2025年5月12日月曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第34編

 昨年(2000年)の11月、市報べっぷ掲載記事問題が起こりました。この記事がきっかけとなって、日田市と別府市との対立が激しさを増しています。この「サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題」が、不定期ながら連載となったのも、昨年の11月からでした。振り返ってみますと、市報べっぷ掲載記事問題を取り上げた第2編から第4編までは昨年11月に掲載しておりますし、12月に掲載した第5編も、11月の動きを捉えたものです。

 あれから1年、昨年の熱気が失せてきたのかと思っていたのですが、そうではなく、県民、とくに日田市民および別府市民にとっては、地域行政のあり方の問題として根付いていました。

 10月30日、西日本新聞社のホームページに、日田版として「サテライト訴訟 実質審議求め2万9000人署名 上積みし地裁提出へ」という記事が掲載されました。それによれば、「サテライト日田」設置反対連絡会は、大分地方裁判所が訴訟において日田市の原告適格を認めて実質審議に入るように求める署名が1ヶ月半の間(9月半ばに署名運動を開始)に2万9000人分も集まったことを、10月29日に明らかにしました。但し、これは自治会連合会分のみで、昨年の反対署名運動より2000人分ほど多いとのことです。さらに、「サテライト日田」設置反対連絡会の一員でもある日田市連合育友会などの分を加えると、合計で3万5千人分は確保できるようで、市外などにも働きかけて5万人分を集めるそうです。

 一方、別府市民の少なからぬ方々も、サテライト日田問題についての別府市の対応に批判的であり、日田市にエールを送っているようです。昨年の12月9日(この日は、私にとっても忘れられない日です)には、別府市側からも設置反対運動に参加する方が多くおられました。すぐ後にも述べますが、汚職事件に関して、別府市民の方からお電話をいただいた時も、その方はサテライト日田問題について別府市に対する怒りの念を表されました。

 別府市には、日本中央競馬会の場外馬券売場が南立石地区に設置されるという計画があり、最近、杉乃井ホテルなどが経営破綻という事態に至ったこともあって、観光業界などから設置に向けた要望書が別府市に出されたようです。しかし、別府市といえば、別府駅東口に近鉄百貨店跡地があり、建物が解体された後も手付かずのままだそうで、ここに建設できないのかという疑問もあります。11月6日にも、毎回傍聴されている日田市民の方と、この話をいたしました。

 先月(2001年10月)、大分県別府市の市道拡張工事に伴う移転(立ち退きなど)補償をめぐる汚職事件が発覚し、県議が逮捕されました。片や、賄賂を贈った者については補償が増額され、片や、賄賂を贈っていない者については不透明な形で補償が減額されており、大分県の行政の不透明さが改めて浮き彫りになりました。しかし、これは大分県だけではなく、別府市の市政の問題にもつながっています。この汚職事件に関して、補償に関係した複数の住民の方からお電話をいただいたのですが、その時にも、別府市から大分県への引き継ぎがなされていたのかという問題に端を発し、このサテライト日田問題、APU(立命館アジア太平洋大学)問題にまで話が及ぶのです。諸問題の関連性の有無はともあれ、別府市民の間には相当の不満がたまっているようです。お話を伺っていて、よくわかりました。サテライト日田問題では、市報の内容に抗議した別府市民も少なくなかったようです。折りしも、11月4日付の大分合同新聞朝刊1面には、公営競技の大部分が赤字であるという記事が出ていました。別府競輪については記されていなかったのですが、大幅な黒字であるとは考えにくいのです。サテライト宇佐の収益もどの程度のものなのでしょうか。

 また、大分市内の「ボートピア大分」建設問題など、公営競技の場外券売場問題は、九州内でも意外と多く、住民の反対運動が活発に行われています。そうした運動にも、サテライト日田問題の影響が見られます。しかし、地域住民と市町村が一体となって反対運動を展開している所はほとんどないようで、その意味で日田市は特別な例です。

 さて、サテライト日田問題の本題に入ります。11月6日、大分市も北風のために冷え込みました。12時半に大分地方裁判所に入りますと、既に傍聴予定の市民の方と日田市役所の方がおられました。早速、対別府市訴訟の準備書面(11月2日付)および対経済産業大臣訴訟の準備書面(11月6日付)をいただき、雑談をしておりました。その後、大石市長、梅木弁護士、寺井弁護士などの方々が到着、早速、寺井弁護士と少々の意見交換をしました。その後、大石市長とも地方分権の話をいたしましたが、市長からも、今回提出された被告(経済産業大臣側)の準備書面はひどいという話をうかがいました。寺井弁護士もおっしゃっていたのですが、この準備書面は地方分権を真っ向から否定する趣旨なのか、新地方自治法(昨年改正後の地方自治法のことです)の趣旨はどこへ行ってしまったのか、ということでした。もっとも、大石市長も同意されたように、地方分権推進委員会の諸勧告なども、回を重ねるごとに中身が後退していておりますが。

 法廷に入り、最前列に座って準備をしました。この訴訟において面識を得た方々も多く、裁判官が入廷するまで雑談をしています。13時10分を少しすぎて、裁判官が入廷、対別府市訴訟の口頭弁論に入ります。いつもは傍聴人が少ないのですが、この日は13時30分から対経済産業大臣訴訟の口頭弁論があるため、傍聴人は多めです。裁判長からは、日田市が主張する名誉とは何かを明らかにしてほしいという要請がありました。被告側からは、とくに準備書面などが提出されていません。そして、次回は12月18日の10時15分から、ということになりました。

 準備書面は、まず、被告の市報掲載記事について、「論評」が設置許可申請から設置許可までの3年間に限ったものであるとする被告の主張について、文脈からは到底そのように判断できないということを主張しております。次に、被告の認識と論評との関連を論じています。そして、被告の認識について、事実に反すると主張し、経緯を列挙しています。私が、今年の3月2日、日田市役所でいただいた書類も、甲第5号証および甲第6号証として提出されておりました。甲第5号証は、当時の通商産業省機会情報産業局長から別府市長宛てに出された、平成12年1月14日付の「競輪場外車券売場(サテライト日田)の設置問題について」という文書です。また、甲第6号証は、別府市長から当時の通商産業省機会情報産業局長宛てに出された、平成12年2月25日付の「競輪場外車券売場(サテライト日田)での車券発売について」という文書です。当時、日田市役所でサテライト日田問題を担当されていた職員の方も憤慨気味に語っておられ、私にコピーを下さったものです(事情を考えて、月刊地方自治職員研修5月号に掲載された「サテライト日田をめぐる自治体間対立と条例」においては言及を避けています)。続いて、訂正文について述べており、「名誉回復処分には謝罪という観念が本質的に含まれて」いること、被告が主張する「本件論評の範囲を越えた謝罪」の意味が不明確であることなどを主張しています。最後に、「要望書」の提出の有無について言及しており、原告は「要望書の提出」について何ら触れていないと主張しております。

 準備書面も主張するように、市報記事には、少なくとも結果的な誤りが含まれていると思われます。そうすると、あとは日田市の名誉という問題が残ります。

 続いて、13時30分から、対経済産業大臣訴訟の口頭弁論が始まりました。原告と被告の双方から準備書面が提出された上で、原告側から補足説明が行われました。地方自治法に言及し、住民に身近な行政は地方公共団体の役割であること、自治事務の存在、などが説明されました。また、被告側は、乙15号証以下を提出しておらず、早急に提出するという釈明がなされました。原告側は、今後、ドイツ、英国、米国の地方自治にも言及することとしています。そして、次回は1月29日の13時30分から、次々回は3月26日の13時30分から、となりました。

 口頭弁論が終了し、早速、日田市の職員の方から被告側の準備書面をいただきました。寺井弁護士とお話をしながら目を通したのですが、思わず「何だこれは!?」と叫んだ箇所がありました。大石市長も激怒されたという箇所でした。私は、怒りを通り越して呆れて笑ってしまいました。「いくら何でも、これはないだろう?」、「何年前の学説だ?」、「憲法ならともあれ、法律でプログラム規定だと?」という思いでいっぱいでした。これを行政法学者の方(私も行政法学者ですが)にお見せしたら、頭を抱える方が少なからず存在するでしょう。地方自治法第2条(被告側は「2条の2」という、存在しない条文を書いています)と地方分権推進法第1条(被告側は、これについても「1条の2」という、存在しない条文を書いています)の規定はプログラム規定であるというのでしょうか。その部分を抜粋して紹介します。

 「また、確かに、地方分権推進法1条の2、地方自治法2条の2が国と地方公共団体の役割分担について規定し、同法2条11項において立法に関し、同条12項において法令の規定の解釈・運用について同様に役割分担を踏まえるべきことを、同条13項において国が地方公共団体が地域の実情に応じた事務処理ができるように特に配慮すべき旨規定しているが、上記各規定は、国に対し、国と地方公共団体の役割分担に関して十分に配慮すべきという宣言的・指針的性格を有するにすぎず、これらの規定から直ちに地方公共団体が『まちづくり権』なる権利を有すると解することはできないというべきである。」

 さすがに、地方自治法第2条第1項をプログラム規定と解する愚挙を冒していません。それはどうでもいいことです。法律の規定は、どのようなものであれ、当然、宣言的・指針的性格を有しますから、宣言的・指針的性格を有するだけであるということは、法的な拘束力を持たないことを意味します。こうしたものをプログラム規定といいます。元々、ヴァイマール憲法第151条の解釈の際に登場した学説によるもので、日本では憲法第25条について用いられましたが、現在では、判例はともあれ、学説では通説の地位から脱落し、克服されようとしているものです。行政法規の法的拘束力については、強弱様々であることは否めませんが、普通の法律の解釈でプログラム規定説をとる人は皆無か、それに近いでしょう。さらに、経済産業大臣側の主張では、第2条第8項(自治事務の定義規定)および第9項(法定受託事務の定義規定)をどう捉えているのかわかりませんが、これを「宣言的・指針的性格を有するにすぎ」ないものであるという解釈をしていないでしょう。もしそうであるとしたら、ナンセンスな話で、地方自治法自体、そして行政法規の体系が崩壊します。

 この訴訟では、口頭弁論が終了した後、大分地方裁判所の玄関で、大石市長、寺井弁護士、日田市民の方々などが集まり、市長や弁護士が解説などをされます。私もその中に入っているのですが、今回は寺井弁護士から指名をいただき、発言をいたしました(既に、私が単なる傍聴人に留まっていることは許されなくなっています)。私は、被告側の準備書面の、例の箇所を読み上げ、これは半世紀前の学説であると述べたら、笑い声も飛び出しました。そして、法律について、法的拘束力を持たない規定というものは基本的に存在しないという趣旨を述べました。そして、地方分権やまちづくりについて、北海道ニセコ町のまちづくり基本条例や東京都杉並区で進められている同様の条例作りについて触れ、こうしたものをも否定する解釈であると述べました。

 これについて、研究室へ行ってから原告側の弁護団に向けて電子メールを作成して送信しました。地方自治法第2条についての私の意見を書いておりますので、その部分を紹介します。

 「●地方自治法第2条について

 経済産業省側は「2条の2」という言い方をしていますが、こういう条文は存在しないので、第2条第2項のことだと思われます。

 経済産業省の主張は、出典も何も示されておらず、どこに由来するのか不明で、行政実務関係書を参照した形跡もないようです。

 K大学の学生であるT君(原文では実名)とも話したのですが、憲法第25条ならともあれ、プログラム規定の法律など、聞いたこともありません。

 行政実務での定番である、松本英昭・新版逐条地方自治法(2001年、学陽書房)などを参照しても、この規定が宣言的・指針的性格を有するに過ぎないという解釈は示されていません(当然ですが)。

 むしろ、第2項で「普通地方公共団体が、まず、『地域における事務』を包括的に処理する権能があることを明らかにし」ています(同書23頁)。

 それを受けて、第3項以下の規定が都道府県または市町村の権限を一般的に規定しています。

 抽象的なことは否めず、具体的な事柄は他の法律によって定められるとしても、国、都道府県および市町村の権限配分の原則を規定するものであって、法的な拘束力を有するのは明らかです。

 まちづくりに関する権能も、この規定などから導き出せるはずですし、地方分権推進委員会もまちづくり部会まで設けて言及しています。

 もし、この規定が『宣言的・指針的性格を有するにすぎ』ないとすれば、都道府県も市町村も、結局、存在しなくともどうでもいいことになります。」

 少々舌足らずな感も否めないので、補足をいたします。

 地方自治法第2条は、普通地方公共団体(都道府県および市町村のことです)がなすべきことを規定しています。この規定は、確かに包括的ですが、しかし、重要な意味を持っています。第2項に「法律又はこれに基づく政令により」という部分がありますので、ここに注目して下さい。普通地方公共団体は、「法律又はこれに基づく政令」の範囲において、地域に関する事務をするという拘束を課せられます。これらに規定がない場合は別ですが、基本的に、この「法律又はこれに基づく政令」によって、権限が普通地方公共団体に与えられるのです(これを授権といいます)。この権限を越えれば違法と評価されます。具体的な範囲は、地方自治法を含めた他の法律で決定されるのですが、地方公共団体にとっては、一般的であるとは言え、事務を行うという義務を課せられているのです。これは、上記のように、「法律又はこれに基づく政令」が授権する範囲を越えて事務を行ってはならないという義務を意味するとともに、正当な理由がないのにこうした事務を行わないことも許されないということをも意味します。第2条の他の項も同様に解釈すべきです。第4項においては市町村が「その地域における総合的かつ計画的な行政の運営を図るための基本構想を定め、これに即して行なうようにしなければならない」と規定されていますが、これが「宣言的・指針的性格を有するにすぎ」ないというのでしょうか。他の項について記すと冗長になりますので、ここでやめておきましょう。

 もう一つ、地方分権推進法第1条をあげます。この法律は、今年7月2日を持って解散した地方分権推進委員会の設置根拠規定を含むものであり、法律の名宛人は、国民・住民でなく、地方公共団体でもありません。国、もう少し精確に記せば内閣以下の行政権です。そして、この第1条は法律の目的を定めるものですから、「宣言的・指針的性格」を濃厚に持つものです。また、規定の性格からして、何かの具体的な義務を課するものでもありません。しかし、他の規定とも絡んで、この法律は、内閣以下の行政権に対し、憲法に従いつつ、地方分権を進めることを義務づけております。これは「宣言的・指針的性格」にすぎないものではありません。法律の解釈には様々な種類がありますが、地方分権推進法の場合、個々の条文を区切って文言解釈をすべきであるのかという疑問が残ります。最近の最高裁判例でも、行政事件訴訟に関しては、当該条文のみならず、他の規定をも含めて目的なり趣旨を解釈する手法を採っております。地方分権推進法の場合は、とくにこうした方法が求められるはずです(法学では目的論的解釈あるいは合目的的解釈ということになるでしょう)。

 また、以前から気になっていることがあったので、同じ電子メールに記しておきました。その部分を紹介します。

 「1.行政手続について

 憲法第31条から攻めるのは難しいのですが、行政手続法のレベルであればどうにかなると思われますので。

 今回の許可手続で行政手続法に従った形で公聴会などが開催されているのでしょうか。

 自転車競技法の中には、行政手続法の適用を除外する規定がないはずで、整備法その他にも、適用除外の規定がないと記憶しているからです。

 手続で瑕疵があったとして裁判所が重大な違法と認定してくれるかという問題はあるのですが。」

 別府市側による説明会が今年の2月まで行われなかったことについては、既にこのホームページでも取り上げております。サテライト日田について、行政手続法第10条に従った公聴会などが行われたのかどうか、よくわかりません。もっとも、第10条は努力義務規定ですが、努力義務というものは、実際に行ったか否かはともあれ、努力が法的に義務づけられると解するべきでしょう。この規定から、直ちに公聴会が行われなければならないと結論づけることはできませんが、少なくとも利害関係者に意向を訊くことくらいは義務づけられるでしょう。そうでなければ、努力義務そのものの意味すらなくなります。私も国家公務員で行政の一員ですが、だからこそ、努力義務の意味を捉え直したいという思いがあります。

 第33編において、「この他の点については、『準備書面(第1)』が長大であり、様々な論点を含んでいることから、別の機会に取り上げます」と記しましたが、今回は見送ることとします。


(初出:2001年11月7日)

メモ:n分n乗方式

 2021年度の講義のために準備していたメモのファイルを、少々手を加えた上で掲載しておきます。


 n分n乗方式は、課税方式の一つである。ここで、nは正の整数を意味する。

 この方式においては、次のように税額を計算する。

 ①各種所得の計算の方法に従い、課税総所得金額(など)を算出する。

 ②算出した所得金額をnで割り、その金額に税率を乗じる。

 nで分割するからn分という。

 ③②で得られた金額にnをかけ、税額を算出する。

 nを乗ずるのでn乗という。数学の2乗(例、32)、3乗(例、33)などと混同しないこと。

 例1 二分二乗方式

 Aの課税総所得金額が300万円であるとする。

 上記②に従って計算すると、

 3,000,000÷2=1,500,000

 この金額に所得税法第89条第1項に規定される税率を乗じると、

 1,500,000×0.05=75,000

 この金額を2倍すると150,000円という所得税額を得られる。

 仮に二分二乗方式を採らないと、所得税額は202,500円となる

 (∵3,000,000×0.1-97,500=202,500)

 例2 五分五乗方式

 Bの課税総所得金額が1,000万円であるとする。

 上記②に従って計算すると、

 10,000,000÷5=2,000,000

 この金額に所得税法第89条第1項に規定される税率を乗じると、

 2,000,000×0.1-97,500=102,500

 この金額を5倍すると512,500円という所得税額を得られる。

 仮に五分五乗方式を採らないと、所得税額は1,764,000円となる。

(∵10,000,000×0.33-1,536,000=1,764,000)


(初出:2022年03月03日 23時35分00秒)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第33編

 最初にお詫びです。この不定期連載記事については、可能な限り、何らかの動きがあり次第、すばやく対応することを原則としています。しかし、今回は、9月11日に行われた設置許可無効等確認訴訟(対経済産業大臣訴訟)の口頭弁論を取り上げるにもかかわらず、1か月以上の遅れとなりました。試験期間中で採点に追われたこと、論文などの仕事を3つ抱えていたこと、大学内の雑務が多かったこと、などによります。今後も、更新などが遅れがちになるかもしれませんが、御容赦の程、お願い申し上げます。

 9月11日の午後、大分地方裁判所第1号法廷にて、対経済産業大臣訴訟の口頭弁論が開かれました。この日、同じ法廷でじん肺訴訟の口頭弁論が行われるとあって、そちらのほうの傍聴整理券を求める人が多かったようです。ちょうど、関東地方に台風が上陸していた日でしたが、大分は快晴でした。また、この日の22時(現地時間では9時)、テロリストにハイジャックされた旅客機がニューヨークの世界貿易センタービルに突入するという大惨事のニュースが飛び込んできたのですが、口頭弁論は13時からですから、知る由もありません。

 さて、この日の口頭弁論の模様です。第1号法廷は、13時30分からのじん肺訴訟に合わせて、席の配置などが大幅に変えられており、少々窮屈そうです。13時、口頭弁論が開始されました。原告側から、45頁にわたる「準備書面(第1)」が提出され、原告訴訟代理人の一人、寺井一弘弁護士が趣旨を説明しました。口頭弁論は10分ほどで終わりましたが、「準備書面(第1)」の中身について、寺井弁護士と相談などをし、木田秋津弁護士とも、憲法第31条の件について話をしました。その時、適切な文献があったら紹介するという約束をしたのですが、なかなか見つからなかったというのが本当のところです。

 しかし、今回の「準備書面(第1)」は、内容に不適切な点が、否、「暴言」があるとして、西日本新聞2001年9月12日付朝刊16版35面において批判されました。この点については、競輪関係者からの反発を買ったのみならず、日田市民からも疑問や批判が投げかけられました。同記事は、「準備書面(第1)」を、競輪などに偏見や誤解を招くような表現を含んでおり、「暴言」書面であると評価しています。これが、今後の訴訟にどのような影響を与えるかはわかりませんが、競輪の実態などに照らせば、賛否両論が展開されうるものであるのみならず、経済産業大臣側からの強烈な反論が予想されます。さらに言うならば、今度は日田市側が、あるいは原告訴訟代理人側が名誉毀損などで訴えられるかもしれません。たしかに、この記述は、他にどのように表現すればよいのかという問題があるとは言え、適切とは言い難いものです。

 問題の箇所は、「準備書面(第1)」中の「第2 日田市の原告適格の存在」にあります。もう少し詳しく記すと、書面では8頁、「1.本件処分による法律上の利益の侵害」中の「(1)場外車券売場の設置について受忍義務を課せられること」です。ここでは、場外車券売場について「多くの人々が集合して賭けに興じる場そのものである」と評価した上で、「競輪の開催は、競馬のように土・日曜日ではなく、平日であることから、興じる競輪ファンは競馬とは異なって無職者が多く、また、殆どが男性であって、一般の勤労市民が集うことが少ない賭博であるとされている」と断じています。さらに、立川競輪場の例を出しており、「厳重な警備体制をとっているにもかかわらず酔っ払いが増えて自転車泥棒のような犯罪から殺人事件のような重大犯罪までが引き起こされている」などとして、周辺環境の問題を指摘しています(なお、この部分について出典などは示されていません)。

 西日本新聞が「暴言」と評価したのは、まさにこの部分です。ここに登場する「無職者」という表現、そして、この文章自体が問題とされているのです(なお、ここで競馬が登場しますが、地方競馬の場合は平日にも開催されますので、「準備書面(第1)」は中央競馬のみを想定しているものと思われます)。

 たしかに、「準備書面(第1)」の主張も理解できなくはありません。私は(若干ながら)川崎競輪場の周辺を知っていますし、中央大学法学部法律学科の学生であった時には、南武線を利用していたので、東京競馬場の最寄駅である府中本町駅を通っていました。競馬開催日ともなると、南武線には多くの競馬ファンが乗り込みます。少数であると信じたいのですが、中には朝から駅の売店で日本酒や缶チューハイを買って飲んでいる客もおりました。さらに、競馬終了後の南武線では、負けた腹いせなのでしょうか、府中本町から登戸まで大声で演説(?)をする輩までいました。この演説(?)は、「おれはなあ、この東京競馬場に30年以上通ってるんだ! ここのことなら何から何まで知ってるんだ!」という言葉で始まりました。混雑している折、迷惑千番であったことだけは覚えています。私自身は府中本町駅で降りたり乗り換えたりしないのですが、友人から聞いたところによると、缶や瓶(しかも瓶の場合は割られている場合もあり)、さらに外れの勝馬投票券が道路上に散乱していたそうです。外れ馬券などの散乱は、別に競技場や場外券売場周辺のみで見られるものではないのですが、周辺住民などにとっては迷惑この上ないものです。以前読んだ鉄道廃線跡散策に関する本でも、廃止された下津井電鉄の駅跡などに舟券が散乱しているという記事が出ていました。川崎競輪場付近については、近隣に県立川崎図書館があるので資料収集などに向かうと、競輪新聞や赤鉛筆を売っている人にしつこく付きまとわれかけたという経験もあります。

 しかし、政策の面から公営競技の是非を論ずるのであれば別としても、現に競馬や競輪などが法律によって認められ、地方の財政収入の一つになっていることなどを考えると、競輪の場外車券売場の設置という問題と、設置による環境などの変化という問題とは、相互に関連するとは言え、一応は別に考えなければなりません。それのみならず、仮に事実であるとしても、表現などは考えなければなりません。競輪などを楽しむ人々、さらには主催者サイドのことも考慮に入れなければならないのです。今回の「準備書面(第1)」は、原告適格の存在を主張するあまり、その点の配慮に欠けていたとしか評価しようがありません。敢えてもう一点あげるとすれば、立川競輪場の例を出しているのですから、調査報告の出典を明示する必要があります(勿論、証拠書類として提出する必要もあります)。どうしても、環境の悪化などを指摘したいのであれば、「別に証拠書類として提出した調査報告書に示された通りである」などとして、西日本新聞に「暴言」と指摘された箇所については一切記さないほうがよかったのです。

 この他の点については、「準備書面(第1)」が長大であり、様々な論点を含んでいることから、別の機会に取り上げます。


(初出:2001年10月14日)

2025年5月11日日曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第32編

 このところ、地方分権、地方財政、そして市町村合併の諸問題に追われております。どれも常に新しい動きがあり、フォローするだけでも大変です。しかし、そうも言っていられません。まして、このサテライト日田問題については、昨年から追い続けております。私の知る限り、この問題について論文を作成したり、ホームページで取り上げているのは、少なくとも行政法学者では私しかおりません。義務感のようなものが、私にある、などと書くと大袈裟ですが、大分大学に勤める者として、地方自治における多くの課題が凝縮されたサテライト日田問題を取り上げ続ける所存です。勿論、新聞報道などからでも、事実を知ることはできます。しかし、これをさらに深く、多少とも専門的な立場から取り上げることが、このホームページにおける諸記事の存在意義であり、独自性を主張できる点です。

 最近、日田市では、保育所の民間委託問題が大きな焦点になっています。「ひたの掲示板」でも議論されておりますが、ここには日田市の行政が抱える幾つかの問題点が浮き彫りになっています。とくに、今月開催された市の説明会では、日田市と住民との間で議論が平行線をたどった挙句、日田市長などが途中退席するということがあったようです。これが少なからぬ市民の反発を買っていることは、言うまでもありません。

 さて、本題のサテライト日田問題に移りましょう。

 8月28日、正午のニュースを聴いてから、大分地方裁判所に向かいました。昼食を済ませ、裁判所に入ってしばらくすると、原告側代理人の梅木哲弁護士が来られました。原告側準備書面と被告側準備書面の双方を読ませていただき、話をしました。ほどなく、日田市職員数氏も来られました。すぐにNHK大分の中島記者などが梅木弁護士にインタビューを始めます。私は、サテライト日田建設予定地の状況を尋ねました。すると、職員氏から、建設予定地を示す柵代わりの鉄板が全て撤去され、駐車場に戻っているという返事をいただきました。別府市は、6月市議会へのサテライト日田建設関連予算案の提出を見送っております。こうしたことから、設置者である 溝江建設は、半分ほど設置をあきらめたのでしょうか。

 今日も1号法廷で第3回の口頭弁論ということになるのですが、前回よりも傍聴人が多いようです。よく見たら、13時10分から、同じ法廷で判決言渡しが2件、13時30分から国を被告とする民事訴訟が行われるということで、そのために多かったのでしょう。

 13時10分、まずは2件の判決言渡しがありました。それからすぐに第3回口頭弁論が行われました。基本的に準備書面および書証の提出だけで、乙第4号証ないし第7号証の取調べということになりました。しかし、裁判所側から、別府市報の根拠条例に関する質問がなされました。被告側代理人の内田健弁護士の声が、いつもと違って聞き取りにくかったのですが、条例発行に関する根拠条例はないということでした。また、日田市の主張する名誉が今ひとつ明確でないという主張もなされました。

 次回は、11月6日の13時10分、対経済産業大臣訴訟と同じ日になりました。しかも、対経済産業大臣訴訟は13時30分からです。おそらく、多くの日田市民が、13時10分から傍聴することとなるでしょう。

 また、今後の訴訟進行に間する協議が、9月26日の16時から行われます。これは打ち合わせ程度のもので、非公開です。

 これで口頭弁論は終わりました。13時20分をまわったころです。準備書面などについて話をした後、大分大学へ向かいました。

 準備書面の内容に触れておかなければなりません。これについては、判決などについて私も若干調べたのですが、入手できないものがありました。乙第4号証として提出された新潟地方裁判所高田支部平成13年2月28日判決(判例集未登載)です。この事件については、第30編において概略を示しております。

 原告側の準備書面ですが、比較的簡略なものです。今回は、原告適格の点に絞っています。まず、日田市の名誉権についてですが、先の新潟地方裁判所高田支部平成13年2月28日判決(判例集未登載)を参照しつつ、地方公共団体についても社会的評価が存在すること、それを低下させる行為というものが考えられうること、従って名誉毀損が成立しうることが述べられてます。次に、広報紙の記事による他地方公共団体の名誉の毀損については、高知地判昭和60年12月23日判時1200号127頁を援用しつつ、成立を認めるべきであると主張しております。そして、名誉回復措置については、市報べっぷの発行部数が51200部で、これらが各世帯に配布されていることなどから、市報べっぷの記事による名誉毀損については、同じ市報べっぷによって名誉回復措置が取られなければならないと主張しています。ここでも、広島地判三次支判平成5年3月29日判例時報1479号83頁を参照しています。

 なお、原告の日田市が主張する日田市の名誉への侵害の結果と言えるのかどうかわからないのですが、第20編においても紹介しましたように、大分合同新聞2001年2月10日付朝刊朝F版29面には、日田市の姿勢を批判する別府市民の声が掲載されています。この市民が市報べっぷ2000年11月号の記事を読んだために日田市への批判の思いを持ち続けたかどうかは不明です。しかし、その記事を読んだことによって日田市に反感などを抱いたという別府市民が存在したとしてもおかしくありません。しかも、この記事の概要は新聞(大分合同新聞2000年11月1日付朝刊朝F版25面など)で報道されています(第2編も参照して下さい)。

 次に、別府市側の準備書面です。こちらは6ページからなります。まず、市報べっぷの発行についての概略を示した上で、問題の記事について述べています。それによれば、平成9年の許可申請から平成12年までの許可までについて記事が「正確に事実を摘示したもの」としています。

 そして、次からが重要です。記事において問題とされている箇所は「反対するのであれば、日田市としては、本来、設置許可が出る前に、許可権者である通産大臣に対して明確な反対の意思表示をすべきだったのではないか」という箇所です。これについて、別府市側の準備書面は「本件論評は、原告が設置許可申請から設置許可までの3年間に設置に全くの反対の意思表示をしなかったとしているのではなくて、この3年間に原告が通産大臣に対し、設置反対の要望書の提出などをしていないとの事実を認識したうえで、明確な反対の意思表示をするべきだったのではないかとの論評をしたのである」と主張し、「本件論評の前提となる事実の認識に誤りはなく、そのように信じて論評したことに故意過失もない」と結論づけています。

 しかし、私自身が入手した資料によると、当時の通商産業省は、日田市、日田市議会および日田市民(設置予定場所の近隣住民など)が設置に反対していることを明確に認識しています。このことからすれば、何らかの形によって日田市は反対の意思表示をしていることが推測できます。しかも、別府市も明確に認識していることが、同じ資料から判明します。別府市は、平成12年2月25日付で、通商産業省機械情報産業局長宛ての確約書を提出しています。ここには「なお、日田市、日田市議会及び地元住民に対する地域社会の調整については、設置者である 溝江建設株式会社の責務であると考えていますので、設置者に対して今後とも地域住民の理解取得をするよう要請いたします」(原文では会社名が実名で記載されています)と書かれているのです。そのため、別府市は、日田市が何らかの形で反対の意思表示をしていたことを知っていたと考えられないでしょうか。(なお、このホームページを読まれた方から、経済産業省が公開した資料をも入手しております。遅ればせながら、御礼を申し上げます)。

 準備書面に戻ります。今度は、原告が求めている訂正文のことです。これについては、まず、この記事が公益を目的とすること、「地方公共団体の方針や具体的な行政活動を批判し、論評し、その論評を文書にして広く住民に訴えることも表現の自由に属し、また行政という公権力の行使について、これを批判・論評する自由が保障されていることが民主主義の根幹であるというべきである」としております。

 この部分については、まず、市報が「地方公共団体の方針や具体的な行政活動を批判し、論評し、その論評を文書にして広く住民に訴えること」を目的とするものかどうかということに疑問が残ります。否、市報は、発行する市自身の方針や行政活動を市民に対して知らせるものであって、他の市町村の方針や具体的な行政活動を批判したり論評したりする場ではありません。必要以上にかようなことをすること自体、市報の範囲を逸脱していないでしょうか。また、別府市側の準備書面は、無視し難い錯誤を犯しています。市報に表現の自由が全くないとは言いませんが、他の市町村の「批判・論評する自由」は、私人に対して認められるものであって、地方公共団体に対して無制約に保障されるものというべきではないはずです。どうやら、名誉毀損について私人と地方公共団体との立場は異なると表明しながら、無意識に混同していないでしょうか。

 そして、やはり新潟地方裁判所高田支部平成13年2月28日判決(判例集未登載)を引用しておりますが、こちらは「名誉毀損が成立する範囲(損害)は、法人を含む私人とは大いに異なり、損害の発生する可能性は極めて小さい」と述べ、同判決から次の部分を引用しています。

 「地方公共団体が国と並ぶ公権力行使の主体であること、国民主権の下、わが国においては民主主義の原理で地方公共団体の運営が行われていることから、地方公共団体に名誉毀損が成立しうる範囲は法人を含む私人とは大いに異なる。」

 さらに、日田市が求める謝罪文について、「被告の本件市報の本件論評の範囲を超えた謝罪を求めるものであり、到底容認できない」と評価しています。これについて、別府市は、「平成8年から9月から設置許可申請のあった平成9年7月までの日田市の行動や、平成8年12月20日の日田市の決議、平成9年1月13日の要望書の提出などについては、本件論評では全くふれていない部分であり、過大な要求」である、「本件記事及び論評が訴外会社の設置許可申請をする前の原告の行動までを批判するものであるとする誤った認識を前提として、主として同申請以前の原告の反対行動をあげている」などとして、「原告は被告の本件論評に対する曲解に基づいて本件市報に虚偽事実が記載されているなどとして被告に訂正記事の掲載などを求め」ていると評価しています。さらに、昨年12月9日に行われたデモなどに言及し、今年3月15日付の日田市報号外についても「本件論評が設置許可申請以前の日田市の行動をも批判しているとの誤った見解を前提とし」ているとして、「本件論評は、同申請後3年間の行動についての認識とそれをふまえた批判である」、「平成9年7月31日から設置許可がなされるまでの間、日田市議会が反対決議をしたことも大石市長が通産大臣に反対の要望書を提出したこともない」と述べています。

 そして、結論として、「原告主張の謝罪文の掲載の要求は、本件論評の範囲を超えた訂正を求めるものであるうえ、本件論評と訂正文との比較衡量、本件論評に対する原告の謝った解釈とそれを前提とした原告の広報紙(号外)の発行及び報道機関に対する反論の発表の諸般の事情を考慮すれば、原告主張の謝罪文の掲載を命じる必要性はないというべきである」と主張されています。

 たしかに、原告が求める訂正文には、平成8年9月に明らかとなったサテライト日田設置計画、平成9年1月13日に通商産業大臣(当時)に提出された要望書のことが記されています。しかし、市報べっぷの記事のうち、問題となった箇所からでは、平成9年1月13日の要望書の提出などが論評されていないと読むことは、少々無理という気もします(しかも、原告が求める謝罪文でも、この部分が中心とされていません)。さらに、別府市側の準備書面では引用されていないのですが、例の記事には平成8年9月から昨年の7月まで実務担当者が日田市などを訪問しているという記載がなされています。そうであるとすれば、日田市が設置反対の意思表示をしていないと捉えるのも無理があります。ただ、問題は、日田市が平成10年と翌年にいかなる意思表示をしていたかということではないでしょうか。

 最後に、余談めきますが、最近になってデザインなどが新しくなった別府市のホームページについて触れておきましょう。

 別府競輪のホームページにある質問コーナーにも、次々に回答が書かれるようになりました。また、新しい質問も出るようになって、冬眠状態から醒めたようです。もっとも、サテライト日田問題に関する質問に対しては、訴訟中なのでコメントできないという趣旨の回答がなされていましたが、これは仕方のないことでしょう。それにしても、質問コーナーが、サテライト日田問題によって活性化したというのは、皮肉な現象と言う他にありません。


(初出:2001年8月29日)

メモ:「AとBとの合計額」の読み方

 2021年度の講義のために準備していたメモのファイルを基にして、掲載しておきます。


 租税法の条文においては、よく「AとBとの合計額」という表現が用いられる。意味はA+B=合計額ということである。

 しかし、「AとBとの合計額」という表現が登場すると、Aに該当する部分は短く、Bに該当する部分は長すぎるという場合が非常に多いため、Bに該当する部分を読んで意味がわからなくなるという方も少なくなかろう。例は後に示すとして、ここでは読み方を解説する。

 どなたかの著作で述べられていたと記憶しているが、とかく租税法の条文は難解になりがちである。いや、悪文と評価してよい。租税特別措置法がその代表であろう。無理矢理に一つの段落(つまり一つの項)、一つの文章に落ち着けようとするため、文章が長くなり、括弧、さらに二重括弧が多用される。息が長すぎる文章であるとも言える。難解な哲学書もかくやと思われる奇怪な文章ばかりが目立つ。

 このように記すと、「これだから租税法は……!」などという声が飛んできそうである。私も、時折、講義の後に受ける質問などでそのように言われる。だから、私は「制度、条文を作った人が悪い」と答えることもある(冗談ではなく、本気である。勿論、私の説明が下手であることを否定はしない)。

 文句ばかり書いては何も始まらないので、本題である。租税法の条文を読む際には、或る文字に注目すれば理解しやすくなる。こういう場合が多い。今回の「AとBとの合計額」が代表例である。まずは太字の箇所に注目しよう。「Aと」という部分を見つけたら、必ず、その後に「との」がある。だいぶ先にあるかもしれないが、とにかく「との」を見つけていただきたい。

 「と」、「との」が見つかれば、「と」の前がA、「と」と「との」との間はいかに長くともBであるということがわかる。こうして「AとBとの合計額」の意味がわかり、A+B=合計額として計算を進めればよい。

 それでは、所得税法の規定を例にして、解いてみることとしよう。

 例1.給与所得控除の計算方法

 以下、収入金額をXとする。

 ①X≦1,800,000の場合

 所得税法第28条第⒊項第1号は「収入金額が百八十万円以下である場合」であれば給与所得控除の金額は「当該収入金額の百分の四十に相当する金額から十万円を控除した残額(当該残額が五十五万円に満たない場合には、五十五万円)」であると定める。

 同号には「と」→「との」の関係が見当たらない。したがって、

 給与所得控除額=0.4X-100,000≧550,000

 ②1,800,000<X≦3,600,000の場合

 同第2号は「収入金額が百八十万円を超え三百六十万円以下である場合」であれば給与所得控除の金額は「六十二万円と当該収入金額から百八十万円を控除した金額の百分の三十に相当する金額との合計額」であると定める。

 ここで「と」(下線部)→「との」(下線部)の関係を見つけることができる。そうすれば「と」の前の赤字の部分がAで、「と」と「との」との間にある青字の部分がBであることがわかるであろう。先程も記したところからおわかりかもしれないが、Bが長くなっているのは租税法の常である。それでも「と」→「との」の対応関係がわかれば「AとBとの合計額」の形になってこともすぐにわかる。したがって、

 給与所得控除額=620,000+0.3 (X-1,800,000)

 ③3,600,000<X≦6,600,000の場合

 同第3号は「収入金額が三百六十万円を超え六百六十万円以下である場合」であれば給与所得控除の金額は「百十六万円と当該収入金額から三百六十万円を控除した金額の百分の二十に相当する金額との合計額」であると定める。

 ここでも「と」(下線部)→「との」(下線部)の関係を見つけることができる。やはり「と」の前の赤字の部分がAで、「と」と「との」との間にある青字の部分がBであることがわかり、「AとBとの合計額」の形になってこともすぐにわかる。したがって、

 給与所得控除額=1,160,000+0.2(Y-3,600,000)

 ④6,600,000<X≦8,500,000の場合

 同第4号は「収入金額が六百六十万円を超え八百五十万円以下である場合」であれば給与所得控除の金額は「百七十六万円と当該収入金額から六百六十万円を控除した金額の百分の十に相当する金額との合計額」であると定める。

 ここでも「と」(下線部)→「との」(下線部)の関係を見つけることができる。やはり「と」の前の赤字の部分がAで、「と」と「との」との間にある青字の部分がBであることがわかり、「AとBとの合計額」の形になってこともすぐにわかる。したがって、

 給与所得控除額=1,760,000+0.1(X-6,600,000)

 ⑤X>8,500,000の場合

 同第5号は「収入金額が八百五十万円を超える場合」であれば給与所得控除の金額は195万円であると定める。説明の必要も何もないが、第28条第⒊項第1号もあげたので記した。

 例2.退職所得控除の計算方法

 以下、勤続年数をYとする。

 ①Y≦20の場合

 所得税法第30条第3項第1号は「政令で定める勤続年数(以下この項及び第六項において「勤続年数」という。)が二十年以下である場合」であれば退職所得控除額は「四十万円に当該勤続年数を乗じて計算した金額」であると定める。

 これは特に難しい訳でもない。単に退職所得控除額=400,000Y であるというにすぎない。

 ②Y>20

 同第2号は「勤続年数が二十年を超える場合」であれば退職所得控除額は「八百万円と七十万円に当該勤続年数から二十年を控除した年数を乗じて計算した金額との合計額」と定める。

 ここでは赤字、青字、下線という加工をしないので、退職所得控除額の算出方法を条文から見出していただきたい。

 退職所得控除額=8,000,000+700,000×(Y−20)


(初出:2022年03月04日 01時16分15秒)

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第31編

 この問題を知り、取り組み始めてから、もう1年が経ちます。そして、本シリーズも第31編を迎えることとなりました。この間、日田市民の方、マスコミ関係者の方をはじめ、多くの方々に御覧いただいており、様々な御意見をいただきました。感謝の意に堪えません。私にとっても、自らの行政法学者としての位置を再確認するきっかけとなったサテライト日田問題について、今後も追い続けるとともに、「まずはこのホームページを参照せよ」というお声をいただけるようなものにするために、さらに努力を重ねて参る所存でおります。

 7月3日、大分市も炎天下という言葉が相応しい陽気でした。正午、ゼミを終えて大学を出て、大分地方裁判所に向かいます。到着したのは12時20分ころ。裁判所の前で昼食をとり、12時半となりましたが、前回と違って、玄関前に人は並んでいません。しかし、しばらく待っているうちに、マスコミ関係者が五月雨式に入ってきました。そして、日田市民を乗せたバス、日田市の公用車が到着し、日田市の関係者などと話をしました。13時をかなりまわってから、大石市長、寺井弁護士など弁護士3氏が到着し、我々は1号法廷に入りました。私は、最前列左側、原告側に最も近い席に座り、日田市の方からいただいた被告側の第1準備書面を広げ、傍聴しました。

 今回が第2回目となる口頭弁論ですが、当初から少々変な雰囲気に包まれていました。須田裁判長の声が聞こえにくいと傍聴席から抗議の声が発せられました。大分地方裁判所の場合、3号法廷で刑事裁判が行われるときにはマイクがONになっているのですが、どういう訳か、最も広い1号法廷はマイクがOFFになっています。相変わらずだということになります。今回は、原告側弁護士の声が最もよく聞こえたのです。被告側弁護団のほう(こちらは弁護士でなく、訴訟検事の方であると思われます)も、ボソボソ声に近い様子です。

 被告側の第1準備書面は、6月27日付となっており、12頁から成っております。内容は、第一に、原告である日田市に原告適格がないことを、行政事件訴訟法や自転車競技法の条文を利用しつつ、さらに東京地裁平成10年10月20日判時1679号20頁(サテライト新橋事件)を援用して主張しております。なお、この東京地方裁判所判決に対して、原告は控訴しましたが、東京高判平成11年6月1日判例集未登載は原審支持で請求棄却、さらに最決平成13年3月23日判例集未登載も請求棄却で確定しており、かなり厳しいものとも考えられます。第二に、出訴期間の徒過を主張しています。行政法に関係する者であれば、予想通りの内容です。しかし、それだけに、突破することは難しいとも言えるのです。

 それに対して、原告側弁護士から質問がなされました。そのうち、第1準備書面の3頁に記されている「安寧秩序」の意味に関して、これが地域の治安を含むのか否かという質問については、被告側から、持ち帰って検討するという回答がなされました。次に、4頁にある「これに対し、競技法には、場外車券売場が設置される地方公共団体の利益保護を目的とするような規定は見あたらない」という部分に対する質問が出された時のことです。原告側は須賀裁判長は、当初、これを遮り、それついて原告に説明を求めたのですが、原告側は被告に質問していることであると主張、裁判長は譲らず、少々険悪な雰囲気になりました。傍聴席からも、声こそ発せられなかったのですが抗議の視線が向けられていました。裁判長は、結局、原告側の主張を認め、被告側が検討することとなりました。これらは、遅くとも8月10日まで、可能な限り8月3日までに裁判所へ提出されるということです。次回は9月11日の11時半からということで、木田弁護士にも確認を取ったのですが、いかにも中途半端な時間設定です。また、11月6日の13時半からという予定も組まれました。

 その後、日田市長、寺井弁護士を中心として、傍聴に来られていた市民の方々が玄関前に集合しました。日田市長のあいさつ、そして寺井弁護士のお話がありました。寺井弁護士は、口頭弁論の時の裁判長の態度を改めて批判されました。そばにいた私も飛び入りしてあいさつし、少々ですが批判をさせていただきました。その後、日田市側は大分県庁に行き、前回と同様に記者会見をしたものと思われますが、長野県と違って記者クラブの存在が疑問視されない大分県、その県庁記者クラブに私は入れません。私は、大分大学に戻りました。

 また、9月10日に、日田市民と原告弁護団との勉強会が行われるかもしれません。これは、寺井弁護士が発言されたことです。私も参加させていただければ、と考えております。


(初出:2001年7月4日)

2025年5月10日土曜日

アーカイヴ:サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題・第30編

 6月19日の10時から、大分地方裁判所第1号法廷において、対別府市訴訟の第2回口頭弁論が行われました。前回の口頭弁論において別府市側の答弁書が提出されたため、日田市側から、6月12日付の準備書面が提出されました。これは、日田市側の訴訟代理人である梅木哲弁護士によって作成されたものですが、少々、私も関係しています。

 別府市の答弁書には、原告適格の部分に関連して公権力の行使という言葉が用いられていたため、市町村が公権力の主体である場合が多いことは当然としても、そうでない場面があるとして、市報の刊行は公権力の行使にあたらないと主張したのですが、別府市側の訴訟代理人である内田健弁護士は、判例時報1479号掲載の判決などを援用して、市報の刊行が公権力の行使にあたると主張しました(実は、この解釈が誤っているのですが、後に示します)。少々、日田市側の準備書面の論理構成面に難があることは認めざるをえませんが、解釈の誤りも指摘しなければならないでしょう。また、別府市側は、日田市に原告適格がないこと、および名誉の意味について、今年の2月28日に新潟地方裁判所高田支部から出された判決を援用しています。

 また、別府市側は、日田市の主張する名誉について、準備書面の最後の頁の部分を摘示し、その意味が不明確であると主張しております。

 この口頭弁論の模様は、西日本新聞や朝日新聞で報道されましたが、扱いは小さく、私が実際に傍聴したこと以上のものを記したものでもありません。実際、口頭弁論終了後、NHK大分、大分朝日放送、読売新聞、西日本新聞などの記者氏が梅木弁護士や日田市職員4氏らを囲んで取材をしていた時、私も梅木弁護士の隣におり、補足説明をしたり、質問を受けたりしていました。続いて、私が残って大分朝日放送および西日本新聞の記者氏と話をしております。この日は、大分大学で講義の一環として行っている裁判傍聴のための打ち合わせをして研究室に向かったのですが、西日本新聞の記者氏から電話をいただき、質問を受けました。

 さて、判例時報1479号の判決ですが、これは或る小学校の職員会議における発言内容が自治体の広報に掲載され、児童の名誉が侵害されたという事案に対するもので、背景は非常に複雑です。この事件の原告は、国家賠償法第1条と民法第723条に基づいて損害賠償請求をしております。判決理由中には、たしかに、公権力の行使という言葉が登場します。しかし、ここでは、単に自治体の公務員が公権力の行使に関わるという意味合いで使われているにすぎず、広報の発行が公権力の行使であるという言い方はなされておりません。

 そもそも、公権力の行使というからには、行政行為論を待つまでもなく、法律の根拠を必要とします。もう少し拡大して、条例の根拠でもよいでしょう。仮に市報の発行が法律あるいは条例の根拠に基づいていない場合には、公権力の行使たりえません。それはただの事実行為です。しかも、事実行為である場合であっても、公権力の行使の一環としてなされるのであれば、法律の根拠を必要とします。行政上の強制執行や、警察官職務執行法に定められる職務質問などがその例です。

 それでは、法律の根拠さえあれば、行政庁によるいかなる行為も公権力の行使と言いうるのでしょうか。そうではありません。例えば、行政指導の中には、法律上の根拠があるというものも存在します。独占禁止法に定められている勧告などは、その代表例です。この場合、勧告の後に命令が控えているのですが、勧告そのものに法的な拘束力はありません。他には、廃棄物処理法に定められるごみ処理もあげられます。

 別府市のものであれ日田市のものであれ、市報の発行が条例に基づくものであるかないかに関わらず、公権力の行使にあたらないことは言うまでもないでしょう。仮に公権力の行使であるとするならば、一体、具体的に何が、どの部分が公権力の行使なのでしょうか。広報はお知らせにすぎません。基本的には、新聞や雑誌と同じです。広報誌であっても、国や自治体が刊行する場合には公権力の行使であって、出版会社が刊行する場合には民事法上の行為であるという主張は、おかしなものであるとしか言いようがありません。

 次に、先の新潟地方裁判所高田支部判決についてです。これは、東京放送(TBS)のニュース番組によって上越市が名誉を侵害されたとして訴えたもので、出訴までの経緯が上越市のホームページ(http://www.city.joetsu.niigata.jp/)に掲載されています。結局、上越市が敗訴し、上越市は3月13日に東京高等裁判所へ控訴したのですが、注意していただきたいのは、却下判決でなく、棄却判決であるということです。この判決をまだ入手していないため、私は、上越市役所に電話を入れ、その結果、担当の方から状況などをうかがうことができました。それによると、問題は、上越市が主張する名誉の中身でした。上越市がTBSを被告として裁判を起こすこと自体は認められています。つまり、訴える資格そのものは認められたのです。ここから考えても、日田市の原告適格はクリアされるということになります。細かい部分は判決を入手しなければわかりませんが、私は、「第27編」においても述べましたが、日田市対別府市の場合、ともに公法人であることから、とりもなおさず私法人対私法人と同様に考えるべきだと思います。その意味では、次回口頭弁論までにしっかりとした準備書面を作成すれば、日田市の原告適格は難なくクリアできる可能性が高いでしょう。問題は、日田市が有する名誉です。これをさらにつめなければならないのです。

 次回は8月28日、13時10分からです。

 本題からは外れますが、ここで、公営競技の場外券売場について、気になる話題を記しておきます。

 まず、福岡市博多区にある場外車券売場設置問題です。これは、6月18日の21時55分、NHK第一放送の九州・沖縄地方ニュースで知ったことです。翌日、日田市の職員であるG氏とも話をしましたが、博多駅の付近に設置される計画があり、住民の間でも賛成派と反対派とが分かれているようです。18日の福岡市議会でもこの問題が扱われました。

 また、大分市三佐(みさ)校区では、一旦取り止めとなった場外舟券売場「ボートピア大分」の設置計画が、別会社によって再び出され、6月17日に説明会が行われました。大分市は反対の立場を表明していないのですが、住民の中には反対論が強く、サテライト日田問題の影響もあって、長期化が予想されます。この問題については、掲示板「公園通り」を参照して下さい。場合によっては、新コーナーを設けて取り上げることも考えています。


(初出:2001年6月23日)

「ひろば 研究室別室」の移転について

   長らくgoo blogで続けてきましたが、あれこれと考えた結果、2025年8月7日より、はてなブログのほうで書いていくこととしました。何卒よろしくお願い申し上げます。  新しいアドレスは、次の通りです。   https://derkleineplatz8537.hatena...