2025年5月7日水曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第24編

 サテライト日田設置許可が当時の通商産業大臣から出されたのは、2000年6月7日のことでした。それから9ヶ月以上が経ち、この問題に新たな展開がありました。

 まず、この問題を扱った広報ひた号外が、2001年3月15日付で発行されました。これは全4頁から成り、経済産業省を相手取った設置許可無効等確認訴訟の提起を日田市民に説明し、理解を得るためのもので、別府市に対する提訴についても解説がなされております。このような号外の発行ということ自体、日田市の並々ならぬ意気込みを感じさせるものです(過去の日田市報を全て調べた訳ではないのですが、おそらく、日田市報でサテライト日田問題がこれほど大きく扱われるのは、初めてのことではないでしょうか)。

 号外が発行されることについては、大分asahi.com/ニュース3月15日付記事(http://mytown.asahi.com/oita/news02.asp?kiji=707)などにおいても大きく報じられました。また、3月2日、私が日田市役所を訪れた際、日田市総務部企画課課長補佐兼企画調整係長の日野和則氏からも説明をいただきました。今回の場合、日田市は、対経済産業省であれ対別府市であれ、公費で訴訟を遂行することになります。そのために、訴訟については市議会の同意を得る必要がありましたが、それに留まらず、どのような意図で訴訟を提起するのかを、市民にも説明する必要があります。そのために、号外が発行されたのです。号外の内容については、後に取り上げることとします。

 (なお、実は、3月2日、私は、日野氏からいくつかの貴重な情報を得ましたが、ここで記すことは差し控えます。また、号外については、読売新聞日田支局の近藤武信氏から送っていただきました。ここに記し、御礼を申し上げます。)

 そして、3月19日の午後(14時頃)、日田市は、経済産業省を相手取った設置許可無効等確認訴訟(予備的に取消訴訟)を、大分地方裁判所に提起しました(行政事件訴訟法によると、被告は経済産業大臣となります)。大分合同新聞2001年3月20日付朝刊朝F版23面は、大分地方裁判所にて提訴の手続をとる日田市長の大石昭忠氏、および寺井一弘弁護士を代表とする弁護団の写真を掲載し、大々的に報じています(コメントなどについては、後に紹介します)。また、日本経済新聞2001年3月20日付朝刊西12版39面には、提訴の手続をとるため大分地方裁判所に入る大石氏、そして弁護団の写真が掲載されています。

 第23編において、訴訟提起は3月21日に行われることとなる、と記しましたが、少々早められたようです。3月14日付のasahi.com news update(朝日新聞社のホームページ)は、全国版の扱いで、日田市の提訴が3月19日に行われると報じています(http://www.asahi.com/0314/news/politics14002.html)。また、同記事は、設置を予定されているサテライト日田の床面積が約2400㎡、3階建てであること、敷地が4000㎡で約400台収容の駐車場があること(これは、既に第6編において取り上げたアーバン・ピラミッドの総面積であると思われます。この一角にサテライト日田が設置される予定です)、1年のうち144日間だけ発券される模様であること、推定売上額が年間で17億2800万円と見積もられていることも報じています。

 同じ記事には、「自転車競技法では、近隣の医療機関や文教機関に著しい支障が及ばないこと等の法令に定められた要件に照らして問題がなければ許可できる仕組みとなっており、地元に反対意見があるというだけでは不許可にできない」という、経済産業省車両課のコメントが掲載されてます。また、同課は「地元の同意を得て円満に設置されることが望ましいと考えており、今後とも地元の理解を得るよう指導していきたい」という見解を出しております。自転車競技法には、地元の同意が法的要件として定められていないので、このような見解となったのでしょう。

 一方、やはり同じ記事に掲載された大石氏のコメントは、「地元が拒否しているものを中央が一方的に押しつけるのは、地方分権の流れに逆行して不当だ。裁判を通じて、憲法がうたう地方自治の本旨の意味を問い直していきたい」というものです。これが、経済産業省に対する設置許可無効等確認訴訟の根本的な趣旨ともなっております。

 設置許可無効等確認訴訟については、私の意見を既に何度か述べております。日程さえ合えば、別府市に対する訴訟とともに、大分地方裁判所にて傍聴をしたいと考えております。

 さて、号外を紹介いたしましょう。どの程度まで引用してよいのかという問題もありますが、なるべく詳細に記したいと思います。

 まず、表紙は、昨年12月9日に別府市中心部にて行われた設置反対デモ行進が、3点のモノクローム写真で掲載されております。まず、上の「広報ひた」というロゴの右側にある写真は、おそらく北浜を出発したばかりの、中ほどの集団の模様です。4人が持つ横断幕を先頭に、様々なカードを掲げた市民が設置反対を叫びながら行進している模様です。次に、中央の写真は、「『サテライト日田』設置反対」と、白地に赤い文字で書かれた横断幕を持つ3人の女性のすぐ後ろに、頭にハチマキ、肩からタスキという姿で、左から日田商工会議所会頭で「サテライト日田設置反対連絡会」代表の武内好高氏、日田市長の大石昭忠氏、日田市議会議長の室原基樹氏が並び、すぐ後ろには、市議会議員全氏、そして、「サテライト日田設置絶対反対」などと書かれたカードなどを持つ日田市民が、ちょうど別府駅東口で折り返したばかりのところの情景です。下の写真は、終了直前の模様で、北浜交差点そばにあるトキハ別府店前の歩道に集結し、室原氏がメガホンを持ち、大石氏、武内氏も前に立ち、気勢を上げているところです。第8編において記したように、私はこの模様を見ていますので、その時のことを思い出してきました。

 次の頁には、「『サテライト日田』はいらない! 地元同意のない設置許可は地方分権に逆行」という題目の下、昨年11月27日に行われた反対市民総決起集会の写真とともに、号外を発行する目的が書かれております。そこには、サテライト日田について「平成8年から一貫して反対を表明し、市議会、各種団体等とともに、設置断念に向けて関係機関に反対運動を行ってきたにもかかわらず、昨年6月に設置が許可されました」と説明され、その上で「市民の意思を全く無視した設置許可は、地方自治体の自治権や自己決定権に対する侵害である」と断言しております。そして、「なぜ反対なの?」という囲み記事には、反対の理由が、①「日田市が目指す『活力あふれ、文化・教育の香り高いアメニティ都市』を基調とした、まちづくりの理念とは相反する異質の施設」であること、②「青少年健全育成を目指す社会教育や学校教育の立場から好ましい施設では」ないこと、③「歴史・文化を生かしたまちづくり、水と緑の自然を生かしたクリーンな観光都市づくりのイメージにふさわしく」ないこと、④「周辺地域の環境悪化や国道386号線の交通渋滞は大きな問題で」あること、⑤「別府市の財政事情のために日田市民が犠牲になることは許され」ないこと、とまとめられています。

 同じ頁には「サテライト関連機関・車券売上金配分の仕組み」も掲載されていますので、売上金の配分を中心に紹介しておきましょう(割合は推定とされています)。車券の購入費を100%とすれば、払戻金は75%、サテライト日田に残る控除金(すなわち、売上として残るもの)25%は控除金として、事業収入となります。この控除金は、次のように配分されます(号外には記されておりませんが、上記の年間推定売上額17億2800万円を下に計算した年間配分額を、目安として示しておきます)。

 サテライト日田設置許可を得た業者への「場外施設借上料」:4%(6912万円)

 競輪事業施行者である別府市の収入(開催経費を含む):11.5%(1億9872万円)

 公営企業金融公庫:1%(1728万円)

 日本自転車振興会:3.7%(6393万6千円)

 地方財政:3.8%(6566万4千円。なお、詳細は書かれていませんが、他の競輪事業収入と合わせて、地方交付税と同様に各都道府県・各市町村に配分されるものと考えられます。)日田市に支払われる環境整備費:1%(1728万円)

 そして、同じ頁に掲載されている、大石市長による「市民が安心して暮らせるまちづくりを目指して」から、一部分を紹介いたします。

 「分権時代の到来は、地方自治体の自己決定と自己責任のもとに、地域の実情に応じた個性豊かなまちづくりが可能となり、地方の能力と力量が問われる時代です。このような中で、国や別府市の動きは、地方自治体の自主性や権限を侵略するに等しく、ひいては、日田市のまちづくりを根底から覆すものです。」

 3頁には「場外車券売場の設置許可取消し等を求めて訴訟」という見出しの記事がありますが、先に、室原議長と武内会頭の言葉を、部分的ですが紹介しましょう。

 まず、室原議長の「設置許可無効確認の訴えを議決」からです。

 「本市のこれからの”まちづくり”において、設置許可を撤回させることが大変重要なことであるとの考え方に立ち、市議会は先日、設置許可無効確認の訴えについて議決をいたしたところです。」

 次に、武内会頭の「『サテライト日田』設置に断固反対」からです。

 「日田市におきましては、『まちづくり』の基本理念と青少年の健全育成の観点等から、行政、議会、市民が一体となって『サテライト日田』設置反対運動を展開してまいりました。/別府市議会も、2月の臨時議会で継続審査となっていた関係予算案を良識ある判断のもとに、賛成少数で『否決』していただきました。それでもなお、別府市は設置の意向を示しております。」(/は、原文改行箇所)

 武内氏の言葉に関連して、号外から離れ、別府市の動向を記しておきます。「第23編」において紹介した通り、別府市議会は議会運営委員会委員の選出をめぐって空転しておりました。しかし、自民党会派が元の一会派に戻ることで、12日深夜から13日にかけて正常化しました。大分asahi.com/ニュース3月14日付記事(http://mytown.asahi.com./oita/news02.asp?kiji=704)によれば、自民党会派は、サテライト日田設置関連補正予算案の採決時に反対者が出たことにより、少数与党となったため、会派を分割して多数派工作をしようとしたのですが、野党会派が議長不信任案の提出・可決や審議拒否で抵抗したことで、自民党議員団は、結局、元の一会派に戻り、行財政改革クラブの1名を加えて14名の会派となりました。しかし、議会運営委員会委員は、野党会派が過半数を占めることになったので、別府市としては、サテライト日田問題について、難しい対応を迫られそうです。現在の別府市議会の会派構成は、自民党議員団14名、公明党4名、社民党議員団4名、市民の声クラブ4名、無所属クラブ3名、共産党議員団3名となっております。

 そして、これも大分asahi.com/ニュース3月15日付記事(http://mytown.asahi.com./oita/news02.asp?kiji=706)によるのですが、13日夜に開かれた市議会で、別府市長の井上信幸氏は、一般質問に対し、サテライト日田設置計画をこれまで通り進める意向を示しました。再提案の時期は明らかにされておりませんが、平成13年度に入って最初の定例市議会においてではないかと予想されます。また、市長の後援会報がサテライト日田問題の特集記事を掲載しているという情報も示されております。

 市長の答弁に対して、野党会派からは反発の声があがりました。無所属クラブの朝倉斉氏は、議会の議決が尊重されていないとして、再提案を牽制し、計画断念を主張しましたが、市長は新聞記事を引用しつつ、2月8日の否決を真摯に受け止めていると反論しました。一方、自民党議員団の泉武弘氏は、設置計画の断念による損害賠償の問題について質問しました。これに対して、助役の大塚茂樹氏は、設置計画断念によっての損害賠償請求問題が生じる可能性を示唆しました。

 さて、広報ひた号外に戻りましょう。3頁の「場外車券売場の設置許可取消し等を求めて訴訟」は、設置許可無効等確認訴訟(および取消訴訟)を提起する理由を示しております。この部分については、詳細に引用しておきます。

 同記事は、まず、「『地方自治』とは、住民生活に密接にかかわる地域の共通の仕事を、国の行政から切り離して地域に任せ、地域住民の意見と責任に基づいて自主的に運営させる行政のやり方です」と説明されています。

 その上で、「地方自治体は、住民参加のもと、自らのあり方を自主的・自立的に決定することができます。これは、地方自治体の自治権であり、他の地方自治体はもとより(引用者注:これは別府市に対する批判を暗示しています)、中央政府といえども、みだりにこれを侵害することができません。つまり、場外車券売場の設置許可を、設置場所の自治体の同意なくして行うことは、地方自治体の自治権、自己決定権に対する侵害であり、地方分権に逆行するものです」とされております。

 今回の地方分権について、日田市側の説明に現われている住民自治の側面が、どの程度まで尊重されているかについては、意見の分かれるところです。「日本における地方分権に向けての小論」においても記しましたが、住民自治を尊重する立場と新自由主義的立場によって、地方分権の意味合いは異なってきます。地方分権推進法や地方分権推進委員会による中間報告および諸勧告、そして地方分権推進計画にも、両者の要素が混在しており、内容・方向性ともにわかりにくくなっていることは否定できません(原則的には新自由主義的な立場をとるものと思われます)。さらに言うならば、今回の地方分権は、規制緩和や財政再建などの動きとも関連しますし、国の行政の合理化(およびそれによる実質的強化)と地方公共団体の任務(あるいは負担)の強化に終わる可能性も、完全に否定することができないのです。今回の地方分権という改革には,本来の地方自治を強化する(あるいは取り戻す)という立場から見るならば、決して手放しで歓迎できない面が少なからず存在するのです。すなわち、今回の改革により、中央への権限集中を回避することのみならず、地域住民の需要に機敏に対応し、しかも地域住民が積極的に参加しうる地方自治が実現ないし強化されうるのか、という観点からは、問題が多いと言わざるをえないのです(以上、同論文から、修正しつつ引用しました)。

 しかし、地方分権の意義について、地方分権推進委員会など国側の立場が常に正しい訳ではありません。むしろ、日本国憲法第92条が示す理念に立ち返って、地方自治、地方分権を考える必要があります。その意味において、日田市側の説明は、地方分権推進委員会などが示す見解とどのような関係にあるのかという問題は残りますが、住民参加を前面に出しつつ、自らの考える地方自治、地方分権の方向性を示すものと評価できます。勿論、サテライト日田問題に限らず、今後、あらゆる場面において、日田市は、住民自治の原則を根底とし、住民参加の機会を増やす市政を行う責任を負うことになります。従って、この部分の説明は、日田市民およびと日田市政にとって非常に重要な部分です。

 さて、訴訟を提起する際に重要なものは、その理由です。日田市は、3点をあげて説明しておりますので、検討を加えることとしましょう。

 「①競馬や競艇は、設置場所の自治体の同意を条件にしています。しかし、競輪の場合には、同意を要件にしていません。また、市の反対意思を無視して設置を許可したことは、憲法及び地方自治法に定めている地方自治体の自治権、自己決定権に反しているものと考えます。」

 今回の訴訟において、日田市は、場外車券売場設置許可の根拠となる自転車競技法第4条が憲法第92条に違反すると主張しております。訴訟については、既に第16編においても検討を加えています。自転車競技法第4条が設置許可について市町村の同意を要件としていない以上、憲法第92条を援用しなければ、設置許可が無効であるという主張は、かなり難しくなります。また、①には、競馬法、モーターボート競走法などの公営競技関連法の間に、合意条件に関する食い違いがあることを問題とする趣旨が含まれているものと考えられます。ここから、自転車競技法に係る立法裁量の問題を突くことが可能です。日田市は、地方分権一括法によって追加された地方自治法第1条の2第2項を引き合いに出しておりますから、地方分権一括法によっても改められなかった自転車競技法第4条について、立法不作為の違憲性を問うことも可能であると思われます。

 憲法第92条により、都道府県および市町村には、自治権や自己決定権が与えられているという解釈は、妥当なものです。勿論、憲法や法律によって制約が課せられます。しかし、憲法第92条以下の趣旨は、可能な限り、最大限の自治権および自己決定権を都道府県および市町村に対して保障しなければならないというものであるはずです。従って、自治権や自己決定権を制約する場合には、合理的にみてやむをえないと認められる場合に限り、しかも必要最小限のものでなければならないでしょう。その意味において、自転車競技法第4条には、合憲性に疑問が残ります。

 「②ギャンブルは、刑法で処罰対象としている賭博罪にあたります。しかし、公営ギャンブルについては、社会的弊害を取り除き、その地域社会に受け入れられるような手段を図ることにより認められているものです。このようなことから、設置場所の自治体の同意を要件としていない自転車競技法は、刑法に規定する賭博罪に該当することになると考えられます。」

 非常に面白い論法ですが、私は、この主張に対して疑問を持っております。自転車競技法が存在しなければ、競輪が賭博であることは間違いありません。しかし、自転車競技法は、本来なら賭博罪に該当する事柄について、一定の要件を充足した上で違法性を阻却したという意味において、刑法に対する特別法です。そして、この法律は、(やや抽象的な表現ですが)場外車券売場の有無に関わらず、日本全国において適用されます。市町村が競輪場や場外車券売場の設置に同意するか否かという問題と、競輪が適法であるか否かという問題とは、次元を異にします。仮にこの論法が正しいとするならば、自転車競技法は、競輪場や場外車券売場が設置されている市町村においてしか適用されない法律であり、憲法第95条にいう「一の地方公共団体のみに適用される特別法」(この場合の「一の」は、数的な意味ではなく、特定の、という意味です)なのでしょうか。そうであるとすれば、憲法第95条違反という主張も付け加えなければなりません。しかし、自転車競技法第1条により、都道府県および総務大臣が指定する市町村が競輪事業の運営権を認められているのです。従って、②の論法によると、法律の適用範囲については非常に複雑なこととなります。また、例えば、競輪場や場外車券売場が設置されていない市町村の住民は、競輪場や場外車券売場で競輪を楽しんだ場合、その設置市町村内では賭博罪に問われないのですが、車券を持って非設置市町村に戻った場合などに賭博罪となるのでしょうか。そうではないはずです。いずれにせよ、②には論理の飛躍があります。また、自転車競技法は、まず、競輪について賭博罪としての処罰対象から外し、その上で様々な手段を規定しています。「社会的弊害を取り除き、その地域社会に受け入れられるような手段を図」らなければならないのは勿論ですが、これが先に来て違法性の阻却が後に来るということはないと考えられます。その意味において、論理が逆ではないでしょうか。

 「③自転車競技法が定める経済産業大臣の許可は、場外車券売場が設置されることにより、住民及び自治体の利益を侵害しない範囲でのみ許されるものです。今回の設置については、市の反対を押し切って許可したものであり、経済産業大臣に与えられた権限の範囲を超えているものと考えます。」

 これは、①との関連において考えるべき理由であり、直接的には経済産業大臣(設置許可当時は通商産業大臣)の裁量権に逸脱・濫用が認められるとするものです。既に「第16編」において記した通り、この主張が裁判で認められるのは難しいのではないかと予想されます。しかし、サテライト日田問題は、既に5年も続いております。また、当時の通商産業省(とくに九州通産局)が、設置許可を受けて、具体的にいかなる審査をしてきたのか、ほとんど明らかにされていません。また、1997年12月、九州通産局は、別府市がサテライト日田設置計画を(一時)凍結する旨を、日田市に伝えております。設置許可が出されたのは、実に2年半も後の2000年6月7日です。この間に何があったのでしょうか。この点について、これまで、経済産業省による十分な説明がなされていません。ここに、③の鍵が隠されていると思われます。すなわち、経済産業大臣の裁量権に逸脱・濫用があるとすれば、1997年12月から2000年6月7日までの間にいかなる事情があったのかが説明されなければならないでしょう(但し、その主張責任は、最終的には日田市に負わされると考えられます)。

 号外4頁は、「別府市への提訴について」と題された記事です。これまでの経過が表により示されております。この表には平成●年▲月としか書かれておりませんが、私が日田市役所でいただいた資料には、日付なども記され、詳細に書かれております。とくに、平成10年のところですが、1月26日、「サテライト日田」設置反対連絡会に自治会連合会と女性ネットワークが加盟し、現在の17団体になっています。平成11年には、日田市、別府市の双方で市長選挙が行われました。平成10年および平成11年には、両市の協議が重ねられたようですが、とくに大きな動きはなかったようです。

 この記事において、日田市は、市報べっぷ11月号掲載記事に対し、「日田市は、平成8年9月に設置が明らかになって以来設置反対の意思を表明し、昨年6月に許可が出るまでの間、市議会が『公営競技の場外券売場の設置に反対する決議』を採択するとともに、市長は経済産業大臣に『設置に反対する要望書』を提出。また、関係機関に対しても再三にわたって設置反対の要望を行うなど、行政・議会・市民団体等が一丸となって反対運動を行ってきました」と反論しております。また、「別府市は、日田市の反対の意思表示を十分に認識していながら、広報の使命である真実、信憑性を著しく欠いた虚偽事実を市報に掲載し、別府市民に大きな誤解を与えました」と述べ、「日田市民の名誉と信用を著しく傷つけた」と結論づけております。最近の報道をみても、市報べっぷ11月号掲載記事については、信憑性に疑問が抱かれているようです。しかし、市報べっぷ11月号掲載記事について、別府市は、これまで、何ら態度を表明しておりません。裁判の中で別府市の考え方が主張されるとのことですが、仮に日田市の主張に誤りがあって別府市の主張が正しいというのであれば、市報べっぷなどの場で反論することも考えられるはずです。別府市の沈黙は、いかなる意味を有するのでしょうか。

 さて、前述のように、3月19日の午後、日田市は、大分地方裁判所に設置許可無効等確認訴訟(および取消訴訟)を提起しました。大分合同新聞2001年3月20日付朝刊朝F版23面によれば、19日の16時から、日田市役所において記者会見が行われました。これには室原議長および武内会頭も出席しました。同記事に示されていた発言の内容を引用しておきます。

 大石市長:「長い反対運動の中で、自治体同士での決着はないと感じていた。裁判に勝つことが地方自治の“存在”を確認することになる」

 寺井弁護士:「前例のない訴訟だが、“新地方自治法”の理念が形式化、空洞化していないか、憲法的な視点から問い掛けたい」

 室原議長:「国と地方の関係を問う画期的な訴訟になる」

 武内会頭:「“おらが町”として、誇りをもって町づくりをすすめたい」

 そして、訴訟提起を受けて、複数のコメントが掲載されております。

 経済産業省事務次官の広瀬勝貞氏:「地元の同意を得る努力を時間をかけてやってきた」、「地元の理解を良く得るように(当事者に)話もし、そして一九九八年には日田、別府両市の助役による会談を数回にわたり開いた」、「(自転車競技法などの)法令に基づいて慎重な議論をし、(設置許可の)判断をしたと考えている」

 経済産業省車両課は、コメントを差し控えたいとしております。

 別府市長の井上氏:「別府市としてはコメントする立場にありませんが、その推移は見守ってまいりたいと考えています」(これは、文書によるものです)

 同記事には「一定の評価できる」と題された私のコメントも掲載されております。これは、3月19日の午後、大分合同新聞の記者氏からの電話を受けて研究室において話したことの要約です。

 「地方が中央に問い掛ける日田市の行動には、一定の評価ができる。場外車券場設置に関し、地元はかやの外となる自転車競技法は見直すべきだ。国と地方との間で、問題が起きることはこれからもあるはず。今後は行政同士の訴訟が増えるのではないか。」

 最後に、「大分発法制・行財政研究」に附属している「公園通り」にも記したことを再掲載します。これは、ひたの掲示板にも記し、日田ネットIRISの「みんなの掲示板」にも記したことです(若干の修正を加えた箇所もあります)。

 日田市の提訴は、地方分権改革がすすめられる中、地方自治体、そして何よりも地域住民の主体性として「まちづくり」、地域づくりをすることを認めなかった(あるいは無視してきた)従来の法体系(さらに行政)に対する重大な異議であると考えられます。

 地方自治法第1条の2第2項にも、国は(中略)住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として(中略)地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない」と規定されております。そうであれば、地域の声が届かないようになっているこれまでの法律は、見直されなければなりません。

 私も、同じ大分県民として、できる限り、対別府市訴訟および対経済産業省訴訟の傍聴をしたいと思います。そして、ホームページなどでも、この問題に関する発言を続けていきます。

 以上は、ひたの掲示板556番に記したことです。

 そして、読売新聞2001年2月24日付朝刊掲載の拙文にも記した通り、この問題に関する別府市側の対応は、どう考えても不適切な点が多いと思われます。それだから、別府市議会がおかしくなったのでしょう(正常化しましたが)。

 今回の訴訟については、傍聴などを通じて、日田市、そして市民の皆様を支援できたら、と考えています。


(初出:2001年3月20日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第23編

 3月議会が、日田市、別府市の双方において行われております。サテライト日田問題がどのように展開するのか、注目を集める中での議会なのですが、今、別府市議会が紛糾しているようです。この模様は、大分合同新聞2001年3月7日付朝刊5面に掲載されております。一方、3月8日、日田市議会において、大石市長は、21日にも経済産業省を相手取った設置許可無効等確認訴訟を提起する旨を表明しました。また、別府市および 溝江建設との話し合いも予定されていたようですが、別府市および溝江建設が、日程的に26日以降でなければ調整がつかないとのことです。おそらく、そのために、3月21日に提訴という結論になったのではないかと思われます。

 3月6日の別府市議会本会議は、議会運営委員会委員の人事をめぐって紛糾しました。このため、自然散会となり、別府市の平成13年度予算案も上程されておりません。このままの状態が続くのか、行方はわかりません。

 2月8日の別府市議会臨時会において、サテライト日田設置関連補正予算案は否決されました。この時、与党会派である自民党議員団は賛成の立場を採っていたのですが、3名の議員が反対に回り、否決されたのです。このことから、3名が自民党議員団を脱退し、新会派を結成しました。このことについては、第20編および第21編において触れました。 この臨時会のことが原因となっているのかどうかは不明ですが、自民党議員団(13名になっています)は、会派を「自民党議員団」(5名)、「自民党議員団第二クラブ」(5名)および「自民党議員団第三クラブ」(2名)に分け、さらに1名が一人会派である「行財政改革クラブ」に合流するという内容の会派届を提出しました。別府市議会には、2名以上から構成される会派から委員を選ぶという規定があるようで、この方法によれば、議会運営委員会における委員の構成上、与党が優位になる訳です。実際、自民党系の諸会派および行財政改革クラブから6名、他会派から5名の委員が指名されております。このことにより、サテライト日田問題について、別府市議会としても推進の立場を強めようとしたものとも考えられます(早速、「ひたの掲示板」に批判が書かれておりました)。

 しかし、こうした新会派結成の動きが事前に知らされていなかったため、当然ながら、他会派から猛烈な反発が浴びせられ、事態は三ケ尻正友議長に対する不信任動議が出される寸前まで進展しました。結局、この動議提出は認められず、話し合いもつかないまま自然散会となり、自民党系諸会派の委員6名が出席して委員会を開き、委員長を選任しました。 このようなことが認められるのか否か、手許に資料がないため、判断を差し控えておきます。別府市議会事務局は、今回の委員指名選任について、条例上問題はないとしております。

 一方、大分合同新聞2001年3月8日付朝刊朝F版21面は、昨年12月9日に行われたサテライト日田設置反対のデモ行進にも参加した別府市の市民団体「サテライト日田設置を強行する別府市長に腹が立つ会」が3月7日に別府市役所を訪れ、設置計画の断念および日田市への謝罪を申し入れました。しかし、別府市の対応はこれまでと全く変わっておりません。

 このまま、サテライト日田問題は続くのでしょうか。平成12年度もあと少しで終わります。

 ここで、方向を転換いたします。

 私は、3月2日、或る用件があって日田市へ参りました。日田市役所でサテライト日田問題についてのお話も伺ったのですが、現段階ではここに記すことができません。 ただ、市役所に置かれていた「サテライト日田設置反対女性ネットワーク」による「サテライト日田設置反対」のビラと、「タウン情報Hita」第232号のことについては、ここに記しておきたいと思います。

 まず、「サテライト日田設置反対」のビラです。作成された日時は書かれてはおりませんが、2月5日に配布されたものです(第20編も参照して下さい。また、このビラは、第18編において触れた「チラシ」のことではないかと思われます)。そのビラに書かれていたことを、一部ですが引用しておきます。

 「全国のサテライト設置反対運動をしているところでも、住民の心からの反対の声が、撤回の大きな力となっています。/今や、サテライト設置に関するトラブルは、全国的な社会問題なのです。私達のところへも各地の設置反対団体から多くのメッセージが届いています。日本中の場外車券売場に反対する方々から、今日田は注目されているのです。市長、市議会、市民が一体となっての反対表明は全国一箇所だけです。」(/は原文における改行箇所。なお、原文には太字の強調箇所がありますが、引用に際して省略しました。)

 次に、「タウン情報Hita」第232号です。発行日は2001年2月18日となっております。その6面「フリートークコーナー」において、テーマがサテライト日田問題とされていました。私は、市役所内で読み、持ち帰りました。賛否両論が寄せられていました。また、パチンコ屋があるのに何故サテライト日田はだめなのかという意見もありました。

 日田市民の中でも賛否両論がある訳ですが、そのほうが健全です。また、パチンコ屋はどうなのかという問題も、たしかに存在します。しかし、川崎市出身の私からみれば、パチンコ屋と場外車券売場(より一般化すれば場外券売場)とは、少々性質が違うと思われます。また、設置基準も異なるのです。渋谷、新宿、浅草の場外馬券売場のそばを何度も通っていますが(私は競輪や競馬などで遊んだことがありません)、競馬開催日ともなると、付近の道路は渋滞しますし、時間帯によっては駅から場外馬券売場までの道路に多くの人が列をなします。

 日田市の場合、現地を2度訪れた経験から考えると、国道386号線の渋滞が予想されます。サテライト日田設置予定地の駐車場は、現在でも車の数が多いと思われます。実際、昨年12月3日に現地を訪れた際、私は、駐車の場所を探すのに苦労しました(なお、第6編も参照して下さい)。

 現在の私の立場は、読売新聞2001年2月24日付朝刊36面(大分地域ニュース)に掲載された寄稿文に示した通りです(第22編に全文を掲載しております)。まず、この問題については、公営競技それ自体の是非ではなく、まちづくり・地域づくりに関わる事柄であるということを認識しなければなりません。そして、実質的な当事者である市町村の対応が問われているのです。寄稿文の末尾は、その点を示したつもりです。 なお、上記寄稿文について、日田市の方々からは御意見をいただきましたが、別府市の方々からはまだいただいておりません。真摯な御意見を賜りたいと存じます。


(初出:2001年3月9日)

2025年5月6日火曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第22編

 (はじめに、今回、寄稿文を作成するにあたり、読売新聞大分支局記者の小野鐘好氏から、同新聞をはじめとした記事をファックスでお送りいただきました。このホームページの記事を作成する上でも、非常に役立ちました。この場を借りて、御礼を申し上げます。)


 1月の段階で、サテライト日田設置許可に対する無効等確認訴訟を日田市が提起する意向を示していたことについては、第16編において取り上げるとともに、その可能性を検討しました。2月1日、日田市議会臨時会は、市報べっぷ2000年11月号掲載の訂正を求める訴訟の提起に関する議案を全会一致で可決しましたが、この時、市議会では上記無効等確認訴訟の提起を早期に求める声も出ておりました。

 2月20日、日田市長の大石昭忠氏は、日田市議会全員協議会に出席し、上記無効等確認訴訟の提起を表明しました。2月8日の別府市議会臨時会にてサテライト日田設置関連補正予算案は否決されたものの、設置許可自体の効力が失われている訳ではなく、経済産業省も設置許可の撤回に消極的であることが、訴訟提起の理由です。このことを、私は、仕事中、NHKラジオ第一放送の大分ローカルニュースで知りました。読売新聞2001年2月22日付朝刊24面(大分地域ニュース)および同13S26面などでも報道されております。この訴訟が提起された場合、元日本弁護士会連合会事務総長の寺井一弘弁護士ら5氏が日田市側の訴訟代理人を務めることも報道されております。

 読売新聞2001年2月22日付朝刊24面(大分地域ニュース)には、寺井氏による次のようなコメントが掲載されております。「地方自治の意味を問いただす重要な裁判になるだろう。憲法で保証された地方自治が、いい加減な許認可制度で侵されようとしている現状を考えれば、絶対に敗訴してはならない」。

 また、日田市も、設置許可などが「反対運動をしてきた日田市の意向を無視しており、地方自治の本旨を定めた憲法九二条の趣旨に反し、地方自治体の自治権と自己決定権を侵害している」という見解を示しております(同じ記事によります)。

 2月20日、フジテレビ系の「ニュースジャパン」で、およそ5分間、サテライト日田問題が報道されました。実のところ、私はこの番組を見ておりません。数人の方から、基本的な流れが報道されていたという話を伺いました。このことを受けて、翌日からの「ひたの掲示板」ではサテライト日田問題に関する書き込みが増えました(そのうちの一人が、他ならぬ私です)。別府競輪場のホームページの「質問コーナー」は、相変わらず休眠状態です。

 そして、ついに、2月23日、日田市議会臨時会は、この無効等確認訴訟の提起を全会一致で可決・承認しました。実際には、別府市に設置の断念を要請し、別府市、 溝江建設、そして経済産業省の意向や動きなどをみて、3月末までに提起される模様です。別府市議会3月定例会では、サテライト日田設置関連補正予算案が提出されないようですが、別府市執行部が設置の姿勢を変えていないため、無効等確認訴訟の提起に踏み切ったことになります。

 この臨時会の模様は、大分合同新聞2001年2月24日付朝刊朝F版27面、読売新聞同日付朝刊36面(大分地域ニュース)、朝日新聞同日付朝刊13版34面および大分13版31面などで報道されました。

 (大分asahi.com/ニュースでは一本化されて、http://mytown.asahi.com/oita/news02.asp?kiji=641 に掲載されています)

 当日、傍聴席には日田市連合育友会会長の後藤功一氏など30名ほどの市民が訪れました。臨時会は10時に開会され、提案理由の説明がなされた後、総務委員会において審議されました。朝日新聞上記大分13版31面によれば、委員会の席上、委員から、日田市の原告適格性、別府市や 溝江建設が取り下げた場合の対応、市民の理解などに関する質問が出されたということです。執行部側は、3月15日付の日田市報でこの問題に関する特集を組んで理解を求める旨を示しました。午後、本会議の席上、総務委員会委員長の梶原明治氏により、提訴議案を可決した総務委員会の審査報告がなされました。梶原氏は「この裁判は地方分権の時代における地方の自治権、自己決定権を明確にするための意義深いもの。地方自治権の侵害が、全国の自治体で、繰り返されることのないようにする必要がある」と述べ、議会も強い協力をする意向を示しました(朝日新聞上記記事)。その後、「民意を反映しない許認可制度をめぐる論議に一石を投じる意義深い訴訟」、「憲法が定めた地方自治の本旨を明確にし、許可の違法性を追及するべき」という賛成討論(大分合同新聞上記記事)がなされ、全会一致で可決されたのです。

 閉会後、大石市長は、この訴訟を通じて日田市の主張を通していきたいという旨を示し、同時に、許可の取消によって訴訟の意味がなくなるとも述べて、設置許可の撤回に期待感を表しました。

 この日田市議会による議決に関連して、私は、2月22日、読売新聞大分支局の小野記者より依頼を受け、私の意見を示す寄稿文を作成しました(初めてのことです)。これは、2月24日付の読売新聞朝刊36面(大分地域ニュース)に掲載されました。以下、その全文を紹介いたします(なお、掲載の段階において若干の修正を受けており、この点については私も了解しております)。

 

 サテライト日田問題について(訴訟提起の議案可決を受けて)

 この問題は、条例制定権の限界、まちづくりの進め方、住民意思の反映の仕方、市町村関係の在り方など、地方自治における重要な諸課題が凝縮されたものである。また、地元住民の意見を十分に反映させる仕組みを予定していない自転車競技法の問題点を、改めて浮き彫りにしたものと言える。

 今回、日田市は、別府市に対し市報記事訂正を求める訴訟を提起したのに続き、経済産業省に対し、サテライト日田設置許可無効等確認訴訟の提起を、議会の同意により正式に決定した。設置許可が出されたのは昨年六月であるから、行政事件訴訟法第十四条第一項により、設置許可取消訴訟を提起することはできない。別府市執行部が設置の姿勢を全く変えておらず、経済産業省も事態の具体的な打開策を示していないことから、取消訴訟より要件が厳しい無効等確認訴訟の提起に踏み切らざるをえなかったのであろう。

 しかし、この訴訟において日田市の主張が認められるかという問いに対しては、消極的に回答せざるをえない。無効等確認訴訟を定める行政事件訴訟法第三十六条は非常に難解な条文であるが、まず、本件設置許可により日田市がいかなる損害を受けるおそれがあるのか。次に、日田市が設置許可の無効等の確認を求める法律上の利益を有すると認められるのか。特に、法律上の利益については、自転車競技法の解釈上、また判例の傾向からみても、日田市に認めることは難しいと思われる。仮にこの二つの要件を充たしたとしても、設置許可に係る行政裁量という壁にぶつかる。これを突破することは非常に難しいのではなかろうか。

 また、この問題を概観すると、両市執行部の対応の違いが顕著であることに気づく。特に、昨年末頃からの別府市執行部の発言内容などを考えると、不適切な点が目立つ。これでは、日田市側の理解を得られないのも当然であろう。

 

 ここで、若干の補足あるいは注釈を加えておきます。裁量の問題です。

 実は、ここでは行政裁量、すなわち、設置許可に関する経済産業省(設置許可当時は通商産業省)の裁量が問題になるのは当然のことですが、そればかりでなく、立法裁量も問題となります。他の公営競技関連法では、場外券売場の設置許可に関して地域住民の同意を要件にしているにもかかわらず、自転車競技法では法律上の要件となっていないからです。議案などを目にした訳ではないので、詳しいことはわかりませんが、間接的にはこの立法裁量も問題とされるのではないかと思われます。

 しかし、日田市という地方公共団体が国(経済産業省)による設置許可処分の無効等確認訴訟を提起するということ自体は、大きな意味を持つものと思われます。この種の反対運動などは、日田市のみでなく、全国でみられます。また、まちづくり、地域づくりは、本来、市町村が、とくに住民が主体的に取り組むべきものです。憲法第92条以下において地方自治が制度的に保障されているにもかかわらず、これまでの多くの法律は、地方公共団体、さらには住民の自主性をあまりにも軽視してきました。高度経済成長期であれば、こうした法体系についても一定の説明がつきせんが、もうそのような時代は過ぎ去りました。同種の公営競技関係法において、管轄省庁が違うからといって、許可申請手続に、決して無視しえない相違があるということも、理解の範囲を超えます。日田市の今回の行動は、全国に、改めて地方分権とは何かという問いを投げかけることになるでしょう。

 私も、今回の寄稿をきっかけとして、日田市が無効等確認訴訟にて勝訴しうる方法を探ってみたいと考えています。

 なお、ここで、行政事件訴訟法の規定を紹介しておきます(説明などについては「第16編」を御覧下さい)。


 (出訴期間)

 第十四条 取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つたから三箇月以内に提起しなければならない。

 二 前項の期間は、不変期間とする。

 三 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。但し、正当な理由があるときは、この限りでない。

 四 第一項及び前項の期間は、処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、その審査請求をした者については、これに対する裁決があつたことを知つた日又は裁決の日から起算する。

 (無効等確認の訴えの原告適格)

 第三十六条 無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。

 

 なお、前述のように、日田市は、サテライト問題について、3月15日付の日田市報に特集記事を掲載する方針を立てています。私も、是非とも読ませていただきたいと思います。

 本当は、まだ記したいこともあるのですが、差し障りがあるということも予想されますので、ここでは控えておきます。


(初出:2001年2月25日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第21編

 劇的とも言いうる2月8日の別府市議会臨時会における議決から一週間が経ちました。今は小康状態という状況ですが、別府市議会に動きがありましたので、取り上げます。今回は、大分合同新聞2001年2月15日付朝刊5面の記事によります。

 第20編において、議会与党である自民党議員団の中から3氏が、サテライト日田設置関連補正予算案に反対したことに触れました。自民党議員団の要請を受ける形で、2月14日、この3氏は離党届を提出し、新会派「無所属クラブ」を結成しました。この会派は、別府市政に対して是々非々の態度で臨むという意思を表明しております。

 これにより、別府市議会の議員構成は次の通りとなります。

 自民党議員団:12

 公明党:4

 社会民主クラブ:4

 無所属クラブ:3

 市民の声:3

 日本共産党議員団:3

 行財政改革クラブ:1

 自由市民クラブ:1

 無所属クラブを結成したのは、村田政弘氏、朝倉斉氏、そして江藤勝彦氏です。自民党議員団所属時、村田氏は筆頭副会長(会長代行)を、朝倉氏は幹事長を、そして江藤氏は政調会長を務めておりました。これらの職に関する新人事は報じられておりませんが、3氏の脱退は、今後、市政に少なからぬ影響を与えるものと考えられます。少なくとも、サテライト日田建設問題について、仮に設置関連補正予算案が再提出されたとしても、議会における可決は、よほどのことがない限り、ありえないことになりそうです。

 日本経済新聞2001年2月14日付朝刊西12版39面に、中津市が競馬事業から撤退する意向であるという記事が掲載されました。それによれば、2月13日に行われた中津競馬組合(大分県と中津市が運営)の議員協議会の席上、同組合の管理者でもある中津市長の鈴木一郎氏が、中津競馬(地方競馬)の開催を6月に廃止する意向を表明したとのことです。既に、農林水産省や大分県などの関係機関には、廃止の方向で調整することも伝えられております。累積赤字が20億円を超えており、黒字化の目途も立っていません。実は、少し前から噂になっていたことでした。

 以前であれば、公営競技事業の収益が一般会計を助けていたのですが(公営競技事業は特別会計とされております)、最近は一般会計から公営競技事業への補填が行われる場合が多くなっております。公営競技事業の時代は終わったのでしょうか。公営競技事業が赤字に転落しているという例は、中津市に留まりません。

 私は、2月11日、福岡へ行きました。天神で洋書を買い、しばらく街を歩いた後、西鉄天神大牟田線の特急電車と甘木線のワンマン電車を乗り継いで「卑弥呼の里」甘木へ行きました。西鉄甘木線と甘木鉄道(旧国鉄甘木線)の駅がある割には寂れている甘木の市街地を歩き、甘木鉄道のレールバスに乗ったとき、佐賀競馬のポスターを目にしました。甘木鉄道の起点でもある鹿児島本線基山駅にも同じポスターがありました。中央競馬と地方競馬の交流レースの開催を予告したものです。昨年、鳥栖市の外れのほうにある佐賀競馬場のそばを通ったことがあります。その時は開催日であったのですが、周辺道路が多少混んだ程度で、駐車場にもかなりの空きがありました。ポスターを見て、その時の記憶がよみがえり、サテライト日田問題のことと中津競馬の累積赤字問題も頭の中をよぎっていました。


(初出:2001年2月16日)

2025年5月5日月曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第20編

 俗に別府・日田戦争とも呼ばれ、私自身は日田・別府戦争とも呼んでいるこの問題も、また新たな段階を迎えました。2月8日、多くの日田市民が傍聴する中、別府市議会がサテライト日田設置関連補正予算案を否決したのです。しかも、最大会派でサテライト日田設置に賛成の立場にあるはずの自民党会派からも反対者が出ました。別府市では新たな政治的問題が生じそうな気配です。

 第19編掲載以後、この問題に関して大きな動きが二つありました。今回は、その流れを追っていきます。

 2月1日の日田市議会臨時会の議決を経て、週明けの5日、日田市総務部長の森山建男氏など日田市職員計7氏が、訴訟代理人の弁護士、梅木哲氏とともに、大分地方裁判所日田支部にて訴訟提起の手続を済ませました。当日の大分合同新聞夕刊夕F版は、このことを大きく取り上げております。日田市は、今回の訴訟において損害賠償を請求しないとした上で、市報べっぷ11月号掲載記事(その概要は第2編において紹介しております)について、読者に対し、あたかも設置許可が出されるまでの3年間、日田市が明確な反対の意思を明示していなかったとの誤信を与えたものとしております。また、この記事が設置を早急に実現するために書かれた「悪意に満ち」たものであって、日田市の「名誉を著しく毀損する違法な内容」であると主張しております。日田市が主張する事実は、別府市が通産省(当時)や九州通産局(当時)から受け取った文書などにも、日田市、日田市議会、日田市内の地域住民が設置に反対しているという指摘が書かれていることなどです。また、訴状には日田市が要求する訂正文も添えられております。

 森山氏は、提訴後、裁判によって真実を明らかにし、日田市の信用を回復する旨を述べております。一方、別府市は、既に、市報べっぷに掲載された記事が客観的事実であると反論しており、2月5日にも、助役の大塚茂樹氏により、「裁判の過程で別府市の考え方などを主張してまいりたいと考えております」というコメントがなされてます。しかし、日田市における反対運動が当時の通産省に把握されていたのであれば、別府市がこの事実を知らなかったということはありえない話であるだけに、別府市がいかなる主張(反論)をなすのか、注目されます。

 別府市に対する訴訟のことについては、既に第14編において取り上げておりますが、ここで第14編に記したことを引用しつつ、この訴訟について再び検討してみます。

 訴訟要件の点ですが、第14編において、私は、日田市が法人であること(地方自治法第2条第1項)を理由として名誉権も認められると記しました。しかし、通説や判例に従うならば、日田市のような公法人に名誉権があるのか、公法人に対する名誉毀損がありうるのかという問題が生じうることになります。

 仮に公法人に名誉権が認められないとするならば、日田市の訴訟は却下されることになるでしょう。しかし、この立場は、あまりに形式的かつ先験的な、公法と私法との二分論に立脚しており、妥当とは言えません。

 まず、地方自治法にも民法にも、名誉権などについて、公法人に適用されるべき特別の規定はありません。勿論、公法人には私法人と異なる部分が多いことを否定すべきでもないのですが、それは地方自治法など、あくまでも法律の明文によるものであり、単純に性質論で区別できる問題ではありません。その意味において、法人が名誉を毀損された場合に損害賠償請求権が認められるとする最判昭和39年1月28日民集18巻1号136頁の趣旨は、原則的に公法人にも認められるべきであると考えます。

 次に、一般的に言うならば、市報掲載記事が特定の住民あるいは私法人の名誉を毀損したということがありうるでしょうが、別の市の名誉を毀損するという事案は、ほとんどなかった、あるいは問題にされなかったと思われます。しかし、そのことによって公法人の名誉権を否定するのは筋違いです。今後、このような問題が別の市町村において発生しないという保障もありません。仮に公法人の名誉権を否定するとすれば、例えば、A市が事実無根の記事を市報に掲載して産業廃棄物処理場設置に反対するB市の名誉を毀損し、B市の信用を失墜させたとしても、A市は何ら責任を問われません。従って、A市は、産業廃棄物処理場設置を推進する場合、市報にB市の名誉を毀損する内容の特集記事を幾度となく掲載して市民感情を形成することができるということになります。これが極めて不当な結論であることは言うまでもありません。

 そのため、名誉毀損に限らず、不法行為に基づく損害賠償請求を民法に従ってなすことは、公法人についても認められると解するのが妥当です(勿論、国家賠償法が適用される場合も考えられますが、名誉毀損は、通常、国家賠償法の問題ではありません)。

 〔なお、この問題について、日田市提訴後に或る高名な行政法学者の方から電子メールをいただきました。しかし、御本人の意向もあり、その内容をお示しできません。〕

 2月5日には、訴訟提起とは別の動きもありました(これも大分合同新聞2001年2月6日付朝刊朝F版19面などにおいて報道されております)。日田市長の大石昭忠氏は、井上信幸別府市長、全別府市議会議員(32名。なお、別府市議会の定数は33で、欠員が1)、助役、担当部課長などに宛てて、直筆の「直訴状」(A4の用紙2枚)を記し、送付しました。勿論、2月8日の別府市議会臨時会にてサテライト日田設置関連補正予算案が否決されるべきことを訴えたものです。内容は、サテライト日田が設置された場合の売上を約17億円と試算し、日田市に支払われる環境整備費(これは別府競輪主催のレースが行われた時などに、売上の約1%が支払われるというものです)が約1000万円と推定しております。1月7日に放送された「噂の! 東京マガジン」でも環境整備費のことが報道されましたが、1000万円から2000万円の間の金額であったと記憶しております。これに対し、別府市は総売上の25%にあたる約4億3200万円を収入とすることになります。これについても、大石市長は「市民らが場外車券に吸い取られる金額が市税収入に及ぼす影響は大きい」とされております。また、私も知っている現地の様子に触れ、交通渋滞の可能性をもあげております。

 大分合同新聞2001年2月10日付朝刊朝F版1面の「東西南北」においても指摘されておりますが、この「直訴状」に限らず、サテライト日田問題に関し、日田市長と別府市長は、対応あるいは活動の面において、非常に対照的です。別府市の場合、大塚茂樹助役などが対応にあたっており、市長自らはあまり積極的な活動を見せておりませんが、日田市の場合、市長自らが先頭に立ってサテライト日田設置反対運動を進めております。別府市中心街における12月9日の反対行動(第8編を御覧下さい)は象徴的です。「噂の! 東京マガジン」においても、日田市長のコメントのシーンが放映されました。

 2月5日には、サテライト日田設置反対連絡会の構成団体の一つである「サテライト日田設置反対女性ネットワーク」も動き、設置阻止を呼びかけるビラを配布しました。

 2月7日の夜、日田市中央公民館にて、別府市によるサテライト日田設置の説明会が開かれました。この説明会は、別府市議会12月定例会における指摘を受けて行われたものですが、直接の設置許可申請者でないとは言え実質的当事者であるはずの別府市による説明会は、この日になって初めて行われました(私自身、この点について全く理解できません)。別府市側は、大塚助役、首藤観光経済部長を始めとした執行部、 溝江建設の相談役氏が参加、日田市側は、市民約60人に加え(サテライト日田設置反対連絡会は不参加)、大石市長も出席しました。大分合同新聞2001年2月8日付朝刊朝F版21面は、この説明会について「冒頭から“押し問答”」という題をつけて報じております(私も傍聴したかったのですが、翌日のことを考えて取り止めました)。記事によれば、説明会の冒頭、大石市長が質問を求めて詰め寄り、これに対して別府市側も応酬するという状況でした。大石市長は、進出についての別府市側の態度に対する批判を込めた質問をし(この中には年間僅か5200万円の利益という言葉が登場します)、日田市民からは設置に対する疑問の声や、日田市のことは日田市民自らが決定するという趣旨の発言などが相次ぎました。これらに対し、別府市側は、法律の認める範囲の中で行っていて「ごり押し」ではない、などと返答しており、日田市側と別府市側の主張は平行線をたどったままでした。大石市長は、この説明会について「一般的な解説に終始し」たと不満を表明し、別府市の大塚助役は「直接、日田市民や大石市長と話し合えて有意義だった」、「別府市の考え方を十分に伝え、理解していただけたと思う」旨を述べています。

 ここで、念のために記しておきます。私は、地方公共団体が競輪などの公営競技事業を営むこと自体に反対している訳ではありません。従って、私がサテライト日田問題を取り上げている理由は、公営競技事業に反対するためではありません(第12編も御覧下さい)。この点を誤解しないでいただきたいのです。私の出身地である川崎市には、川崎競輪場と川崎競馬場があります(いずれも川崎区にあります)。その収益が様々な公益のために役立てられていることも知っております。問題は公営競技事業そのものにあるのではなく、他市町村の地域づくりとの関連にあります。また、先ほど記しましたように、説明会一つをとっても、別府市の対応には疑問ばかりが残ります(やはり「第12編」においても述べました)。たしかに、設置許可申請者は 溝江建設であり、別府市ではありません。しかし、別府市は、溝江建設に賃貸料を支払い、別府競輪場の場外車券売場として車券を販売するのです。従って、別府市は実質的当事者に他なりません。そうである以上、早い段階から、別府市は、日田市および日田市民に対して設置計画などを説明する義務(法的なものではないとしても)があったはずです。設置許可が出されてから、既に半年以上が過ぎています。今さら説明会だと言われても、市民の理解を得ることは不可能でしょう(少なくとも、非常に困難です)。この問題に関して、これほどまでに強烈な日田市側の反発を招き、大分県外からも別府市に対する批判と日田市への支持が集まったのも、別府市側の態度あるいは対応のまずさに由来する部分が大きい、と評さざるをえません。

 そして、2月8日です。冒頭にも記しました通り、別府市議会臨時会においてサテライト日田設置関連補正予算案は否決されました。これについては、大分放送のホームページにて同日の午後に記事が掲載されました。また、西日本新聞2001年2月9日付朝刊16版1面および3面、大分合同新聞2001年2月9日付朝刊朝F版1面などでも報道されました。私も、このホームページの「ひろば」に速報として記しました。当初、市議会の最大会派である自民党会派が賛成することにより、補正予算案は可決されると思われましたが、事前の申し合わせに反し、議長経験者でもある長老格の議員3氏が反対にまわり、賛成13(自民12、他会派1)対、反対17(公明、共産など)、棄権1で否決されたのでした。反対にまわった自民党会派の議員3氏に対し、自民党議員団は会派退会の要請書を送り、会派長を務める浜野弘氏も会派長を辞任する意向を示しました。

 大石市長も驚きの表情を示しておりましたが、私も驚きました。2月1日の別府市議会経済観光委員会においては補正予算案が可決されたからです。しかし、最も驚いたのは井上市長でしょう。大分合同新聞2001年2月9日付朝刊朝F版1面によれば、別府市政を担って初めて議案が否決されたのですし、自らの支えでもある自民党会派から造反者が出たのですから。地方公共団体の議会においてこれほどの「逆転劇」も、そう多くないでしょう。もっとも、大分合同新聞2001年2月10日付朝刊朝F版1面の「東西南北」によれば、込み入った問題になると一筋縄では行かなくなるのが別府市議会の傾向であるそうですが。

 いずれにせよ、議会はサテライト日田設置関連補正予算案を否決しました。この意味は大きいものです。西日本新聞2001年2月9日付朝刊16版1面の見出しにあるような「事実上白紙に」という状態には直ちに結びつきませんが、再検討を強いられることは間違いありません。日田市側は、既に提起している別府市に対する訴訟および国(経済産業省)に対する訴訟について判断を保留していますが、市長同士の会談なども行われる可能性が高くなっています。

 しかし、別府市執行部は、あくまでも設置するという姿勢を変えておりません。井上市長は、議会の採決を「真摯に受け止める」としつつも、設置許可が適法であり、事業も正当であるとして、日田市を批判しつつ、設置に向けて努力することを表明しました。また、補正予算案の再提出も検討されております。しかし、3月定例議会が2月26日に始まる予定であるということからすれば、大分合同新聞2001年2月10日付朝刊朝F版29面にもあるように、6月定例議会に持ち越される可能性があります。

 この議決に関して、経済産業省車両課課長補佐の鈴木繁雄氏による、「予算案の否決について直接コメントする立場にない。両氏の動向をみながら、対立解消に向けて話し合う場を持つことを検討している」というコメントが、西日本新聞2001年2月9日付朝刊16版1面に掲載されております。

 また、この議決に対し、或る別府市民は日田市の姿勢を批判しております。しかし、別の別府市民はサテライト日田設置計画を白紙に戻すべきだと述べております。12月9日に話をした別府市民も、別府市政に批判的な意見を示していました。時々、私は、大分大学で学生にサテライト日田問題を話すのですが、公営カジノ設置問題で揺れる宮崎県出身の学生などからも、別府市批判が聞かれました。或る学生は私に「先生、場外車券売場は日田のイメージに合いませんよ」という意見をくれました。

 大分合同新聞2001年2月10日付朝刊朝F版29面掲載の記事の内容を、もう少し紹介します。別府市は、2月9日、大塚助役が経済産業省に、首藤観光経済部長が九州経済産業局に経過報告をしました。経済産業省は別府市と 溝江建設の対応を見守るという姿勢を示しています。また、別府市議会議長の三ケ尻正友氏は、再提案について執行部の判断に委ねつつも、今回の議決を謙虚に受け止め、サテライト日田設置断念を検討したほうがよいと述べております。さらに、共産党北部地区委員会および同党別府市議員団は、補正予算案否決は民意の結果であって設置計画を断念することを求めるという趣旨を文書により申し入れました。

 私自身、この問題に関しては、当初は、法的な側面を始めとして、別府市が有利であると思っておりました。しかし、徐々に形勢が逆転していきました。別府市のホームページにはサテライト日田問題に関する記事がなく、掲示板もないので、別府市民などがこの問題をどのように考えているのか、よくわからない部分があります。これに対し、日田市のホームページは、サテライト日田問題に関する記事が載り、掲示板には日田市民を始めとする方々が意見を寄せられております。私も、別府市のホームページでは意見を表明できないので、日田市のホームページにある掲示板に、何度か意見を記しました(余談ですが、私自身、多くの収穫を得ることができました)。TBSが「噂の! 東京マガジン」においてこの問題を報じた後、大分県外から、多くは大分県出身者から別府市に対する抗議の電子メールなどが寄せられたと聞いております。勿論、日田市民の中にも、日田市によるサテライト日田問題の扱い方などに関して批判的な意見を持たれている方がおられます。それは当然のことでしょう。しかし、議論の余地もないところに、健全な発展はありません。サテライト日田問題は、おそらく、日田市、別府市の両方に、これからの地域づくりをどのように進めていくかという問題を提起しています。


(初出:2001年2月11日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第19編

 再び、僅か一日での続編となります。今回は、文字通り第18編の続編です。本来ならば、第18-2編とでもすべきところです。

 2月1日の夜から、この問題に追われ続け、あるいは追い続けました。2月1日のことについて、もう少し詳しく書いておきたいと思います。なお、今回は、大分合同新聞2001年2月2日付朝刊朝F版25面、西日本新聞同日付朝刊15版34面、朝日新聞同日付朝刊大分10版28面および毎日新聞同日付朝刊大分版23面によりつつ、進めて参ります。以下、発言などの引用はそれぞれの記事によることを、あらかじめ申し上げておきます(煩雑になるので、出典を示しません)。

 まず、別府市議会観光経済委員会の模様です。昨年12月市議会で「継続審査」となった補正予算案について、大塚茂樹助役、首藤広行観光経済部長など市側が日田市への働き掛けを説明しました。13時過ぎに開会してから、日田市議会の議決の概略が議員に知らされたそうです。会議において、公明党の委員(議員。以下同じ)や共産党の委員から、今後の見通しについての質問や、議案を撤回すべきであるという意見が出されましたが、市側は、日田市との接触を試みているがその糸口が見つからないこと、日田市民の理解を得て日田市民に愛される施設を造りたいという答弁をしました。質疑応答の後、自民党議員から付帯決議つきの採決を求める動議が発せられ、賛成多数で動議が認められた後、採決がなされました。その際、市民の声クラブの委員が、採決は時期尚早として退席しております。そして、賛成5(自民党)、反対2(公明党、共産党)で可決されました。

 付帯決議は、①日田市民に、引き続きサテライト日田設置の理解を求めること、②設置業者の 溝江建設に日田市民との対話の窓口を設けること、③国、県、日田市、別府市の四者によって円満解決に向けた協議会の設置に努力すること、④別府市、日田市の両市民に、経過について正確に周知を図ること、⑤日田市との友好関係を損なわず、紳士的に融和な関係を維持すること、この5項目を別府市執行部に求める内容です。これについて、三ケ尻正友議長は「重く受け止めていただきたい」と述べ、大塚茂樹助役も「本会議でも理解を得られるよう、最大限の努力をする。付帯決議は重く受け止める」と述べています。

 その上で、三ケ尻議長は、現状について、別府市側にアプローチの仕方や考え方に不備があったと認めつつ、別府市が「競輪事業を否定する訳にはいか」ず、臨時会で予算が可決された場合には「議会として、執行部をバックアップし、サテライト日田設置の理解を得るために」日田市などへ何らかの行動を起こしていく旨を述べております。また、大塚茂樹助役は、本会議でも補正予算案が可決されるように努力していく旨を述べた上で、日田市による提訴について、専門家などと協議して対応する、別府市側の見解は裁判の中で明らかにすると述べ、全面的に争う姿勢を見せております。

 今回の動きについて、別府市としては、このまま未設置の状況が続くならば、設置許可(これは別府市に対するものではありません)の撤回という事態につながると懸念したのではないか、と推測されます。経済産業省も、この問題について設置許可の見直しも検討するというサインを出しておりました。これが大きな原因(少なくともその一つ)であると思われます。三ケ尻議長の発言からも理解できますが、競輪事業を運営する別府市としては、 溝江建設が受けた設置許可が撤回されるということになれば、車券を販売できなくなり、事業そのものにも大きな打撃になります。

 次に、日田市議会臨時会の模様です。こちらのほうは、別府市観光経済委員会と異なり、反対一色に染まっていたようです(当然ですが)。2月1日、別府市、日田市のいずれにおいてもサテライト日田関係の議題が扱われていた訳ですが、別府市側の「強硬姿勢」に、市議会は過熱気味とも言えるほどの怒りの声が高まりました。

 10時の開会の後、大石昭忠市長は、別府市を提訴するという内容の議案について、「日田市は、計画が明らかになって以後、(市も市議会も)明確に反対の意思を示した。別府市の市報の記述は事実に反する。日田市の名誉・信用を著しく、毀損した」と、提案理由を読み上げました。その後、議員からの質問が出され、市長は、別府市に二度送った内容証明郵便による訂正要求をあげて、これに対する返答がないことを指摘し、「これ以上待つ必要はない。今回の提訴で事実を確認したい」と返答しました。また、議案について「中止交渉のための手段ではなく、別府市民に真実を明らかにし、日田市の信用を回復させるものだ」と述べております。

 議案は総務委員会に付託され、審議されました。その場においても、委員から、国(経済産業省)への訴訟も同時に行うべきではなかったのか、別府市の自民党市議数名が来たが、先に推進スケジュールが決まっていて誠意というのは単なるジェスチャーであって腹立たしい、「経済産業省に座り込んででも計画阻止を」などの意見が続出し、日田市執行部側も、今後も様々な「可能性を含めて設置阻止に向けて検討している」と述べております。こうした中、委員会は議案を可決しました。

 13時、本会議が再開され、議員4氏が賛成討論を展開しました(反対討論はなされなかったようです)。その場においても、「別府市のやり方は他市の施設の入場者の増加によって財政を賄うもの」、「教育上もきわめて有害」、などの意見が相次ぎました。採決に移り、議案は全会一致で可決されました。その後、大石市長は、「日田市の名誉と信用を回復するため」に、最終的な目標を場外車券売場を設置させないことに置くと挨拶し、閉会しました。

 議案可決を受けて、日田市は、週明けの2月5日に、大分地方裁判所日田支部にて訴訟手続をとるとのことです(大分市から日田市までは90kmほど離れておりますが、大分地方裁判所日田支部に訴訟が係属した場合には、傍聴しようかと考えております)。

 本会議にて議案が可決された後、大石市長は「日田市の思いを良識をもって判断してほしいと強く望んでいる」としつつ、別府市議会臨時会がサテライト日田関連の補正予算案を可決した場合には、経済産業省に対する設置許可無効確認訴訟の提起など、考えられうるあらゆる手段を尽くして阻止運動を展開していく旨を語りました。

 また、室原基樹日田市議会議長は、市議会終了後に「別府市の臨時会の動きは、あまりに急転直下の出来事で、こういうことは予想していなかった」、「できれば話し合いで何らかの打開策をと考えていたが、これでは不信感しか残らない。議会同士の話し合いはこれで閉ざされた」と語りました。事実上、よほどのことがない限り、「全面対決」(上記大分合同新聞記事の見出しより)、「日田・別府 深まる対立」(上記朝日新聞記事の見出しより)は、即座に解決されそうもありません。

 私が気になっているのは、第16編において記しましたように、行政事件訴訟法第36条に規定される無効確認訴訟を提起しうるのかという点なのですが、この点について、大石市長は、日田市「職員が東京の法律事務所に出向き、俎上には載るだろうとの確認を頂いて帰ってきた」と述べております。但し、別府市議会臨時会の展開に注目した上で「慎重に取り組む」という姿勢を示しております。別府市議会のほうは、観光経済委員会の様子でもわかるのですが、議員・会派によって意見が異なります。別府市議会臨時会の審議に注目しなければなりません。

 既に賽は投げられている訳で、両市とも、後には退けません。

 なお、今回の模様は、南日本新聞2月2日付朝刊にも掲載されたそうです(鹿児島市の「市井人」さんからの情報です。「ひろば」に記載していただきました)。


(初出:2001年2月3日)

2025年5月4日日曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第18編

 いよいよ、別府市がサテライト日田設置を本格的に進めようとしております。2月1日付の大分asahi.com/ニュースは、別府市議会の与党最大会派である自由民主党議員団が、サテライト日田設置関連議案について、2月1日に開催される別府市議会観光経済委員会において可決する意思を確認した、と報じました。同委員会は9人の議員から成りますが、過半数の5人が自由民主党議員団に所属していることから、可決は確実とみられておりました。事実、2月1日18時50分からのNHK第一放送大分ローカルニュースは、同委員会が議案を可決したと報じております。「ひたの掲示板」には、早速、別府市議会観光経済委員会による今回の議決を批判する投稿がなされておりました。

 今回は、今後とも日田市側の同意を得る努力を怠らないことという旨の附帯決議もなされております。いずれにせよ、これを受けて、2月8日には臨時市議会本会議が開かれ、本会議で可決されることとなるでしょう。1992(平成4)年度をピークにして別府競輪の売上は下降線をたどっていることからすれば、この状態を打開するためには、何としても、年度内予算執行の関係もあり、急がなければならないということなのでしょう。また、日田市という場所は福岡県や佐賀県にも近いことから、別府市にとってみれば絶好の場所です。そのため、サテライト宇佐よりも高い集客力が予想されます。競輪事業の建て直しを目論見る別府市にとっては、サテライト日田の設置、そして成功が、競輪事業継続の一つの鍵であると考えられます。

 昨年12月の市議会において、サテライト日田設置関連議案は「継続審査」とされておりました。しかし、問題解決の糸口が全くつかめない状況では結論を先送りできないということが、可決への理由となっています。また、競輪開催都市の与党会派という立場からすれば、議案に反対するという訳にもいかないのでしょう。しかし、前回にも記しましたが、別府市議会でも批判や要望が相次いでいる状況であり、別府市民の中からも批判の声が(少しずつですが)強くなっております。そればかりでなく、私の知人などからも、別府市の対応には問題があるという声が上がっておりますし、TBS系の番組「噂の! 東京マガジン」で報道されたこともあり、日田市民への応援の声が「ひたの掲示板」にも届いておりますし、別府市には、別府競輪ホームページの「質問コーナー」を始め、抗議の電話やメールが集まったという話もあります。

 一方、日田市は、やはり2月1日に臨時の市議会を開き、別府市報掲載記事の訂正を求める訴訟の議案を諮りました。この議案は全会一致で可決され、日田市は、週明けにも訴訟を提起するとのことです(日本経済新聞2001年2月2日付朝刊西12版39面の記事です)。実際に法廷の場において争われた場合、時間的な都合をつけて大分地方裁判所にて傍聴しようかと考えております。

 なお、この日田市の議案については、既に、1月31日、19時45分からのNHK第一放送九州ローカルニュースでも報道されておりました(「ひろば」107番にも記した通り、経済産業省を相手取った行政事件訴訟の件であると聞いた記憶がありますが、正確でなかったかもしれません)。なお、そのニュースによれば、例の通商産業省(現在の経済産業省)の通達に示された基準に従っていない設置許可はサテライト日田のみで、その理由として、日田市内の4つの町内会が一旦同意したものの、その後の反対運動の高まりを受けて同意を撤回した(一般用語です)ことによるというのです。

 こうした経緯をみると、サテライト日田設置許可は違法ではないのかという疑問を持たれる方もおられるでしょう。通達は外部的効力を持ちませんので、通達に従っていなかったから直ちに許可の効力に影響があるという訳ではありません。しかし、他の場外車券売場設置許可が通達に示された基準に従ってなされたのに1件だけが従っていないということであれば、平等原則違反などの問題が生じます。しかし、地元の同意が一時的であれ得られたということであれば、その同意の撤回がどのようにして示されたかということも問題となります。

 日田市民の方からの情報によれば、サテライト日田設置反対連絡会議のチラシが配られました。その内容は、設置反対の意思を、葉書やファックスにより、溝江建設、別府市役所、別府市議会議長、そして経済産業省に届けようというものであるとのことです。

 今週、或る学生(宮崎県出身)が私の研究室を訪れました。話をしている間にサテライト日田問題に関する質問を受けました。その学生は、この問題をあまりよく知らなかったらしいのですが、出身地の宮崎県でも公営カジノ設置に積極的なことに、相当な批判的意見を持っているようでした。私が、時折、講義の中でサテライト日田問題について話をすることもあり、何人かの学生から質問を受けます。以前、大分大学事務官の某氏からも、質問を受け、話をしました。

 いずれにせよ、別府市議会の動きに対して、日田市が態度をさらに硬化させることは、間違いありません。「第15編」にも記しましたが、経済産業省は、この問題の解決に向けて動き出したはずなのですが、本当のところはどうであるのか、疑問が生じてきます。今回の別府市議会の動きは、経済産業省が具体的な策を示さなかった、あるいは、策を示したとしても失敗したということを意味します。既に遅きに失している感もあるのですが、これ以上、問題を深刻化させないためには、2月8日に開かれる別府市議会の臨時本会議までに、経済産業省が具体的かつ有効な解決策を、両市に示す必要があります。

 (なお、今回の記事は、2月1日に作成しましたが、日田市臨時市議会が提訴の議案を全会一致で可決したことが2月2日付朝刊において報道されたため、内容を一部変更しました)。


(初出:2001年2月1日作成、2月3日修正)

「ひろば 研究室別室」の移転について

   長らくgoo blogで続けてきましたが、あれこれと考えた結果、2025年8月7日より、はてなブログのほうで書いていくこととしました。何卒よろしくお願い申し上げます。  新しいアドレスは、次の通りです。   https://derkleineplatz8537.hatena...