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2025年5月14日水曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第36編

 2001年、大分県では、中津競馬廃止(これは、今後の公営競技を考える上で非常に重要な事件です)、道路拡張に伴う損失補償に絡む汚職事件など、こと地方政治や地方経済を考える上では話題に事欠かない1年でした。年末になると、どこの新聞社や放送局でも十大ニュースを取り上げますが、このサテライト日田問題をはじめ、3月の別府市議会空転(これもサテライト日田事件が原因の一つなのですが)、杉乃井ホテルの経営破綻、道路拡張に伴う損失補償に絡む汚職事件など、別府市に関係のある事件が多かったのも印象的です。何故なのかはわかりませんが。

 このようなことを記したのも、12月17日、テレビ大分(TOS)で17時53分から放映されているTOSスーパーニュースで、地方自治に関係する大分県十大(重大、かもしれません)ニュースの一つとして、サテライト日田問題が取り上げられたからです。この日は仕事でしたので、自宅のヴィデオテープに録画をしておきました。市町村が別の市町村を相手取って訴訟を起こすということも珍しければ(類例を聞いたことがありません)、市町村が国を相手取って訴訟を起こすことも珍しく(摂津訴訟や大牟田電気税訴訟の例はありますが)、まして、国の設置許可に対して市町村が無効等確認訴訟(および取消訴訟)を提起するというのは、前代未聞ではないでしょうか。公営競技そのものの存続も問われている時勢だけに、十大(重大)ニュースとして取り上げられるのは当然です。実は、この番組の途中、ほんの少しですが私が登場します。私のコメントが、字幕付きで大分県内に放映されたのでした。この部分は生放送でなく、12月14日の夕方、TOSのスタッフの方が研究室に来られました(勿論、事前の連絡がありました)。その際に収録されたものです。 コメントの中身は、これまでこのホームページなどにおいて発言してきた内容の要約ともいうべきものであり、今後の地方分権の方向性を占うものであるという趣旨などを述べています。もっとも、ホームページなどを除き、サテライト日田問題に関する 私の発言が公にされるのは、今年の5月7日にNHK総合テレビで18時10分から放映された「情報ボックス」(大分ローカルの番組)以来のことです(収録は4月10日)。その少し前には「サテライト日田をめぐる自治体間対立と条例」も公表されました。勿論、それ以外の場においても、サテライト日田問題に関わり続けています。今年、私はサテライト日田問題だけを追えるような状況になかったのですが、やはりサテライト日田問題に明け、終わった1年でした。とくに前半はそうです。これ以外にも、大分県には地方自治に関する問題が多く、この県は、あたかも全国に存在する地方自治の諸問題を凝縮したような場所ではないかとすら思えてきます。

 翌12月18日、大分地方裁判所第1号法廷において、対別府市訴訟の口頭弁論が行われました。同じ法廷では、やはり別府市に関係する訴訟の口頭弁論が行われました。原告はおおいた・市民オンブズマン、被告は別府市長で、情報公開に関する訴訟でした(非公開処分取消請求訴訟)。原告側の永井敬三氏、河野聡弁護士とは、以前から情報交換などをしておりますが、今回の訴訟の詳しい内容をうかがっておりません。しかし、例の汚職事件に関連して大分県に政治倫理条例を作らせようとする運動のことを教えていただきました。12月22日に集会があったのですが、私は仕事の都合で参加していません。また、12月23日付の西日本新聞朝刊社会面には、おおいた・市民オンブズマンが、例の汚職事件に絡んで大分県の職員数名を刑事告発したという記事が掲載されています。大分県といい別府市といい、行政の空気が沈滞気味であることを感じているのは、私だけではないようです。もっとも、これを言い出せば、大分県内のほとんどの市町村も同様なのですが。

 非公開処分取り消し請求訴訟は10時から、日田市対別府市訴訟は10時15分からでしたが、被告人側の訴訟代理人がともに内田健弁護士であることから、予定よりも8分ほど早くから、続けてなされたのでした。この日も、原告である日田市側から準備書面が提出され、後は次回の期日が決められて終了しました。

 さて、今回は、この12月18日の口頭弁論を紹介し、若干の検討を試みることとします。今回は、12月12日付の準備書面によります。

 まず、準備書面は、「地方公共団体の自律性」を述べた上で、「原告のまちづくりの基本的な方針」を紹介しています。ここでは、1990(平成2)年の第3次日田市総合計画(「活力あふれ、文化・教育の香り高いアメニティ都市ひた」として、「歴史・文化・自然を生かし、地域性を尊重した豊かでゆとりのある人間性あふれる市民生活を構築するまちづくり」を方針とするもの)、そして2000(平成12)年の第4次日田市総合計画(「人・まちの個性が輝き、響きあう共生都市」を目指すとされています)に言及しています。

 (なお、大変に申し訳ないのですが、この記事をお読みの日田市役所関係者の方がおられたら、第3次日田市総合計画および第4次日田市総合計画を閲覧させていただけないでしょうか。当方から日田市役所にうかがい、相応のコピー代を負担させていただきます。他にも条例などを検索したいのです。1月下旬に日田市役所にお伺いいたします。)

 その上で、サテライト日田設置反対に関する運動の経緯を記しています。まず、平成8年12月18日に日田市内の15団体(17団体となるのは平成10年1月26日)が提出した反対決議書を、次に同年20日に日田市議会が全会一致で可決したサテライト日田設置反対決議を述べ、「原告及びその執行機関は、このような住民の意見を行政に反映させ、地方公共団体の自律性を実現する責任を負っている」として、今年6月12日および11月2日付の準備書面でも述べられているように、「平成9年8月以降、『サテライト日田』の設置が文教都市に相応しくないとして、設置反対の意思を表明し、許可権者である通産大臣をはじめ各関係機関に対し、再三再四に亘って、設置不許可を強く申し入れてきたのである」としています。

 この部分については、広報ひた2001年3月15日号の表にも掲載されている通り、1999年から2000年5月31日までの動きが明確になっていないという問題点があります。おそらく、日田市としては、当時の通商産業省機械情報産業局車両課長から別府市長あてに出された2000年1月14日付の文書において「本場外車券売場(注:サテライト日田のこと)を予定している日田市においては、日田市、日田市議会及び地域住民が設置に反対しているところです」と記されており、「確約書」として2000年2月25日付で別府市長名により当時の通商産業省機械情報産業局長に提出された文書(別事第4-0574号)において「競輪場外車券売場(サテライト日田)については、日田市、日田市議会及び地元住民が設置に反対しており、また久留米市(久留米競輪場)との商圏調整についての合意形成も整ってない状況にあります」と記されていることを、「日田市、日田市議会及び地元住民」が反対運動を続けてきた事実を示すものと主張しているものと思われます。また、1997年12月2日、サテライト日田設置計画の一時凍結を当時の九州通産局が日田市に連絡していることからしても、1999年から2000年5月31日までの段階で表立った反対運動の足跡を示せなかったとしても、或る意味では当然のことかもしれません。

 さて、問題は、別府市の名誉毀損行為です。問題の市報べっぷは、別府市全世帯に配布されるのみならず、大分県内の市町村にも配布されています(余談ですが、大分大学経済研究所にも配布されており、私は、ここで例の記事を読み、コピーしました)。準備書面は、この点を指摘した上で「あたかも原告が過去3年以上に亘って、許可権者である通産大臣に対し明確な反対の意思表示をしなかったという印象を一般人に与えるものである」と述べ、さらに、次のように述べています(引用が長くなります)。

 「また、『市報べっぷ』に本件記事が掲載された平成12年11月当時、原告は日田市内の17団体に対し、逐一、通産大臣に対する設置反対の申入れ内容等を説明し、日田市のまちづくりに反する『サテライト日田』の設置運営を断固、阻止しようとしていた時期である。

 このような時期における本件記事の事実摘示は、あたかも原告が『通産大臣に何等の反対の意思表明をしなかった』、『市民団体に虚偽の事実を報告していた』という印象を一般の住民に与えた。

 それに加えて、(中略)原告のまちづくりの取り組みに対しても、住民に重大な疑問を与えるとともに、住民に真実を知らせるという公正な行政運営・執行に対する信頼をも喪失させるものであった。

 現に、原告の担当者が市民から『「市報べっぷ」 に掲載されていることは本当なのか』という問い合わせを電話で受けている。」

 (この件については、大分合同新聞2000年11月1日付朝刊朝F版25面、そしてこのホームページの第2編を参照して下さい。なお、これとは逆に、別府市民のほうから、別府市に対し、市報の記事が虚偽であるとの抗議があったという話も、私が複数の別府市民から直接的に伺っていることも記しております。)

 刑法第230条に規定される名誉毀損罪については、例えば、甲という人が乙の名誉を実際に毀損したか否かの判断は、第一次的に乙の判断に委ねられることとなるはずです。同第232条(第1項)によって名誉毀損罪が親告罪とされていることからも、このことが判明します。また、名誉毀損罪の場合、基本的に未遂罪などは成立しえません。名誉を毀損すると考えられる言動がなされた段階において既遂となるからです。私は刑法学の専門家でない上に、手許に刑法各論の参考書がないので、確証を持てませんが、いわゆる危険犯の部類に入るものと思われます。実際に、乙の評価が甲によって毀損されたか否かについては、第三者の評価が分かれうるでしょう。従って、実際に乙の評価が第三者にとって低められたか否かの客観的証明は必要がないこととなります(これを求めたら大変なことになります)。

 この解釈は、基本的に民法第723条についても妥当しうるのではないかと思われます。例えば、プライヴァシー権の存在を日本で初めて認めたものとして有名な「宴のあと」事件判決(東京地判昭和39年9月28日下民集15巻9号28頁)にしても、作家の三島由紀夫および出版社が、この小説のモデルとなった者の名誉を意図的に侵害するつもりで小説を公表したのかどうか、疑問が残ります。おそらく当事者を含め、そうした意図はなかったと主張するでしょう。問題は、その可能性があったかどうかに尽きます(これも、実際にどうであったかを調査することは不可能に近いでしょう)。

 (余談ですが、最近も、同種の訴訟が起き、小説家が敗訴する度に、「文芸の自由」や「表現の自由」が侵害されるという趣旨の発言がなされるのですが、私に言わせれば、このような主張は、いかにその小説家が未熟であるかを示すものに他なりません。熟練した小説家であれば、仮にそのような意味を込めたとしても、洗練された文章を作って、そのような趣旨を上手にぼかすことでしょう。)

 ただ、刑法の場合、過失による名誉毀損は犯罪とならないのに対し、民法の場合は故意のみならず、過失によっても名誉毀損が成立しうる点が異なります。

 そうなると、日田市対別府市の訴訟の場合、ポイントは2つに絞られます。

 (1)日田市に原告適格があるのか。

 (2)別府市に故意または過失があるのか。

 (1)についてですが、私は、原告適格があると考えます。別府市の主張は、日田市が私人を訴訟の相手とした場合には成立しうるかもしれませんが、今回は公法人対公法人であり、同格の市町村であることからしても、私人の表現の自由などを理由とする抗弁は成立しえないと考えられます。

 (2)についてですが、基本的に問題はここにあると思われます。日田市側が提出した証拠からすれば、別府市に故意または過失がなかったと断言はできません。但し、これは別府市側の今後の主張にかかってきます。

 最後に、来年のサテライト日田関連訴訟の日程を、ここで記しておきます。場所は、いずれも大分地方裁判所第1号法廷です。

 1月29日:13時30分から、対経済産業大臣訴訟。

 2月5日:15時30分から、対別府市訴訟(現在のところ、講義の関係もあって、この日だけは傍聴できないのですが、講義の開始時間と終了時間を遅らせることができないか、検討しています)。

 3月26日:13時30分から、対経済産業大臣訴訟。

 勿論、私は、この訴訟を、可能な限り傍聴し、このホームページで取り上げ、検討を続けて参ります。 そして、第13編から続けてきた第二部は、今回をもって終了し、次編からは第三部として、2002年1月から開始します。これまで、この不定期連載を多くの方にお読みいただいており、感謝の念に堪えません。私自身の性格からして、ここまで続くとは予想もしていなかったのですが、第三編につきましても、これまでと変わらぬ御愛顧をお願い申し上げます。また、御意見などがございましたら、電子メールなどでお寄せ下さい。場合によっては、この連載において紹介させていただきます。


(初出:2001年12月25日)

2025年5月13日火曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第35編(写真5)

現場の北側です。柵は、うどん屋の南側に立てられていました。


(初出:2001年12月10日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第35編(写真4)

 設置予定場所の中から撮影したものです。昨年の今ごろであれば立ち入ることができなかったのですが、今は御覧の通りで、私の車も同じ敷地内に停めました。奥のほうに噴水と何体かの像(スフィンクスなどです)とピラミッド側の別棟があります。私も最初は信じられなかったのですが、パチンコ屋です。ゲームセンターと同居しています。この少し手前には、鉄の柵を立てるために開けたと思われる穴がありました。現在はふさがれています。


(初出:2001年12月10日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第35編(写真3)

 日田駅の裏、田島に日田市役所があります。上の写真は、現在も日田市役所西側に掲げられている垂れ幕です。


(初出:2001年12月10日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第35編(写真2)

 これは、アーバンピラミッドの裏にある駐車場の北側に立てられている看板です。この裏は農地です。それに限らず、設置予定場所の北側は農地となっています。このような看板は、日田市の北部(国道212号線沿い)でも見られます。日田市連合育友会は、サテライト日田設置反対17団体のうちの一つです。


(初出:2001年12月10日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第35編(写真1)


 日田駅前に立てられているものです。同じものが、この写真の反対側、ロータリーにも立てられています。また、三隅川(日田市内での筑後川の名前)にもありました。


(初出:2001年12月10日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第35編(本文)

 初めに、お断りです。今回は、現場を中心に写真を掲載するのですが、システムの都合上、ここで一気に公開することができません。そのため、本編は、本文、写真1から写真5まで分割されます。

 昨年(2000年)の12月9日、別府北浜から別府駅東口までを往復するサテライト日田設置反対運動デモ行進が行われました。実際にこの様子を見聞した者として、2000年12月9日は忘れられない日となるでしょう。少なくとも、「2000年のうちで一番印象に残る日は?」と尋ねられたならば、即、12月9日である、と答えます(あくまでも私の場合ですが)。

 それからちょうど1年が経ちます。サテライト日田設置予定場所はどうなっているのかが気にかかり、12月8日、約半年ぶりに現地を訪れることとしました。同じ大分県内であるとは言え、大分市中心部から日田市中心部までは90km以上あります。仕事の関係などで、日田に向かう時間を取ることができなかったのです。しかし、11月24日、北海道大学(札幌市北区)で行われた日本自治学会第1回総会の席で、ほんの少しではありましたが、千葉大学の大森彌教授が、報告においてサテライト日田問題に触れられ、地方分権改革が進められている中でそれに全く対応していないような法律の存在意義を問うものであるという趣旨の見解を示されました。また、当日、九州大学の木佐茂男教授にお会いし、この問題に関する意見交換をいたしました。そのようなことがあったので、仕事が一段落したら日田へ行こうと決めていました。

 12月1日にデジタルカメラを購入しましたので、今回は、現地の様子を写真付きでお伝えいたします。なお、第6編においても現地の模様を述べておりますので、お読み下さい。

 さて、内容に入る前に、12月9日、西日本新聞日田版に掲載された記事を紹介しましょう。私は、同社のホームページで発見しました。「『サテライト日田」問題 九大生も競輪論争注目 予定地見学や意見交換」という見出しがついております。全文を引用し、紹介させていただきます。西日本新聞本社および日田支局の皆様、九州大学の関係者の皆様、問題がございましたらご連絡をいただけますでしょうか。すぐに削除いたします。

 (以下、引用)

 別府市が日田市に設置を計画している競輪の場外車券場について、日田市が設置許可の取り消しなどを求めて国との訴訟にまで発展した「サテライト日田」問題で、九州大学法学部の行政法ゼミ(木佐茂男教授)の学生ら十六人が八日、日田市友田の設置予定地見学や担当市職員との意見交換を行った。

 同ゼミは九州各地の行政問題をテーマに研究を進めており、まちづくりや公営ギャンブルなどの問題が複雑に絡み合ったサテライト問題に着目。生の意見を聞くため初めて日田市を訪れた。

 設置予定地では市職員の説明後、学生が班に分かれて周辺住民や遊戯施設利用者などから、サテライト建設の賛否などについて意見を聴いた。

 その後日田市役所で市職員が、国との訴訟に至るまでの経過や、学生から前もって出されていた「設置のメリット・デメリット」「住民の意見をどう反映させているか」などの質問に答えた。

 意見交換も活発に行われ「日田市全体が反対していると聞いていたが、『設置してほしい』という人もおり意外な感じがした」という学生に、市側は「市民団体を中心にした運動を議会と行政が支援しており、設置反対は市民の総意。個別に賛成する人がいるのは仕方がないが、自分たちの手で街づくりをするという意識を持ってもらうことが重要」と答えた。

 (以上で引用は終わり。木佐先生、ゼミ生の皆様、約束を破ってしまいました。申し訳ございません。しかし、やはり気になる記事ですから……)

 実は、この記事に登場しないとは言え、私も現場におり、木佐先生、ゼミ生の皆さん、日田市役所の職員の方(私が存じ上げている方です)、西日本新聞、大分合同新聞、そして毎日新聞の記者諸氏と意見交換などをしておりました。当日に木佐先生とゼミ生の皆さんが日田に来られることは知っておりましたし、ゼミ生の皆さんがこのホームページを読まれていることも知っておりました。日田市役所の皆様は驚かれたと思いますが。なお、私は、日田市役所での質疑応答などには参加しておりません。

 少しばかり補足しますと、日田市民および日田市出身者の中にサテライト日田設置に賛成する方がおられることは、ひたの掲示板などで知っておりました。昨年の12月、賛否が議論されたからです。公営競技のファンもおられるでしょうし、商売の関係からすれば設置されたほうがよいという考えを持つ方もおられるでしょう。無関心の方もおられるでしょう。これは当然のことです(或る意味では健全です)。むしろ、イメージとして日田市に場外車券場は似合わないという意見も、とくに外部から多く出されます。

 しかし、設置許可に至るプロセスには不透明な部分が多く、中には、最初は何ができるのかよくわからないまま設置に同意したが、後から場外車券場であることがわかって設置反対にまわった人々もおります。また、ここには書けないようなひどい話もあったとのことです。実際、口頭弁論の際に提出される準備書面などを読んでも、行政手続法に従った手続がなされているのか否かなど、不明な点があります。

 さて、私自身のことを記しておきます。大分大学を11時30分に出発し、大分自動車道経由で1時間半ほど走ると、日田駅に着きます。このあたりの商店街の様子を見ようと思い(実は、買い物と食事もしようと思い)、行った訳です。三本松の商店街などには「サテライト日田設置反対」の幟や旗などが多く立てられていたのですが、いつの間にか、そのほとんどが撤去されていました。しかし、日田駅前には数本の黄色い旗が残っています(写真1)。後でわかったのですが、現場の裏側(写真2)、三隅川(日田市内での筑後川の名前)や国道212号線沿いなどには、旗、幟、立て看板などが残っています。

 日田駅前から田島陸橋を越え、田島にある日田市役所の前に出ました。市役所西側には、「サテライト日田設置反対」の大きな垂れ幕が掛けられています(写真3)。この周辺には、日田警察署、大分地方裁判所日田支部などがあり、田島官公街とも呼ばれます。こうした場所に、「○○建設促進!」というスローガンを掲げた垂れ幕を見つけることは簡単で、営団地下鉄半蔵門線永田町駅(大学院時代、通学のために必ずこの駅を通っていました)でもおなじみであるほどです。しかし、「●●設置反対」の垂れ幕が掛けられている市役所というものを、日田市以外に知りません。私は、大分県内の58市町村全てをまわっていますし、その際には必ず市町村役場の付近を通るようにしていますが、「国の強制による市町村合併反対!」というスローガンでもあれば見たいものです。そもそも、公共事業などに反対するのは住民で、行政は推進側、あるいは賛成派であることが通例です。その点で、日田市は全国的にも珍しく、注目を集めているのです。

 さて、田島から豆田町、淡窓を通って、設置予定場所に向かいます。なお、現場は、久大本線の光岡駅からのほうが近いのですが、日田駅からのほうがわかりやすく、便利ではないかと思われます。


 これがサテライト日田設置予定場所です。もう少し精確に記すと、手前の駐車場がそうです。昨年の12月3日には、鉄の柵(鉄板による囲い)が周囲を覆っていましたが、今年に入ってから徐々に外され、駐車場に戻りました(写真4)。緑色の屋根のすぐ後はうどん屋です(写真5)。手前の影は自動車整備工場のものです。道路を左側に進むと国道386号線で、土曜日や日曜日の午後ともなると渋滞します(この日も)。

 この予定地の中に、私も車を停め、撮影を開始しました。しばらくして、九大木佐ゼミの皆さん、そして日田市役所の皆さんと会うことができました。日田市役所の方から、鉄の柵を立てるために開けたと思われる穴の存在を教えていただきました。何せ、柵が設けられていた時からかなりの時間が経っており、正確な位置を私も覚えていなかったのです。なお、その穴ですが、現在はふさがれています。

 この日、駐車場にはかなりの空きスペースがあり(銭湯は例外)、パチンコ屋なども空いていましたが、日曜日ともなると満車状態になるそうです。そうなると、周囲にある農地を買収し、道を広げるなどの措置が必要となりますが、農地の場合は売買契約だけで済まされず、市の農地委員会による転用許可(行政法学上は認可)が必要となります。法律において、許可と認可は厳格な定義づけがなされないままに用いられておりますが、行政法学においては区別されます。農地委員会の認可を得ないでなされた農地売買契約は無効です。しかも、許可より認可のほうが、行政庁の裁量の幅が広いと解されています。

 現場の柵が完全に撤去されているということは、少なくとも現段階においては設置の実現性も期待もないということを意味すると思われます。別府市議会は、今年の2月の臨時会において、サテライト日田設置関連予算案を否決しており、その後も同予算案の提出が見送られています。このような状態では、行政事件訴訟法で例外的に認められる執行停止(日田市側による訴状には、執行停止の請求がありません)がなされていなくとも、設置計画が進むとは思えません。このように、予算案提出が見送られ続け、あるいは提出されても否決されるような事態が続けば、設置許可の意味がなくなり、設置許可の撤回(日田市の主張に従えば取消)ということも考えられます。もっとも、或る所では、設置許可から10年ほど経って場外券売場が建設され、オープンしたとのことですが、住民とすれば、おかしな話だとしか思えないでしょう。今回の設置許可にも、停止条件(別府市議会が予算案を可決した段階から効力を生じる旨のもの)か解除条件(2年以内に着工しなければ失効する、というようなもの。地方鉄道法時代の鉄道路線免許によく付せられた)かを付したほうが良かったのではないかと思われます。ドイツでは、行政訴訟において附款を付すべき場合が論じられておりますが、サテライト日田設置許可についても議論の余地があるものと思われます。

 最後に、今回の内容とは直接関係のないことを記しておきます。最近、Yahoo! Japanの掲示板において、この不定期連載記事が、大分県民を初めとする多くの方々から注目されており、お読みいただいていることを知りました。私自身は、仕事の関係やその他の事情もあり、Yahoo! Japanの掲示板に登場することができませんが、過分なほどの賛辞をいただいており、恐縮しております。また、この問題は、行政法学者や行政学者などの間でも知られており、日田市役所の方からも、数名の方が協力している旨の話を伺っております。私も、月刊地方自治職員研修2001年5月号に論文を公表しましたし、機会があれば新たに論文を公表しようと考えています。また、他の方の研究に参加(少なくとも協力)するなどの形で、刊行物としてまとまったものを出したいと考えております。

 今後も、何か動きがあり次第、新記事を追加して参りますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。


(初出:2001年12月10日。写真1ないし写真5も、時間をずらせて同日掲載)

2025年5月12日月曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第34編

 昨年(2000年)の11月、市報べっぷ掲載記事問題が起こりました。この記事がきっかけとなって、日田市と別府市との対立が激しさを増しています。この「サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題」が、不定期ながら連載となったのも、昨年の11月からでした。振り返ってみますと、市報べっぷ掲載記事問題を取り上げた第2編から第4編までは昨年11月に掲載しておりますし、12月に掲載した第5編も、11月の動きを捉えたものです。

 あれから1年、昨年の熱気が失せてきたのかと思っていたのですが、そうではなく、県民、とくに日田市民および別府市民にとっては、地域行政のあり方の問題として根付いていました。

 10月30日、西日本新聞社のホームページに、日田版として「サテライト訴訟 実質審議求め2万9000人署名 上積みし地裁提出へ」という記事が掲載されました。それによれば、「サテライト日田」設置反対連絡会は、大分地方裁判所が訴訟において日田市の原告適格を認めて実質審議に入るように求める署名が1ヶ月半の間(9月半ばに署名運動を開始)に2万9000人分も集まったことを、10月29日に明らかにしました。但し、これは自治会連合会分のみで、昨年の反対署名運動より2000人分ほど多いとのことです。さらに、「サテライト日田」設置反対連絡会の一員でもある日田市連合育友会などの分を加えると、合計で3万5千人分は確保できるようで、市外などにも働きかけて5万人分を集めるそうです。

 一方、別府市民の少なからぬ方々も、サテライト日田問題についての別府市の対応に批判的であり、日田市にエールを送っているようです。昨年の12月9日(この日は、私にとっても忘れられない日です)には、別府市側からも設置反対運動に参加する方が多くおられました。すぐ後にも述べますが、汚職事件に関して、別府市民の方からお電話をいただいた時も、その方はサテライト日田問題について別府市に対する怒りの念を表されました。

 別府市には、日本中央競馬会の場外馬券売場が南立石地区に設置されるという計画があり、最近、杉乃井ホテルなどが経営破綻という事態に至ったこともあって、観光業界などから設置に向けた要望書が別府市に出されたようです。しかし、別府市といえば、別府駅東口に近鉄百貨店跡地があり、建物が解体された後も手付かずのままだそうで、ここに建設できないのかという疑問もあります。11月6日にも、毎回傍聴されている日田市民の方と、この話をいたしました。

 先月(2001年10月)、大分県別府市の市道拡張工事に伴う移転(立ち退きなど)補償をめぐる汚職事件が発覚し、県議が逮捕されました。片や、賄賂を贈った者については補償が増額され、片や、賄賂を贈っていない者については不透明な形で補償が減額されており、大分県の行政の不透明さが改めて浮き彫りになりました。しかし、これは大分県だけではなく、別府市の市政の問題にもつながっています。この汚職事件に関して、補償に関係した複数の住民の方からお電話をいただいたのですが、その時にも、別府市から大分県への引き継ぎがなされていたのかという問題に端を発し、このサテライト日田問題、APU(立命館アジア太平洋大学)問題にまで話が及ぶのです。諸問題の関連性の有無はともあれ、別府市民の間には相当の不満がたまっているようです。お話を伺っていて、よくわかりました。サテライト日田問題では、市報の内容に抗議した別府市民も少なくなかったようです。折りしも、11月4日付の大分合同新聞朝刊1面には、公営競技の大部分が赤字であるという記事が出ていました。別府競輪については記されていなかったのですが、大幅な黒字であるとは考えにくいのです。サテライト宇佐の収益もどの程度のものなのでしょうか。

 また、大分市内の「ボートピア大分」建設問題など、公営競技の場外券売場問題は、九州内でも意外と多く、住民の反対運動が活発に行われています。そうした運動にも、サテライト日田問題の影響が見られます。しかし、地域住民と市町村が一体となって反対運動を展開している所はほとんどないようで、その意味で日田市は特別な例です。

 さて、サテライト日田問題の本題に入ります。11月6日、大分市も北風のために冷え込みました。12時半に大分地方裁判所に入りますと、既に傍聴予定の市民の方と日田市役所の方がおられました。早速、対別府市訴訟の準備書面(11月2日付)および対経済産業大臣訴訟の準備書面(11月6日付)をいただき、雑談をしておりました。その後、大石市長、梅木弁護士、寺井弁護士などの方々が到着、早速、寺井弁護士と少々の意見交換をしました。その後、大石市長とも地方分権の話をいたしましたが、市長からも、今回提出された被告(経済産業大臣側)の準備書面はひどいという話をうかがいました。寺井弁護士もおっしゃっていたのですが、この準備書面は地方分権を真っ向から否定する趣旨なのか、新地方自治法(昨年改正後の地方自治法のことです)の趣旨はどこへ行ってしまったのか、ということでした。もっとも、大石市長も同意されたように、地方分権推進委員会の諸勧告なども、回を重ねるごとに中身が後退していておりますが。

 法廷に入り、最前列に座って準備をしました。この訴訟において面識を得た方々も多く、裁判官が入廷するまで雑談をしています。13時10分を少しすぎて、裁判官が入廷、対別府市訴訟の口頭弁論に入ります。いつもは傍聴人が少ないのですが、この日は13時30分から対経済産業大臣訴訟の口頭弁論があるため、傍聴人は多めです。裁判長からは、日田市が主張する名誉とは何かを明らかにしてほしいという要請がありました。被告側からは、とくに準備書面などが提出されていません。そして、次回は12月18日の10時15分から、ということになりました。

 準備書面は、まず、被告の市報掲載記事について、「論評」が設置許可申請から設置許可までの3年間に限ったものであるとする被告の主張について、文脈からは到底そのように判断できないということを主張しております。次に、被告の認識と論評との関連を論じています。そして、被告の認識について、事実に反すると主張し、経緯を列挙しています。私が、今年の3月2日、日田市役所でいただいた書類も、甲第5号証および甲第6号証として提出されておりました。甲第5号証は、当時の通商産業省機会情報産業局長から別府市長宛てに出された、平成12年1月14日付の「競輪場外車券売場(サテライト日田)の設置問題について」という文書です。また、甲第6号証は、別府市長から当時の通商産業省機会情報産業局長宛てに出された、平成12年2月25日付の「競輪場外車券売場(サテライト日田)での車券発売について」という文書です。当時、日田市役所でサテライト日田問題を担当されていた職員の方も憤慨気味に語っておられ、私にコピーを下さったものです(事情を考えて、月刊地方自治職員研修5月号に掲載された「サテライト日田をめぐる自治体間対立と条例」においては言及を避けています)。続いて、訂正文について述べており、「名誉回復処分には謝罪という観念が本質的に含まれて」いること、被告が主張する「本件論評の範囲を越えた謝罪」の意味が不明確であることなどを主張しています。最後に、「要望書」の提出の有無について言及しており、原告は「要望書の提出」について何ら触れていないと主張しております。

 準備書面も主張するように、市報記事には、少なくとも結果的な誤りが含まれていると思われます。そうすると、あとは日田市の名誉という問題が残ります。

 続いて、13時30分から、対経済産業大臣訴訟の口頭弁論が始まりました。原告と被告の双方から準備書面が提出された上で、原告側から補足説明が行われました。地方自治法に言及し、住民に身近な行政は地方公共団体の役割であること、自治事務の存在、などが説明されました。また、被告側は、乙15号証以下を提出しておらず、早急に提出するという釈明がなされました。原告側は、今後、ドイツ、英国、米国の地方自治にも言及することとしています。そして、次回は1月29日の13時30分から、次々回は3月26日の13時30分から、となりました。

 口頭弁論が終了し、早速、日田市の職員の方から被告側の準備書面をいただきました。寺井弁護士とお話をしながら目を通したのですが、思わず「何だこれは!?」と叫んだ箇所がありました。大石市長も激怒されたという箇所でした。私は、怒りを通り越して呆れて笑ってしまいました。「いくら何でも、これはないだろう?」、「何年前の学説だ?」、「憲法ならともあれ、法律でプログラム規定だと?」という思いでいっぱいでした。これを行政法学者の方(私も行政法学者ですが)にお見せしたら、頭を抱える方が少なからず存在するでしょう。地方自治法第2条(被告側は「2条の2」という、存在しない条文を書いています)と地方分権推進法第1条(被告側は、これについても「1条の2」という、存在しない条文を書いています)の規定はプログラム規定であるというのでしょうか。その部分を抜粋して紹介します。

 「また、確かに、地方分権推進法1条の2、地方自治法2条の2が国と地方公共団体の役割分担について規定し、同法2条11項において立法に関し、同条12項において法令の規定の解釈・運用について同様に役割分担を踏まえるべきことを、同条13項において国が地方公共団体が地域の実情に応じた事務処理ができるように特に配慮すべき旨規定しているが、上記各規定は、国に対し、国と地方公共団体の役割分担に関して十分に配慮すべきという宣言的・指針的性格を有するにすぎず、これらの規定から直ちに地方公共団体が『まちづくり権』なる権利を有すると解することはできないというべきである。」

 さすがに、地方自治法第2条第1項をプログラム規定と解する愚挙を冒していません。それはどうでもいいことです。法律の規定は、どのようなものであれ、当然、宣言的・指針的性格を有しますから、宣言的・指針的性格を有するだけであるということは、法的な拘束力を持たないことを意味します。こうしたものをプログラム規定といいます。元々、ヴァイマール憲法第151条の解釈の際に登場した学説によるもので、日本では憲法第25条について用いられましたが、現在では、判例はともあれ、学説では通説の地位から脱落し、克服されようとしているものです。行政法規の法的拘束力については、強弱様々であることは否めませんが、普通の法律の解釈でプログラム規定説をとる人は皆無か、それに近いでしょう。さらに、経済産業大臣側の主張では、第2条第8項(自治事務の定義規定)および第9項(法定受託事務の定義規定)をどう捉えているのかわかりませんが、これを「宣言的・指針的性格を有するにすぎ」ないものであるという解釈をしていないでしょう。もしそうであるとしたら、ナンセンスな話で、地方自治法自体、そして行政法規の体系が崩壊します。

 この訴訟では、口頭弁論が終了した後、大分地方裁判所の玄関で、大石市長、寺井弁護士、日田市民の方々などが集まり、市長や弁護士が解説などをされます。私もその中に入っているのですが、今回は寺井弁護士から指名をいただき、発言をいたしました(既に、私が単なる傍聴人に留まっていることは許されなくなっています)。私は、被告側の準備書面の、例の箇所を読み上げ、これは半世紀前の学説であると述べたら、笑い声も飛び出しました。そして、法律について、法的拘束力を持たない規定というものは基本的に存在しないという趣旨を述べました。そして、地方分権やまちづくりについて、北海道ニセコ町のまちづくり基本条例や東京都杉並区で進められている同様の条例作りについて触れ、こうしたものをも否定する解釈であると述べました。

 これについて、研究室へ行ってから原告側の弁護団に向けて電子メールを作成して送信しました。地方自治法第2条についての私の意見を書いておりますので、その部分を紹介します。

 「●地方自治法第2条について

 経済産業省側は「2条の2」という言い方をしていますが、こういう条文は存在しないので、第2条第2項のことだと思われます。

 経済産業省の主張は、出典も何も示されておらず、どこに由来するのか不明で、行政実務関係書を参照した形跡もないようです。

 K大学の学生であるT君(原文では実名)とも話したのですが、憲法第25条ならともあれ、プログラム規定の法律など、聞いたこともありません。

 行政実務での定番である、松本英昭・新版逐条地方自治法(2001年、学陽書房)などを参照しても、この規定が宣言的・指針的性格を有するに過ぎないという解釈は示されていません(当然ですが)。

 むしろ、第2項で「普通地方公共団体が、まず、『地域における事務』を包括的に処理する権能があることを明らかにし」ています(同書23頁)。

 それを受けて、第3項以下の規定が都道府県または市町村の権限を一般的に規定しています。

 抽象的なことは否めず、具体的な事柄は他の法律によって定められるとしても、国、都道府県および市町村の権限配分の原則を規定するものであって、法的な拘束力を有するのは明らかです。

 まちづくりに関する権能も、この規定などから導き出せるはずですし、地方分権推進委員会もまちづくり部会まで設けて言及しています。

 もし、この規定が『宣言的・指針的性格を有するにすぎ』ないとすれば、都道府県も市町村も、結局、存在しなくともどうでもいいことになります。」

 少々舌足らずな感も否めないので、補足をいたします。

 地方自治法第2条は、普通地方公共団体(都道府県および市町村のことです)がなすべきことを規定しています。この規定は、確かに包括的ですが、しかし、重要な意味を持っています。第2項に「法律又はこれに基づく政令により」という部分がありますので、ここに注目して下さい。普通地方公共団体は、「法律又はこれに基づく政令」の範囲において、地域に関する事務をするという拘束を課せられます。これらに規定がない場合は別ですが、基本的に、この「法律又はこれに基づく政令」によって、権限が普通地方公共団体に与えられるのです(これを授権といいます)。この権限を越えれば違法と評価されます。具体的な範囲は、地方自治法を含めた他の法律で決定されるのですが、地方公共団体にとっては、一般的であるとは言え、事務を行うという義務を課せられているのです。これは、上記のように、「法律又はこれに基づく政令」が授権する範囲を越えて事務を行ってはならないという義務を意味するとともに、正当な理由がないのにこうした事務を行わないことも許されないということをも意味します。第2条の他の項も同様に解釈すべきです。第4項においては市町村が「その地域における総合的かつ計画的な行政の運営を図るための基本構想を定め、これに即して行なうようにしなければならない」と規定されていますが、これが「宣言的・指針的性格を有するにすぎ」ないというのでしょうか。他の項について記すと冗長になりますので、ここでやめておきましょう。

 もう一つ、地方分権推進法第1条をあげます。この法律は、今年7月2日を持って解散した地方分権推進委員会の設置根拠規定を含むものであり、法律の名宛人は、国民・住民でなく、地方公共団体でもありません。国、もう少し精確に記せば内閣以下の行政権です。そして、この第1条は法律の目的を定めるものですから、「宣言的・指針的性格」を濃厚に持つものです。また、規定の性格からして、何かの具体的な義務を課するものでもありません。しかし、他の規定とも絡んで、この法律は、内閣以下の行政権に対し、憲法に従いつつ、地方分権を進めることを義務づけております。これは「宣言的・指針的性格」にすぎないものではありません。法律の解釈には様々な種類がありますが、地方分権推進法の場合、個々の条文を区切って文言解釈をすべきであるのかという疑問が残ります。最近の最高裁判例でも、行政事件訴訟に関しては、当該条文のみならず、他の規定をも含めて目的なり趣旨を解釈する手法を採っております。地方分権推進法の場合は、とくにこうした方法が求められるはずです(法学では目的論的解釈あるいは合目的的解釈ということになるでしょう)。

 また、以前から気になっていることがあったので、同じ電子メールに記しておきました。その部分を紹介します。

 「1.行政手続について

 憲法第31条から攻めるのは難しいのですが、行政手続法のレベルであればどうにかなると思われますので。

 今回の許可手続で行政手続法に従った形で公聴会などが開催されているのでしょうか。

 自転車競技法の中には、行政手続法の適用を除外する規定がないはずで、整備法その他にも、適用除外の規定がないと記憶しているからです。

 手続で瑕疵があったとして裁判所が重大な違法と認定してくれるかという問題はあるのですが。」

 別府市側による説明会が今年の2月まで行われなかったことについては、既にこのホームページでも取り上げております。サテライト日田について、行政手続法第10条に従った公聴会などが行われたのかどうか、よくわかりません。もっとも、第10条は努力義務規定ですが、努力義務というものは、実際に行ったか否かはともあれ、努力が法的に義務づけられると解するべきでしょう。この規定から、直ちに公聴会が行われなければならないと結論づけることはできませんが、少なくとも利害関係者に意向を訊くことくらいは義務づけられるでしょう。そうでなければ、努力義務そのものの意味すらなくなります。私も国家公務員で行政の一員ですが、だからこそ、努力義務の意味を捉え直したいという思いがあります。

 第33編において、「この他の点については、『準備書面(第1)』が長大であり、様々な論点を含んでいることから、別の機会に取り上げます」と記しましたが、今回は見送ることとします。


(初出:2001年11月7日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第33編

 最初にお詫びです。この不定期連載記事については、可能な限り、何らかの動きがあり次第、すばやく対応することを原則としています。しかし、今回は、9月11日に行われた設置許可無効等確認訴訟(対経済産業大臣訴訟)の口頭弁論を取り上げるにもかかわらず、1か月以上の遅れとなりました。試験期間中で採点に追われたこと、論文などの仕事を3つ抱えていたこと、大学内の雑務が多かったこと、などによります。今後も、更新などが遅れがちになるかもしれませんが、御容赦の程、お願い申し上げます。

 9月11日の午後、大分地方裁判所第1号法廷にて、対経済産業大臣訴訟の口頭弁論が開かれました。この日、同じ法廷でじん肺訴訟の口頭弁論が行われるとあって、そちらのほうの傍聴整理券を求める人が多かったようです。ちょうど、関東地方に台風が上陸していた日でしたが、大分は快晴でした。また、この日の22時(現地時間では9時)、テロリストにハイジャックされた旅客機がニューヨークの世界貿易センタービルに突入するという大惨事のニュースが飛び込んできたのですが、口頭弁論は13時からですから、知る由もありません。

 さて、この日の口頭弁論の模様です。第1号法廷は、13時30分からのじん肺訴訟に合わせて、席の配置などが大幅に変えられており、少々窮屈そうです。13時、口頭弁論が開始されました。原告側から、45頁にわたる「準備書面(第1)」が提出され、原告訴訟代理人の一人、寺井一弘弁護士が趣旨を説明しました。口頭弁論は10分ほどで終わりましたが、「準備書面(第1)」の中身について、寺井弁護士と相談などをし、木田秋津弁護士とも、憲法第31条の件について話をしました。その時、適切な文献があったら紹介するという約束をしたのですが、なかなか見つからなかったというのが本当のところです。

 しかし、今回の「準備書面(第1)」は、内容に不適切な点が、否、「暴言」があるとして、西日本新聞2001年9月12日付朝刊16版35面において批判されました。この点については、競輪関係者からの反発を買ったのみならず、日田市民からも疑問や批判が投げかけられました。同記事は、「準備書面(第1)」を、競輪などに偏見や誤解を招くような表現を含んでおり、「暴言」書面であると評価しています。これが、今後の訴訟にどのような影響を与えるかはわかりませんが、競輪の実態などに照らせば、賛否両論が展開されうるものであるのみならず、経済産業大臣側からの強烈な反論が予想されます。さらに言うならば、今度は日田市側が、あるいは原告訴訟代理人側が名誉毀損などで訴えられるかもしれません。たしかに、この記述は、他にどのように表現すればよいのかという問題があるとは言え、適切とは言い難いものです。

 問題の箇所は、「準備書面(第1)」中の「第2 日田市の原告適格の存在」にあります。もう少し詳しく記すと、書面では8頁、「1.本件処分による法律上の利益の侵害」中の「(1)場外車券売場の設置について受忍義務を課せられること」です。ここでは、場外車券売場について「多くの人々が集合して賭けに興じる場そのものである」と評価した上で、「競輪の開催は、競馬のように土・日曜日ではなく、平日であることから、興じる競輪ファンは競馬とは異なって無職者が多く、また、殆どが男性であって、一般の勤労市民が集うことが少ない賭博であるとされている」と断じています。さらに、立川競輪場の例を出しており、「厳重な警備体制をとっているにもかかわらず酔っ払いが増えて自転車泥棒のような犯罪から殺人事件のような重大犯罪までが引き起こされている」などとして、周辺環境の問題を指摘しています(なお、この部分について出典などは示されていません)。

 西日本新聞が「暴言」と評価したのは、まさにこの部分です。ここに登場する「無職者」という表現、そして、この文章自体が問題とされているのです(なお、ここで競馬が登場しますが、地方競馬の場合は平日にも開催されますので、「準備書面(第1)」は中央競馬のみを想定しているものと思われます)。

 たしかに、「準備書面(第1)」の主張も理解できなくはありません。私は(若干ながら)川崎競輪場の周辺を知っていますし、中央大学法学部法律学科の学生であった時には、南武線を利用していたので、東京競馬場の最寄駅である府中本町駅を通っていました。競馬開催日ともなると、南武線には多くの競馬ファンが乗り込みます。少数であると信じたいのですが、中には朝から駅の売店で日本酒や缶チューハイを買って飲んでいる客もおりました。さらに、競馬終了後の南武線では、負けた腹いせなのでしょうか、府中本町から登戸まで大声で演説(?)をする輩までいました。この演説(?)は、「おれはなあ、この東京競馬場に30年以上通ってるんだ! ここのことなら何から何まで知ってるんだ!」という言葉で始まりました。混雑している折、迷惑千番であったことだけは覚えています。私自身は府中本町駅で降りたり乗り換えたりしないのですが、友人から聞いたところによると、缶や瓶(しかも瓶の場合は割られている場合もあり)、さらに外れの勝馬投票券が道路上に散乱していたそうです。外れ馬券などの散乱は、別に競技場や場外券売場周辺のみで見られるものではないのですが、周辺住民などにとっては迷惑この上ないものです。以前読んだ鉄道廃線跡散策に関する本でも、廃止された下津井電鉄の駅跡などに舟券が散乱しているという記事が出ていました。川崎競輪場付近については、近隣に県立川崎図書館があるので資料収集などに向かうと、競輪新聞や赤鉛筆を売っている人にしつこく付きまとわれかけたという経験もあります。

 しかし、政策の面から公営競技の是非を論ずるのであれば別としても、現に競馬や競輪などが法律によって認められ、地方の財政収入の一つになっていることなどを考えると、競輪の場外車券売場の設置という問題と、設置による環境などの変化という問題とは、相互に関連するとは言え、一応は別に考えなければなりません。それのみならず、仮に事実であるとしても、表現などは考えなければなりません。競輪などを楽しむ人々、さらには主催者サイドのことも考慮に入れなければならないのです。今回の「準備書面(第1)」は、原告適格の存在を主張するあまり、その点の配慮に欠けていたとしか評価しようがありません。敢えてもう一点あげるとすれば、立川競輪場の例を出しているのですから、調査報告の出典を明示する必要があります(勿論、証拠書類として提出する必要もあります)。どうしても、環境の悪化などを指摘したいのであれば、「別に証拠書類として提出した調査報告書に示された通りである」などとして、西日本新聞に「暴言」と指摘された箇所については一切記さないほうがよかったのです。

 この他の点については、「準備書面(第1)」が長大であり、様々な論点を含んでいることから、別の機会に取り上げます。


(初出:2001年10月14日)

2025年5月11日日曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第32編

 このところ、地方分権、地方財政、そして市町村合併の諸問題に追われております。どれも常に新しい動きがあり、フォローするだけでも大変です。しかし、そうも言っていられません。まして、このサテライト日田問題については、昨年から追い続けております。私の知る限り、この問題について論文を作成したり、ホームページで取り上げているのは、少なくとも行政法学者では私しかおりません。義務感のようなものが、私にある、などと書くと大袈裟ですが、大分大学に勤める者として、地方自治における多くの課題が凝縮されたサテライト日田問題を取り上げ続ける所存です。勿論、新聞報道などからでも、事実を知ることはできます。しかし、これをさらに深く、多少とも専門的な立場から取り上げることが、このホームページにおける諸記事の存在意義であり、独自性を主張できる点です。

 最近、日田市では、保育所の民間委託問題が大きな焦点になっています。「ひたの掲示板」でも議論されておりますが、ここには日田市の行政が抱える幾つかの問題点が浮き彫りになっています。とくに、今月開催された市の説明会では、日田市と住民との間で議論が平行線をたどった挙句、日田市長などが途中退席するということがあったようです。これが少なからぬ市民の反発を買っていることは、言うまでもありません。

 さて、本題のサテライト日田問題に移りましょう。

 8月28日、正午のニュースを聴いてから、大分地方裁判所に向かいました。昼食を済ませ、裁判所に入ってしばらくすると、原告側代理人の梅木哲弁護士が来られました。原告側準備書面と被告側準備書面の双方を読ませていただき、話をしました。ほどなく、日田市職員数氏も来られました。すぐにNHK大分の中島記者などが梅木弁護士にインタビューを始めます。私は、サテライト日田建設予定地の状況を尋ねました。すると、職員氏から、建設予定地を示す柵代わりの鉄板が全て撤去され、駐車場に戻っているという返事をいただきました。別府市は、6月市議会へのサテライト日田建設関連予算案の提出を見送っております。こうしたことから、設置者である 溝江建設は、半分ほど設置をあきらめたのでしょうか。

 今日も1号法廷で第3回の口頭弁論ということになるのですが、前回よりも傍聴人が多いようです。よく見たら、13時10分から、同じ法廷で判決言渡しが2件、13時30分から国を被告とする民事訴訟が行われるということで、そのために多かったのでしょう。

 13時10分、まずは2件の判決言渡しがありました。それからすぐに第3回口頭弁論が行われました。基本的に準備書面および書証の提出だけで、乙第4号証ないし第7号証の取調べということになりました。しかし、裁判所側から、別府市報の根拠条例に関する質問がなされました。被告側代理人の内田健弁護士の声が、いつもと違って聞き取りにくかったのですが、条例発行に関する根拠条例はないということでした。また、日田市の主張する名誉が今ひとつ明確でないという主張もなされました。

 次回は、11月6日の13時10分、対経済産業大臣訴訟と同じ日になりました。しかも、対経済産業大臣訴訟は13時30分からです。おそらく、多くの日田市民が、13時10分から傍聴することとなるでしょう。

 また、今後の訴訟進行に間する協議が、9月26日の16時から行われます。これは打ち合わせ程度のもので、非公開です。

 これで口頭弁論は終わりました。13時20分をまわったころです。準備書面などについて話をした後、大分大学へ向かいました。

 準備書面の内容に触れておかなければなりません。これについては、判決などについて私も若干調べたのですが、入手できないものがありました。乙第4号証として提出された新潟地方裁判所高田支部平成13年2月28日判決(判例集未登載)です。この事件については、第30編において概略を示しております。

 原告側の準備書面ですが、比較的簡略なものです。今回は、原告適格の点に絞っています。まず、日田市の名誉権についてですが、先の新潟地方裁判所高田支部平成13年2月28日判決(判例集未登載)を参照しつつ、地方公共団体についても社会的評価が存在すること、それを低下させる行為というものが考えられうること、従って名誉毀損が成立しうることが述べられてます。次に、広報紙の記事による他地方公共団体の名誉の毀損については、高知地判昭和60年12月23日判時1200号127頁を援用しつつ、成立を認めるべきであると主張しております。そして、名誉回復措置については、市報べっぷの発行部数が51200部で、これらが各世帯に配布されていることなどから、市報べっぷの記事による名誉毀損については、同じ市報べっぷによって名誉回復措置が取られなければならないと主張しています。ここでも、広島地判三次支判平成5年3月29日判例時報1479号83頁を参照しています。

 なお、原告の日田市が主張する日田市の名誉への侵害の結果と言えるのかどうかわからないのですが、第20編においても紹介しましたように、大分合同新聞2001年2月10日付朝刊朝F版29面には、日田市の姿勢を批判する別府市民の声が掲載されています。この市民が市報べっぷ2000年11月号の記事を読んだために日田市への批判の思いを持ち続けたかどうかは不明です。しかし、その記事を読んだことによって日田市に反感などを抱いたという別府市民が存在したとしてもおかしくありません。しかも、この記事の概要は新聞(大分合同新聞2000年11月1日付朝刊朝F版25面など)で報道されています(第2編も参照して下さい)。

 次に、別府市側の準備書面です。こちらは6ページからなります。まず、市報べっぷの発行についての概略を示した上で、問題の記事について述べています。それによれば、平成9年の許可申請から平成12年までの許可までについて記事が「正確に事実を摘示したもの」としています。

 そして、次からが重要です。記事において問題とされている箇所は「反対するのであれば、日田市としては、本来、設置許可が出る前に、許可権者である通産大臣に対して明確な反対の意思表示をすべきだったのではないか」という箇所です。これについて、別府市側の準備書面は「本件論評は、原告が設置許可申請から設置許可までの3年間に設置に全くの反対の意思表示をしなかったとしているのではなくて、この3年間に原告が通産大臣に対し、設置反対の要望書の提出などをしていないとの事実を認識したうえで、明確な反対の意思表示をするべきだったのではないかとの論評をしたのである」と主張し、「本件論評の前提となる事実の認識に誤りはなく、そのように信じて論評したことに故意過失もない」と結論づけています。

 しかし、私自身が入手した資料によると、当時の通商産業省は、日田市、日田市議会および日田市民(設置予定場所の近隣住民など)が設置に反対していることを明確に認識しています。このことからすれば、何らかの形によって日田市は反対の意思表示をしていることが推測できます。しかも、別府市も明確に認識していることが、同じ資料から判明します。別府市は、平成12年2月25日付で、通商産業省機械情報産業局長宛ての確約書を提出しています。ここには「なお、日田市、日田市議会及び地元住民に対する地域社会の調整については、設置者である 溝江建設株式会社の責務であると考えていますので、設置者に対して今後とも地域住民の理解取得をするよう要請いたします」(原文では会社名が実名で記載されています)と書かれているのです。そのため、別府市は、日田市が何らかの形で反対の意思表示をしていたことを知っていたと考えられないでしょうか。(なお、このホームページを読まれた方から、経済産業省が公開した資料をも入手しております。遅ればせながら、御礼を申し上げます)。

 準備書面に戻ります。今度は、原告が求めている訂正文のことです。これについては、まず、この記事が公益を目的とすること、「地方公共団体の方針や具体的な行政活動を批判し、論評し、その論評を文書にして広く住民に訴えることも表現の自由に属し、また行政という公権力の行使について、これを批判・論評する自由が保障されていることが民主主義の根幹であるというべきである」としております。

 この部分については、まず、市報が「地方公共団体の方針や具体的な行政活動を批判し、論評し、その論評を文書にして広く住民に訴えること」を目的とするものかどうかということに疑問が残ります。否、市報は、発行する市自身の方針や行政活動を市民に対して知らせるものであって、他の市町村の方針や具体的な行政活動を批判したり論評したりする場ではありません。必要以上にかようなことをすること自体、市報の範囲を逸脱していないでしょうか。また、別府市側の準備書面は、無視し難い錯誤を犯しています。市報に表現の自由が全くないとは言いませんが、他の市町村の「批判・論評する自由」は、私人に対して認められるものであって、地方公共団体に対して無制約に保障されるものというべきではないはずです。どうやら、名誉毀損について私人と地方公共団体との立場は異なると表明しながら、無意識に混同していないでしょうか。

 そして、やはり新潟地方裁判所高田支部平成13年2月28日判決(判例集未登載)を引用しておりますが、こちらは「名誉毀損が成立する範囲(損害)は、法人を含む私人とは大いに異なり、損害の発生する可能性は極めて小さい」と述べ、同判決から次の部分を引用しています。

 「地方公共団体が国と並ぶ公権力行使の主体であること、国民主権の下、わが国においては民主主義の原理で地方公共団体の運営が行われていることから、地方公共団体に名誉毀損が成立しうる範囲は法人を含む私人とは大いに異なる。」

 さらに、日田市が求める謝罪文について、「被告の本件市報の本件論評の範囲を超えた謝罪を求めるものであり、到底容認できない」と評価しています。これについて、別府市は、「平成8年から9月から設置許可申請のあった平成9年7月までの日田市の行動や、平成8年12月20日の日田市の決議、平成9年1月13日の要望書の提出などについては、本件論評では全くふれていない部分であり、過大な要求」である、「本件記事及び論評が訴外会社の設置許可申請をする前の原告の行動までを批判するものであるとする誤った認識を前提として、主として同申請以前の原告の反対行動をあげている」などとして、「原告は被告の本件論評に対する曲解に基づいて本件市報に虚偽事実が記載されているなどとして被告に訂正記事の掲載などを求め」ていると評価しています。さらに、昨年12月9日に行われたデモなどに言及し、今年3月15日付の日田市報号外についても「本件論評が設置許可申請以前の日田市の行動をも批判しているとの誤った見解を前提とし」ているとして、「本件論評は、同申請後3年間の行動についての認識とそれをふまえた批判である」、「平成9年7月31日から設置許可がなされるまでの間、日田市議会が反対決議をしたことも大石市長が通産大臣に反対の要望書を提出したこともない」と述べています。

 そして、結論として、「原告主張の謝罪文の掲載の要求は、本件論評の範囲を超えた訂正を求めるものであるうえ、本件論評と訂正文との比較衡量、本件論評に対する原告の謝った解釈とそれを前提とした原告の広報紙(号外)の発行及び報道機関に対する反論の発表の諸般の事情を考慮すれば、原告主張の謝罪文の掲載を命じる必要性はないというべきである」と主張されています。

 たしかに、原告が求める訂正文には、平成8年9月に明らかとなったサテライト日田設置計画、平成9年1月13日に通商産業大臣(当時)に提出された要望書のことが記されています。しかし、市報べっぷの記事のうち、問題となった箇所からでは、平成9年1月13日の要望書の提出などが論評されていないと読むことは、少々無理という気もします(しかも、原告が求める謝罪文でも、この部分が中心とされていません)。さらに、別府市側の準備書面では引用されていないのですが、例の記事には平成8年9月から昨年の7月まで実務担当者が日田市などを訪問しているという記載がなされています。そうであるとすれば、日田市が設置反対の意思表示をしていないと捉えるのも無理があります。ただ、問題は、日田市が平成10年と翌年にいかなる意思表示をしていたかということではないでしょうか。

 最後に、余談めきますが、最近になってデザインなどが新しくなった別府市のホームページについて触れておきましょう。

 別府競輪のホームページにある質問コーナーにも、次々に回答が書かれるようになりました。また、新しい質問も出るようになって、冬眠状態から醒めたようです。もっとも、サテライト日田問題に関する質問に対しては、訴訟中なのでコメントできないという趣旨の回答がなされていましたが、これは仕方のないことでしょう。それにしても、質問コーナーが、サテライト日田問題によって活性化したというのは、皮肉な現象と言う他にありません。


(初出:2001年8月29日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第31編

 この問題を知り、取り組み始めてから、もう1年が経ちます。そして、本シリーズも第31編を迎えることとなりました。この間、日田市民の方、マスコミ関係者の方をはじめ、多くの方々に御覧いただいており、様々な御意見をいただきました。感謝の意に堪えません。私にとっても、自らの行政法学者としての位置を再確認するきっかけとなったサテライト日田問題について、今後も追い続けるとともに、「まずはこのホームページを参照せよ」というお声をいただけるようなものにするために、さらに努力を重ねて参る所存でおります。

 7月3日、大分市も炎天下という言葉が相応しい陽気でした。正午、ゼミを終えて大学を出て、大分地方裁判所に向かいます。到着したのは12時20分ころ。裁判所の前で昼食をとり、12時半となりましたが、前回と違って、玄関前に人は並んでいません。しかし、しばらく待っているうちに、マスコミ関係者が五月雨式に入ってきました。そして、日田市民を乗せたバス、日田市の公用車が到着し、日田市の関係者などと話をしました。13時をかなりまわってから、大石市長、寺井弁護士など弁護士3氏が到着し、我々は1号法廷に入りました。私は、最前列左側、原告側に最も近い席に座り、日田市の方からいただいた被告側の第1準備書面を広げ、傍聴しました。

 今回が第2回目となる口頭弁論ですが、当初から少々変な雰囲気に包まれていました。須田裁判長の声が聞こえにくいと傍聴席から抗議の声が発せられました。大分地方裁判所の場合、3号法廷で刑事裁判が行われるときにはマイクがONになっているのですが、どういう訳か、最も広い1号法廷はマイクがOFFになっています。相変わらずだということになります。今回は、原告側弁護士の声が最もよく聞こえたのです。被告側弁護団のほう(こちらは弁護士でなく、訴訟検事の方であると思われます)も、ボソボソ声に近い様子です。

 被告側の第1準備書面は、6月27日付となっており、12頁から成っております。内容は、第一に、原告である日田市に原告適格がないことを、行政事件訴訟法や自転車競技法の条文を利用しつつ、さらに東京地裁平成10年10月20日判時1679号20頁(サテライト新橋事件)を援用して主張しております。なお、この東京地方裁判所判決に対して、原告は控訴しましたが、東京高判平成11年6月1日判例集未登載は原審支持で請求棄却、さらに最決平成13年3月23日判例集未登載も請求棄却で確定しており、かなり厳しいものとも考えられます。第二に、出訴期間の徒過を主張しています。行政法に関係する者であれば、予想通りの内容です。しかし、それだけに、突破することは難しいとも言えるのです。

 それに対して、原告側弁護士から質問がなされました。そのうち、第1準備書面の3頁に記されている「安寧秩序」の意味に関して、これが地域の治安を含むのか否かという質問については、被告側から、持ち帰って検討するという回答がなされました。次に、4頁にある「これに対し、競技法には、場外車券売場が設置される地方公共団体の利益保護を目的とするような規定は見あたらない」という部分に対する質問が出された時のことです。原告側は須賀裁判長は、当初、これを遮り、それついて原告に説明を求めたのですが、原告側は被告に質問していることであると主張、裁判長は譲らず、少々険悪な雰囲気になりました。傍聴席からも、声こそ発せられなかったのですが抗議の視線が向けられていました。裁判長は、結局、原告側の主張を認め、被告側が検討することとなりました。これらは、遅くとも8月10日まで、可能な限り8月3日までに裁判所へ提出されるということです。次回は9月11日の11時半からということで、木田弁護士にも確認を取ったのですが、いかにも中途半端な時間設定です。また、11月6日の13時半からという予定も組まれました。

 その後、日田市長、寺井弁護士を中心として、傍聴に来られていた市民の方々が玄関前に集合しました。日田市長のあいさつ、そして寺井弁護士のお話がありました。寺井弁護士は、口頭弁論の時の裁判長の態度を改めて批判されました。そばにいた私も飛び入りしてあいさつし、少々ですが批判をさせていただきました。その後、日田市側は大分県庁に行き、前回と同様に記者会見をしたものと思われますが、長野県と違って記者クラブの存在が疑問視されない大分県、その県庁記者クラブに私は入れません。私は、大分大学に戻りました。

 また、9月10日に、日田市民と原告弁護団との勉強会が行われるかもしれません。これは、寺井弁護士が発言されたことです。私も参加させていただければ、と考えております。


(初出:2001年7月4日)

2025年5月10日土曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第30編

 6月19日の10時から、大分地方裁判所第1号法廷において、対別府市訴訟の第2回口頭弁論が行われました。前回の口頭弁論において別府市側の答弁書が提出されたため、日田市側から、6月12日付の準備書面が提出されました。これは、日田市側の訴訟代理人である梅木哲弁護士によって作成されたものですが、少々、私も関係しています。

 別府市の答弁書には、原告適格の部分に関連して公権力の行使という言葉が用いられていたため、市町村が公権力の主体である場合が多いことは当然としても、そうでない場面があるとして、市報の刊行は公権力の行使にあたらないと主張したのですが、別府市側の訴訟代理人である内田健弁護士は、判例時報1479号掲載の判決などを援用して、市報の刊行が公権力の行使にあたると主張しました(実は、この解釈が誤っているのですが、後に示します)。少々、日田市側の準備書面の論理構成面に難があることは認めざるをえませんが、解釈の誤りも指摘しなければならないでしょう。また、別府市側は、日田市に原告適格がないこと、および名誉の意味について、今年の2月28日に新潟地方裁判所高田支部から出された判決を援用しています。

 また、別府市側は、日田市の主張する名誉について、準備書面の最後の頁の部分を摘示し、その意味が不明確であると主張しております。

 この口頭弁論の模様は、西日本新聞や朝日新聞で報道されましたが、扱いは小さく、私が実際に傍聴したこと以上のものを記したものでもありません。実際、口頭弁論終了後、NHK大分、大分朝日放送、読売新聞、西日本新聞などの記者氏が梅木弁護士や日田市職員4氏らを囲んで取材をしていた時、私も梅木弁護士の隣におり、補足説明をしたり、質問を受けたりしていました。続いて、私が残って大分朝日放送および西日本新聞の記者氏と話をしております。この日は、大分大学で講義の一環として行っている裁判傍聴のための打ち合わせをして研究室に向かったのですが、西日本新聞の記者氏から電話をいただき、質問を受けました。

 さて、判例時報1479号の判決ですが、これは或る小学校の職員会議における発言内容が自治体の広報に掲載され、児童の名誉が侵害されたという事案に対するもので、背景は非常に複雑です。この事件の原告は、国家賠償法第1条と民法第723条に基づいて損害賠償請求をしております。判決理由中には、たしかに、公権力の行使という言葉が登場します。しかし、ここでは、単に自治体の公務員が公権力の行使に関わるという意味合いで使われているにすぎず、広報の発行が公権力の行使であるという言い方はなされておりません。

 そもそも、公権力の行使というからには、行政行為論を待つまでもなく、法律の根拠を必要とします。もう少し拡大して、条例の根拠でもよいでしょう。仮に市報の発行が法律あるいは条例の根拠に基づいていない場合には、公権力の行使たりえません。それはただの事実行為です。しかも、事実行為である場合であっても、公権力の行使の一環としてなされるのであれば、法律の根拠を必要とします。行政上の強制執行や、警察官職務執行法に定められる職務質問などがその例です。

 それでは、法律の根拠さえあれば、行政庁によるいかなる行為も公権力の行使と言いうるのでしょうか。そうではありません。例えば、行政指導の中には、法律上の根拠があるというものも存在します。独占禁止法に定められている勧告などは、その代表例です。この場合、勧告の後に命令が控えているのですが、勧告そのものに法的な拘束力はありません。他には、廃棄物処理法に定められるごみ処理もあげられます。

 別府市のものであれ日田市のものであれ、市報の発行が条例に基づくものであるかないかに関わらず、公権力の行使にあたらないことは言うまでもないでしょう。仮に公権力の行使であるとするならば、一体、具体的に何が、どの部分が公権力の行使なのでしょうか。広報はお知らせにすぎません。基本的には、新聞や雑誌と同じです。広報誌であっても、国や自治体が刊行する場合には公権力の行使であって、出版会社が刊行する場合には民事法上の行為であるという主張は、おかしなものであるとしか言いようがありません。

 次に、先の新潟地方裁判所高田支部判決についてです。これは、東京放送(TBS)のニュース番組によって上越市が名誉を侵害されたとして訴えたもので、出訴までの経緯が上越市のホームページ(http://www.city.joetsu.niigata.jp/)に掲載されています。結局、上越市が敗訴し、上越市は3月13日に東京高等裁判所へ控訴したのですが、注意していただきたいのは、却下判決でなく、棄却判決であるということです。この判決をまだ入手していないため、私は、上越市役所に電話を入れ、その結果、担当の方から状況などをうかがうことができました。それによると、問題は、上越市が主張する名誉の中身でした。上越市がTBSを被告として裁判を起こすこと自体は認められています。つまり、訴える資格そのものは認められたのです。ここから考えても、日田市の原告適格はクリアされるということになります。細かい部分は判決を入手しなければわかりませんが、私は、「第27編」においても述べましたが、日田市対別府市の場合、ともに公法人であることから、とりもなおさず私法人対私法人と同様に考えるべきだと思います。その意味では、次回口頭弁論までにしっかりとした準備書面を作成すれば、日田市の原告適格は難なくクリアできる可能性が高いでしょう。問題は、日田市が有する名誉です。これをさらにつめなければならないのです。

 次回は8月28日、13時10分からです。

 本題からは外れますが、ここで、公営競技の場外券売場について、気になる話題を記しておきます。

 まず、福岡市博多区にある場外車券売場設置問題です。これは、6月18日の21時55分、NHK第一放送の九州・沖縄地方ニュースで知ったことです。翌日、日田市の職員であるG氏とも話をしましたが、博多駅の付近に設置される計画があり、住民の間でも賛成派と反対派とが分かれているようです。18日の福岡市議会でもこの問題が扱われました。

 また、大分市三佐(みさ)校区では、一旦取り止めとなった場外舟券売場「ボートピア大分」の設置計画が、別会社によって再び出され、6月17日に説明会が行われました。大分市は反対の立場を表明していないのですが、住民の中には反対論が強く、サテライト日田問題の影響もあって、長期化が予想されます。この問題については、掲示板「公園通り」を参照して下さい。場合によっては、新コーナーを設けて取り上げることも考えています。


(初出:2001年6月23日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第29編

 このところ、サテライト日田問題に関して進展が見られなかったため、続編を作成しうる状況になかったのですが、今月に入り、別府市のほうで新たな動きがありました。6月19日には、原告:日田市、被告:別府市の第2回口頭弁論が行われますが、そのことと関係があるかどうかまではわかりません。今回は、朝日新聞の大分asahi.com/ニュース2001年6月6日付記事(http://mytown.asahi.com/oita/news02.asp?kiji=964)、および大分合同新聞ホームページ2001年6月5日付記事(http://www.oita-press.co.jp/cgi-bin/news2.cgi?2001-06-05=17)を基にしております。

 サテライト日田設置関連補正予算案は、昨年の12月18日、別府市議会定例会において継続審議とされ(第12編および第10編を参照)、今年2月8日の別府市議会臨時会において否決されました(第20編を参照)。日田市側の、市民・行政が一丸となった反対運動が実を結んだ結果である、と言いうるでしょう(その際立ったものが、12月9日に行われた、あの反対デモ行進でしょう。第8編を御覧下さい)。これが別府市議会を動かしたことは間違いありません。そして、今年の1月7日、13時から東京放送にて放映された「噂の! 東京マガジン」の力が大きかったことも、否定できません。これがきっかけで、日田市のホームページにある「ひたの掲示板」には応援のメッセージが寄せられ、別府競輪場のホームページにある「競輪質問コーナー」には、おそらく別府市としては予想もしていないサテライト日田問題に関する質問や抗議が記されました。抗議の電話やメールはそれ以上であったと言われています。余談ですが、この時期、私も、市町村合併の講演会の準備をしながら、「ひたの掲示板」に書き込みをしていました。その結果、実際にお会いしたことがないとは言え、色々な方々と交流させていただくことにもなりました。

 別府市は、臨時会において議案(サテライト日田設置関連補正予算案)が否決されたからと言って、断念した訳ではありません。3月の定例会への再提出も検討されていたようですし、遅くとも6月の定例会に再提出されるという観測が一般的でした。結局は空転の原因にもなりましたが、多数派形勢工作を目的とした与党会派の三分割も、サテライト日田問題によるものでした。結局、この工作は成功しなかったのですが、逆に、このような情勢であったからこそ、サテライト日田設置関連補正予算案は提出されなかったのです。そして、4月18日の第1回口頭弁論において、別府市は全面的に争う姿勢を示しました(第25編を参照)。一連の動きを見ていたならば、別府市が6月の定例市議会にサテライト日田設置関連補正予算案を再提出することは、むしろ当然の流れでしょう

 しかし、6月5日、記者会見の席において、別府市の井上信幸市長は、サテライト日田設置関連補正予算案を市議会に提出しないことを表明しました。その理由として、提案したとしても市議会の理解を得られないという判断があったようです。もっとも、これは、設置を断念するという意味ではありません。上記朝日新聞記事にも、「競輪事業振興のため」にはサテライト日田の設置が必要であるという趣旨が示されておりますし、サテライト日田の設置手続に法的な問題がないこと、この問題に関して別府市が当事者としての立場にないことを、改めて示しました。以前から別府市が表明している立場です。

 以前から私が指摘しておりますように、この問題に関する別府市の対応は、誠実なものとは言い難いと思われます。たしかに、設置許可に関わる行政手続の面からすれば、当事者は設置許可申請者である 溝江建設と経済産業省(当時は通商産業省)であり、別府市は第三者です。しかし、溝江建設は、自転車競技法の規定からして設置許可を申請しうるのですが(公営競技において、設置許可申請をなしうる者について何らの限定を加えていないのは競輪事業だけのようです)、設置許可を得られたから車券を販売できるという訳ではありません(この点も、自転車競技法にみられるおかしな点です)。施設を賃借する予定になっている別府市だけが、車券を販売しうるのです。そうであれば、別府市は、サテライト日田問題に関する実質的な当事者であることは言うを待ちません。たとえサテライト日田の建物が完成しても、別府市が、予算を通じて車券販売の準備をし、建物を賃借した上で実際に車券を販売しなければ、場外車券売場として何の意味もないのです。果たして、こうした単純なことを別府市側は理解しているのか、と疑わざるをえません。

 それにしても、最近、サテライト日田問題があったからかどうかはわかりませんが、全国的にも、別府市より日田市のほうが、良くも悪くも注目を浴びているようです。少なくとも、インターネットの世界では、日田市のほうがイメージをアップさせたと言えるでしょう。それは、別府市のホームページに掲示板がなく、別府競輪場のホームページには掲示板があっても、本来の趣旨とは違うと思われるサテライト日田問題以外に書き込みがないこと、その書き込みに対して別府市が何の対応もしていないことからすれば、当然のことです。逆に日田市のほうは、「ひたの掲示板」において、サテライト日田問題が議論されており(私もその一員ですが)、市政に関する他の問題についても活発な議論がなされているのです(これにも私が参加しています)。電子政府、電子自治体構想を現実化するためには、行政側から一方的に情報を流せばよいという態度を捨て、いかに辛辣な意見が寄せられようが、真摯な意見である限りにおいて、誠実に受け入れ、検討をした上で、反省をしなければなりません。勿論、行政の立場に過誤がないというのであれば、十分に説明をしなければなりません。


(初出:2001年6月11日)

2025年5月9日金曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第28編

 当初、第27編は、5月8日(火)に行われた対経済産業大臣訴訟第1回口頭弁論の模様までを含めたものとすることを考えていたので、暫定版としておりましたが、それではすまなくなりそうになったので、第27編を、若干補充した上で完結とし、新たに第28編をあげることとしました。

 5月8日、13時半から、大分地方裁判所において、平成13年(行ウ)第10号行政処分無効確認、同取消請求事件の第1回口頭弁論が行われました。原告は日田市、被告は経済産業大臣です。この訴訟の模様は、西日本新聞ホームページの2001年5月9日付の記事(http://www.nishinippon.co.jp/media/news/news-today/today.html#012)、読売新聞ホームページ九州版の 2001年5月9日11時52分9秒付記事、朝日新聞の大分asahi.com/ニュース2001年5月9日付記事(http://mytown.asahi.com/oita/news01.asp?kiji=870)などに掲載されましたが、私自身も傍聴しておりますので、今回は、口頭弁論の模様を記しておきます。

 既に4月の時点において、大分地方裁判所の方から、当日は傍聴整理券を発行するという話を伺っておりました。そのため、私は、大分市の中心街で昼食を取り、12時半に大分地方裁判所に到着しました。その時で既に数人が並んでいました。そのころから、報道関係者が続々と到着しました。中には、知っている人もいます。13時前に、日田市の関係者が、最初は公用車で、次にマイクロバス2台で大分地方裁判所に到着しました。NHK記者の佐藤氏、日田市役所の佐藤氏、そして、日田商工会議所会頭の武内好高氏とも意見交換などをいたしました。後で聞いた話ですが、日田市議会の議員団も揃っていたとのことです。議長の室原氏が来られていたのは勿論です。また、サテライト日田設置反対女性ネットワークの代表、高瀬由紀子氏など、17団体の代表なども姿を見せていたようです。

 13時5分から84枚の傍聴整理券が配布されました。当初は抽選になるかとも思っていたのですが、そうならず、1号法廷に入ることができました。12月9日に反対集会に参加していた別府市民の方、熊本県内の大学に通う学生の方などからも、声をかけていただきました。

 原告席には、大石市長、寺井弁護士、企画課の五藤氏など、計5名が、被告席には、福岡法務局訟務検事の西郷雅彦氏他6名がおります。裁判所は、須田啓之裁判長、脇由紀判事、宮本博文判事の合議です。

 13時半を少しまわってから、裁判が開始となりました。原告側から、既に出された訴状を補足する形で陳述を行いたいという要望が出され、受け入れられました。大石市長が起立し、陳述をされました。佐藤氏と五藤氏からいただいた、8頁からなる陳述書(骨子)から、内容を紹介しましょう。

 大石市長の陳述は、日田市の歴史・文化に触れつつ、それらに誇りを持ちつつ「独自のまちづくり」を進めていること、「他人に迷惑をかけず自分達独自で主体的にまちづくりをしたいという思い」があり、それが日田市外にも通じていること(これが「日田モンロー」とも言われているそうです)を強調しています。その上で、サテライト日田設置が、日田市が進める「まちづくりの方向・方針に全くそぐわないと同時に、将来を担う青少年の教育環境、あるいは市民の生活環境などに多大な影響を与えることから、一貫して反対して」きたと述べられています。そして、当時の通商産業省が、規制緩和、競輪がオリンピック競技となっていることを、地域の同意が不要であることの理由としてあげていると指摘しています。

 余談めきますが、私には、経済産業省のこうした主張がナンセンスだと思われるのです。オリンピック競技になれば、どんなことになっても良いという変な主張が秘められております。私自身が、オリンピックに全く関心を持っておらず、無駄な出費ばかりを強いられるただの世界的な馬鹿騒ぎで、日本はとくにひどいと思っているからかもしれませんが。

 大石市長の陳述に戻りましょう。地方分権一括法が登場します。この陳述の中核となる部分を紹介しましょう。

 「地方行政は、従来の国の機関委任事務中心から、自己責任と自己決定が大きく求められ市町村独自のまちづくりの責務を負うことになりました。言葉を換えれば、国と市町村との関係が『上下、主従』の関係から、『対等・協力」の関係に換える方向づけがなされたのです。」

 そして、日田市が「活力溢れ、文化・教育の香り高いアメニティ都市」、「森林田園都市」、「自ら関わりともに創るヒューマンシティ」として、「豊かな心と未来を拓くゆとりあるまちづくり、みんなで進めるまちづくりを市民一人一人が『自分たちのまちは自分たちの手で』の認識のもとに、市民と行政とが一体となり、連帯と協調のもとに、創意工夫をこらし、生き生きとした自主的なまちづくりを着々と進め」たと述べられております。既に、ここまでの部分で、日田市が何故にサテライト日田に対するNonの声をあげたのか、十分に説明されていると解することができます。

 そして、大石市長の陳述は、現在、日田市議会議長の室原基樹氏の父君、室原知幸翁の言葉「法に叶い、理に叶い、情に叶う国であれ」を引用し、終わります。

 これに対し、被告側は、日田市が原告適格を欠くこと、取消訴訟の出訴期間を徒過していることことなどを理由として、訴えの却下を求めています。しかし、無効確認訴訟であれば、出訴期間は関係ありません。

 裁判終了後、大分地方裁判所の1階ロビーに、大石市長、寺井弁護士、そして市民が集まり、大石市長は、長期戦の覚悟を話された上で、支援を要請されました。私もその中におりました。そして、寺井弁護士など、弁護団の方とも意見交換をし、支援を要請されました。私も、できる限りのことをしようと思っています。その後、読売新聞の近藤記者とお会いし、若干の質問を受けましたが、このやりとりは読売新聞の記事に掲載されておりません。

 その後、14時半から、県庁で記者会見が行われました。その模様は、新聞記事などに掲載されております。

 また、この訴訟の模様が、ぎょうせいから刊行されている月刊「ガバナンス」2号(2001年6月号)73頁~75頁に、「第2次分権改革の幕は開かれるか!?」という題の記事に掲載されております。実は、5月8日、大分地方裁判所で同誌の記者氏と話をしており、記事になることは知っていました。記事には、この訴訟を「第2次分権改革の端緒を拓くものといえる」と評価する、地方分権推進委員会委員を務める大森彌教授(千葉大学)の言葉も掲載されています。私も、ほぼ同旨のことを、このホームページで述べています。

 また、大森教授は、同記事の中で次のように述べています。

 「”地方自治の本旨”が何を意味し、どの程度まで個別法のあり方を規律できるかを考えるうえで興味深い。本案の審議に入るべきだと思う」

 「この問題は自治体感の争いという面を色濃く持っており、このような争いをどのように処理していくかという大切なテーマも提示している。今後、自治体が自己決定・自己責任に基づいて行動していくとき、その関係を調整していくための工夫が不可欠だ」

 昨年の夏からこの問題を追い、ホームページで取り上げている私ですが、大森教授の御意見は、私が以前から考え、ここで何回か記していることと同じ趣旨であり、共感できます。それだけに、今後、日田市は、自らの足許を十分に強化する必要があるでしょう。最近、公職選挙法に照らせばかろうじて問題がないといいうるが健全な市民感覚とはかけ離れた収入役人事、民法施行法第27条に照らすと違法の疑いも濃い日田市社会福祉協議会理事の選任問題など、サテライト日田問題で全国から寄せられた日田市への応援の声を無にしかねない事件が起こっています。私は、大石市長が法廷で引用した室原知幸翁の言葉「法に叶い、理に叶い、情に叶う国であれ」を、他ならぬ大石市長、そして日田市議会と日田市役所に送りたいと考えています。

 次回は、7月3日(火)、13時半に行われます。都合のつく限り、傍聴します。また、私も、別府市に対する訴訟とともに、可能な限り、アイディアを出すなどして支援をしていきたいと思っています。

 なお、既に、私の論文「サテライト日田をめぐる自治体間対立と条例―日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例―」を当ホームページに掲載しております。初出は月刊「地方自治職員研修」2001年5月号です。法律関係雑誌や地方自治関係雑誌に掲載された論文として、本格的にサテライト日田問題を扱うものは、上記が最初ではないかと思われます。また、「日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例」を本格的に検討した論文も、他に見当たりません。


(初出:2001年5月9日。6月3日に修正)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第27編

 事後報告となりますが、サテライト日田問題が、4月に2度、テレビ番組で取り上げられました。最初は、4月21日(土)、17時からの「電撃黒潮隊」(大分放送)、次は、翌日、13時からの「噂の! 東京マガジン」(東京放送)です。後者の番組は、大分で放送されていませんので、見ることができなかったのですが、東京放送のホームページ(http://www.tbs.co.jp/uwasa/。なお、現在、この内容を見ることができるかどうかはわかりません)によれば、別府市議会の模様を中心とした内容だったようです。実は、この動きなどを、私は、2月の上旬だったと記憶していますが、昨年の12月21日に取材のため、私の研究室に来られた東京放送の番組製作担当者の方に、電子メールでお知らせしていました。それで取り上げられたのかどうかまではわかりませんが。

 「電撃黒潮隊」は、大分放送が製作したもので、大分県内でしか見ることができないと思われます。私は、録画をしておきました。月末になってから見たのですが、日田市長の大石昭忠氏の動きを中心とし、別府市長の井上信幸氏の発言とを対照させた内容でした。また、私が日田市役所を訪れた時、企画課企画調整係長を勤められていた日野和則氏の姿も映し出されており、コメントもなされております。2月7日の説明会、翌日の別府市議会の模様、その後の動きをとらえています。経済産業省車両係長氏へのインタヴューも盛り込まれておりました。基本的に、このホームページで取り上げている内容と同じですが、さすがに映像など模様が取り上げられているだけに、参考になります。

 そして、5月7日、NHK総合テレビで18時10分から放送されている「情報ボックス」という大分ローカルの番組において、サテライト日田問題が取り上げられました。5月8日に行われる対経済産業省訴訟(精確に記すと、経済産業大臣を相手取った無効等確認訴訟)の第1回口頭弁論が行われるのを前にしたレポートです。実は、この番組に私が、ほんの短い時間ですが、登場します。NHKの佐藤記者が私の研究室に来られた4月10日に収録されたものです。

 さて、いよいよ5月8日、13時半から、対経済産業省訴訟(精確に記すと、経済産業大臣を相手取った無効等確認訴訟)の第1回口頭弁論が、大分地方裁判所で開かれます。勿論、私も傍聴に参ります。


(初出:2001年5月7日)


 補記(2002年5月22日):文中に登場する「黒潮電撃隊」という番組は、福岡県のRKB毎日放送を中心として、九州各県で放送されているようです。

2025年5月8日木曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第26編

 前編において、別府市側の答弁書の検討を試みましたが、まだ一部分のみです。その後、様々な仕事に追われていましたが、昨日(2001年4月27日)、経済産業省のホームページに、サテライト日田問題に関する経済産業省次官の発言が掲載されていることが判明しました。そのため、今回は、まず、その内容を紹介し、検討を加えることとします。その上で、必要に応じて答弁書の検討も行います。なお、次官の発言は、いずれも、次官会議後の記者会見における質疑応答からであり、ここではその模様を、経済産業省のホームページに掲載されたとおりに再現します。

 1.平成13年2月22日(木)、記者会見室、14時15分から14時29分まで(【競輪場外車券場設置】の部分のみ)

 Q:大分県別府市と日田市とで、別府市の競輪場の場外車券場を日田市に設置するということで両市がかなり激しく対立しているようですが、昨日、日田市の方で近く経済産業省を相手取って行政訴訟を起こすと、その理由としては、いわゆる自転車競技法で地元の同意なしで設置できるというのが憲法違反ではないかというような趣旨で提訴するというふうなお話が出てますが、それについてどうお考えですか。

 A:大分県の日田市に場外車券場を設置するというお話がかねてからありまして、昨年の6月だったと思いますけれども、法令に基づいて設置許可をしたという経緯はあります。

 もちろんこれは、自転車競技法などに基づく法令行為でございまして、その中では、例えば、学校が近くにないか、医療機関の運営に支障がないかといったようなことは十分に調べながら許可をするということになっています。そういうことで、法令に照らして十分な調査の上で許可をしたことだというふうに思っています。

 他方、日田市の方でそういう動きがあるというのも承っていますけれども、これは、これからのお話だろうと思いますので、そのこと自体は私の方からコメントするのはまだ、早いかなと思っております。

 いずれにしましても、経済産業省としては法令に基づいて十分に審査の上、許可をしたということです。

 Q:先日、日田市から陳情団が来たときに、別府と日田市とのいわゆる調停案というのを経済産業省の方で今月中にも提示したいという話があるのですけれども、それについてはいかがでしょうか。

 A:調停案の話は私は存じませんけれども、しかし、この場外車券売場というものはできるだけ地元の皆様の理解を得てやることが必要なので、そういう意味では、別府市と地元日田市がよく話を詰めたら良いと思っていますけれども、それが円滑な話の軌道に乗ってないというふうに聞いておりまして、そこは残念な気持ちです。

 2.平成13年3月19日(月)、記者会見室、14時05分から14時19分まで(【日田市場外車券売場】の部分のみ)

 Q:サテライト日田問題ですが、今日、日田市は正式に大分地裁に経済産業省を相手どった、許可無効などを求める裁判を提訴されるようですが、改めて、次官として、そのことに対してコメントはいただけますでしょうか。

 A:今日、そういう訴えが起こされるというふうに聞いておりますけれども、まだ、具体的な中身については、もちろん拝見をしていないわけでございますから、そのこと自身については、コメントを差し控えるべきだろうと、こう思いますけれども、この問題については、平成8年に初めて九州通産局にお話があって、九州通産局では、地元の理解もよく得るようにというお話をし、平成10年には、地元の日田市と別府市の助役の会談を数回にわたって持たせたというようなことがありまして、地元の同意を得る努力を大いに時間をかけてやってきたわけでございます。

 そういう手続を経て、平成12年に法令に基づいて、行ったということでございまして、私どもとしては、地元の理解を得るための努力も十分にやったし、かつまた、法令に基づいて慎重な議論をし、判断をしたものだというふうに考えております。

 Q:現在、係争中だと思いますが、新橋の場外車券場についてですけれども、東京地裁、東京高裁の終審判決の中で自転車競技法そのものの中に、いわゆる個人の権利保護というような条項がないというようなことが指摘されていますけれども、今回の日田市のケースでは、今、言った個人的な権利を保護していない自転車競技法そのものが違憲ではないかというような訴えが出ていますが、そのことについてはどういうふうにお考えでしょうか。

 A:訴えの中身は、まだ、きていないわけでございますから、そのことについてコメントするのはいかがかと、こう思いますけれども、そもそも、憲法の定めるところは、公益上の問題がない限り、いろいろな仕事、ビジネスというものは自由にやるということが原則でございますから、そういう中で、公益的な観点からどこまで整備をしていくかということが問題になるわけですから、そういうところを考えながら、今の自転車競技法があるのだろうというふうに考えています。

 それと、この日田市の関係がどういう関係になるのか。これは、もちろん訴状を見ておりませんから、直接な関係があるかどうか、そこはコメントを差し控えたいと思います。

 以上が、経済産業省のホームページに掲載されている次官会見の模様です。あるいは、これより以前のものも参照できるかもしれませんが、今回は、2月22日および3月19日の分のみ紹介いたしました。

 なお、私も、日田市の訴状をまだ入手しておりませんので、検討するにも少々の難があるのですが、広報ひた号外(2001年3月15日発行)や別府市側の答弁書と照らし合わせつつ、上記会見を分析してみます。

 まず、経済産業省側は、あくまでもサテライト日田設置許可が自転車競技法に基づいて適法に行われた、という前提をとっています(これは当然のことです)。

 次に、調停案のことです。これは、第15編で紹介した、日本共産党別府市議団に対する経済産業省車両課長氏の発言〔2001年1月19日付の朝日新聞朝刊大分13版25面および西日本新聞1月19日付朝刊26面(大分)〕と関係があると思われるのですが、上記次官会見においては否定されております。また、車両課長氏の発言の性格も問題で、経済産業省車両課としての公式見解であるという保障はありません。

 そして、経済産業省は、平成10年に日田市助役と別府市助役との会談が数回にわたって行われたという事実を認めております。しかも、この会談は、当時の通商産業省がお膳立てをしたようです(少なくとも、上記会見からはそのように読めます)。広報ひた号外においても、平成10年に通商産業省および別府市と協議がなされた、と記されています。しかし、別府市答弁書では、この事実が一切登場せず、「本件設置許可がなされた平成12年6月7日まで約3年もの間、原告が通産大臣に対して『サテライト日田』設置反対に係る要望書は提出していないと認識している」とされています。広報ひた号外には、平成9年10月、日田市教育委員会が九州通商産業局(当時)に設置反対要望書を提出したという記述があります。これが事実であれば、別府市の主張の一つは崩れます。また、通商産業省が両市助役会談を行わせたというところからみて、日田市から通商産業省に対し、何らの要望もなされなかったということは、常識的には考えにくいところでしょう(文書の形によるのか口頭によるのかという点があって、立証の点で問題が残ると言えますが)。また、別府市側が設置計画を一時的に凍結しているという事実も、別府市の答弁書には登場しません。

 これまで書かなかったことですが、もう一つ、別府市側の答弁書が抱える問題を指摘しておきます。これから記すことは、答弁書には一切登場しませんが、私自身が入手した資料を基にしております(都合もあり、入手経路を記すことができません。別府市役所の公印が押されていることだけを記しておきます)。

 実は、日田市の場合、位置的に、別府競輪場よりも久留米競輪場のほうが近いのです。このことは、サテライト日田を設置する場合には久留米競輪場の商圏範囲に進出することになり、調整が必要となる、ということを意味します。通商産業省は、この点を認識しており、別府市(長)に対し、日田市、日田市議会および日田市民が設置に反対しているという事実を明確に示した上で、九州通商産業局から商圏調整が不備であるという指摘をしております。通商産業省は、おそらく、日田市から、何度か設置反対の要望(書)を受けているはずです。はからずも、日田市、日田市議会、そして何より日田市民の理解が得られていないことを、鮮やかに示しているのです。

 これに対して、別府市は「確約書」を提出しております。その中においても、日田市、日田市議会および日田市民が設置に反対しているという事実を明確に示されております。従って、答弁書に記されている「継続的に反対をしていないとの認識」は、全くの虚偽ということになります。通商産業省に要望書が提出されているかいないかという問題と、別府市が日田市の継続的な反対を認識しているかいないかという問題は、完全に別の問題です。もし、別府市がこの文書を目にしたら、どのように主張するのでしょうか。私の手許にあるものには、前述のように、別府市役所の公印が押されており、明らかに決裁か供覧の手続がなされていることが示されています。

 また、商圏調整について久留米市との合意がなされていないことも記されております。しかし、「確約書」には、さらに協議を重ねたいとしか書かれておりません。また、既に何度も記し、私が批判しているところですが、地域社会との調整は 溝江建設の責務であって別府市に責任はないという立場を表明しております。たしかに、設置許可申請者は溝江建設ですから、第一次的な調整責任は溝江建設にあります。しかし、 溝江建設は設置するだけであり、車券を販売することはできません。また、対外的に、別府競輪場の場外車券売場という位置づけですから、建物を賃借し、車券発売用の機械などをリース契約で導入して事業を行う別府市が、地域社会との調整に全く関わりを持たないという姿勢が、混乱を招いた元凶です。

 さて、ここで次官氏の発言に戻ります。憲法の問題が登場しますので、この点について記しておきます。

 経済産業省は、公益、憲法にいう「公共の福祉」に反しない限り、経済的自由権は自由に行使されうるものである、という前提を採用しています。たしかに、一般的にはその通りです。しかし、公営競技は、たとえ賭博性を強く有するものであるとしても、法律上、公益のために行われるという前提に立っております。そのためもあるのか、次官氏の発言には、意味不明なところもあります。しかも、競馬法と異なり、自転車競技法においては場外車券売場設置許可申請者について限定的な規定を設けていないとはいえ、許可制をとっているのです。その意味からしても、一般的な株式会社などについて準則主義をとる商法などとは違うと言わざるをえません。その意味において、次官氏の発言は的外れな部分もある、と評することができるでしょう。

 この質疑応答においては、経済産業省のホームページを読む限り、次官に対する質問も少々要領をえないので、自転車競技法の何が問題とされているのか、これだけでは不明確ですが、おそらく、近隣住民の生活権というべきものをあげたいのでしょう。サテライト新橋の判決は、近隣住民に対して原告適格を認めていません。しかし、経済的自由権を無制約に認めることにも問題が残ります。また、公益を理由として、条例によって財産権など経済的自由権を制約することは、奈良県ため池条例判決(最大判昭和38年6月26日刑集17巻5号521頁)においても、一般論として認められております。次官氏の発言には、地域住民の権利・利益という観点、おそらくは、経済的自由権よりもデリケートな精神的自由権などが、忘れられているようなところがある、と考えるのは、私だけでしょうか。

 さらに、次官氏の発言には、或る意味では当然のことですが、地方分権という観点が全く見られません。しかし、地域の活性化のためには、真の地方分権を欠かすことはできません。この点は、大きな課題です。私は、読売新聞2月24日付の読売新聞朝刊36面(大分地域ニュース)に掲載された「サテライト日田問題について(訴訟提起の議案可決を受けて)」(第22編にも掲載されています)において、サテライト日田「問題は、条例制定権の限界、まちづくりの進め方、住民意思の反映の仕方、市町村関係の在り方など、地方自治における重要な諸課題が凝縮されたものである。また、地元住民の意見を十分に反映させる仕組みを予定していない自転車競技法の問題点を、改めて浮き彫りにしたものと言える」と記しました。単純に、設置者が有する経済的自由権を優先させればよいというものではないのです。

 

 付記:4月18日に発売された月刊地方自治職員研修5月号には、私の論文「サテライト日田をめぐる自治体間対立と条例―日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例―」が掲載されております。これまでに記してきた「サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題」を基にしていますが、御一読いただければ幸いです。この論文については、同誌6月号発売日以降に、このシリーズとは別に掲載する予定です。


(初出:2001年4月28日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第25編

 提訴後、しばらくの間、この問題について目立った動きは存在していませんでした。また、このところ、中津競馬の廃止問題のほうが大きく取り上げられたこともあります(補償問題などを考えると当然のことです)。さらに、4月に入って、門司競輪の廃止の可能性が浮上しています。公営競技の経営状態が厳しいという状況は、長らく続いてきましたが、今年に入って、ますます深刻な状態になっている、と言えるのではないでしょうか。

 しかし、私自身の中では、片時も、サテライト日田問題が頭から離れたことがありません。まず、3月の段階でしたが、月刊地方自治職員研修の編集部から御依頼を受け、この問題に関する論文を記しました。今まで、この「大分発法制・行財政研究」に書き続けてきたこと、さらに、第22編にも掲載している読売新聞2月24日付朝刊36面(大分地域ニュース)の記事を基にしていますが、私の問題意識を端的にまとめたものとしてお読みいただければ幸いです(同誌5月号に掲載されています)。

 また、4月4日と10日の2回、サテライト日田問題に関する話を聞きたいということで、私の研究室に、NHK大分放送局の方が来られました。私は、現時点での意見を、とくに経済産業省に対する訴訟に関して述べました。この模様は、まだ放映されていません。

 さらに、4月21日、大分放送の番組でサテライト日田問題が取り上げられます。

 さて、前置きはこのくらいにして、本題に入りましょう。今回は、4月18日、大分地方裁判所で行われました、別府市に対する訴訟の第1回口頭弁論の模様をお伝えします。

 この裁判は、平成13年(ワ)第93号訂正記事掲載請求事件と名付けられています。前日、大分地方裁判所に電話をし、講義の一環として裁判傍聴を行う際には常にお世話になっている事務官の方から御教示をいただき、18日、列車で大分駅へ向かい、13時少し前、大分地方裁判所に到着しました。既に報道関係者が待機しています。13時を少し過ぎて、原告である日田市の職員4氏が、日田市の公用車(ISO14001を取得している所らしく、白いプリウスでした)で来られました。私は、早速、あいさつをしました。そこで、今回の裁判について、色々な話を伺うことができました。別府市側は答弁書を、ぎりぎりの段階で提出しました(日付などもわかっているのですが、ここでは記さないこととします)。既に待ち構えていた報道陣が、早速取材などをしています。その傍らで、私は、様子を見つつ、意見交換をしたりしていました。その後、原告代理人の梅木哲弁護士が到着、我々は法廷に向かいました。また、5月8日の対経済産業省訴訟では、マイクロバスで日田市民の方々が来られるとのことで、大分地方裁判所の事務官の方も、この日は傍聴整理券を発行する可能性があると言っておられました。

 既に、写真撮影などが行われており、別府市の職員氏も複数おられました。また、大分大学の学生も2名おりました。被告代理人は内田健弁護士、情報公開関係訴訟では常に被告大分県側の代理人を務めておられる方です。

 13時半、既に、法廷撮影のために第1号法廷におられた須田啓之裁判長など3氏によって、裁判が始まりました。口頭弁論は、ものの5分で終わりました。訴状の提出、答弁書の提出、書証の提出がなされ(新聞記事では陳述したと書かれていますが、多くの場合、提出で終わります)、須田裁判長から、日田市に対し、毀損された名誉の概念、具体的に毀損された名誉の内容、原告適格について、次回の口頭弁論までに書類を提出し、主張するように求められました。そして、次回の口頭弁論は6月19日(水)、10時からということが決められ、終了しました。

 終わってから、私は、学生に指示をした後、しばらく、日田市側と行動をともにしました。梅木弁護士とも意見交換(と言うほどのものでもないですが)をして、14時過ぎ、大分地方裁判所を離れました。

 この第1回口頭弁論は、大分合同新聞2001年4月19日付朝刊朝F版21面、朝日新聞同日付朝刊13版30面、西日本新聞同日付朝刊15版33面などにおいて伝えられていますが、記事はいずれも短いものです。

 今回、別府市側の答弁書(被告代理人作成)を入手しました。そこで、検討を加えることとしてみます。なお、今回は、暫定的なのものであり、本格的には、さらに考察を進めていかなければならないということ、さらに、日田市の原告適格に関する部分のみであることを、あらかじめお断りしておきます。

 被告としては、当然ですが、訴えの却下または棄却を求めています。却下は、日田市に原告適格がないことを理由としています。一方、棄却のほうですが、事実については、かなりの部分を認めつつも、全面的に争う姿勢を示しています。

 まず、原告適格のほうですが、答弁書は、「名誉毀損の保護法益は、私人の権利保護をはかるべきものとして生まれたものであり、公権力行使の主体である国、地方公共団体に対する批判・論評に対して観念されたものではない」とした上で、「公権力の行使について国民が自由にこれを批判し、論評することができることが国民主権・民主主義制度の根幹であり、国・地方公共団体の公権力の行使に対する批判については名誉毀損法による保護をうけるものではない」という主張し、英米法に関する研究を参照しています。

 たしかに、歴史的に見るならば、名誉毀損の保護法益は私人の名誉です。公権力の行使云々の箇所も、刑法第230条の2などの存在を考慮に入れるならば、一般的には妥当です(但し、この場合であっても、公人に関しては、名誉毀損罪に問われる可能性が減少するだけであり、皆無になることはありません)。

 しかし、この主張は、私人が公権力の批判や論評をするということを前提とするのであればそのまま通用しますが、今回のような事案については問題が残ります。

 まず、この答弁書は、あたかも別府市が私法人であって日田市の姿勢を批判したり論評したりしているかのように読みうるのですが、別府市も公法人ですから、この主張自体が成立しません。双方とも公法人であるということは、とりもなおさず、私人対私人と同様に考えることも可能なのです。

 次に、別府市の市報発行は、公権力の行使と言いうるものではありません。これは事実行為です。仮に法的行為であったとしても、権力的行為ではありません。このようなことは、行政法を学んだことのある方であれば、すぐにおわかりでしょう。もし、市報の発行が公権力の行使であるとするならば、必ず法律の根拠を必要としますし、何らかの強制力を伴います。そうでないことは明らかです。また、公権力の行使であるとすれば、逆に別府市の市報発行は国家賠償法第1条の適用を受ける可能性があることになります。

 また、別府市報の記事が取り上げている日田市の行動も、何ら公権力の行使としての性格を有しておりません。しかし、答弁書は市報の発行を公権力の行使、あるいはそれに対する批判として捉えています。これがおかしな主張であることは言うまでもありません。

 日田市も別府市も、普通地方公共団体であり、公法人ですから、公権力の行使の主体であることは当然ですが、その場合であっても、ア・プリオリに公権力の行使の主体である訳ではないのです(このことも、行政法のイロハに近いでしょう)。むしろ、公権力を行使するには、具体的な法律(政令や条例の場合もあります)の根拠を必要とします。答弁書には、この点を(意識的かどうかわかりませんが)混同しています。

 英米法の業績についてですが、日本の民法は、英米法ではなく、ドイツ法を基礎としてできております。ドイツ法の判例を調査する必要もありますが、英米法をそのまま援用できるとは思えません。英米法の研究業績を参考にすることが悪いと言っているのではありません。一般的には、それなりに有益な話です。しかし、答弁書の主張が妥当と認められるためには、公法人に名誉毀損が成立しえないとされた判例(勿論、アメリカやイギリスのものです)が示される必要もあるでしょう。しかし、本件のような公法人対公法人の問題について、何ら実際例も示されず(存在しないのかもしれませんが)、具体性に欠けます。

 さらに言うならば、公法人だから名誉毀損が成立しないという法律上の根拠もありません。民法は、私法の一般的な法律ですが、公法の分野で全く適用がない訳でもないのです。例えば、滞納処分に関しての事件で民法第177条が適用された例もあります。答弁書の主張が正しいと言うのであれば、もう少し、具体的な根拠が必要です。例えば、憲法上の根拠です。

 もう一つ、付け加えておきます。市報において、他市町村の姿勢を批判することは、一般的には許されることでしょう。しかし、批判することと、名誉を毀損することとは、おのずから意味が異なります。真実に基づかない「批判」は本当の批判とはなりえず、誹謗中傷、名誉毀損になることは言うまでもないのです。

 答弁書に書かれている棄却請求の理由については、機会を改めて検討します。また、原告適格についても、もう少し精密な検討を試みたいと考えております。


(初出:2001年4月20日)

2025年5月7日水曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第24編

 サテライト日田設置許可が当時の通商産業大臣から出されたのは、2000年6月7日のことでした。それから9ヶ月以上が経ち、この問題に新たな展開がありました。

 まず、この問題を扱った広報ひた号外が、2001年3月15日付で発行されました。これは全4頁から成り、経済産業省を相手取った設置許可無効等確認訴訟の提起を日田市民に説明し、理解を得るためのもので、別府市に対する提訴についても解説がなされております。このような号外の発行ということ自体、日田市の並々ならぬ意気込みを感じさせるものです(過去の日田市報を全て調べた訳ではないのですが、おそらく、日田市報でサテライト日田問題がこれほど大きく扱われるのは、初めてのことではないでしょうか)。

 号外が発行されることについては、大分asahi.com/ニュース3月15日付記事(http://mytown.asahi.com/oita/news02.asp?kiji=707)などにおいても大きく報じられました。また、3月2日、私が日田市役所を訪れた際、日田市総務部企画課課長補佐兼企画調整係長の日野和則氏からも説明をいただきました。今回の場合、日田市は、対経済産業省であれ対別府市であれ、公費で訴訟を遂行することになります。そのために、訴訟については市議会の同意を得る必要がありましたが、それに留まらず、どのような意図で訴訟を提起するのかを、市民にも説明する必要があります。そのために、号外が発行されたのです。号外の内容については、後に取り上げることとします。

 (なお、実は、3月2日、私は、日野氏からいくつかの貴重な情報を得ましたが、ここで記すことは差し控えます。また、号外については、読売新聞日田支局の近藤武信氏から送っていただきました。ここに記し、御礼を申し上げます。)

 そして、3月19日の午後(14時頃)、日田市は、経済産業省を相手取った設置許可無効等確認訴訟(予備的に取消訴訟)を、大分地方裁判所に提起しました(行政事件訴訟法によると、被告は経済産業大臣となります)。大分合同新聞2001年3月20日付朝刊朝F版23面は、大分地方裁判所にて提訴の手続をとる日田市長の大石昭忠氏、および寺井一弘弁護士を代表とする弁護団の写真を掲載し、大々的に報じています(コメントなどについては、後に紹介します)。また、日本経済新聞2001年3月20日付朝刊西12版39面には、提訴の手続をとるため大分地方裁判所に入る大石氏、そして弁護団の写真が掲載されています。

 第23編において、訴訟提起は3月21日に行われることとなる、と記しましたが、少々早められたようです。3月14日付のasahi.com news update(朝日新聞社のホームページ)は、全国版の扱いで、日田市の提訴が3月19日に行われると報じています(http://www.asahi.com/0314/news/politics14002.html)。また、同記事は、設置を予定されているサテライト日田の床面積が約2400㎡、3階建てであること、敷地が4000㎡で約400台収容の駐車場があること(これは、既に第6編において取り上げたアーバン・ピラミッドの総面積であると思われます。この一角にサテライト日田が設置される予定です)、1年のうち144日間だけ発券される模様であること、推定売上額が年間で17億2800万円と見積もられていることも報じています。

 同じ記事には、「自転車競技法では、近隣の医療機関や文教機関に著しい支障が及ばないこと等の法令に定められた要件に照らして問題がなければ許可できる仕組みとなっており、地元に反対意見があるというだけでは不許可にできない」という、経済産業省車両課のコメントが掲載されてます。また、同課は「地元の同意を得て円満に設置されることが望ましいと考えており、今後とも地元の理解を得るよう指導していきたい」という見解を出しております。自転車競技法には、地元の同意が法的要件として定められていないので、このような見解となったのでしょう。

 一方、やはり同じ記事に掲載された大石氏のコメントは、「地元が拒否しているものを中央が一方的に押しつけるのは、地方分権の流れに逆行して不当だ。裁判を通じて、憲法がうたう地方自治の本旨の意味を問い直していきたい」というものです。これが、経済産業省に対する設置許可無効等確認訴訟の根本的な趣旨ともなっております。

 設置許可無効等確認訴訟については、私の意見を既に何度か述べております。日程さえ合えば、別府市に対する訴訟とともに、大分地方裁判所にて傍聴をしたいと考えております。

 さて、号外を紹介いたしましょう。どの程度まで引用してよいのかという問題もありますが、なるべく詳細に記したいと思います。

 まず、表紙は、昨年12月9日に別府市中心部にて行われた設置反対デモ行進が、3点のモノクローム写真で掲載されております。まず、上の「広報ひた」というロゴの右側にある写真は、おそらく北浜を出発したばかりの、中ほどの集団の模様です。4人が持つ横断幕を先頭に、様々なカードを掲げた市民が設置反対を叫びながら行進している模様です。次に、中央の写真は、「『サテライト日田』設置反対」と、白地に赤い文字で書かれた横断幕を持つ3人の女性のすぐ後ろに、頭にハチマキ、肩からタスキという姿で、左から日田商工会議所会頭で「サテライト日田設置反対連絡会」代表の武内好高氏、日田市長の大石昭忠氏、日田市議会議長の室原基樹氏が並び、すぐ後ろには、市議会議員全氏、そして、「サテライト日田設置絶対反対」などと書かれたカードなどを持つ日田市民が、ちょうど別府駅東口で折り返したばかりのところの情景です。下の写真は、終了直前の模様で、北浜交差点そばにあるトキハ別府店前の歩道に集結し、室原氏がメガホンを持ち、大石氏、武内氏も前に立ち、気勢を上げているところです。第8編において記したように、私はこの模様を見ていますので、その時のことを思い出してきました。

 次の頁には、「『サテライト日田』はいらない! 地元同意のない設置許可は地方分権に逆行」という題目の下、昨年11月27日に行われた反対市民総決起集会の写真とともに、号外を発行する目的が書かれております。そこには、サテライト日田について「平成8年から一貫して反対を表明し、市議会、各種団体等とともに、設置断念に向けて関係機関に反対運動を行ってきたにもかかわらず、昨年6月に設置が許可されました」と説明され、その上で「市民の意思を全く無視した設置許可は、地方自治体の自治権や自己決定権に対する侵害である」と断言しております。そして、「なぜ反対なの?」という囲み記事には、反対の理由が、①「日田市が目指す『活力あふれ、文化・教育の香り高いアメニティ都市』を基調とした、まちづくりの理念とは相反する異質の施設」であること、②「青少年健全育成を目指す社会教育や学校教育の立場から好ましい施設では」ないこと、③「歴史・文化を生かしたまちづくり、水と緑の自然を生かしたクリーンな観光都市づくりのイメージにふさわしく」ないこと、④「周辺地域の環境悪化や国道386号線の交通渋滞は大きな問題で」あること、⑤「別府市の財政事情のために日田市民が犠牲になることは許され」ないこと、とまとめられています。

 同じ頁には「サテライト関連機関・車券売上金配分の仕組み」も掲載されていますので、売上金の配分を中心に紹介しておきましょう(割合は推定とされています)。車券の購入費を100%とすれば、払戻金は75%、サテライト日田に残る控除金(すなわち、売上として残るもの)25%は控除金として、事業収入となります。この控除金は、次のように配分されます(号外には記されておりませんが、上記の年間推定売上額17億2800万円を下に計算した年間配分額を、目安として示しておきます)。

 サテライト日田設置許可を得た業者への「場外施設借上料」:4%(6912万円)

 競輪事業施行者である別府市の収入(開催経費を含む):11.5%(1億9872万円)

 公営企業金融公庫:1%(1728万円)

 日本自転車振興会:3.7%(6393万6千円)

 地方財政:3.8%(6566万4千円。なお、詳細は書かれていませんが、他の競輪事業収入と合わせて、地方交付税と同様に各都道府県・各市町村に配分されるものと考えられます。)日田市に支払われる環境整備費:1%(1728万円)

 そして、同じ頁に掲載されている、大石市長による「市民が安心して暮らせるまちづくりを目指して」から、一部分を紹介いたします。

 「分権時代の到来は、地方自治体の自己決定と自己責任のもとに、地域の実情に応じた個性豊かなまちづくりが可能となり、地方の能力と力量が問われる時代です。このような中で、国や別府市の動きは、地方自治体の自主性や権限を侵略するに等しく、ひいては、日田市のまちづくりを根底から覆すものです。」

 3頁には「場外車券売場の設置許可取消し等を求めて訴訟」という見出しの記事がありますが、先に、室原議長と武内会頭の言葉を、部分的ですが紹介しましょう。

 まず、室原議長の「設置許可無効確認の訴えを議決」からです。

 「本市のこれからの”まちづくり”において、設置許可を撤回させることが大変重要なことであるとの考え方に立ち、市議会は先日、設置許可無効確認の訴えについて議決をいたしたところです。」

 次に、武内会頭の「『サテライト日田』設置に断固反対」からです。

 「日田市におきましては、『まちづくり』の基本理念と青少年の健全育成の観点等から、行政、議会、市民が一体となって『サテライト日田』設置反対運動を展開してまいりました。/別府市議会も、2月の臨時議会で継続審査となっていた関係予算案を良識ある判断のもとに、賛成少数で『否決』していただきました。それでもなお、別府市は設置の意向を示しております。」(/は、原文改行箇所)

 武内氏の言葉に関連して、号外から離れ、別府市の動向を記しておきます。「第23編」において紹介した通り、別府市議会は議会運営委員会委員の選出をめぐって空転しておりました。しかし、自民党会派が元の一会派に戻ることで、12日深夜から13日にかけて正常化しました。大分asahi.com/ニュース3月14日付記事(http://mytown.asahi.com./oita/news02.asp?kiji=704)によれば、自民党会派は、サテライト日田設置関連補正予算案の採決時に反対者が出たことにより、少数与党となったため、会派を分割して多数派工作をしようとしたのですが、野党会派が議長不信任案の提出・可決や審議拒否で抵抗したことで、自民党議員団は、結局、元の一会派に戻り、行財政改革クラブの1名を加えて14名の会派となりました。しかし、議会運営委員会委員は、野党会派が過半数を占めることになったので、別府市としては、サテライト日田問題について、難しい対応を迫られそうです。現在の別府市議会の会派構成は、自民党議員団14名、公明党4名、社民党議員団4名、市民の声クラブ4名、無所属クラブ3名、共産党議員団3名となっております。

 そして、これも大分asahi.com/ニュース3月15日付記事(http://mytown.asahi.com./oita/news02.asp?kiji=706)によるのですが、13日夜に開かれた市議会で、別府市長の井上信幸氏は、一般質問に対し、サテライト日田設置計画をこれまで通り進める意向を示しました。再提案の時期は明らかにされておりませんが、平成13年度に入って最初の定例市議会においてではないかと予想されます。また、市長の後援会報がサテライト日田問題の特集記事を掲載しているという情報も示されております。

 市長の答弁に対して、野党会派からは反発の声があがりました。無所属クラブの朝倉斉氏は、議会の議決が尊重されていないとして、再提案を牽制し、計画断念を主張しましたが、市長は新聞記事を引用しつつ、2月8日の否決を真摯に受け止めていると反論しました。一方、自民党議員団の泉武弘氏は、設置計画の断念による損害賠償の問題について質問しました。これに対して、助役の大塚茂樹氏は、設置計画断念によっての損害賠償請求問題が生じる可能性を示唆しました。

 さて、広報ひた号外に戻りましょう。3頁の「場外車券売場の設置許可取消し等を求めて訴訟」は、設置許可無効等確認訴訟(および取消訴訟)を提起する理由を示しております。この部分については、詳細に引用しておきます。

 同記事は、まず、「『地方自治』とは、住民生活に密接にかかわる地域の共通の仕事を、国の行政から切り離して地域に任せ、地域住民の意見と責任に基づいて自主的に運営させる行政のやり方です」と説明されています。

 その上で、「地方自治体は、住民参加のもと、自らのあり方を自主的・自立的に決定することができます。これは、地方自治体の自治権であり、他の地方自治体はもとより(引用者注:これは別府市に対する批判を暗示しています)、中央政府といえども、みだりにこれを侵害することができません。つまり、場外車券売場の設置許可を、設置場所の自治体の同意なくして行うことは、地方自治体の自治権、自己決定権に対する侵害であり、地方分権に逆行するものです」とされております。

 今回の地方分権について、日田市側の説明に現われている住民自治の側面が、どの程度まで尊重されているかについては、意見の分かれるところです。「日本における地方分権に向けての小論」においても記しましたが、住民自治を尊重する立場と新自由主義的立場によって、地方分権の意味合いは異なってきます。地方分権推進法や地方分権推進委員会による中間報告および諸勧告、そして地方分権推進計画にも、両者の要素が混在しており、内容・方向性ともにわかりにくくなっていることは否定できません(原則的には新自由主義的な立場をとるものと思われます)。さらに言うならば、今回の地方分権は、規制緩和や財政再建などの動きとも関連しますし、国の行政の合理化(およびそれによる実質的強化)と地方公共団体の任務(あるいは負担)の強化に終わる可能性も、完全に否定することができないのです。今回の地方分権という改革には,本来の地方自治を強化する(あるいは取り戻す)という立場から見るならば、決して手放しで歓迎できない面が少なからず存在するのです。すなわち、今回の改革により、中央への権限集中を回避することのみならず、地域住民の需要に機敏に対応し、しかも地域住民が積極的に参加しうる地方自治が実現ないし強化されうるのか、という観点からは、問題が多いと言わざるをえないのです(以上、同論文から、修正しつつ引用しました)。

 しかし、地方分権の意義について、地方分権推進委員会など国側の立場が常に正しい訳ではありません。むしろ、日本国憲法第92条が示す理念に立ち返って、地方自治、地方分権を考える必要があります。その意味において、日田市側の説明は、地方分権推進委員会などが示す見解とどのような関係にあるのかという問題は残りますが、住民参加を前面に出しつつ、自らの考える地方自治、地方分権の方向性を示すものと評価できます。勿論、サテライト日田問題に限らず、今後、あらゆる場面において、日田市は、住民自治の原則を根底とし、住民参加の機会を増やす市政を行う責任を負うことになります。従って、この部分の説明は、日田市民およびと日田市政にとって非常に重要な部分です。

 さて、訴訟を提起する際に重要なものは、その理由です。日田市は、3点をあげて説明しておりますので、検討を加えることとしましょう。

 「①競馬や競艇は、設置場所の自治体の同意を条件にしています。しかし、競輪の場合には、同意を要件にしていません。また、市の反対意思を無視して設置を許可したことは、憲法及び地方自治法に定めている地方自治体の自治権、自己決定権に反しているものと考えます。」

 今回の訴訟において、日田市は、場外車券売場設置許可の根拠となる自転車競技法第4条が憲法第92条に違反すると主張しております。訴訟については、既に第16編においても検討を加えています。自転車競技法第4条が設置許可について市町村の同意を要件としていない以上、憲法第92条を援用しなければ、設置許可が無効であるという主張は、かなり難しくなります。また、①には、競馬法、モーターボート競走法などの公営競技関連法の間に、合意条件に関する食い違いがあることを問題とする趣旨が含まれているものと考えられます。ここから、自転車競技法に係る立法裁量の問題を突くことが可能です。日田市は、地方分権一括法によって追加された地方自治法第1条の2第2項を引き合いに出しておりますから、地方分権一括法によっても改められなかった自転車競技法第4条について、立法不作為の違憲性を問うことも可能であると思われます。

 憲法第92条により、都道府県および市町村には、自治権や自己決定権が与えられているという解釈は、妥当なものです。勿論、憲法や法律によって制約が課せられます。しかし、憲法第92条以下の趣旨は、可能な限り、最大限の自治権および自己決定権を都道府県および市町村に対して保障しなければならないというものであるはずです。従って、自治権や自己決定権を制約する場合には、合理的にみてやむをえないと認められる場合に限り、しかも必要最小限のものでなければならないでしょう。その意味において、自転車競技法第4条には、合憲性に疑問が残ります。

 「②ギャンブルは、刑法で処罰対象としている賭博罪にあたります。しかし、公営ギャンブルについては、社会的弊害を取り除き、その地域社会に受け入れられるような手段を図ることにより認められているものです。このようなことから、設置場所の自治体の同意を要件としていない自転車競技法は、刑法に規定する賭博罪に該当することになると考えられます。」

 非常に面白い論法ですが、私は、この主張に対して疑問を持っております。自転車競技法が存在しなければ、競輪が賭博であることは間違いありません。しかし、自転車競技法は、本来なら賭博罪に該当する事柄について、一定の要件を充足した上で違法性を阻却したという意味において、刑法に対する特別法です。そして、この法律は、(やや抽象的な表現ですが)場外車券売場の有無に関わらず、日本全国において適用されます。市町村が競輪場や場外車券売場の設置に同意するか否かという問題と、競輪が適法であるか否かという問題とは、次元を異にします。仮にこの論法が正しいとするならば、自転車競技法は、競輪場や場外車券売場が設置されている市町村においてしか適用されない法律であり、憲法第95条にいう「一の地方公共団体のみに適用される特別法」(この場合の「一の」は、数的な意味ではなく、特定の、という意味です)なのでしょうか。そうであるとすれば、憲法第95条違反という主張も付け加えなければなりません。しかし、自転車競技法第1条により、都道府県および総務大臣が指定する市町村が競輪事業の運営権を認められているのです。従って、②の論法によると、法律の適用範囲については非常に複雑なこととなります。また、例えば、競輪場や場外車券売場が設置されていない市町村の住民は、競輪場や場外車券売場で競輪を楽しんだ場合、その設置市町村内では賭博罪に問われないのですが、車券を持って非設置市町村に戻った場合などに賭博罪となるのでしょうか。そうではないはずです。いずれにせよ、②には論理の飛躍があります。また、自転車競技法は、まず、競輪について賭博罪としての処罰対象から外し、その上で様々な手段を規定しています。「社会的弊害を取り除き、その地域社会に受け入れられるような手段を図」らなければならないのは勿論ですが、これが先に来て違法性の阻却が後に来るということはないと考えられます。その意味において、論理が逆ではないでしょうか。

 「③自転車競技法が定める経済産業大臣の許可は、場外車券売場が設置されることにより、住民及び自治体の利益を侵害しない範囲でのみ許されるものです。今回の設置については、市の反対を押し切って許可したものであり、経済産業大臣に与えられた権限の範囲を超えているものと考えます。」

 これは、①との関連において考えるべき理由であり、直接的には経済産業大臣(設置許可当時は通商産業大臣)の裁量権に逸脱・濫用が認められるとするものです。既に「第16編」において記した通り、この主張が裁判で認められるのは難しいのではないかと予想されます。しかし、サテライト日田問題は、既に5年も続いております。また、当時の通商産業省(とくに九州通産局)が、設置許可を受けて、具体的にいかなる審査をしてきたのか、ほとんど明らかにされていません。また、1997年12月、九州通産局は、別府市がサテライト日田設置計画を(一時)凍結する旨を、日田市に伝えております。設置許可が出されたのは、実に2年半も後の2000年6月7日です。この間に何があったのでしょうか。この点について、これまで、経済産業省による十分な説明がなされていません。ここに、③の鍵が隠されていると思われます。すなわち、経済産業大臣の裁量権に逸脱・濫用があるとすれば、1997年12月から2000年6月7日までの間にいかなる事情があったのかが説明されなければならないでしょう(但し、その主張責任は、最終的には日田市に負わされると考えられます)。

 号外4頁は、「別府市への提訴について」と題された記事です。これまでの経過が表により示されております。この表には平成●年▲月としか書かれておりませんが、私が日田市役所でいただいた資料には、日付なども記され、詳細に書かれております。とくに、平成10年のところですが、1月26日、「サテライト日田」設置反対連絡会に自治会連合会と女性ネットワークが加盟し、現在の17団体になっています。平成11年には、日田市、別府市の双方で市長選挙が行われました。平成10年および平成11年には、両市の協議が重ねられたようですが、とくに大きな動きはなかったようです。

 この記事において、日田市は、市報べっぷ11月号掲載記事に対し、「日田市は、平成8年9月に設置が明らかになって以来設置反対の意思を表明し、昨年6月に許可が出るまでの間、市議会が『公営競技の場外券売場の設置に反対する決議』を採択するとともに、市長は経済産業大臣に『設置に反対する要望書』を提出。また、関係機関に対しても再三にわたって設置反対の要望を行うなど、行政・議会・市民団体等が一丸となって反対運動を行ってきました」と反論しております。また、「別府市は、日田市の反対の意思表示を十分に認識していながら、広報の使命である真実、信憑性を著しく欠いた虚偽事実を市報に掲載し、別府市民に大きな誤解を与えました」と述べ、「日田市民の名誉と信用を著しく傷つけた」と結論づけております。最近の報道をみても、市報べっぷ11月号掲載記事については、信憑性に疑問が抱かれているようです。しかし、市報べっぷ11月号掲載記事について、別府市は、これまで、何ら態度を表明しておりません。裁判の中で別府市の考え方が主張されるとのことですが、仮に日田市の主張に誤りがあって別府市の主張が正しいというのであれば、市報べっぷなどの場で反論することも考えられるはずです。別府市の沈黙は、いかなる意味を有するのでしょうか。

 さて、前述のように、3月19日の午後、日田市は、大分地方裁判所に設置許可無効等確認訴訟(および取消訴訟)を提起しました。大分合同新聞2001年3月20日付朝刊朝F版23面によれば、19日の16時から、日田市役所において記者会見が行われました。これには室原議長および武内会頭も出席しました。同記事に示されていた発言の内容を引用しておきます。

 大石市長:「長い反対運動の中で、自治体同士での決着はないと感じていた。裁判に勝つことが地方自治の“存在”を確認することになる」

 寺井弁護士:「前例のない訴訟だが、“新地方自治法”の理念が形式化、空洞化していないか、憲法的な視点から問い掛けたい」

 室原議長:「国と地方の関係を問う画期的な訴訟になる」

 武内会頭:「“おらが町”として、誇りをもって町づくりをすすめたい」

 そして、訴訟提起を受けて、複数のコメントが掲載されております。

 経済産業省事務次官の広瀬勝貞氏:「地元の同意を得る努力を時間をかけてやってきた」、「地元の理解を良く得るように(当事者に)話もし、そして一九九八年には日田、別府両市の助役による会談を数回にわたり開いた」、「(自転車競技法などの)法令に基づいて慎重な議論をし、(設置許可の)判断をしたと考えている」

 経済産業省車両課は、コメントを差し控えたいとしております。

 別府市長の井上氏:「別府市としてはコメントする立場にありませんが、その推移は見守ってまいりたいと考えています」(これは、文書によるものです)

 同記事には「一定の評価できる」と題された私のコメントも掲載されております。これは、3月19日の午後、大分合同新聞の記者氏からの電話を受けて研究室において話したことの要約です。

 「地方が中央に問い掛ける日田市の行動には、一定の評価ができる。場外車券場設置に関し、地元はかやの外となる自転車競技法は見直すべきだ。国と地方との間で、問題が起きることはこれからもあるはず。今後は行政同士の訴訟が増えるのではないか。」

 最後に、「大分発法制・行財政研究」に附属している「公園通り」にも記したことを再掲載します。これは、ひたの掲示板にも記し、日田ネットIRISの「みんなの掲示板」にも記したことです(若干の修正を加えた箇所もあります)。

 日田市の提訴は、地方分権改革がすすめられる中、地方自治体、そして何よりも地域住民の主体性として「まちづくり」、地域づくりをすることを認めなかった(あるいは無視してきた)従来の法体系(さらに行政)に対する重大な異議であると考えられます。

 地方自治法第1条の2第2項にも、国は(中略)住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として(中略)地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない」と規定されております。そうであれば、地域の声が届かないようになっているこれまでの法律は、見直されなければなりません。

 私も、同じ大分県民として、できる限り、対別府市訴訟および対経済産業省訴訟の傍聴をしたいと思います。そして、ホームページなどでも、この問題に関する発言を続けていきます。

 以上は、ひたの掲示板556番に記したことです。

 そして、読売新聞2001年2月24日付朝刊掲載の拙文にも記した通り、この問題に関する別府市側の対応は、どう考えても不適切な点が多いと思われます。それだから、別府市議会がおかしくなったのでしょう(正常化しましたが)。

 今回の訴訟については、傍聴などを通じて、日田市、そして市民の皆様を支援できたら、と考えています。


(初出:2001年3月20日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第23編

 3月議会が、日田市、別府市の双方において行われております。サテライト日田問題がどのように展開するのか、注目を集める中での議会なのですが、今、別府市議会が紛糾しているようです。この模様は、大分合同新聞2001年3月7日付朝刊5面に掲載されております。一方、3月8日、日田市議会において、大石市長は、21日にも経済産業省を相手取った設置許可無効等確認訴訟を提起する旨を表明しました。また、別府市および 溝江建設との話し合いも予定されていたようですが、別府市および溝江建設が、日程的に26日以降でなければ調整がつかないとのことです。おそらく、そのために、3月21日に提訴という結論になったのではないかと思われます。

 3月6日の別府市議会本会議は、議会運営委員会委員の人事をめぐって紛糾しました。このため、自然散会となり、別府市の平成13年度予算案も上程されておりません。このままの状態が続くのか、行方はわかりません。

 2月8日の別府市議会臨時会において、サテライト日田設置関連補正予算案は否決されました。この時、与党会派である自民党議員団は賛成の立場を採っていたのですが、3名の議員が反対に回り、否決されたのです。このことから、3名が自民党議員団を脱退し、新会派を結成しました。このことについては、第20編および第21編において触れました。 この臨時会のことが原因となっているのかどうかは不明ですが、自民党議員団(13名になっています)は、会派を「自民党議員団」(5名)、「自民党議員団第二クラブ」(5名)および「自民党議員団第三クラブ」(2名)に分け、さらに1名が一人会派である「行財政改革クラブ」に合流するという内容の会派届を提出しました。別府市議会には、2名以上から構成される会派から委員を選ぶという規定があるようで、この方法によれば、議会運営委員会における委員の構成上、与党が優位になる訳です。実際、自民党系の諸会派および行財政改革クラブから6名、他会派から5名の委員が指名されております。このことにより、サテライト日田問題について、別府市議会としても推進の立場を強めようとしたものとも考えられます(早速、「ひたの掲示板」に批判が書かれておりました)。

 しかし、こうした新会派結成の動きが事前に知らされていなかったため、当然ながら、他会派から猛烈な反発が浴びせられ、事態は三ケ尻正友議長に対する不信任動議が出される寸前まで進展しました。結局、この動議提出は認められず、話し合いもつかないまま自然散会となり、自民党系諸会派の委員6名が出席して委員会を開き、委員長を選任しました。 このようなことが認められるのか否か、手許に資料がないため、判断を差し控えておきます。別府市議会事務局は、今回の委員指名選任について、条例上問題はないとしております。

 一方、大分合同新聞2001年3月8日付朝刊朝F版21面は、昨年12月9日に行われたサテライト日田設置反対のデモ行進にも参加した別府市の市民団体「サテライト日田設置を強行する別府市長に腹が立つ会」が3月7日に別府市役所を訪れ、設置計画の断念および日田市への謝罪を申し入れました。しかし、別府市の対応はこれまでと全く変わっておりません。

 このまま、サテライト日田問題は続くのでしょうか。平成12年度もあと少しで終わります。

 ここで、方向を転換いたします。

 私は、3月2日、或る用件があって日田市へ参りました。日田市役所でサテライト日田問題についてのお話も伺ったのですが、現段階ではここに記すことができません。 ただ、市役所に置かれていた「サテライト日田設置反対女性ネットワーク」による「サテライト日田設置反対」のビラと、「タウン情報Hita」第232号のことについては、ここに記しておきたいと思います。

 まず、「サテライト日田設置反対」のビラです。作成された日時は書かれてはおりませんが、2月5日に配布されたものです(第20編も参照して下さい。また、このビラは、第18編において触れた「チラシ」のことではないかと思われます)。そのビラに書かれていたことを、一部ですが引用しておきます。

 「全国のサテライト設置反対運動をしているところでも、住民の心からの反対の声が、撤回の大きな力となっています。/今や、サテライト設置に関するトラブルは、全国的な社会問題なのです。私達のところへも各地の設置反対団体から多くのメッセージが届いています。日本中の場外車券売場に反対する方々から、今日田は注目されているのです。市長、市議会、市民が一体となっての反対表明は全国一箇所だけです。」(/は原文における改行箇所。なお、原文には太字の強調箇所がありますが、引用に際して省略しました。)

 次に、「タウン情報Hita」第232号です。発行日は2001年2月18日となっております。その6面「フリートークコーナー」において、テーマがサテライト日田問題とされていました。私は、市役所内で読み、持ち帰りました。賛否両論が寄せられていました。また、パチンコ屋があるのに何故サテライト日田はだめなのかという意見もありました。

 日田市民の中でも賛否両論がある訳ですが、そのほうが健全です。また、パチンコ屋はどうなのかという問題も、たしかに存在します。しかし、川崎市出身の私からみれば、パチンコ屋と場外車券売場(より一般化すれば場外券売場)とは、少々性質が違うと思われます。また、設置基準も異なるのです。渋谷、新宿、浅草の場外馬券売場のそばを何度も通っていますが(私は競輪や競馬などで遊んだことがありません)、競馬開催日ともなると、付近の道路は渋滞しますし、時間帯によっては駅から場外馬券売場までの道路に多くの人が列をなします。

 日田市の場合、現地を2度訪れた経験から考えると、国道386号線の渋滞が予想されます。サテライト日田設置予定地の駐車場は、現在でも車の数が多いと思われます。実際、昨年12月3日に現地を訪れた際、私は、駐車の場所を探すのに苦労しました(なお、第6編も参照して下さい)。

 現在の私の立場は、読売新聞2001年2月24日付朝刊36面(大分地域ニュース)に掲載された寄稿文に示した通りです(第22編に全文を掲載しております)。まず、この問題については、公営競技それ自体の是非ではなく、まちづくり・地域づくりに関わる事柄であるということを認識しなければなりません。そして、実質的な当事者である市町村の対応が問われているのです。寄稿文の末尾は、その点を示したつもりです。 なお、上記寄稿文について、日田市の方々からは御意見をいただきましたが、別府市の方々からはまだいただいておりません。真摯な御意見を賜りたいと存じます。


(初出:2001年3月9日)

2025年5月6日火曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第22編

 (はじめに、今回、寄稿文を作成するにあたり、読売新聞大分支局記者の小野鐘好氏から、同新聞をはじめとした記事をファックスでお送りいただきました。このホームページの記事を作成する上でも、非常に役立ちました。この場を借りて、御礼を申し上げます。)


 1月の段階で、サテライト日田設置許可に対する無効等確認訴訟を日田市が提起する意向を示していたことについては、第16編において取り上げるとともに、その可能性を検討しました。2月1日、日田市議会臨時会は、市報べっぷ2000年11月号掲載の訂正を求める訴訟の提起に関する議案を全会一致で可決しましたが、この時、市議会では上記無効等確認訴訟の提起を早期に求める声も出ておりました。

 2月20日、日田市長の大石昭忠氏は、日田市議会全員協議会に出席し、上記無効等確認訴訟の提起を表明しました。2月8日の別府市議会臨時会にてサテライト日田設置関連補正予算案は否決されたものの、設置許可自体の効力が失われている訳ではなく、経済産業省も設置許可の撤回に消極的であることが、訴訟提起の理由です。このことを、私は、仕事中、NHKラジオ第一放送の大分ローカルニュースで知りました。読売新聞2001年2月22日付朝刊24面(大分地域ニュース)および同13S26面などでも報道されております。この訴訟が提起された場合、元日本弁護士会連合会事務総長の寺井一弘弁護士ら5氏が日田市側の訴訟代理人を務めることも報道されております。

 読売新聞2001年2月22日付朝刊24面(大分地域ニュース)には、寺井氏による次のようなコメントが掲載されております。「地方自治の意味を問いただす重要な裁判になるだろう。憲法で保証された地方自治が、いい加減な許認可制度で侵されようとしている現状を考えれば、絶対に敗訴してはならない」。

 また、日田市も、設置許可などが「反対運動をしてきた日田市の意向を無視しており、地方自治の本旨を定めた憲法九二条の趣旨に反し、地方自治体の自治権と自己決定権を侵害している」という見解を示しております(同じ記事によります)。

 2月20日、フジテレビ系の「ニュースジャパン」で、およそ5分間、サテライト日田問題が報道されました。実のところ、私はこの番組を見ておりません。数人の方から、基本的な流れが報道されていたという話を伺いました。このことを受けて、翌日からの「ひたの掲示板」ではサテライト日田問題に関する書き込みが増えました(そのうちの一人が、他ならぬ私です)。別府競輪場のホームページの「質問コーナー」は、相変わらず休眠状態です。

 そして、ついに、2月23日、日田市議会臨時会は、この無効等確認訴訟の提起を全会一致で可決・承認しました。実際には、別府市に設置の断念を要請し、別府市、 溝江建設、そして経済産業省の意向や動きなどをみて、3月末までに提起される模様です。別府市議会3月定例会では、サテライト日田設置関連補正予算案が提出されないようですが、別府市執行部が設置の姿勢を変えていないため、無効等確認訴訟の提起に踏み切ったことになります。

 この臨時会の模様は、大分合同新聞2001年2月24日付朝刊朝F版27面、読売新聞同日付朝刊36面(大分地域ニュース)、朝日新聞同日付朝刊13版34面および大分13版31面などで報道されました。

 (大分asahi.com/ニュースでは一本化されて、http://mytown.asahi.com/oita/news02.asp?kiji=641 に掲載されています)

 当日、傍聴席には日田市連合育友会会長の後藤功一氏など30名ほどの市民が訪れました。臨時会は10時に開会され、提案理由の説明がなされた後、総務委員会において審議されました。朝日新聞上記大分13版31面によれば、委員会の席上、委員から、日田市の原告適格性、別府市や 溝江建設が取り下げた場合の対応、市民の理解などに関する質問が出されたということです。執行部側は、3月15日付の日田市報でこの問題に関する特集を組んで理解を求める旨を示しました。午後、本会議の席上、総務委員会委員長の梶原明治氏により、提訴議案を可決した総務委員会の審査報告がなされました。梶原氏は「この裁判は地方分権の時代における地方の自治権、自己決定権を明確にするための意義深いもの。地方自治権の侵害が、全国の自治体で、繰り返されることのないようにする必要がある」と述べ、議会も強い協力をする意向を示しました(朝日新聞上記記事)。その後、「民意を反映しない許認可制度をめぐる論議に一石を投じる意義深い訴訟」、「憲法が定めた地方自治の本旨を明確にし、許可の違法性を追及するべき」という賛成討論(大分合同新聞上記記事)がなされ、全会一致で可決されたのです。

 閉会後、大石市長は、この訴訟を通じて日田市の主張を通していきたいという旨を示し、同時に、許可の取消によって訴訟の意味がなくなるとも述べて、設置許可の撤回に期待感を表しました。

 この日田市議会による議決に関連して、私は、2月22日、読売新聞大分支局の小野記者より依頼を受け、私の意見を示す寄稿文を作成しました(初めてのことです)。これは、2月24日付の読売新聞朝刊36面(大分地域ニュース)に掲載されました。以下、その全文を紹介いたします(なお、掲載の段階において若干の修正を受けており、この点については私も了解しております)。

 

 サテライト日田問題について(訴訟提起の議案可決を受けて)

 この問題は、条例制定権の限界、まちづくりの進め方、住民意思の反映の仕方、市町村関係の在り方など、地方自治における重要な諸課題が凝縮されたものである。また、地元住民の意見を十分に反映させる仕組みを予定していない自転車競技法の問題点を、改めて浮き彫りにしたものと言える。

 今回、日田市は、別府市に対し市報記事訂正を求める訴訟を提起したのに続き、経済産業省に対し、サテライト日田設置許可無効等確認訴訟の提起を、議会の同意により正式に決定した。設置許可が出されたのは昨年六月であるから、行政事件訴訟法第十四条第一項により、設置許可取消訴訟を提起することはできない。別府市執行部が設置の姿勢を全く変えておらず、経済産業省も事態の具体的な打開策を示していないことから、取消訴訟より要件が厳しい無効等確認訴訟の提起に踏み切らざるをえなかったのであろう。

 しかし、この訴訟において日田市の主張が認められるかという問いに対しては、消極的に回答せざるをえない。無効等確認訴訟を定める行政事件訴訟法第三十六条は非常に難解な条文であるが、まず、本件設置許可により日田市がいかなる損害を受けるおそれがあるのか。次に、日田市が設置許可の無効等の確認を求める法律上の利益を有すると認められるのか。特に、法律上の利益については、自転車競技法の解釈上、また判例の傾向からみても、日田市に認めることは難しいと思われる。仮にこの二つの要件を充たしたとしても、設置許可に係る行政裁量という壁にぶつかる。これを突破することは非常に難しいのではなかろうか。

 また、この問題を概観すると、両市執行部の対応の違いが顕著であることに気づく。特に、昨年末頃からの別府市執行部の発言内容などを考えると、不適切な点が目立つ。これでは、日田市側の理解を得られないのも当然であろう。

 

 ここで、若干の補足あるいは注釈を加えておきます。裁量の問題です。

 実は、ここでは行政裁量、すなわち、設置許可に関する経済産業省(設置許可当時は通商産業省)の裁量が問題になるのは当然のことですが、そればかりでなく、立法裁量も問題となります。他の公営競技関連法では、場外券売場の設置許可に関して地域住民の同意を要件にしているにもかかわらず、自転車競技法では法律上の要件となっていないからです。議案などを目にした訳ではないので、詳しいことはわかりませんが、間接的にはこの立法裁量も問題とされるのではないかと思われます。

 しかし、日田市という地方公共団体が国(経済産業省)による設置許可処分の無効等確認訴訟を提起するということ自体は、大きな意味を持つものと思われます。この種の反対運動などは、日田市のみでなく、全国でみられます。また、まちづくり、地域づくりは、本来、市町村が、とくに住民が主体的に取り組むべきものです。憲法第92条以下において地方自治が制度的に保障されているにもかかわらず、これまでの多くの法律は、地方公共団体、さらには住民の自主性をあまりにも軽視してきました。高度経済成長期であれば、こうした法体系についても一定の説明がつきせんが、もうそのような時代は過ぎ去りました。同種の公営競技関係法において、管轄省庁が違うからといって、許可申請手続に、決して無視しえない相違があるということも、理解の範囲を超えます。日田市の今回の行動は、全国に、改めて地方分権とは何かという問いを投げかけることになるでしょう。

 私も、今回の寄稿をきっかけとして、日田市が無効等確認訴訟にて勝訴しうる方法を探ってみたいと考えています。

 なお、ここで、行政事件訴訟法の規定を紹介しておきます(説明などについては「第16編」を御覧下さい)。


 (出訴期間)

 第十四条 取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つたから三箇月以内に提起しなければならない。

 二 前項の期間は、不変期間とする。

 三 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。但し、正当な理由があるときは、この限りでない。

 四 第一項及び前項の期間は、処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、その審査請求をした者については、これに対する裁決があつたことを知つた日又は裁決の日から起算する。

 (無効等確認の訴えの原告適格)

 第三十六条 無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。

 

 なお、前述のように、日田市は、サテライト問題について、3月15日付の日田市報に特集記事を掲載する方針を立てています。私も、是非とも読ませていただきたいと思います。

 本当は、まだ記したいこともあるのですが、差し障りがあるということも予想されますので、ここでは控えておきます。


(初出:2001年2月25日)

「ひろば 研究室別室」の移転について

   長らくgoo blogで続けてきましたが、あれこれと考えた結果、2025年8月7日より、はてなブログのほうで書いていくこととしました。何卒よろしくお願い申し上げます。  新しいアドレスは、次の通りです。   https://derkleineplatz8537.hatena...