2025年5月11日日曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第31編

 この問題を知り、取り組み始めてから、もう1年が経ちます。そして、本シリーズも第31編を迎えることとなりました。この間、日田市民の方、マスコミ関係者の方をはじめ、多くの方々に御覧いただいており、様々な御意見をいただきました。感謝の意に堪えません。私にとっても、自らの行政法学者としての位置を再確認するきっかけとなったサテライト日田問題について、今後も追い続けるとともに、「まずはこのホームページを参照せよ」というお声をいただけるようなものにするために、さらに努力を重ねて参る所存でおります。

 7月3日、大分市も炎天下という言葉が相応しい陽気でした。正午、ゼミを終えて大学を出て、大分地方裁判所に向かいます。到着したのは12時20分ころ。裁判所の前で昼食をとり、12時半となりましたが、前回と違って、玄関前に人は並んでいません。しかし、しばらく待っているうちに、マスコミ関係者が五月雨式に入ってきました。そして、日田市民を乗せたバス、日田市の公用車が到着し、日田市の関係者などと話をしました。13時をかなりまわってから、大石市長、寺井弁護士など弁護士3氏が到着し、我々は1号法廷に入りました。私は、最前列左側、原告側に最も近い席に座り、日田市の方からいただいた被告側の第1準備書面を広げ、傍聴しました。

 今回が第2回目となる口頭弁論ですが、当初から少々変な雰囲気に包まれていました。須田裁判長の声が聞こえにくいと傍聴席から抗議の声が発せられました。大分地方裁判所の場合、3号法廷で刑事裁判が行われるときにはマイクがONになっているのですが、どういう訳か、最も広い1号法廷はマイクがOFFになっています。相変わらずだということになります。今回は、原告側弁護士の声が最もよく聞こえたのです。被告側弁護団のほう(こちらは弁護士でなく、訴訟検事の方であると思われます)も、ボソボソ声に近い様子です。

 被告側の第1準備書面は、6月27日付となっており、12頁から成っております。内容は、第一に、原告である日田市に原告適格がないことを、行政事件訴訟法や自転車競技法の条文を利用しつつ、さらに東京地裁平成10年10月20日判時1679号20頁(サテライト新橋事件)を援用して主張しております。なお、この東京地方裁判所判決に対して、原告は控訴しましたが、東京高判平成11年6月1日判例集未登載は原審支持で請求棄却、さらに最決平成13年3月23日判例集未登載も請求棄却で確定しており、かなり厳しいものとも考えられます。第二に、出訴期間の徒過を主張しています。行政法に関係する者であれば、予想通りの内容です。しかし、それだけに、突破することは難しいとも言えるのです。

 それに対して、原告側弁護士から質問がなされました。そのうち、第1準備書面の3頁に記されている「安寧秩序」の意味に関して、これが地域の治安を含むのか否かという質問については、被告側から、持ち帰って検討するという回答がなされました。次に、4頁にある「これに対し、競技法には、場外車券売場が設置される地方公共団体の利益保護を目的とするような規定は見あたらない」という部分に対する質問が出された時のことです。原告側は須賀裁判長は、当初、これを遮り、それついて原告に説明を求めたのですが、原告側は被告に質問していることであると主張、裁判長は譲らず、少々険悪な雰囲気になりました。傍聴席からも、声こそ発せられなかったのですが抗議の視線が向けられていました。裁判長は、結局、原告側の主張を認め、被告側が検討することとなりました。これらは、遅くとも8月10日まで、可能な限り8月3日までに裁判所へ提出されるということです。次回は9月11日の11時半からということで、木田弁護士にも確認を取ったのですが、いかにも中途半端な時間設定です。また、11月6日の13時半からという予定も組まれました。

 その後、日田市長、寺井弁護士を中心として、傍聴に来られていた市民の方々が玄関前に集合しました。日田市長のあいさつ、そして寺井弁護士のお話がありました。寺井弁護士は、口頭弁論の時の裁判長の態度を改めて批判されました。そばにいた私も飛び入りしてあいさつし、少々ですが批判をさせていただきました。その後、日田市側は大分県庁に行き、前回と同様に記者会見をしたものと思われますが、長野県と違って記者クラブの存在が疑問視されない大分県、その県庁記者クラブに私は入れません。私は、大分大学に戻りました。

 また、9月10日に、日田市民と原告弁護団との勉強会が行われるかもしれません。これは、寺井弁護士が発言されたことです。私も参加させていただければ、と考えております。


(初出:2001年7月4日)

2025年5月10日土曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第30編

 6月19日の10時から、大分地方裁判所第1号法廷において、対別府市訴訟の第2回口頭弁論が行われました。前回の口頭弁論において別府市側の答弁書が提出されたため、日田市側から、6月12日付の準備書面が提出されました。これは、日田市側の訴訟代理人である梅木哲弁護士によって作成されたものですが、少々、私も関係しています。

 別府市の答弁書には、原告適格の部分に関連して公権力の行使という言葉が用いられていたため、市町村が公権力の主体である場合が多いことは当然としても、そうでない場面があるとして、市報の刊行は公権力の行使にあたらないと主張したのですが、別府市側の訴訟代理人である内田健弁護士は、判例時報1479号掲載の判決などを援用して、市報の刊行が公権力の行使にあたると主張しました(実は、この解釈が誤っているのですが、後に示します)。少々、日田市側の準備書面の論理構成面に難があることは認めざるをえませんが、解釈の誤りも指摘しなければならないでしょう。また、別府市側は、日田市に原告適格がないこと、および名誉の意味について、今年の2月28日に新潟地方裁判所高田支部から出された判決を援用しています。

 また、別府市側は、日田市の主張する名誉について、準備書面の最後の頁の部分を摘示し、その意味が不明確であると主張しております。

 この口頭弁論の模様は、西日本新聞や朝日新聞で報道されましたが、扱いは小さく、私が実際に傍聴したこと以上のものを記したものでもありません。実際、口頭弁論終了後、NHK大分、大分朝日放送、読売新聞、西日本新聞などの記者氏が梅木弁護士や日田市職員4氏らを囲んで取材をしていた時、私も梅木弁護士の隣におり、補足説明をしたり、質問を受けたりしていました。続いて、私が残って大分朝日放送および西日本新聞の記者氏と話をしております。この日は、大分大学で講義の一環として行っている裁判傍聴のための打ち合わせをして研究室に向かったのですが、西日本新聞の記者氏から電話をいただき、質問を受けました。

 さて、判例時報1479号の判決ですが、これは或る小学校の職員会議における発言内容が自治体の広報に掲載され、児童の名誉が侵害されたという事案に対するもので、背景は非常に複雑です。この事件の原告は、国家賠償法第1条と民法第723条に基づいて損害賠償請求をしております。判決理由中には、たしかに、公権力の行使という言葉が登場します。しかし、ここでは、単に自治体の公務員が公権力の行使に関わるという意味合いで使われているにすぎず、広報の発行が公権力の行使であるという言い方はなされておりません。

 そもそも、公権力の行使というからには、行政行為論を待つまでもなく、法律の根拠を必要とします。もう少し拡大して、条例の根拠でもよいでしょう。仮に市報の発行が法律あるいは条例の根拠に基づいていない場合には、公権力の行使たりえません。それはただの事実行為です。しかも、事実行為である場合であっても、公権力の行使の一環としてなされるのであれば、法律の根拠を必要とします。行政上の強制執行や、警察官職務執行法に定められる職務質問などがその例です。

 それでは、法律の根拠さえあれば、行政庁によるいかなる行為も公権力の行使と言いうるのでしょうか。そうではありません。例えば、行政指導の中には、法律上の根拠があるというものも存在します。独占禁止法に定められている勧告などは、その代表例です。この場合、勧告の後に命令が控えているのですが、勧告そのものに法的な拘束力はありません。他には、廃棄物処理法に定められるごみ処理もあげられます。

 別府市のものであれ日田市のものであれ、市報の発行が条例に基づくものであるかないかに関わらず、公権力の行使にあたらないことは言うまでもないでしょう。仮に公権力の行使であるとするならば、一体、具体的に何が、どの部分が公権力の行使なのでしょうか。広報はお知らせにすぎません。基本的には、新聞や雑誌と同じです。広報誌であっても、国や自治体が刊行する場合には公権力の行使であって、出版会社が刊行する場合には民事法上の行為であるという主張は、おかしなものであるとしか言いようがありません。

 次に、先の新潟地方裁判所高田支部判決についてです。これは、東京放送(TBS)のニュース番組によって上越市が名誉を侵害されたとして訴えたもので、出訴までの経緯が上越市のホームページ(http://www.city.joetsu.niigata.jp/)に掲載されています。結局、上越市が敗訴し、上越市は3月13日に東京高等裁判所へ控訴したのですが、注意していただきたいのは、却下判決でなく、棄却判決であるということです。この判決をまだ入手していないため、私は、上越市役所に電話を入れ、その結果、担当の方から状況などをうかがうことができました。それによると、問題は、上越市が主張する名誉の中身でした。上越市がTBSを被告として裁判を起こすこと自体は認められています。つまり、訴える資格そのものは認められたのです。ここから考えても、日田市の原告適格はクリアされるということになります。細かい部分は判決を入手しなければわかりませんが、私は、「第27編」においても述べましたが、日田市対別府市の場合、ともに公法人であることから、とりもなおさず私法人対私法人と同様に考えるべきだと思います。その意味では、次回口頭弁論までにしっかりとした準備書面を作成すれば、日田市の原告適格は難なくクリアできる可能性が高いでしょう。問題は、日田市が有する名誉です。これをさらにつめなければならないのです。

 次回は8月28日、13時10分からです。

 本題からは外れますが、ここで、公営競技の場外券売場について、気になる話題を記しておきます。

 まず、福岡市博多区にある場外車券売場設置問題です。これは、6月18日の21時55分、NHK第一放送の九州・沖縄地方ニュースで知ったことです。翌日、日田市の職員であるG氏とも話をしましたが、博多駅の付近に設置される計画があり、住民の間でも賛成派と反対派とが分かれているようです。18日の福岡市議会でもこの問題が扱われました。

 また、大分市三佐(みさ)校区では、一旦取り止めとなった場外舟券売場「ボートピア大分」の設置計画が、別会社によって再び出され、6月17日に説明会が行われました。大分市は反対の立場を表明していないのですが、住民の中には反対論が強く、サテライト日田問題の影響もあって、長期化が予想されます。この問題については、掲示板「公園通り」を参照して下さい。場合によっては、新コーナーを設けて取り上げることも考えています。


(初出:2001年6月23日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第29編

 このところ、サテライト日田問題に関して進展が見られなかったため、続編を作成しうる状況になかったのですが、今月に入り、別府市のほうで新たな動きがありました。6月19日には、原告:日田市、被告:別府市の第2回口頭弁論が行われますが、そのことと関係があるかどうかまではわかりません。今回は、朝日新聞の大分asahi.com/ニュース2001年6月6日付記事(http://mytown.asahi.com/oita/news02.asp?kiji=964)、および大分合同新聞ホームページ2001年6月5日付記事(http://www.oita-press.co.jp/cgi-bin/news2.cgi?2001-06-05=17)を基にしております。

 サテライト日田設置関連補正予算案は、昨年の12月18日、別府市議会定例会において継続審議とされ(第12編および第10編を参照)、今年2月8日の別府市議会臨時会において否決されました(第20編を参照)。日田市側の、市民・行政が一丸となった反対運動が実を結んだ結果である、と言いうるでしょう(その際立ったものが、12月9日に行われた、あの反対デモ行進でしょう。第8編を御覧下さい)。これが別府市議会を動かしたことは間違いありません。そして、今年の1月7日、13時から東京放送にて放映された「噂の! 東京マガジン」の力が大きかったことも、否定できません。これがきっかけで、日田市のホームページにある「ひたの掲示板」には応援のメッセージが寄せられ、別府競輪場のホームページにある「競輪質問コーナー」には、おそらく別府市としては予想もしていないサテライト日田問題に関する質問や抗議が記されました。抗議の電話やメールはそれ以上であったと言われています。余談ですが、この時期、私も、市町村合併の講演会の準備をしながら、「ひたの掲示板」に書き込みをしていました。その結果、実際にお会いしたことがないとは言え、色々な方々と交流させていただくことにもなりました。

 別府市は、臨時会において議案(サテライト日田設置関連補正予算案)が否決されたからと言って、断念した訳ではありません。3月の定例会への再提出も検討されていたようですし、遅くとも6月の定例会に再提出されるという観測が一般的でした。結局は空転の原因にもなりましたが、多数派形勢工作を目的とした与党会派の三分割も、サテライト日田問題によるものでした。結局、この工作は成功しなかったのですが、逆に、このような情勢であったからこそ、サテライト日田設置関連補正予算案は提出されなかったのです。そして、4月18日の第1回口頭弁論において、別府市は全面的に争う姿勢を示しました(第25編を参照)。一連の動きを見ていたならば、別府市が6月の定例市議会にサテライト日田設置関連補正予算案を再提出することは、むしろ当然の流れでしょう

 しかし、6月5日、記者会見の席において、別府市の井上信幸市長は、サテライト日田設置関連補正予算案を市議会に提出しないことを表明しました。その理由として、提案したとしても市議会の理解を得られないという判断があったようです。もっとも、これは、設置を断念するという意味ではありません。上記朝日新聞記事にも、「競輪事業振興のため」にはサテライト日田の設置が必要であるという趣旨が示されておりますし、サテライト日田の設置手続に法的な問題がないこと、この問題に関して別府市が当事者としての立場にないことを、改めて示しました。以前から別府市が表明している立場です。

 以前から私が指摘しておりますように、この問題に関する別府市の対応は、誠実なものとは言い難いと思われます。たしかに、設置許可に関わる行政手続の面からすれば、当事者は設置許可申請者である 溝江建設と経済産業省(当時は通商産業省)であり、別府市は第三者です。しかし、溝江建設は、自転車競技法の規定からして設置許可を申請しうるのですが(公営競技において、設置許可申請をなしうる者について何らの限定を加えていないのは競輪事業だけのようです)、設置許可を得られたから車券を販売できるという訳ではありません(この点も、自転車競技法にみられるおかしな点です)。施設を賃借する予定になっている別府市だけが、車券を販売しうるのです。そうであれば、別府市は、サテライト日田問題に関する実質的な当事者であることは言うを待ちません。たとえサテライト日田の建物が完成しても、別府市が、予算を通じて車券販売の準備をし、建物を賃借した上で実際に車券を販売しなければ、場外車券売場として何の意味もないのです。果たして、こうした単純なことを別府市側は理解しているのか、と疑わざるをえません。

 それにしても、最近、サテライト日田問題があったからかどうかはわかりませんが、全国的にも、別府市より日田市のほうが、良くも悪くも注目を浴びているようです。少なくとも、インターネットの世界では、日田市のほうがイメージをアップさせたと言えるでしょう。それは、別府市のホームページに掲示板がなく、別府競輪場のホームページには掲示板があっても、本来の趣旨とは違うと思われるサテライト日田問題以外に書き込みがないこと、その書き込みに対して別府市が何の対応もしていないことからすれば、当然のことです。逆に日田市のほうは、「ひたの掲示板」において、サテライト日田問題が議論されており(私もその一員ですが)、市政に関する他の問題についても活発な議論がなされているのです(これにも私が参加しています)。電子政府、電子自治体構想を現実化するためには、行政側から一方的に情報を流せばよいという態度を捨て、いかに辛辣な意見が寄せられようが、真摯な意見である限りにおいて、誠実に受け入れ、検討をした上で、反省をしなければなりません。勿論、行政の立場に過誤がないというのであれば、十分に説明をしなければなりません。


(初出:2001年6月11日)

2025年5月9日金曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第28編

 当初、第27編は、5月8日(火)に行われた対経済産業大臣訴訟第1回口頭弁論の模様までを含めたものとすることを考えていたので、暫定版としておりましたが、それではすまなくなりそうになったので、第27編を、若干補充した上で完結とし、新たに第28編をあげることとしました。

 5月8日、13時半から、大分地方裁判所において、平成13年(行ウ)第10号行政処分無効確認、同取消請求事件の第1回口頭弁論が行われました。原告は日田市、被告は経済産業大臣です。この訴訟の模様は、西日本新聞ホームページの2001年5月9日付の記事(http://www.nishinippon.co.jp/media/news/news-today/today.html#012)、読売新聞ホームページ九州版の 2001年5月9日11時52分9秒付記事、朝日新聞の大分asahi.com/ニュース2001年5月9日付記事(http://mytown.asahi.com/oita/news01.asp?kiji=870)などに掲載されましたが、私自身も傍聴しておりますので、今回は、口頭弁論の模様を記しておきます。

 既に4月の時点において、大分地方裁判所の方から、当日は傍聴整理券を発行するという話を伺っておりました。そのため、私は、大分市の中心街で昼食を取り、12時半に大分地方裁判所に到着しました。その時で既に数人が並んでいました。そのころから、報道関係者が続々と到着しました。中には、知っている人もいます。13時前に、日田市の関係者が、最初は公用車で、次にマイクロバス2台で大分地方裁判所に到着しました。NHK記者の佐藤氏、日田市役所の佐藤氏、そして、日田商工会議所会頭の武内好高氏とも意見交換などをいたしました。後で聞いた話ですが、日田市議会の議員団も揃っていたとのことです。議長の室原氏が来られていたのは勿論です。また、サテライト日田設置反対女性ネットワークの代表、高瀬由紀子氏など、17団体の代表なども姿を見せていたようです。

 13時5分から84枚の傍聴整理券が配布されました。当初は抽選になるかとも思っていたのですが、そうならず、1号法廷に入ることができました。12月9日に反対集会に参加していた別府市民の方、熊本県内の大学に通う学生の方などからも、声をかけていただきました。

 原告席には、大石市長、寺井弁護士、企画課の五藤氏など、計5名が、被告席には、福岡法務局訟務検事の西郷雅彦氏他6名がおります。裁判所は、須田啓之裁判長、脇由紀判事、宮本博文判事の合議です。

 13時半を少しまわってから、裁判が開始となりました。原告側から、既に出された訴状を補足する形で陳述を行いたいという要望が出され、受け入れられました。大石市長が起立し、陳述をされました。佐藤氏と五藤氏からいただいた、8頁からなる陳述書(骨子)から、内容を紹介しましょう。

 大石市長の陳述は、日田市の歴史・文化に触れつつ、それらに誇りを持ちつつ「独自のまちづくり」を進めていること、「他人に迷惑をかけず自分達独自で主体的にまちづくりをしたいという思い」があり、それが日田市外にも通じていること(これが「日田モンロー」とも言われているそうです)を強調しています。その上で、サテライト日田設置が、日田市が進める「まちづくりの方向・方針に全くそぐわないと同時に、将来を担う青少年の教育環境、あるいは市民の生活環境などに多大な影響を与えることから、一貫して反対して」きたと述べられています。そして、当時の通商産業省が、規制緩和、競輪がオリンピック競技となっていることを、地域の同意が不要であることの理由としてあげていると指摘しています。

 余談めきますが、私には、経済産業省のこうした主張がナンセンスだと思われるのです。オリンピック競技になれば、どんなことになっても良いという変な主張が秘められております。私自身が、オリンピックに全く関心を持っておらず、無駄な出費ばかりを強いられるただの世界的な馬鹿騒ぎで、日本はとくにひどいと思っているからかもしれませんが。

 大石市長の陳述に戻りましょう。地方分権一括法が登場します。この陳述の中核となる部分を紹介しましょう。

 「地方行政は、従来の国の機関委任事務中心から、自己責任と自己決定が大きく求められ市町村独自のまちづくりの責務を負うことになりました。言葉を換えれば、国と市町村との関係が『上下、主従』の関係から、『対等・協力」の関係に換える方向づけがなされたのです。」

 そして、日田市が「活力溢れ、文化・教育の香り高いアメニティ都市」、「森林田園都市」、「自ら関わりともに創るヒューマンシティ」として、「豊かな心と未来を拓くゆとりあるまちづくり、みんなで進めるまちづくりを市民一人一人が『自分たちのまちは自分たちの手で』の認識のもとに、市民と行政とが一体となり、連帯と協調のもとに、創意工夫をこらし、生き生きとした自主的なまちづくりを着々と進め」たと述べられております。既に、ここまでの部分で、日田市が何故にサテライト日田に対するNonの声をあげたのか、十分に説明されていると解することができます。

 そして、大石市長の陳述は、現在、日田市議会議長の室原基樹氏の父君、室原知幸翁の言葉「法に叶い、理に叶い、情に叶う国であれ」を引用し、終わります。

 これに対し、被告側は、日田市が原告適格を欠くこと、取消訴訟の出訴期間を徒過していることことなどを理由として、訴えの却下を求めています。しかし、無効確認訴訟であれば、出訴期間は関係ありません。

 裁判終了後、大分地方裁判所の1階ロビーに、大石市長、寺井弁護士、そして市民が集まり、大石市長は、長期戦の覚悟を話された上で、支援を要請されました。私もその中におりました。そして、寺井弁護士など、弁護団の方とも意見交換をし、支援を要請されました。私も、できる限りのことをしようと思っています。その後、読売新聞の近藤記者とお会いし、若干の質問を受けましたが、このやりとりは読売新聞の記事に掲載されておりません。

 その後、14時半から、県庁で記者会見が行われました。その模様は、新聞記事などに掲載されております。

 また、この訴訟の模様が、ぎょうせいから刊行されている月刊「ガバナンス」2号(2001年6月号)73頁~75頁に、「第2次分権改革の幕は開かれるか!?」という題の記事に掲載されております。実は、5月8日、大分地方裁判所で同誌の記者氏と話をしており、記事になることは知っていました。記事には、この訴訟を「第2次分権改革の端緒を拓くものといえる」と評価する、地方分権推進委員会委員を務める大森彌教授(千葉大学)の言葉も掲載されています。私も、ほぼ同旨のことを、このホームページで述べています。

 また、大森教授は、同記事の中で次のように述べています。

 「”地方自治の本旨”が何を意味し、どの程度まで個別法のあり方を規律できるかを考えるうえで興味深い。本案の審議に入るべきだと思う」

 「この問題は自治体感の争いという面を色濃く持っており、このような争いをどのように処理していくかという大切なテーマも提示している。今後、自治体が自己決定・自己責任に基づいて行動していくとき、その関係を調整していくための工夫が不可欠だ」

 昨年の夏からこの問題を追い、ホームページで取り上げている私ですが、大森教授の御意見は、私が以前から考え、ここで何回か記していることと同じ趣旨であり、共感できます。それだけに、今後、日田市は、自らの足許を十分に強化する必要があるでしょう。最近、公職選挙法に照らせばかろうじて問題がないといいうるが健全な市民感覚とはかけ離れた収入役人事、民法施行法第27条に照らすと違法の疑いも濃い日田市社会福祉協議会理事の選任問題など、サテライト日田問題で全国から寄せられた日田市への応援の声を無にしかねない事件が起こっています。私は、大石市長が法廷で引用した室原知幸翁の言葉「法に叶い、理に叶い、情に叶う国であれ」を、他ならぬ大石市長、そして日田市議会と日田市役所に送りたいと考えています。

 次回は、7月3日(火)、13時半に行われます。都合のつく限り、傍聴します。また、私も、別府市に対する訴訟とともに、可能な限り、アイディアを出すなどして支援をしていきたいと思っています。

 なお、既に、私の論文「サテライト日田をめぐる自治体間対立と条例―日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例―」を当ホームページに掲載しております。初出は月刊「地方自治職員研修」2001年5月号です。法律関係雑誌や地方自治関係雑誌に掲載された論文として、本格的にサテライト日田問題を扱うものは、上記が最初ではないかと思われます。また、「日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例」を本格的に検討した論文も、他に見当たりません。


(初出:2001年5月9日。6月3日に修正)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第27編

 事後報告となりますが、サテライト日田問題が、4月に2度、テレビ番組で取り上げられました。最初は、4月21日(土)、17時からの「電撃黒潮隊」(大分放送)、次は、翌日、13時からの「噂の! 東京マガジン」(東京放送)です。後者の番組は、大分で放送されていませんので、見ることができなかったのですが、東京放送のホームページ(http://www.tbs.co.jp/uwasa/。なお、現在、この内容を見ることができるかどうかはわかりません)によれば、別府市議会の模様を中心とした内容だったようです。実は、この動きなどを、私は、2月の上旬だったと記憶していますが、昨年の12月21日に取材のため、私の研究室に来られた東京放送の番組製作担当者の方に、電子メールでお知らせしていました。それで取り上げられたのかどうかまではわかりませんが。

 「電撃黒潮隊」は、大分放送が製作したもので、大分県内でしか見ることができないと思われます。私は、録画をしておきました。月末になってから見たのですが、日田市長の大石昭忠氏の動きを中心とし、別府市長の井上信幸氏の発言とを対照させた内容でした。また、私が日田市役所を訪れた時、企画課企画調整係長を勤められていた日野和則氏の姿も映し出されており、コメントもなされております。2月7日の説明会、翌日の別府市議会の模様、その後の動きをとらえています。経済産業省車両係長氏へのインタヴューも盛り込まれておりました。基本的に、このホームページで取り上げている内容と同じですが、さすがに映像など模様が取り上げられているだけに、参考になります。

 そして、5月7日、NHK総合テレビで18時10分から放送されている「情報ボックス」という大分ローカルの番組において、サテライト日田問題が取り上げられました。5月8日に行われる対経済産業省訴訟(精確に記すと、経済産業大臣を相手取った無効等確認訴訟)の第1回口頭弁論が行われるのを前にしたレポートです。実は、この番組に私が、ほんの短い時間ですが、登場します。NHKの佐藤記者が私の研究室に来られた4月10日に収録されたものです。

 さて、いよいよ5月8日、13時半から、対経済産業省訴訟(精確に記すと、経済産業大臣を相手取った無効等確認訴訟)の第1回口頭弁論が、大分地方裁判所で開かれます。勿論、私も傍聴に参ります。


(初出:2001年5月7日)


 補記(2002年5月22日):文中に登場する「黒潮電撃隊」という番組は、福岡県のRKB毎日放送を中心として、九州各県で放送されているようです。

2025年5月8日木曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第26編

 前編において、別府市側の答弁書の検討を試みましたが、まだ一部分のみです。その後、様々な仕事に追われていましたが、昨日(2001年4月27日)、経済産業省のホームページに、サテライト日田問題に関する経済産業省次官の発言が掲載されていることが判明しました。そのため、今回は、まず、その内容を紹介し、検討を加えることとします。その上で、必要に応じて答弁書の検討も行います。なお、次官の発言は、いずれも、次官会議後の記者会見における質疑応答からであり、ここではその模様を、経済産業省のホームページに掲載されたとおりに再現します。

 1.平成13年2月22日(木)、記者会見室、14時15分から14時29分まで(【競輪場外車券場設置】の部分のみ)

 Q:大分県別府市と日田市とで、別府市の競輪場の場外車券場を日田市に設置するということで両市がかなり激しく対立しているようですが、昨日、日田市の方で近く経済産業省を相手取って行政訴訟を起こすと、その理由としては、いわゆる自転車競技法で地元の同意なしで設置できるというのが憲法違反ではないかというような趣旨で提訴するというふうなお話が出てますが、それについてどうお考えですか。

 A:大分県の日田市に場外車券場を設置するというお話がかねてからありまして、昨年の6月だったと思いますけれども、法令に基づいて設置許可をしたという経緯はあります。

 もちろんこれは、自転車競技法などに基づく法令行為でございまして、その中では、例えば、学校が近くにないか、医療機関の運営に支障がないかといったようなことは十分に調べながら許可をするということになっています。そういうことで、法令に照らして十分な調査の上で許可をしたことだというふうに思っています。

 他方、日田市の方でそういう動きがあるというのも承っていますけれども、これは、これからのお話だろうと思いますので、そのこと自体は私の方からコメントするのはまだ、早いかなと思っております。

 いずれにしましても、経済産業省としては法令に基づいて十分に審査の上、許可をしたということです。

 Q:先日、日田市から陳情団が来たときに、別府と日田市とのいわゆる調停案というのを経済産業省の方で今月中にも提示したいという話があるのですけれども、それについてはいかがでしょうか。

 A:調停案の話は私は存じませんけれども、しかし、この場外車券売場というものはできるだけ地元の皆様の理解を得てやることが必要なので、そういう意味では、別府市と地元日田市がよく話を詰めたら良いと思っていますけれども、それが円滑な話の軌道に乗ってないというふうに聞いておりまして、そこは残念な気持ちです。

 2.平成13年3月19日(月)、記者会見室、14時05分から14時19分まで(【日田市場外車券売場】の部分のみ)

 Q:サテライト日田問題ですが、今日、日田市は正式に大分地裁に経済産業省を相手どった、許可無効などを求める裁判を提訴されるようですが、改めて、次官として、そのことに対してコメントはいただけますでしょうか。

 A:今日、そういう訴えが起こされるというふうに聞いておりますけれども、まだ、具体的な中身については、もちろん拝見をしていないわけでございますから、そのこと自身については、コメントを差し控えるべきだろうと、こう思いますけれども、この問題については、平成8年に初めて九州通産局にお話があって、九州通産局では、地元の理解もよく得るようにというお話をし、平成10年には、地元の日田市と別府市の助役の会談を数回にわたって持たせたというようなことがありまして、地元の同意を得る努力を大いに時間をかけてやってきたわけでございます。

 そういう手続を経て、平成12年に法令に基づいて、行ったということでございまして、私どもとしては、地元の理解を得るための努力も十分にやったし、かつまた、法令に基づいて慎重な議論をし、判断をしたものだというふうに考えております。

 Q:現在、係争中だと思いますが、新橋の場外車券場についてですけれども、東京地裁、東京高裁の終審判決の中で自転車競技法そのものの中に、いわゆる個人の権利保護というような条項がないというようなことが指摘されていますけれども、今回の日田市のケースでは、今、言った個人的な権利を保護していない自転車競技法そのものが違憲ではないかというような訴えが出ていますが、そのことについてはどういうふうにお考えでしょうか。

 A:訴えの中身は、まだ、きていないわけでございますから、そのことについてコメントするのはいかがかと、こう思いますけれども、そもそも、憲法の定めるところは、公益上の問題がない限り、いろいろな仕事、ビジネスというものは自由にやるということが原則でございますから、そういう中で、公益的な観点からどこまで整備をしていくかということが問題になるわけですから、そういうところを考えながら、今の自転車競技法があるのだろうというふうに考えています。

 それと、この日田市の関係がどういう関係になるのか。これは、もちろん訴状を見ておりませんから、直接な関係があるかどうか、そこはコメントを差し控えたいと思います。

 以上が、経済産業省のホームページに掲載されている次官会見の模様です。あるいは、これより以前のものも参照できるかもしれませんが、今回は、2月22日および3月19日の分のみ紹介いたしました。

 なお、私も、日田市の訴状をまだ入手しておりませんので、検討するにも少々の難があるのですが、広報ひた号外(2001年3月15日発行)や別府市側の答弁書と照らし合わせつつ、上記会見を分析してみます。

 まず、経済産業省側は、あくまでもサテライト日田設置許可が自転車競技法に基づいて適法に行われた、という前提をとっています(これは当然のことです)。

 次に、調停案のことです。これは、第15編で紹介した、日本共産党別府市議団に対する経済産業省車両課長氏の発言〔2001年1月19日付の朝日新聞朝刊大分13版25面および西日本新聞1月19日付朝刊26面(大分)〕と関係があると思われるのですが、上記次官会見においては否定されております。また、車両課長氏の発言の性格も問題で、経済産業省車両課としての公式見解であるという保障はありません。

 そして、経済産業省は、平成10年に日田市助役と別府市助役との会談が数回にわたって行われたという事実を認めております。しかも、この会談は、当時の通商産業省がお膳立てをしたようです(少なくとも、上記会見からはそのように読めます)。広報ひた号外においても、平成10年に通商産業省および別府市と協議がなされた、と記されています。しかし、別府市答弁書では、この事実が一切登場せず、「本件設置許可がなされた平成12年6月7日まで約3年もの間、原告が通産大臣に対して『サテライト日田』設置反対に係る要望書は提出していないと認識している」とされています。広報ひた号外には、平成9年10月、日田市教育委員会が九州通商産業局(当時)に設置反対要望書を提出したという記述があります。これが事実であれば、別府市の主張の一つは崩れます。また、通商産業省が両市助役会談を行わせたというところからみて、日田市から通商産業省に対し、何らの要望もなされなかったということは、常識的には考えにくいところでしょう(文書の形によるのか口頭によるのかという点があって、立証の点で問題が残ると言えますが)。また、別府市側が設置計画を一時的に凍結しているという事実も、別府市の答弁書には登場しません。

 これまで書かなかったことですが、もう一つ、別府市側の答弁書が抱える問題を指摘しておきます。これから記すことは、答弁書には一切登場しませんが、私自身が入手した資料を基にしております(都合もあり、入手経路を記すことができません。別府市役所の公印が押されていることだけを記しておきます)。

 実は、日田市の場合、位置的に、別府競輪場よりも久留米競輪場のほうが近いのです。このことは、サテライト日田を設置する場合には久留米競輪場の商圏範囲に進出することになり、調整が必要となる、ということを意味します。通商産業省は、この点を認識しており、別府市(長)に対し、日田市、日田市議会および日田市民が設置に反対しているという事実を明確に示した上で、九州通商産業局から商圏調整が不備であるという指摘をしております。通商産業省は、おそらく、日田市から、何度か設置反対の要望(書)を受けているはずです。はからずも、日田市、日田市議会、そして何より日田市民の理解が得られていないことを、鮮やかに示しているのです。

 これに対して、別府市は「確約書」を提出しております。その中においても、日田市、日田市議会および日田市民が設置に反対しているという事実を明確に示されております。従って、答弁書に記されている「継続的に反対をしていないとの認識」は、全くの虚偽ということになります。通商産業省に要望書が提出されているかいないかという問題と、別府市が日田市の継続的な反対を認識しているかいないかという問題は、完全に別の問題です。もし、別府市がこの文書を目にしたら、どのように主張するのでしょうか。私の手許にあるものには、前述のように、別府市役所の公印が押されており、明らかに決裁か供覧の手続がなされていることが示されています。

 また、商圏調整について久留米市との合意がなされていないことも記されております。しかし、「確約書」には、さらに協議を重ねたいとしか書かれておりません。また、既に何度も記し、私が批判しているところですが、地域社会との調整は 溝江建設の責務であって別府市に責任はないという立場を表明しております。たしかに、設置許可申請者は溝江建設ですから、第一次的な調整責任は溝江建設にあります。しかし、 溝江建設は設置するだけであり、車券を販売することはできません。また、対外的に、別府競輪場の場外車券売場という位置づけですから、建物を賃借し、車券発売用の機械などをリース契約で導入して事業を行う別府市が、地域社会との調整に全く関わりを持たないという姿勢が、混乱を招いた元凶です。

 さて、ここで次官氏の発言に戻ります。憲法の問題が登場しますので、この点について記しておきます。

 経済産業省は、公益、憲法にいう「公共の福祉」に反しない限り、経済的自由権は自由に行使されうるものである、という前提を採用しています。たしかに、一般的にはその通りです。しかし、公営競技は、たとえ賭博性を強く有するものであるとしても、法律上、公益のために行われるという前提に立っております。そのためもあるのか、次官氏の発言には、意味不明なところもあります。しかも、競馬法と異なり、自転車競技法においては場外車券売場設置許可申請者について限定的な規定を設けていないとはいえ、許可制をとっているのです。その意味からしても、一般的な株式会社などについて準則主義をとる商法などとは違うと言わざるをえません。その意味において、次官氏の発言は的外れな部分もある、と評することができるでしょう。

 この質疑応答においては、経済産業省のホームページを読む限り、次官に対する質問も少々要領をえないので、自転車競技法の何が問題とされているのか、これだけでは不明確ですが、おそらく、近隣住民の生活権というべきものをあげたいのでしょう。サテライト新橋の判決は、近隣住民に対して原告適格を認めていません。しかし、経済的自由権を無制約に認めることにも問題が残ります。また、公益を理由として、条例によって財産権など経済的自由権を制約することは、奈良県ため池条例判決(最大判昭和38年6月26日刑集17巻5号521頁)においても、一般論として認められております。次官氏の発言には、地域住民の権利・利益という観点、おそらくは、経済的自由権よりもデリケートな精神的自由権などが、忘れられているようなところがある、と考えるのは、私だけでしょうか。

 さらに、次官氏の発言には、或る意味では当然のことですが、地方分権という観点が全く見られません。しかし、地域の活性化のためには、真の地方分権を欠かすことはできません。この点は、大きな課題です。私は、読売新聞2月24日付の読売新聞朝刊36面(大分地域ニュース)に掲載された「サテライト日田問題について(訴訟提起の議案可決を受けて)」(第22編にも掲載されています)において、サテライト日田「問題は、条例制定権の限界、まちづくりの進め方、住民意思の反映の仕方、市町村関係の在り方など、地方自治における重要な諸課題が凝縮されたものである。また、地元住民の意見を十分に反映させる仕組みを予定していない自転車競技法の問題点を、改めて浮き彫りにしたものと言える」と記しました。単純に、設置者が有する経済的自由権を優先させればよいというものではないのです。

 

 付記:4月18日に発売された月刊地方自治職員研修5月号には、私の論文「サテライト日田をめぐる自治体間対立と条例―日田市公営競技の場外券売場設置等による生活環境等の保全に関する条例―」が掲載されております。これまでに記してきた「サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題」を基にしていますが、御一読いただければ幸いです。この論文については、同誌6月号発売日以降に、このシリーズとは別に掲載する予定です。


(初出:2001年4月28日)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第25編

 提訴後、しばらくの間、この問題について目立った動きは存在していませんでした。また、このところ、中津競馬の廃止問題のほうが大きく取り上げられたこともあります(補償問題などを考えると当然のことです)。さらに、4月に入って、門司競輪の廃止の可能性が浮上しています。公営競技の経営状態が厳しいという状況は、長らく続いてきましたが、今年に入って、ますます深刻な状態になっている、と言えるのではないでしょうか。

 しかし、私自身の中では、片時も、サテライト日田問題が頭から離れたことがありません。まず、3月の段階でしたが、月刊地方自治職員研修の編集部から御依頼を受け、この問題に関する論文を記しました。今まで、この「大分発法制・行財政研究」に書き続けてきたこと、さらに、第22編にも掲載している読売新聞2月24日付朝刊36面(大分地域ニュース)の記事を基にしていますが、私の問題意識を端的にまとめたものとしてお読みいただければ幸いです(同誌5月号に掲載されています)。

 また、4月4日と10日の2回、サテライト日田問題に関する話を聞きたいということで、私の研究室に、NHK大分放送局の方が来られました。私は、現時点での意見を、とくに経済産業省に対する訴訟に関して述べました。この模様は、まだ放映されていません。

 さらに、4月21日、大分放送の番組でサテライト日田問題が取り上げられます。

 さて、前置きはこのくらいにして、本題に入りましょう。今回は、4月18日、大分地方裁判所で行われました、別府市に対する訴訟の第1回口頭弁論の模様をお伝えします。

 この裁判は、平成13年(ワ)第93号訂正記事掲載請求事件と名付けられています。前日、大分地方裁判所に電話をし、講義の一環として裁判傍聴を行う際には常にお世話になっている事務官の方から御教示をいただき、18日、列車で大分駅へ向かい、13時少し前、大分地方裁判所に到着しました。既に報道関係者が待機しています。13時を少し過ぎて、原告である日田市の職員4氏が、日田市の公用車(ISO14001を取得している所らしく、白いプリウスでした)で来られました。私は、早速、あいさつをしました。そこで、今回の裁判について、色々な話を伺うことができました。別府市側は答弁書を、ぎりぎりの段階で提出しました(日付などもわかっているのですが、ここでは記さないこととします)。既に待ち構えていた報道陣が、早速取材などをしています。その傍らで、私は、様子を見つつ、意見交換をしたりしていました。その後、原告代理人の梅木哲弁護士が到着、我々は法廷に向かいました。また、5月8日の対経済産業省訴訟では、マイクロバスで日田市民の方々が来られるとのことで、大分地方裁判所の事務官の方も、この日は傍聴整理券を発行する可能性があると言っておられました。

 既に、写真撮影などが行われており、別府市の職員氏も複数おられました。また、大分大学の学生も2名おりました。被告代理人は内田健弁護士、情報公開関係訴訟では常に被告大分県側の代理人を務めておられる方です。

 13時半、既に、法廷撮影のために第1号法廷におられた須田啓之裁判長など3氏によって、裁判が始まりました。口頭弁論は、ものの5分で終わりました。訴状の提出、答弁書の提出、書証の提出がなされ(新聞記事では陳述したと書かれていますが、多くの場合、提出で終わります)、須田裁判長から、日田市に対し、毀損された名誉の概念、具体的に毀損された名誉の内容、原告適格について、次回の口頭弁論までに書類を提出し、主張するように求められました。そして、次回の口頭弁論は6月19日(水)、10時からということが決められ、終了しました。

 終わってから、私は、学生に指示をした後、しばらく、日田市側と行動をともにしました。梅木弁護士とも意見交換(と言うほどのものでもないですが)をして、14時過ぎ、大分地方裁判所を離れました。

 この第1回口頭弁論は、大分合同新聞2001年4月19日付朝刊朝F版21面、朝日新聞同日付朝刊13版30面、西日本新聞同日付朝刊15版33面などにおいて伝えられていますが、記事はいずれも短いものです。

 今回、別府市側の答弁書(被告代理人作成)を入手しました。そこで、検討を加えることとしてみます。なお、今回は、暫定的なのものであり、本格的には、さらに考察を進めていかなければならないということ、さらに、日田市の原告適格に関する部分のみであることを、あらかじめお断りしておきます。

 被告としては、当然ですが、訴えの却下または棄却を求めています。却下は、日田市に原告適格がないことを理由としています。一方、棄却のほうですが、事実については、かなりの部分を認めつつも、全面的に争う姿勢を示しています。

 まず、原告適格のほうですが、答弁書は、「名誉毀損の保護法益は、私人の権利保護をはかるべきものとして生まれたものであり、公権力行使の主体である国、地方公共団体に対する批判・論評に対して観念されたものではない」とした上で、「公権力の行使について国民が自由にこれを批判し、論評することができることが国民主権・民主主義制度の根幹であり、国・地方公共団体の公権力の行使に対する批判については名誉毀損法による保護をうけるものではない」という主張し、英米法に関する研究を参照しています。

 たしかに、歴史的に見るならば、名誉毀損の保護法益は私人の名誉です。公権力の行使云々の箇所も、刑法第230条の2などの存在を考慮に入れるならば、一般的には妥当です(但し、この場合であっても、公人に関しては、名誉毀損罪に問われる可能性が減少するだけであり、皆無になることはありません)。

 しかし、この主張は、私人が公権力の批判や論評をするということを前提とするのであればそのまま通用しますが、今回のような事案については問題が残ります。

 まず、この答弁書は、あたかも別府市が私法人であって日田市の姿勢を批判したり論評したりしているかのように読みうるのですが、別府市も公法人ですから、この主張自体が成立しません。双方とも公法人であるということは、とりもなおさず、私人対私人と同様に考えることも可能なのです。

 次に、別府市の市報発行は、公権力の行使と言いうるものではありません。これは事実行為です。仮に法的行為であったとしても、権力的行為ではありません。このようなことは、行政法を学んだことのある方であれば、すぐにおわかりでしょう。もし、市報の発行が公権力の行使であるとするならば、必ず法律の根拠を必要としますし、何らかの強制力を伴います。そうでないことは明らかです。また、公権力の行使であるとすれば、逆に別府市の市報発行は国家賠償法第1条の適用を受ける可能性があることになります。

 また、別府市報の記事が取り上げている日田市の行動も、何ら公権力の行使としての性格を有しておりません。しかし、答弁書は市報の発行を公権力の行使、あるいはそれに対する批判として捉えています。これがおかしな主張であることは言うまでもありません。

 日田市も別府市も、普通地方公共団体であり、公法人ですから、公権力の行使の主体であることは当然ですが、その場合であっても、ア・プリオリに公権力の行使の主体である訳ではないのです(このことも、行政法のイロハに近いでしょう)。むしろ、公権力を行使するには、具体的な法律(政令や条例の場合もあります)の根拠を必要とします。答弁書には、この点を(意識的かどうかわかりませんが)混同しています。

 英米法の業績についてですが、日本の民法は、英米法ではなく、ドイツ法を基礎としてできております。ドイツ法の判例を調査する必要もありますが、英米法をそのまま援用できるとは思えません。英米法の研究業績を参考にすることが悪いと言っているのではありません。一般的には、それなりに有益な話です。しかし、答弁書の主張が妥当と認められるためには、公法人に名誉毀損が成立しえないとされた判例(勿論、アメリカやイギリスのものです)が示される必要もあるでしょう。しかし、本件のような公法人対公法人の問題について、何ら実際例も示されず(存在しないのかもしれませんが)、具体性に欠けます。

 さらに言うならば、公法人だから名誉毀損が成立しないという法律上の根拠もありません。民法は、私法の一般的な法律ですが、公法の分野で全く適用がない訳でもないのです。例えば、滞納処分に関しての事件で民法第177条が適用された例もあります。答弁書の主張が正しいと言うのであれば、もう少し、具体的な根拠が必要です。例えば、憲法上の根拠です。

 もう一つ、付け加えておきます。市報において、他市町村の姿勢を批判することは、一般的には許されることでしょう。しかし、批判することと、名誉を毀損することとは、おのずから意味が異なります。真実に基づかない「批判」は本当の批判とはなりえず、誹謗中傷、名誉毀損になることは言うまでもないのです。

 答弁書に書かれている棄却請求の理由については、機会を改めて検討します。また、原告適格についても、もう少し精密な検討を試みたいと考えております。


(初出:2001年4月20日)

「ひろば 研究室別室」の移転について

   長らくgoo blogで続けてきましたが、あれこれと考えた結果、2025年8月7日より、はてなブログのほうで書いていくこととしました。何卒よろしくお願い申し上げます。  新しいアドレスは、次の通りです。   https://derkleineplatz8537.hatena...