり、設置者が行政指導に反して設置場所となる市町村の長の同意を得なかったからといって、設置許可をしないという訳にもいきません。

 また、行政手続法第10条に基づく公聴会などの手続が必要だったとも考えられるのですが、この規定は公聴会などの開催を法的に義務づける規定ではありません。公聴会を開催し、設置場所となる市町村の長、議員、住民の意見を聴いたとしても、それらが必ず反映されなければならないというものでもありません。

 このように考えると、是非は別として、「サテライト日田」問題は、このままの展開で進むならば別府市側に軍配が上がりそうな気配です。

 ●残念ながら、別府市のホームページも、日田市のホームページも、「サテライト日田」問題を取り上げておりません。

 ○市報「べっぷ」11月号(通算1462号)については、大分大学経済研究所所蔵のものを利用しました。


(初出:2000年11月)

2025年4月24日木曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第1編

 前口上

 私が2000年6月3日にホームページ「大分発法制・行財政研究」を始めてから程なく、大分合同新聞社からの電話によってサテライト日田問題を知りました。当初は「大分県にこういう問題がある」という程度でしたが、私自身がこの問題に深く入れ込むようになり、「サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題」として、不定期ながら2004年12月まで、61編に及ぶ長期連載となりました。

 2004年4月1日に大東文化大学法学部助教授になったので、その翌日にホームページの名称を「高島平発法制・行財政研究」に改め、2010年3月5日には「川崎高津公法研究室」に改めましたが、サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題」の掲載を続けました。

 ホームページは2024年12月上旬に終了しましたが、私自身にとって思い入れのあるシリーズですので、2025年4月24日より、アーカイヴとして全編を再掲載することとしました。


 大分県の西部、福岡県筑後地方に接する日田市は、江戸時代に幕府の天領として栄え、小京都として有名な都市です。一方、別府市は、鉄輪、亀川、観海寺、浜脇などの温泉や城島高原を抱える観光都市です。今、この両市の間で激しい争いが繰り広げられています。大分合同新聞2000年7月2日付朝刊朝F版23面の記事を参考にしつつ、検討してみましょう。なお、以下の引用文は、注記がない限り、その記事に拠ります。

 福岡市に本社を置く溝江建設は、別府競輪場の場外車券売場「サテライト日田」を、日田市南友田に建設することを計画しました。既に、予定地には大型浴場やパチンコ店などの複合型レジャー施設が開発されており、溝江建設は、場外車券売場設置の監督官庁である通商産業大臣の許可も得ております。別府市にとっても、別府競輪場の売上減少に歯止めをかけるために、宇佐市に続く日田市での場外車券売場の設置に期待をかけているようです。

 しかし、この計画に、まずは日田市民が反対しました。前掲記事に載った市民団体「サテライト日田設置計画反対連絡会」が「日田の町づくりの目標は文化、教育の薫り高いアメニティ都市」であると主張しております。日田市議会も、自転車競技法に定められた許可手続では「民意が反映されず、地方分権の流れに逆行する」という旨の意見書を採択しております。

  「サテライト日田」については、通商産業大臣から設置許可が出されておりますが、6月12日、日田市長は別府市役所を訪れ、設置断念の要望書を提出しましたが、別府市長が面会しなかったため、両市の対立が激しくなりました。

 6月27日、日田市議会は「日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例」案を可決し、即日公布・施行しました。これにより、日田市は「サテライト日田」の設置を阻止する構えです。これに対し、別府市は、条例に疑義を示した上で、あくまでも設置手続を進めるとしております。 この条例に関するコメントを、前掲記事から紹介しましょう(掲載順)。

 「条例は自転車競技法で定められていない『市長の同意』などを求めている。市が条例を制定できる範囲を超えている疑いがある」〔大分大学教育福祉科学部の森稔樹講師(行政法)、すなわち、私です〕

 「町づくりに対し、住民が意思表示をする権利を持つ、というのが地方分権の基本原理。法制度はまだ不十分だが、地元の民意を反映するならば、地方自治体が国や県と違う独自の条例を制定することがあってもいいのでは」〔大分大学経済学部の高島拓哉助教授(地域社会学)〕

 実を申しますと、私も、日田市の条例制定に理解を示すことができますし、街づくりという観点からは一定の評価をしております。しかし、今回の地方分権の趣旨からしても、日田市の条例制定には、法的にみて問題があると考えております。

 まず、憲法第94条において、地方公共団体が条例を制定できるのは「法律の範囲内」であることを明言しております。これを受ける形で、地方自治法第14条第1項は、地方公共団体が条例を制定できるのは「法令に違反しない限りにおいて」であると定めております。この条文は、地方分権推進一括法においても改められておりません。

 のみならず、私が「日本における地方分権に向けての小論」(大分大学教育学部研究紀要第20巻第2号、1998年)においても述べたように「地方分権推進委員会は、憲法第94条の存在を理由としてあげつつ、あるいは強調しつつ、条例制定権については基本的に変更することを考えていないようである(中略)地方分権推進委員会は、国の立法を原則とする趣旨を一貫して主張しており、条例制定はあくまでも国から委任された範囲に限られる旨を述べている」のです。今回の地方分権においては、地方公共団体に権限の移譲をすることに主眼が置かれているのであり、どちらかと言えば住民自治が軽視されていることも、忘れてはなりません。

 この点については、自治体問題研究所編・地方分権の「歪み」(1998年、自治体研究社)に掲載されている白藤博行「歪み続ける『地方分権』論」および重森暁「地方分権と税財源問題」が参考になります。

 次に、前記の事柄を前提として、自転車競技法を参照してみましょう。「サテライト日田」に直接関わる条文は第4条ですが、ここに登場する者は、場外車券売場の設置者と通商産業大臣であり、場外車券売場の設置を予定された市町村の長や住民は登場しません。競走場の設置又は移転に関する第3条を参照しても、通商産業大臣が設置許可をする前に「関係都道府県知事の意見を聞かなければならない」(第2項)、都道府県知事が意見を述べる前に「公聴会を開いて、利害関係人の意見を聴かなければならない」(第3項)と規定されておりますが、「関係都道府県知事」であれ「利害関係人」であれ、同意を必要としておりません。

 なお、平成7年4月3日、通商産業省機械情報産業局長名で発せられた通達「場外車券売場の設置に関する指導要領について」の4は「設置するに当たっては、当該場外車券売場の設置場所を管轄する警察署、消防署等とあらかじめ密接な連絡を行うとともに、地域社会との調整を十分行うよう指導すること」となっております。これは、設置者に対しての指導の基準であって、設置場所となる市町村の長を当事者とするものではありません。

 これらの規定を検討すれば、次のような結論が得られます。別府競輪場が日田市に移転するというような場合であれば、日田市(長)の意見は、第3条第3項にいう「利害関係人の意見」であり、当然、設置許可にあたって尊重されなければなりません。しかし、第3条においても、市町村長の同意は必要とされておりません。今回の問題は場外車券売場の設置であり、第4条の各項を参照しても、設置場所となる市町村の長の同意は規定されておりませんし、「利害関係人の意見」として扱われることも予定されておりません。従って、日田市の条例は、自転車競技法の趣旨に反して上乗せ規制を行おうとするものであり、条例制定権を逸脱し、自転車競技法に違反します。

 勿論、このような結論が、各市町村の街づくりに大きな制約を課し、住民自治の発展を損なわせるものであることは、正直に認めなければなりません。しかし、現行の法律を解釈するならば、仕方のないことであるとしか言いようがありません。


(初出:2000年7月)

アーカイヴ:日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例(平成12年6月27日条例第40号)

 条例の提案理由

  本市の目指すまちづくりの理念及び青少年の健全育成の観点から、公営競技の場外券売場の設置等について、所要の措置を講ずるものである。

(目的)

 第1条 この条例は、日田市における公営競技の場外券売場の設置等に係る環境上の条件について、良好な生活環境を保全し、青少年の健全な育成に資することを目的とする。

(定義)

 第2条 前条に規定する公営競技の場外券売場の設置等とは、次に掲げるものをいう。

  (1)自転車競技法(昭和23年法律第209号)第4条第1項に規定する車券発売施設の設置及び車券の発売 

  (2)競馬法施行令(昭和23年政令第242号)第2条第1項に規定する競馬場外の設備の設置及び勝馬投票券の発売

 (3)小型自動車競走法施行規則(昭和25年通商産業省令第46号)第5条第1項に規定する場外車券売場の設置及び車券の発売

 (4)モーターボート競走法施行規則(昭和26年運輸令第59号)第8条第1項に規定する勝舟投票券場外発売場の設置及び勝舟投票券の発売

 (設置者の義務)

 第3条 前条各号に掲げる施設等を日田市内に設置しようとする者は、建築基準法(昭和25年法律第201号)第6条第1項に規定する確認の申請書を提出するまでに、市長に対し、施設等設置の申請をし、かつ、その同意を求めなければならない。

 (市長の同意又は不同意の決定)

 第4条 市長は、前条の規定により、申請があり、かつ、同意を求められたときは、施設等の設置が現在及び将来の日田市民の健康で文化的な生活環境の保全に資するものか否かの意見を付し、議会の同意を得て、これを決定するものとする。

 (公営競技施行者の責務)

 第5条 第2条各号に掲げる公営競技の施行者は、日田市内において当該競技の場外券を発売しようとするときは、日田市のまちづくりの基本理念を十分勘案し、市長の同意を得るものとする。

 附 則

 この条例は、公布の日から施行する。


 付記: 条例の全文は、大分合同新聞別府支社編集部の藤原敦之記者から、ファックスでいただいたものです。この場を借りて御礼を申し上げます。なお、当方で転写いたしましたが、平成12年12月14日、改めて、日田市役所総務部総務課からファックスで送っていただいた条文を基に確認したところ、これまで掲載していた条例に誤りがありました。お詫びを申し上げ、訂正させていただきます。なお、この条例が日田市議会において可決されたのも、平成12年6月27日です。


(初出:おそらく2000年7月)

「ひろば 研究室別室」の移転について

   長らくgoo blogで続けてきましたが、あれこれと考えた結果、2025年8月7日より、はてなブログのほうで書いていくこととしました。何卒よろしくお願い申し上げます。  新しいアドレスは、次の通りです。   https://derkleineplatz8537.hatena...