2025年5月4日日曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第17編

 サテライト日田問題が、別府市政を揺るがしております。この問題をめぐる別府市の対応を巡り、別府市民からの批判も、少しずつではありますが増えつつあり、別府市議会でも批判や要望が相次いでおります。対処の仕方を誤れば、市政が混乱する、という事態になりかねません。

 1月22日、大分大学での憲法の講義が始まる時、別府市に在住する1年生の男子学生が、1枚のビラを見せてくれました。それは、12月9日の日田市による反対行動に連帯して参加した別府市の市民団体が別府駅周辺で配布していたというものです。配布していた日はわかりません。その後、日田市のホームページに設置されている「ひたの掲示板」にも、別府市民からの投稿がありました。中身は、やはりサテライト日田設置を批判するもので、サテライト宇佐、さらには別府競輪場そのものにも閑古鳥が鳴いているという旨が記されておりました。日田市、そして何よりも日田市民の反対の声が、少なからぬ別府市民にも共感を呼んでいる、ということでしょうか。そればかりでなく、別府競輪のホームページにある「質問コーナー」において、質問などに対する回答が一切なされておらず、別府市出身者が日田市民などの質問に対して意見を述べるという、考えようによっては珍妙な光景がみられます。私も、この「質問コーナー」をチェックしているのですが、驚いたことに、1999年に出された質問にはいまだに回答がなされておらず、昨年に出された質問は一つだけで、それについても回答がなされておりません。つまり、1年以上も、質問が店晒しになっている訳です。さらに、西暦2000年問題にも対応していないのか、昨年は100年、今年は101年と表示されていました。これらのことは「ひたの掲示板」でも話題となりました。

 その1月22日、この問題に関して新たな動きがありました。大分asahi.com/ニュースの1月23日付記事によれば、別府市の首藤広行観光経済部長、立川和洋競輪事業課課長補佐など9氏が、日田市を訪問されました。目的は、サテライト施設や運営内容を説明すること、および、2月7日に日田市の中央公民館にて開催される予定の説明会への案内です。サテライト日田設置反対連絡会に参加している17の市民団体代表を、3班に分かれた上で訪問されました。夕方までに訪問できたのは9団体の代表氏のもとでした。しかし、実際に面談しえたのは、日田市連合育友会の後藤功一会長と他1氏だけです。後藤氏は、設置に反対であるが説明会の話が来れば検討すると回答したとのことです。別府市側としては、競輪事業や施設の話ができなかった訳で、目的は果せなかったということになります。

 実は、これまで、別府市による説明会は行われていなかったようです。直接の設置許可申請者である溝江建設は、昨年、3回の説明会を開催しましたが、出席した市民は僅かであったとのことです。何故、別府市による説明会が開かれていなかったかについては不明ですが、これでは日田市民の怒りを買ってもおかしくありません。なお、2月7日に日田市中央公民館にて行われる予定の説明会には、別府市の大塚茂樹助役が参加される他、 溝江建設にも出席を要請するとのことです。このホームページを御覧になっておられる日田市民の方、別府市民の方、説明会について情報がございましたらお寄せ下さい。私も、可能であれば出席いたしたいと存じます(取材くらいしかできませんが)。

 1月25日には、別府市議会会派代表者会議が開かれました。大分asahi.com/ニュースの1月26日付記事によれば、別府市議会議長の三ケ尻正友氏が日田市議会議長の室原基樹氏と非公式に会談され、別府市報掲載記事訂正問題について憂慮を抱いていることを確認、室原氏は話し合いについて打診されたとのことです。この席上、大塚助役と首藤観光経済部長の報告がなされました。その内容は、昨年12月の定例市議会の後、別府市当局が、日田市、日田商工会議所、経済産業省などに計16回も出向いたこと、2月7日の説明会開催のことです。大塚助役は、市報問題とサテライト設置問題とは別であるという立場を採られた上で、日田市と別府市との間に接点がないこと、市報問題などについての別府市の回答を日田市が受け取らないと述べられております。

 しかし、市議会議員諸氏から、市報問題の解決を望む声が相次ぎました。別府市は、市報2000年11月号掲載記事について、訂正の必要性がないことを理由に日田市の要求を拒絶してきましたが、これでは何の解決策にもつながらないという批判です。市議会からこうした意見が出された以上、別府市としては、訂正しないことの理由を、これまでより詳細に示す必要があります。


(初出:2001年1月27日)

2025年5月3日土曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第16編

 再び、僅か一日足らずで続編ということになりました。

 ついに、日田市長の大石昭忠氏は、1月19日に開かれた日田市議会各派代表者会議の席上、経済産業省(または法務省)を相手取り、設置許可の取消または無効確認訴訟を提起する考えを明らかにしました。このことについては、2001年1月20日付の毎日新聞朝刊13版24面、西日本新聞朝刊15版37面、大分合同新聞朝刊朝F版25面などに掲載されています。また、朝日新聞朝刊13版31面および大分合同新聞朝刊朝F版25面は、日田市が別府市を相手取り、市報べっぷ2000年11月号掲載記事の訂正などを求める訴訟を提起する方針を固めたと報じております。こうした方針は、各派代表者会議で了承されております。しかし、地方公共団体が訴訟を提起するには、地方自治法第96条第1項第12号により、議会の同意を必要とします。このため、2月中旬にも臨時市議会が開催される模様です。議会が同意すれば(これまでの経緯から行けば、同意の可能性は非常に高いものと予想されます)、いよいよ、この問題が法廷に持ち込まれることになりそうです。

 このことを受けて、日田市のホームページに設置されている「ひたの掲示板」には、再びサテライト日田問題で多くの意見などが書き込まれています。 また、別府競輪のホームページには「質問コーナー」がありますが、「ひたの掲示板」にも投稿されている方が1月7日に放送された「噂の!東京マガジン」に基づいて「質問コーナー」に書き込みをされていました。しかし、何の回答もなされていません。この質問が西日本新聞に取り上げられたこともあり、にわかに「質問コーナー」が活気付いてきたことは、皮肉な現象です。先の質問には何の回答もなされていないことから、日田市民の方による怒りの書き込みなどがなされています。別府市の対応が注目されるところです。本来ならば、「ひたの掲示板」および別府競輪の「質問コーナー」に書かれている質問や意見などを紹介すべきでしょうが、投稿された方々の同意を得ていませんので、今回はいたしません。このホームページをお読みいただいておれば、御連絡下さい(今月の分については、プリントアウトをし、保存しております)。

 さて、新聞報道に戻りましょう。今回の動きに関して最も詳細な記事を掲載しているのは大分合同新聞ですが、それによれば、大石氏は、場外発券場設置について競馬と競艇に関しては地元の同意を法的な要件としているのに対し、競輪だけがそうでないことは法の下の平等に反すると述べ、さらに、 溝江建設に対する設置許可がなされた際に日田市に何らの通知もなされなかったことについて、国の説明責任の問題である旨を述べられております。また、別府市との交渉については、解決困難であるという内容の意見を示されました。

 既に、日田市は、東京の法律事務所など法律の専門家に相談を持ちかけております。実は、経済産業省(または法務省)を相手取って訴訟を起こすとしても、要件などの問題があるからです。

 参考:ここで法務省が登場しますが、「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」第1条によれば、「国を当事者又は参加人とする訴訟については、法務大臣が、国を代表する」こととされています。また、同法の第2条第2項によれば「法務大臣は、行政庁(国に所属するものに限る。第五条、第六条及び第八条において同じ。)の所管し、又は監督する事務に係る前条の訴訟において、必要があると認めるときは、当該行政庁の意見を聴いた上、当該行政庁の職員で法務大臣の指定するものにその訴訟を行わせることができる。この場合には、指定された者は、その訴訟については、法務大臣の指揮を受けるものと」されます。これらのことを指すものと思われます。

 まず、設置許可取消訴訟ですが、行政事件訴訟法第14条第1項により、「取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つたから三箇月以内に提起しなければ」なりません。同第3項では「処分又は裁決の日から一年」と規定しているので、両項の関係が問題となりますが、第1項は当事者に通知されるなどの場合を定めたものであり、第3項は当事者が処分又は裁決のあったことを知っているか知らないかに関係なく期間を限定したものと解釈されます。この設置許可に関する法律関係の場合、経済産業省が行政庁、 溝江建設は当事者、別府市は実質的当事者ですが、日田市は第三者です。そうすると、第3項のほうが適用されそうです。しかし、日田市は、昨年6月に「日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例」を制定しています。その他の事実・事情なども考え合わせれば、第1項のほうが適用され、取消訴訟提起は不可能ということになるでしょう。

 次に、行政事件訴訟法第36条に基づく設置許可無効等確認訴訟です。これによるならば、第14条に規定される出訴期間は関係ないことになります。しかし、第36条は非常に難解な条文です。第一に、日田市が「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」である場合に「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り」提起できるのか、それとも「損害を受けるおそれのある」だけで提起できるのかという問題があります。また、第二に、日田市が「その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」に該当すれば、「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り」提起できることになります。

 第一の場合ですが、そもそも、本件の場合、日田市は「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」に該当するのでしょうか。この点につき、日田市は、街のイメージダウン、風紀の悪化などをあげるものと思われますが、具体的にいかなる損害を被るおそれがあるのかを示す必要があると思われます。ここをクリアするとして、次は「当該処分……」という要件が必要か不要かという問題です。これについては学説も判例も分かれているようです。忠実に解釈するならば「当該処分……」の要件は必要となります。しかし、それを不要と解する学説や判例もあり、逐条解説書によっては、判例が「当該処分……」の要件を不要と解する説に固まっていると記すものもあります。 第二の場合ですが、日田市が「その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」に該当するならば、設置許可に関して「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴え」と言っても、本件の場合、このような訴え(当事者訴訟など)が可能なのか、そもそも「現在の法律関係」が存在するのか、若干の疑問があります。損害賠償請求が可能であるとしても、それによって「目的を達することができ」るのでしょうか。 実は、この無効確認等請求訴訟について、あまり自信はないのですが、結局のところ、日田市に法律上の利益があるのか(事実上の利益では足りません)、現にサテライト日田が設置されるとしてどのように具体的な損害を受けるおそれがあるのか、ここにかかってきます。

 最後に、損害賠償請求です。この場合も、やはり具体的な損害(この損害は、物質的な損害に限られません)を受けたことをどこまで立証できるかにかかってきます。その意味において、設置により街のイメージダウンになるという主張は、具体的な損害を示すものと言いうるか、疑問が残ります。街の風紀が悪くなるなどの主張についても同様です。

 このように考えると、日田市が経済産業省(または法務省)を相手取って訴訟をするとしても、要件の段階で苦しいのではないかと思われます(却下判決が下される可能性が高いのではないでしょうか)。それだけ、日田市の立証責任は重くなると考えられます。 また、要件をクリアして実体判断に行く場合ですが、訴訟で自転車競技法の不備を主張する場合には、他の法律と同様に地元の同意を要件として規定しなかった、規定するように改正しなかったという不作為を主張することが考えられます(これが一番現実的でしょう)。ただ、その場合、立法裁量の問題が出てきます。また、本件設置許可についても、行政裁量の壁を突破できるかどうかが鍵となります。

 別府市に対する訴訟のことについては、既に「第14編」で記しておりますので、具体的な動きがみられ次第、再び取り上げることにいたします。 一方、別府市側の対応ですが、大分合同新聞上掲記事によれば、同市大塚茂樹助役名により「市報べっぷの掲載記事に関して訴えが提起された場合、専門家らとも協議した上で、適切に対処したい」とするコメントを出しております。しかし、サテライト日田設置については、従来通りに進めるという意向を崩しておらず、22日にも、幹部職員(競輪事業課長氏など数名)を日田市に派遣し、説明会を開くこととしています。その際にはサテライト日田設置反対連絡会にも参加を要請するとのことです。

 前回、経済産業省側が解決に向けて動き出した旨を紹介しました。しかし、日田市が経済産業省(または法務省)に対する行政訴訟を提起し、別府市に対する記事訂正等請求訴訟を提起する方針を固めていることからすれば、タイムリミットは今月中、遅くとも2月の臨時日田市議会開会直前までということになります。こうなると、解決に向けて考えられうる方向は、第一に別府市の設置計画白紙撤回であり、第二に経済産業省による設置許可撤回(取消)ということになりそうです。また、日田市が行政訴訟を提起して却下された、または棄却されたとしても、法的な問題は別として、経済産業省の競輪政策に大きな見直しが迫られることは間違いなく、自転車競技法の改正は避けられないものと思われます。また、別府市も、この設置許可に関しては実質的当事者ですから、何らかの対応をとらざるをえません。その意味で、以前に記した私の見解は修正されなければなりません。

 但し、別府市側についてみれば、少なくともサテライト日田設置に関しては、日田市への対応策がない訳でもありません。日田市が行政訴訟を提起したとしても、そのことによって設置許可の効力が停止せず、消滅もしないというのが原則です(行政事件訴訟法第25条を参照)。昨年12月の別府市議会で継続審査となったサテライト日田関連特別予算が可決されるならばという前提ですが、設置を強行する手があるのです。訴訟には時間がかかります。その間に設置が済めば、裁判の判決は、日田市の訴えの利益がないとして却下ということになります(同法の第9条も参照)。但し、この方法は、法的には認められるとしても、後々の重大な問題を惹起することになるでしょう。


(初出:2001年1月20日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第15編

 最初に:以下の内容は、2001年1月20日掲載時のままです。そのため、サイトのアドレスは古いものです。御注意ください。


 このところ、市町村合併の件に気を取られていて、サテライト日田問題のほうにまで手が回らなかったのですが、また新たな動きがみられたようなので、ここで記しておきます。なお、今回の内容についての情報は、「ひたの掲示板」に東京の古川昭夫氏が書かれていたところから得たものです。

 これまで、サテライト日田設置を許可した経済産業省(旧通商産業省)は、この問題について表立った動きを見せていなかったのですが、ようやく、解決に向けて動き出したようです。このことについては、2001年1月19日付の朝日新聞朝刊大分13版25面、毎日新聞朝刊大分版19面、西日本新聞1月19日付朝刊26面(大分)などが報道していますが、それぞれの記載に若干のズレが存在するように思われるので、記事の内容を紹介しておきます。

 まず、毎日新聞2001年1月19日付朝刊大分版19面によれば、経済産業省車両課は、毎日新聞社の取材に対し、《法的に条件を満たせば許可せざるを得ないとした上で「業者が建物を作るだけでは発券できない。別府市が『車券を売りたい』と明確な方針を持つから許可を出した」と経過を説明。さらに、日田市民の反対運動について「重く受け止めている。建設予定地周辺との調整はこれまでも指導したがうまく行かずに困っている」》旨を述べています。さらに、「許可から1年過ぎても開設に至らなければ、許可を取り消す場合もありうる。別府市の3月議会までに円満解決を目指す。内容は言えないが、既に両市への働き掛けを始めている」ことを明らかにしました。

 ここでいう設置許可の取消ですが、行政法学でいう撤回の可能性が高いと思われます。行政法学においては、取消と撤回とを区別しております。ここで少々説明を加えさせていただきます。

 取消とは、許可などの行政行為が違法であった場合に、その行政行為の効力を失わせることを意味します(その場合、原則として、その行政行為がなされた時点に遡って効力が失われます。これを遡及効といいます。但し、この問題における設置許可のような場合には、遡及効が否定されることも考えられます)。

 これに対し、撤回とは、許可などの行政行為が、成立時点において適法であったが、その後の事情の変化などにより、もはや存続させる意味が失われた場合に、その行政行為の効力を失わせることを意味します(この場合、原則として、遡及効がありません。但し、補助金適正化法第17条第1項のように、遡及効を認める場合もあります。この点につきましては、森稔樹「連邦行政手続法改正後における行政行為の撤回」佐藤英善=首藤重幸編・行政法と租税法の課題と展望[新井隆一先生古稀記念。2000年、成文堂]所収を参照して下さい)。

 何故、このような区別をするのでしょうか。例えば、自動車運転免許を考えて下さい。通常、自動車運転免許は、実技試験および学科試験に合格し、視力検査などを経て交付されますが、それらの際に不正などがなされなければ、適法に免許が交付されます。そうして得られた免許を有する者が、ある日、酒酔い運転か何かの理由で免許を「取り消された」とします。この時、遡及効を持ってしまうと、免許交付時から無効となりますから、彼は無免許運転だったという結論になります。これでは不合理ですから、区別する必要があるのです。

 経済産業省車両課の上記のコメントは、設置許可が適法になされたことを前提としております。既に何度か述べましたように、私も、今回の設置許可自体は適法であったと解釈しております。以前にも古川氏への反論として記しましたが、法的にみれば、たとえ不当な許可であったとしても、行政庁側に裁量が認められる限りにおいて、裁量の行使に逸脱または濫用がない限り、明らかに違法であるとは言えず、適法とされる範囲内にあるのです。しかし、今回の設置許可が結果として失敗であったということは否めません。経済産業省車両課自身、日本共産党大分県委員会が提出した設置許可取消要望書に対して「行政指導で解決すべき問題だった」と述べております(もっとも、何がその問題であるか、記事からは明確でない部分があります)。

 それでは、今回の設置許可を撤回するとして、その法的根拠は何でしょうか。実は、行政法学において、通説・判例によれば、行政行為の撤回は、それ自体が行政行為であるにもかかわらず、個別の法的根拠を必要としません〔例、塩野宏・行政法Ⅰ[第二版増補](1999年、有斐閣)142頁〕。これに対して、許可のような行政行為の撤回については法的根拠を必要と考える説も存在しますが、経済産業省は通説・判例の立場を採っています。

 次に、2001年1月19日付の朝日新聞朝刊大分13版25面および西日本新聞1月19日付朝刊26面(大分)によれば、日本共産党別府市議団は、1月16日、同党の衆議院議員1氏および大分県議会議員1氏とともに経済産業省車両課長の瀬戸比呂志氏と交渉しました。その席上、瀬戸氏は「地域社会との調整を重視することは基本」であるという認識を示し、「日田市民の反対運動を重く受け止める。両市の対立は競輪事業のイメージダウンにもつながる。何とか円満に解決したい」と発言されたとのことです。また、既に日田市、別府市、設置業者の 溝江建設との折衝に向けて動いていることを認められたそうです。また、別府市議会3月議会が2月末に開会されるため、それまでに解決したいという旨を示されております。

 前回、私は、1月13日にサテライト日田建設予定地を訪れたが建設工事が進んでいないようであると記しました。昨年12月の別府市議会で継続審査となったことも原因としてあげられますが、おそらく、この時点で経済産業省が何らかの行動をとっていたものと思われます。

 さらに、1月18日、同党別府市議団(西日本新聞記事では北部地区委員会)は、別府市長の井上信幸氏に、サテライト日田設置断念を視野に入れつつ日田市との話し合いをすること、日田市が求めている市報べっぷ11月号の記事の訂正について文書で回答すること、発券などサテライト日田関連予算を取り下げることを申し入れました。

 しかし、別府市は、この問題についてとくにコメントなどを出しておりません。おそらく、市報べっぷ11月号掲載記事の訂正には、少なくとも直ちには応じないものと思われます。また、日田市との話し合いについては、既に何度か行われています。サテライト日田関連予算については、前回の市議会で継続審査となっておりますので、現段階では何とも言えません。

 おそらく、経済産業省が動き出した背景は、おそらく昨年12月9日の反対行動を中心とする日田市側の姿勢であり、そして、今年1月7日に放送された東京放送系の番組「噂の!東京マガジン」(残念ながら、大分県では放送されていません)でこの問題が取り上げられ、全国的な反響があったことであろうと思われます。また、日田市のホームページに設置されている掲示板の影響力を忘れてはいけません(私も長らくこの問題を追いかけてきましたが、このホームページについては、ほとんど影響力などないでしょう)。こうしたことからすれば、今回を含め、市議会議員の動きは、あまりにも遅すぎます。もし動くのであれば、遅くとも昨年の12月までが、タイミングとしては相応しかったと思われます(但し、別府市議会の日程などを無視しておりますので、御注意下さい)。

 なお、古川昭夫氏ホームページで、サテライト日田問題に関する資料が掲載されています。

 http://www.seg.co.jp/hanshaken/zenkoku/hita/index.htm


(初出:2001年1月20日)

2025年5月2日金曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第14編

 第二部が始まってから僅か一日で続編を公表することに、若干の戸惑いもあります。しかし、いよいよ、この問題が法廷で争われる可能性が高くなってきました。そこで、第14編をお届けいたします。

 今回は、大分合同新聞2001年1月13日付朝刊朝F版25面の記事を基にしつつ、記していくこととします。

 1月10日に別府市の大塚茂樹助役が日田市役所を訪れたのに続き、12日、別府市の首藤広行観光経済部長など競輪事業担当者が、日田市役所と日田商工会議所を訪れました。目的は事務的協議でした。しかし、この時、日田市側の担当者が会議中で面会できず、日田商工会議所で反対住民(市民団体)に対する説明会を開きたいと要請し、今後も説明のために訪問を続けるという意向を伝えました。

 前述の会議がいかなるものであったのかはわかりません。しかし、12日、日田市側は、改めて市報べっぷ11月号に掲載された記事の訂正を求める「再通告書」を、別府市長井上信幸氏に宛てて、内容証明郵便にて送付していました。既に昨年の11月7日に、やはり内容証明郵便にて同旨の要求がなされております。

 日田市の首藤洋介助役によれば、今回の「再通告書」には、回答期限を明示していないとのことです。その理由としては、提訴をにらんで明確な意思表示をしておきたいということがあげられております。別府市が日田市の要求に応じない場合には、早ければ1月第3週に訴状の作成に入り、2月ごろに臨時の市議会を開いて訴訟手続の準備を整えるという見通しを立てております。訴訟での請求は訂正記事の掲載ですが、損害賠償金については検討中とのことです。

 これに対し、別府市は、市報掲載の記事に誤りがなく、訂正には応じないとの立場を崩していません。そのため、現状のままでは、訴訟に至ることは確実です。

 そこで、訴訟の提起についてですが、おそらく、日田市は、民法第709条・第710条に基づき、市報べっぷ11月号掲載の記事によって日田市の名誉を害されたとして訴え、同時に、第723条に基づく「適当ナル処分」(この場合は市報べっぷなどへの訂正記事の掲載)を裁判所が命ずるように請求するものと思われます。

 まず、訴訟要件の点ですが、問題はないものと思われます。管見の限りにおいて、或る市町村が別の市町村に対して民事上の損害賠償を請求して提訴したという例を聞いたことがありませんが、市町村は普通地方公共団体ですから法人です(地方自治法第2条第1項)。従って、名誉権も認められます。別府市がサテライト日田設置を断念した場合には、日田市の訴えの利益がなくなりますが、そうなれば日田市は訴えを取り下げるでしょう。

 次に、本案の点です。日田市の論証次第ではありますが、市報べっぷ11月号に掲載された記事が、いかなる根拠に基づいて書かれたものであるかが最大のポイントとなります。仮に、別府市の主張が正しいと認定されるならば〔別府市が逆提訴(反訴)することも考えられます〕、当然、日田市の請求は棄却されることになります。また、別府市の主張が誤っていて、日田市の名誉を害したとしても、別府市に故意も過失もなければ、日田市の請求は認められませんが、このようなことは、余程の場合でなければ考えられません。現在の私には、訴訟が提起された場合にどちらが勝訴するかについて、判断するに足りる材料もありませんし、判断する資格もありません。しかし、日田市が提訴をする構えを見せているのは、勝訴への見込みがあるからでしょう。仮に日田市が敗訴したとすれば、日田市長をはじめとした政治問題に発展することになるからです。

 ここで、民法の条文を示しておきます。

 第709条 故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス

 第710条 他人ノ身体、自由又ハ名誉ヲ害シタル場合ト財産権ヲ害シタル場合トヲ問ハス前条ノ規定ニ依リテ損害賠償ノ責ニ任スル者ハ財産以外ノ損害ニ対シテモ其賠償ヲ為スコトヲ要ス

 第723条 他人ノ名誉ヲ毀損シタル者ニ対シテハ裁判所ハ被害者ノ請求ニ因リ損害賠償ニ代ヘ又ハ損害賠償ト共ニ名誉ヲ回復スルニ適当ナル処分ヲ命スルコトヲ得

 実は、1月13日、サテライト日田建設予定地を訪れました。昨年の12月4日に起工式が行われたことは知っています。鉄板による囲いが一部消滅していましたが、元の駐車場に戻ったかのようで、数台の車が停められており、何の工事も行われていないように見えました。やはり、別府市議会が「継続審査」を決定したことによるかと思われます。


(初出:2001年1月14日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第13編

 サテライト日田問題は、2000年12月の別府市議会において「継続審査」とされたことにより、年を、そして世紀を越えることとなりました。そこで、今回からは第二部として、引き続きこの問題を扱っていきたいと思います。

 まず、2001年1月7日、この問題を扱った「噂の! 東京マガジン」(TBS系)が、13時から放送されました。第12編でも書きましたように、私はこの番組の取材を受けました。2000年12月21日、TBSの方など取材班4氏が、大分大学にある私の研究室を来訪されました。この模様は録画されていたのですが、数日後、私の携帯電話に、取材のシーンは放映されないかもしれないとの連絡を受けました。取材班の方々は、このホームページを御覧になっていたようで、非常に綿密な取材をなされておりました。それは、当日の放送内容からもわかります。私自身は、川崎市の実家で見ていましたし、録画もしています。多くの方が御覧になられたでしょうし、TBSのホームページでも内容を見ることができますので、ここで詳しく紹介することは無用でしょう。

 ちなみに、12月27日、私が大分を離れようとしていたその時に、大分大学地域連携推進室経由でTOS(テレビ大分)から電話が入り、意見などを聞かれました。時間もなかったので、このホームページのアドレスを教え、それを参考にしてくれるように頼んだのでした。TOSで私の意見が紹介されたのか否かなどについては、わかりません。

 ここで、あえて苦言を申し上げておきます。この問題は、昨日今日に起こったものではないのですから、それなりの下調べをしておいていただきたいのです。いくら私のコメントが欲しいということであっても、何を答えるべきか迷うような質問をいただいても、的確な返事をすることはできません。一から話をして欲しいというのであれば別ですが、取材する側が或る程度の理解もなく尋ねるとしても、取材される側としては何も答えることはできません。

 実は、「噂の! 東京マガジン」は、同じTBS系列であるOBS(大分放送)では放映されておらず、ケーブルテレビを別とすれば、福岡県に隣接し、RKB毎日放送を受信できる日田市や中津市などでしか見られません。そのことにより、大分県内で十分な効果があったどうかは疑問であると同時に、全国的に別府市のイメージが悪化するのではないかという懸念もあります。

 また、当日の放送では、私の研究室での取材シーンは登場せず、このホームページのアドレスなども紹介されておりません(翌日、私が大分に戻った時、お詫びの電話が入りました)。

 しかし、番組の内容からみても、また、私自身の立場からしても、私の意見が正面から番組中で扱われなかったことは、正解であったと考えております。仮に扱われた場合、抗議や非難がよせられたことでしょう。番組自体は良いものであったと思いますが、問題の性質上、多くの視聴者が抱くイマージュは、やはり別府市当局および別府市民に対する反発でしょう。また、私の意見が番組で紹介されていたとすれば、どちらか一方が悪いと決め付けているようにもとられかねません。それは私の意思にも反しますし、行政法学者としての立場にも関わってきます。

 このようなことを申し上げるのは、何も、私が新聞やテレビなどの取材に応じないということではありません。むしろ、協力いたしたいと思いますし、そこで私の見解も述べさせていただきたいと考えております。それをどのように扱うかは、取材された方々の御判断に委ねるべきことです。そして、このホームページでサテライト日田問題を扱っているのは、何よりも、行政法学者として、そして大分県民としての私の意見を、個人として明らかにしていきたいからに他なりません。

 そして、2001年1月11日付の日本経済新聞朝刊西12版39面に、サテライト日田問題に関する記事が掲載されておりましたので、紹介しておくこととしましょう(ちなみに、私は日経を購読していますが、サテライト日田問題が扱われたのは、おそらく初めてではないでしょうか。少なくとも、私の記憶の中で、日経の紙面でサテライト日田問題に関する記事を読んだことはありません)。

 1月10日、別府市の大塚茂樹助役は、日田市役所を訪れ、この問題に対して説得を試みました。しかし、日田市の幹部や担当職員が、他の行事予定を理由として面会を断ったとのことです。そこで、大塚助役は、日田市内の市民団体への説得活動を進めていく考えを、その場に居合わせた日田市職員に伝え、市役所を後にしました。なお、別府市側は、市報べっぷ11月号に掲載された記事について、事実関係に誤認などはないので訂正しないとの立場を堅持しております。

 しかし、サテライト日田問題は、既に大分県内のものに留まらず、全国的問題の一部となっています(同様の問題が東京などでも存在します)。そのため、別府市は、市報の記事を含めて、微妙な対応を強いられます。

 また、「噂の! 東京マガジン」でも取り上げられていましたが、公営競技について、所轄官庁の姿勢に違いがみられることも、大きな問題です。少なくとも、競輪事業、とりわけ場外車券売場について、経済産業省は方針を見直さなければならないと思われます。何故なら、このような施設について地元市町村の同意などを法令上の要件としていないのが競輪事業だけであるからです。公営競技についても縦割り行政の弊害がみられると評価するのは行きすぎでしょうか。

 急いで付け加えておきますが、私は、公営競技、さらに宝くじなどに全く反対の立場を取る訳ではありません。公営競技などの収益金が、地方公共団体の事業、例えば公立学校の増設や福祉事業の推進に役立っていることを知っているからです。また、仮に公営競技を全廃するとするならば、違法な賭博事業が拡大するおそれがあります。人間は、やはりどこかに欲望を持っていますし、捨てられるものではありません。また、公営競技に関連する雇用は、想像以上に幅の広いものです。こうした雇用の場を、何の配慮もなく、ただ教育などに有害だから、あるいは赤字だからといって廃止するのも、無責任なことです。「かごに乗る人作る人、そのまたわらじを作る人」という言葉を忘れてはなりません。

 しかし、サテライト日田問題の場合は、既に存在する公営競技事業を縮小・廃止するというものではありません。新たな施設を、全く別の地に作ろうとするのです。そうであれば、少なくともその地の利益になるように配慮をしなければ、到底、理解を得ることはできません。


(初出:2001年1月13日)

2025年5月1日木曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第12編

 この問題を追い続けて半年ほどが経ちます。きっかけは、6月27日の午後、大分合同新聞別府支社からの電話でした(このときに私が話した内容の一部は、同紙2000年7月2日付朝刊に掲載されています。第1編を参照して下さい)。それ以降、とくに11月と12月は、この問題の動きを追い続けてきました。理由としては、何よりも私自身の職業と関係します。条例制定権の限界は当然のこととして、まちづくりの進め方、市町村財政の再建の仕方、公営競技のあり方、住民意思の反映の仕方、そして、市町村同士の関係のあり方を、この問題は改めて我々に投げかけてきました。私がサテライト日田問題を、今回を含めて12回も取り上げてきたのは、こうした諸問題の複合体(complex)として、地方自治(および地方政治)の在るべき姿を考察する適切な題材であるからに他なりません。そして、個人的な告白を述べるならば、情報公開とともに、サテライト日田建設問題を通じて、私は自らの行政法学者のしての姿勢・立場を再確認していました。

 地方分権を推進する中で、ともすれば国と地方公共団体との関係、あるいは都道府県と市町村との関係ばかりに注目が集められています。しかし、実際には、地方分権を推進することにより、都道府県間または市町村間の利害などの衝突が、将来において頻発することになるかもしれないのです。これは、或る程度は仕方のないことでもありますが、放置するならば、かえって地方分権推進の障害にもなります。東京大学の中里実教授は、最近、地方公共団体が法定外普通税または法定外目的税として独自の財源を追求する動きに対して「地方団体間の課税権の(場合によっては、かなり醜いかたちの)衝突が現実の問題になりつつあるのではないか」と指摘されております(「地方税条例の効力の地域的限界」地方税2000年11月号5頁)。私は、こうした危険が地方税だけの問題ではないということを、ますます実感するようになりました。地方自治法で、こうした問題を予想した規定があるのでしょうか。ないとすれば、早急な手当が必要ですし、あるとしても、現在の規定では不十分であるかもしれません。

 さて、ここでサテライト日田問題の動きに触れておくこととしましょう。

 既に、別府市議会観光経済委員会がサテライト日田問題について「継続審査」とすることを可決したことを記しておりますが、12月18日、別府市議会本会議においても、この問題は「継続審査」とすることが、賛成多数で可決されました。このため、12月4日から工事開始となったサテライト日田は、建物が完成してもしばらくの間は場外車券売場として機能しないこととなります(朝日新聞の12月19日付大分asahi.com/ニュースに掲載された 溝江建設のコメントも参照)。一方、日田市側は、大石昭忠市長、室原基樹市議会議長、武内好高日田商工会議所会頭が揃って記者会見をし、別府市側の判断を歓迎する趣旨を語られております。

 そして、12月22日、大塚茂樹助役をはじめとする別府市の代表4氏が、日田市役所を訪れ、日田市側と会談をしました。しかし、市報べっぷ11月に掲載された記事をめぐり、日田市の首藤洋介助役は訂正を求めましたが別府市側が回答を留保したため、日田市側が退席して決裂しました。大分asahi.com/ニュース12月23日付の記事によれば、別府市側の訪問に対して、目的が告げられた段階で日田市側が制止し、話し合いは10分で終わったとのことです。また、別府市側は意見交換の場を1月か2月に設けたいとしていますが、日田市側は市報べっぷ11月号掲載の記事について別府市側の明快な回答を求めており、交渉は進展しないものと思われます。

 今回の問題を振り返ってみると、6月の条例制定などについては日田市側にも問題があると思われるのですが、11月以降の別府市側の対応には、適切でないと評価されても仕方がないような点が多かった、と言いうるでしょう。その原因は、結局のところ別府市側の拙速さにあるのですが、これでは日田市側の反発という火に油を注ぐだけであったと思われます。

 例えば、別府市側は、日田市側の反対活動などに対し、別府市にではなく、通産省や溝江建設に対して反対をすべきである旨を何度も述べております。日田市民の方々の肩を持つ訳ではありませんが、筋違いな発言であるとしか言いようがありません。たしかに、設置許可を申請したのは 溝江建設であり、設置許可を出したのは通産省です。日田市側は、通産省に対しても反対活動をすべきであったでしょう。しかし、別府市は、この設置許可の実質的な当事者です(まさか、このことを忘れていた訳なのでしょうか?)。 溝江建設が施設を建てたとしても、溝江建設自身が勝手に車券を売ることは許されていないのです。

 また、以前書き忘れていたことなのですが、別府市観光経済委員会の席上、別府市の大塚助役は、個人的な意見と断りつつも、日田市と別府市が折半して 溝江建設に補償金を出すことを、日田市側に電話で提案した旨を明らかにされました。これも日田市側の怒りを買い、拒否されたのも当然です。法的にみても、日田市側に損害賠償責任を認めることはできないでしょう(日田市が当初は設置を歓迎していたなどの事情があれば、話は別です)。設置許可という場面だけで見るならば、 溝江建設と通産省が当事者、別府市は実質的当事者、日田市および日田市民は第三者なのです。

 さらに、別府市側が公営カジノ設置に積極的な姿勢を見せたことも、時期的に見ればまずいことであったと評価できます。おりしもサテライト日田問題の最中、空洞化する一方の別府市中心街の再活性化、長期低落傾向の観光を再び上昇気流に乗せるためのものであるとは言え、日田市側の反発は勿論、別府市民の間からもサテライト日田設置反対の声を高める結果になったことは否めません(ちなみに、公営カジノ設置については、宮崎県も積極的な姿勢を見せております。これは、おそらく、シーガイアの問題とも関連すると思われます)。

 今回を以って、「サテライト日田(別府競輪場の場外車券問題)建設問題」は、ひとまず終了とさせていただきます。そして、さらにこの問題の展開が見られる場合には、第二部として扱います。また、この問題については、2000年12月21日、TBS系で放送される番組の取材を受けましたので、御覧いただければ幸いです(放送は、2001年1月7日、13時からです)。


(初出:2000年12月24日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第11編

 前回記したように、別府市議会観光経済委員会は、サテライト日田問題について「継続審査」とすることを可決しました。議会の多数派を占める自民党会派の動きにもよりますが、おそらく、最終日(18日)の本会議においても、この判断は覆ることがないものと思われます。そのためでしょうか、この数日間、日田市のホームページなどを見ても、この問題に関する意見は少なくなりました。

 今回は、古川氏から御教示をいただいた「長沼答申」、「吉国答申」、「場外車券売場の施設の規模、構造及び設備並びにこれらの配置の基準を定めた件に関する告示」および「場外車券売場の設置に関する指導要領について」に関する検討を行います。

 まず、確認の意味を込めて記しておきます。自転車競技法には、場外車券売場を設置する者は設置場所となる市町村やその住民の意見を聞かなければならない、と規定しておりません。それに対して、古川氏は、上記答申や指導要領に場外車券売場はみだりに増やさないこと、および地域社会の同意を得ることと書かれていることをあげ、今回のサテライト日田設置許可が上記に示された基準に違反すると主張されました。

 しかし、まずこの件についてですが、私が反論として日田市の掲示板に記したことを引用しておきます。

 「通産省の告示については、問題が残るのですが、審議会の答申には、法的な拘束力がありません。同じことは、指導要領にもあてはまります。/従って、内部の基準にはなりえますが、外部に対して許可などをする場合、参考資料並みの扱いにしかなりません。裁判でも、解釈の一資料としての意味を持ちますが、必ずしもそれらに沿った解釈が要請される訳ではありません。/但し、他の件についてはこれらの基準に適合しているのに、この件だけは、という場合は、問題となります。」(2000年12月10日14時28分)

 そもそも、答申というものは、行政庁の諮問に対する専門的判断でありますが、行政法学上、答申は尊重されなければならないとしても、行政庁を法的に拘束するものではありません。情報公開制度を例に取れば、都道府県および市町村で情報公開条例を施行しているところには「情報公開審査会」(または類似の名称)があります。情報公開条例の実施機関(例、県知事、市長)が非公開決定を下し、これに対する不服申立てがなされた場合、実施機関は、裁決または決定を下す前に「情報公開審査会」に諮問するように規定されています。そして「情報公開審査会」の答申が出されます。しかし、実施機関が裁決または決定をする際に、この答申は尊重されなければならないとしても、必ずしもその内容通りに裁決または決定をしなければならない訳ではありません。以前、某市情報公開室長から伺った話ですが、「情報公開審査会」の答申は全面公開であったにもかかわらず、一部非公開の決定を下した例が存在するのです。なお、情報公開法第18条および第21条も参照して下さい。

 ここで「長沼答申」を見ましょう。たしかに、5.として「馬券、車券等の場外売場については現在のものを増加しないことを原則とし、設備及び販売方法の改善(例えば売場数を増加し、これをすべて屋内にすること等)に努力する」ことがあげられております。この答申は自転車競技法など関連法律の改正などに係るものであり、それに従って法律などが改正され、運用なども改められることが望ましいのです。しかし、私自身もよくわからないのですが、全てこの答申の通りに法律が改正された訳ではないかもしれません。しかも、12.として「法律の規定が細部にわたり過ぎると認められる点が少なくないので、出来るかぎり政令に委任する等法律の簡素化をはかる」ことがあげられております。これは、本来であれば法律に規定すべき設置基準が政令、省令などに規定されうることを意味します。政令や省令であれば、これらは法規命令ですから、法的拘束力を持ちえます。しかし、訓令・通達などの行政規則に委ねられた場合、行政内部であれば法的拘束力を持ちえますが、外部に対しては持ちえないとするのが、最高裁判所の判例でもあり、行政法学の通説です。従って、「長沼答申」は、第一義的には法律改正のための参考意見であって、場外車券売場設置許可のための基準となりがたいものであり、あるいは内部基準となりうるものであっても、それ以上のものではありません。仮に「長沼答申」に従わないで許可がなされたとしても、直ちにそれを違法として裁判所において争うことはできない、と解釈すべきでしょう。

 同様のことは、基本的に「吉国答申」にも妥当します。この答申自体、「ここで述べた意見については、その実施を図るため、さらに関連する問題を含めて検討する必要のあるものがあり、それらについては、政府において積極的に検討を深めることを期待する」とかかれておりますから、これが内部基準として完全なものであるか否かについては即断しがたいと思われます。

 「吉国答申」Ⅲ1.は「競技場所在地の近隣市町村については、競技の円滑な実施と運営の責任体制の確保に留意しつつ、財政事情等を考慮して、一部事務組合への参加の拡大等により、公営競技による収益が地域社会の実情に適合して配分されるよう努めること」をあげております。また、Ⅳ1.は「場外売り場の設置については、ノミ行為の防止にも効果があると思われるので、弾力的に検討してよいが、地域社会との調整を十分に行うこと」、Ⅴ2.は「地域社会との融和を図るとともに周辺の交通公害の解消を図るため、競技場又は場外売り場周辺の環境整備に努めること」をあげております。

 ここで直接関係するのはⅣ1.およびⅤ2.です。Ⅳ1.の趣旨が自転車競技法第4条の規定に、少なくとも明文の規定として生かされていないことは明らかです。しかも「弾力的に検討してよい」と書かれており、解釈および運用の方法によっては「地域社会との調整を十分に行うこと」という要件と矛盾します。また、Ⅴ2.は努力義務であり、しかも、この努力義務を監督官庁に課すものであるのか設置許可申請者に課すものであるのかが判然としません。仮に監督官庁に課すものであるとするならば、行政指導の基準とはなりうるでしょう。しかし、行政手続法の規定が存在する現在において、行政指導はあくまでも相手方、すなわち設置許可申請者の任意の協力によって実現されるべきものですから、行政指導に従わないことを理由とした不許可または許可の留保は、許されるものではありません。また、この努力義務が設置許可申請者に課されるものであるとするならば、設置許可申請者は誠実に努力する義務を負いますが、その結果として「地域社会との調整を十分に行うこと」ができなかったとしても、義務に反する訳ではないのですから、監督官庁も、そのことを理由にして不許可処分をなすことは許されないものと考えられます(但し、この点に裁量の余地も考えられます)。

 「場外車券売場の施設の規模、構造及び設備並びにこれらの配置の基準を定めた件に関する告示」は、場外車券売場の設置基準を定めております。告示の性格については争いがあり、例えば文部省による学習指導要領については、法的拘束力を認めるのが判例の傾向と考えてよいでしょう。それでは通産省のこの告示はどうでしょうか。少なくとも、設置許可申請者に対して許可要件を示す基準としての意味は或るものと思われます。しかし、この告示には、設置場所となる市町村の同意について規定されておりません。

 最後に「場外車券売場の設置に関する指導要領について」を取り上げます。ここにも、2.において「設置するに当たっては、当該場外車券売場の設置場所の属する地域社会との調和を図るため、当該施設が可能な限り地域住民の利便に役立つものとなるよう指導すること」となっており、4.において「設置するに当たっては、当該場外車券売場の設置場所を管轄する警察署、消防署等とあらかじめ密接な連絡を行うとともに、地域社会との調整を十分行うよう指導すること」となっております。

 これは、実際に場外車券売場の設置を許可する際の基準として機能しているものと思われます。従って、他の設置許可に対してはこの基準の通りに処理されているのに本件のみについては処理されていないというような場合には、平等原則違反として問題となりえます。しかし、これは指導要領であって、内部基準に留まり、外部に対する拘束力を持ちえません(持ちうるとしたら逆に問題となります)。また、指導要領ですから、これに基づいた指導に設置許可申請者が従わないとしても、行政手続法の規定に従えば、あくまでも任意的協力が前提となることは、前述の通りです。

 以上が、「長沼答申」、「吉国答申」、「場外車券売場の施設の規模、構造及び設備並びにこれらの配置の基準を定めた件に関する告示」および「場外車券売場の設置に関する指導要領について」に関する私見です。このことから、特別の事情がない限り、法的な見地からすれば、サテライト日田設置許可は、法的にみても違法でないこととなります。

 さらに、古川氏は、日田市ホームページの掲示板で「政府が定めている指針からみても、サテライト日田の設置許可は不当である」と記されております。これに対し、私は「たしかに、正当であるか否かは重要な問題なのです。しかし、行政事件訴訟法にも出ていますように、正当でないから違法であるとは即断できないのです。それが裁量というものなのです」と記しました。古川氏は「ただちに違法ではいえないからといっても、正当とはいえません」と記されました。

 私は、あくまでも行政法学者として意見を述べております。正当か不当であるかが直ちに適法か違法かの問題につながる訳でないことは、行政法の専門家であればお分かりのことであると思います。私以外の行政法学者にも、御意見を伺いたいところです。

 なお、掲示板にも記しましたが、サテライト日田問題は、いよいよ、東京放送(TBS)により、全国的に取り上げられることとなりました。詳細は後日に記しますが、現在のところ、私も取材を受けることになっております。


(初出:2000年12月)

「ひろば 研究室別室」の移転について

   長らくgoo blogで続けてきましたが、あれこれと考えた結果、2025年8月7日より、はてなブログのほうで書いていくこととしました。何卒よろしくお願い申し上げます。  新しいアドレスは、次の通りです。   https://derkleineplatz8537.hatena...